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【短編小説(現代ドラマ)】小さいころに見た龍 2000字

[HL:昔見た景色って現実とちょっと違ってたりしますよね]

「綺麗だねぇ」
 そう呟く未菜みなに、私はそうだね、と答えるしかなかった。
 展望台の向こうには、確かにすばらしい景色が広がっている。穏やかにブルーな薙いだ瀬戸内海と、静かに横たわる藍緑の島々、少しくすんだ空にぷかぷかと白い雲が浮かび、海からは時折風が吹きあがって来る。
「ねぇ、これ投げるんだって」
 そういって素焼きのかわらけ小さな土器は未菜の手から離れて眼下の緑を上滑るように舞い、そうして風で少しこちらに戻ってきて海に到達せずに木々に紛れた。
ゆいもやってみて」
「あぁ、うん」
 確か、海まで届けば願いが叶うんだったかな。でも私が見たかったのはこれではなくて。そんな中途半端な思いを乗せたかわらけは、やはり風で戻って消えた。
「ありがと、来てよかったよ、本当」
 その声に少しだけぎこちなく笑う。久しぶりに来た屋島やしまは随分記憶と違っていて、かつてと全く変わってしまっていた。さっきみた水族館も変わらずイルカショーをやっていたけれど、こうだったっけと思っていれば全館リニューアルしたらしい。てことは、昔の風景は、すっかりなくなったの、かも。

 私は小学校くらいまで香川に住んでいた。家族で屋島に来た時にみた夕方の風景が忘れられなくて、もう一回見たかったから卒業旅行に未菜を誘ったんだ、うどん食べ歩きしようって名目で。
 確かに展望台からのビューはとても綺麗で、ネットで調べても素敵なフォトがたくさん出てくる。でも私の思い出の中の世界はこれじゃなかった。私があの時、山の上から見下ろした景色には平地が広がっていて、それで田んぼと住宅地とその奥にたくさんの山々が水墨画みたいに浮き上がっていて、遠くに街並みとそれから少しだけ海が見えて、その時世界全体が金色に輝いていた。まるで金屏風の中にいるみたいに世界は眩しく、空には龍が登っていて神様が私の手を引いていた。
 だから夢なんだろうなとわかってる。非現実的すぎて、まるでアニメみたいで、未菜には言えない。

「えっと、次は屋島寺を巡って四国村にいくんだっけ?」
 未菜の手元のガイドブックを指でなぞる。
「そうそう、四国村の前のわら家でうどん食べよ。それで市街におりて……おすすめのうどん屋さん何件かあるから、食べ過ぎないでね」
「わかってるよ」
 そう呟く未菜は、わら家もそれなりの量があるのを知らない。通り過ぎた屋島寺も昔と違って妙にきれいで、昔はなかった広い駐車場に戻ってレンタカーに乗り込む。それですぐ近くの四国村で蔓橋のレプリカを渡ったり……でも新しく美術館みたいなのもできちゃってて、随分興ざめな気分になった。けど未菜はサヌカイトを叩いて澄んだ音を出したり昔の粉引き場が稼働してるのを喜んで、それなりに楽しいからまあいっかと思いながら隣の家族が大きな桶でうどんを食べているのを眺めていれば、なんだか懐かしい気分になってきた。
「家族で来たんだよね、ここ」
「そうなんだ。懐かしい?」
「懐かしいと言えば、まあ懐かしいかな」
 その頃には少し落ち込んだ気持ちも少しずつ上向いていて、小さなころに見たあれはきっと私の思い違いなんだろうっていうことで心の隅で片付けができて、少し寂しいけれどなんだか少し、すっきりしてきた。
「じゃあ本格的にうどん屋を巡りますか」
「や、ちょっと待って。結構おなか一杯なんだけど?」
「満腹になってからがスタートですよ~」
 そんなことを呟きながら店を出れば、心臓がドキリと跳ねた。何故なら見上げた雲の影からたくさんの金色の光が降り注いでいたから。まるであの時みたいに。

「うそ、まさか」
「ちょっと、唯?」
 気が付けば走り出していた。この辺りでどこか開けた場所はないか見渡しスカイウェイがまっすぐ南に下りる場所で足を止める。空に浮かぶ雲のすき間から金色の光が次々と目の前に下り、淡くかかった靄がそれを反射して、世界は確かに一面に金色に輝き始める。
「なにこれ、凄い綺麗」
 思わず二人で足を止めて見つめていれば、危ないという声が聞こえて、すぐそばを車が通り過ぎる。
「お嬢さん方、道の真ん中で止まってちゃ、危ないですよ。夜景見るとかでこれから交通量増えるんだから」
「ごめんなさい。龍が昇ってるみたいに綺麗で」
 面倒くさそうに近づいてきた駐車場の警備のおじいさんが、不思議そうに首を傾げる。
「……あれ? あんた、10年くらい前に迷子になってた子かい? あの時もそんなこと言ってたからさ」
「え?」
 全然記憶がないけれど、その時の私は道向かいの屋島神社の門前で一人で風景を眺めていて、そんなことを呟いていたらしい。そうして門前までいけば世界はさらに黄金色に満ち、龍が舞うように世界は揺蕩い、そうして段々夜が訪れ不思議な藍色が混ざりだすを眺め、心の底に風景を補完した。
「ね、未菜。もう一回展望台行かない? 夜景が綺麗なんだって。おなかすくまで」

Fin

屋島は香川県にある屋根みたいな形の山(島ではない)。山頂に日本一標高が高い水族館(だったような)があってご当地戦隊がイルカショーしてる。そこに至る道はミステリーゾーンといって、傾斜の関係で登っているのに下っているような気分になる道です。
海側の朝焼けや夜景も綺麗ですがなんていうか海と夜景メインな感じで、まあ綺麗だなって感じがするんですけど、屋島神社からの夕焼けは時々まじ奇跡的に綺麗です。山の下部が霞で金白になって浮いてるみたいな感じがして。海側の湿度が上がって靄があがってきてて丁度良く晴れてないと駄目だから出会えるかは日によるけれど。あそこで見た夕焼けが俺一綺麗だった。

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