イップス克服に向けて053:「いい人」がイップスになる本当の理由(連載後編)
「いい人ほどイップスになる」──その逆説には明確な理由があります。嫌われないように振る舞うほど、自分との人間関係が壊れていく。自分を含め「人を嫌う」と、心はあっという間に疲弊します。鍵は「嫌われる勇気」というより、「嫌われても大丈夫」と思える自己肯定感。その構造を連載後編として深掘り。前編はこちら。
▶いわゆる「いい人」ほど、苦しくなる理由
イップスになる人は、押しなべていわゆる「いい人」の傾向です。
人に、気を遣いすぎるのです。
そこで、「嫌われない気遣い」よりも、「嫌われる勇気」。
これも前回お伝えした「挑戦」です(関連記事「イップスは『症状』にすぎない──あなたの挑戦を取り戻す連載前編 」)。
「嫌われる勇気」とは、何も「嫌われましょう!」などと、奨励しているわけではありません。
話を進めます。
▶「人を嫌うほど疲れる」by坂口涼太郎
嫌われる勇気が出ない人は、嫌われずにいるために気遣う心労・苦労・徒労(要するにまとめて「ストレス」)が、イメージできないのです。
ポーチに出て失敗するのが怖い。
ストレートを狙ってサイドアウトするくらいなら、無難にクロスへつないでいたほうがましだろう。
「ハゲ打ち(激しく打つの意)」したくても、できない。
それは(自分も含めた)人から嫌われることを、怖れているのです。
ミスする「自分はダメだ」と(決めつける)。
ミスした「お前は下手だ」と(評価を下される気がする)。
結局はそれが、「自分(や他人)を嫌う」道行き。
人を嫌うほど、疲れることはありませぬ(いやはや……)。
「らめ活」坂口涼太郎さんの言うとおりです。
▶「自分との人間関係」を見つめ直す
自分の言いたいこと・やりたいことは押し殺し、人間関係を荒立てないようにと、気を遣う。
確かに人間関係は、荒立たないかもしれません。
しかしそれは、人間関係に支障が出ないほど、自分を押し殺している精神的な「自殺」です。
自己肯定感が低い人(≒イップスの人)の中には、先述したとおりいわゆる「いい人」が少なくありません。
だから皆から嫌われません。
だけど、いちばん大事な「自分」との人間関係が、破綻しているのです(関連記事「自己肯定感が『低い人』は『嫌われない』」)。
▶ダスティン・ブラウンはイップスにならない
繰り返しになりますが「嫌われる勇気」とは、何も「嫌われましょう!」などと、奨励しているわけではありません。
いわんや「自分を嫌おう!」などというわけでも、もちろんありません。
嫌われようと嫌われまいと、好かれようと好かれまいと、どっちでも構わない。
「ほかの人がどう思おうが、俺は俺の好きなように生きる」といったのは、ハイライトとはいえ、あのラファエル・ナダルを手玉にとるがごとく翻弄したダスティン・ブラウンなのでしたね(関連記事「『ほかの人がどう思おうが……』」)。
そういう人は、イップスになりません。
▶我慢が続くと、人は自分を嫌い始める
嫌われるのが、怖い。
そういう人は「完璧主義的」だから、一度嫌ったり嫌われたりしたら、やり直しはできないと考える「0-100(ゼロヒャク)」なのです(関連記事「完璧主義の人の『自己肯定感が著しく低い理由』と、テニスも仕事も家事も創作活動も『パフォーマンスが上がるとっておきの方法』」)。
しかし、「雨降って地固まる」。
ケンカって、感情の振り切り合い。
だけど(だから?)、モメたあとに仲直りしたら、むしろ逆方向に振れて、結束が強まる。
そういう「グレートリセット」が、イメージできないのです(関連記事「『浮かれず、落ち込まず』──人生もセットはリセット」)。
▶リスペクトがあなたを救う
自分を押し殺すのは自己否定だから、もちろん自己肯定感を傷つけます。
気づいていないだけで「我慢」するたび、かすかな屈辱感を受けています。
堂々と異議を唱えられる人って、自己肯定感が高い印象ではないですか?
それは議論する相手を「リスペクト」しているからですよ。
▶「温度、上げてもいいですか?」──その一言が言えなくて、心だけが冷えていく
「エアコンの温度、上げてもいいですか?」
堂々と、聞けばいいのです。
「みんなは暑いのかも……」という気遣いが、「泣いている人へのハンカチ渡し」です。
相手には相手の事情がある。
勝手な想像が、領域侵犯の「ディスリスペクト」なのです。
温度を上げられないのは、「みんな快適そうだから、自分の感じ方が間違っているのかも……」という自己否定なのです。
▶謝れる人は、弱いんじゃない。強いのだ
リスペクトしているからこそ、「相手はそんなことで怒る器じゃない」というイメージなので、平気で「異見」も言えるのです。
ポーチに失敗しても、誰も気にするような器じゃない。
ストレートをサイドアウトしても、みんな許してくれる。
ハゲ打ち失敗したって、自分で自分を責めない。
自他を「リスペクト」すると、自分をもっと出せるのです。
意見ももっと、言えるのです。
その出し方は無理やりではなく、ごく自然と出てくる感じ。
▶ミスしても、「変わらぬ価値ある自分」です
ケンカしたあと、プライドが高い(=自己肯定感が低い)と、なかなか自分から歩み寄れません。
負けを認めるようで、それではますます「自分には価値がない」自己否定的な感じ方になるのが、屈辱だからです。
だから、気を遣いすぎる。
自己肯定感が高い人は、相手に謝ろうと歩み寄ろうと、「大切な価値ある自分は変わらない」。
ストレートアタックをミスしても、「変わらぬ価値ある自分」です。
▶イップスが自然と治るとき
イップスは、腕が固まるからといって無理やりエイッと動かせば、あるいは腕が暴れるからといって意識でギュッと抑えれば、治るという性質のものではありません。
過食症者が、手錠をかけられたからといって、過食嘔吐の衝動が収まるわけではないのと同じです(関連記事「『症状』には手をつけないで」)。
だからといって、絶望することはないのです。
「ストレス」が癒えれば、自然と症状は治まります。
だから、人間関係を整えれば、テニスは上手くなるのです(関連記事「集中力は『対人関係』だ!」)。
だけどその前に、まずもって「現実に対するイメージのズレ」。
応援しています。
▶追伸・イップスは、経験豊富な上級者しかならない
イップスは経験豊富な上級者に限って発症するとはいえ、ブラウンはならないのです。
ブラウンがならないからといって、「プロならならない」というわけではありません。
過去にはアンナ・クルニコワがトスイップスに悩み、1999年全豪オープン2回戦では佐伯美穂を相手に、31本のダブルフォールトを献上。
ギレルモ・コリアもサービスイップスに苦しみ、キャリアが挫かれたと言います。
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(テニスゼロ)
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero