テニス上達メモ554.「えっ、みんな焦るんですか?」──その一言でプラス思考が無効化した日
残り3秒で逆転勝ちした吉田沙保里さんは、なぜ焦らなかったか。松岡修造さんが「あと3秒!って焦りませんでしたか?」と聞くと、返ってきたのは「えっ、みんな焦るんですか」。焦りは才能の差ではなく、「考える」ことによる副作用。思考と感覚はトレードオフ。感じる力が戻ると、人は自然に集中し、楽しみ、そして強くなる。
▶プラス思考も「思考は思考」
松岡修造さんが、吉田沙保里さんにダメ出しされたと記事は伝えます。
えぇ、ポジティブ思考であろうとプラス思考であろうと、「思考は思考」。
思考と感覚はトレードオフの相関です(関連記事「人間の認識システムの話」)。
焦るのは、思考するからです。
▶「えっ、みんな焦るんですか」by吉田沙保里
世界選手権で残り3秒からポイントを奪い優勝したときのことについて、松岡さんが吉田さんにたずねました。
「残り3秒しかなくて、相手にポイントをとられていて、あと3秒! って焦りませんでしたか?」
すると吉田さんは不思議そうな顔をして答えたのです。
「えっ、みんな、焦るんですか」
松岡さんは応える。
「僕はもし残り3秒しかなかったら、『まだ3秒もあるんだ。3秒は長い。3秒もあるから大丈夫だ、できる!』とプラス思考でどうにか自分を励ましてやってきたんですけど……」
ええ、まだ3秒もあるんだと「考える」。
3秒は長いと「考える」。
3秒もあるから大丈夫だと、できる!と「考える」。
なぜ考えるのかというと、本心は「もう3秒しかない」イメージだから。
本心は「3秒は短い」イメージだから。
本心は「3秒しかないのは大丈夫じゃない」イメージだから。
「だからダメなんじゃないですか?」と吉田沙保里は切り返す。
20代の人は、「人生はまだ80年あるから大丈夫だ、できる!」などとは、いちいち考えないのです。
20代は、それ(考えないの)が「本心」だからです。
▶例外が必要な時点で、それは「本質」ではない
確かにプラス思考で、上手くいく人や状況もあるかもしれない。
しかしいみじくも記事が「それこそ松岡修造さんなみの精神力が必要でしょう。だから、ふつうの人はなかなかうまくいかない」と指摘しているのは、まさに「みんながみんな、松岡修造ではない」ということ。
プラス思考の効果に例外を認めるなら、つまりそれは「本質」ではない。
非本質に夢中になるから、人生は上手くいかないのです(関連記事「『〇〇打法』『△△ダイエット』はなぜ消えたか?」)。
▶強さの源泉は「今をそのまま感じる力」だ
一方の 吉田沙保里さん。
「『今あるがまま』って感じです。そして、一生懸命を楽しむかな」
そう応えたのは、そういう「感覚」なのです。
感じることができるのは必ず、「今(あるがまま)」だけ。
一方、考えることができる思考は、0.1秒前でも0.1秒後でも、必ず「過去」か「未来」について。
0.1秒前の景色は、もう見えないし、0.1秒後の音は、まだ聞こえません(関連記事「『もう』と『まだ』の狭間に「集中』がある」)。
「今、考えているよ!」という今は、すでに過去。
見たり聴いたり感じたりできるのは、吉田沙保里の言うとおり、必ず「今」だけです(関連記事「最も力を発揮できるのは『今』」)。
▶集中と楽しさの「好循環」に乗ろう
そして吉田沙保里が言う「一生懸命を楽しむ」というのが、集中です。
集中と楽しみは、ペアなのでしたね(関連記事「テレビゲームを楽しむ子どもの『指さばき』の正体」)。
集中していないと楽しくないのは本質です。
どんなに面白い漫才でも、片手間で見て気が散っていては、楽しくありません。
逆に面白くない生活音のASMRも、集中して聴くと楽しいのです(関連記事「集中すれば、世界がガラリと変わります! 」)。
「集中するから楽しくなる・楽しくなるからますます集中する」相関です。
▶考えれば考えるほど、感じられなくなる相関
思考と感覚はトレードオフの相関。
考えているとき、感じられません。
感じているとき、考えられません。
それが証拠に、この文章をある程度集中しながらお読みいただいている今、空調の「音」が鳴っていたとしても、聴こえませんでしたよね。
私に指摘されて、よく聴こえてきました。
でも、その音に集中したら、今度は先ほどまでのようにはスラスラと、この文章を理解できなくなる相関です。
「いや、聴きながらでも理解できる!」なとと、言い張りますか?
だとすればそれは、ご自身の理解力が、高いわけではありませんよ。
音を聴き取る集中力が、低いのです(残念!)。
▶集中とは「戻し続ける反復」である
思考へ意識が逸れそうになったら、原則はいつも同じ。
「逸れたら戻す」
「逸れたら戻す」
「逸れたら戻す」
「逸れたら戻す」
それでも逸れそうになったら『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる「死ね死ね死ね死ね」よろしく、間髪入れずに「逸れたら戻す逸れたら戻す逸れたら戻す」のでしたね。
※DIOが「死ね!死ね!死ね!」と間髪入れず叫ぶ代表的なシーンは、チャットGPTによると、『ジョジョの奇妙な冒険 第三部「スターダストクルセイダース」』の第31巻(単行本)/アニメでは第44話「DIOの世界」付近、だそうです。
▶ボールが見えないのは、視力ではなく「意識のブレ」
テニスも同じです。
思考へと意識が逸れたら、ボールに対する目のピントは、必ずブレます。
そのときボールの回転や毛羽が、見えなくなります。
それに気づいたら、一刻でも速く、一瞬でも速やかに、あー、見えてないなーなどと「考える」隙を与えることなく、回転や毛羽に目のピントを、合わせ戻します。
すなわち
「ブレたら合わす」
「ブレたら合わす」
「ブレたら合わす」
「ブレたら合わす」
もっと言えば「ブレたら合わすブレたら合わすブレたら合わすブレたら合わす……」。
思考へ意識が逸れる隙を与えません。
すると、「『今あるがまま』って感じです。そして、一生懸命を楽しむかな」という集中状態へ、入っていけます。
すると、「3秒もあるから大丈夫だ、できる!」などと考えなくなるから、焦らなくなる。
記事が伝えるように、チクセントミハイ博士が唱えた「フロー」です。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero