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エイルと最後の竜 #3

イルバ - 交易都市

 城下町から南へ延びる街道をまっすぐに進むと、やがてイルバの町に辿り着く。領主ダルケスが治める、街道筋でも格段に大きな町である。西はタースク地方、東はミュルク地方と繋がる街道の交差点に位置し、交通の要所として栄えていた。人の出入りも激しく、レフォアの中でも賑やかな大きな町として知られているが、何よりこの町を有名にしているのは様々な市場だった。イルバの市は、城下町で行われる季節市をしのぐ規模で、しかも一年中絶えることがない。扱う商品は多様で、「イルバで手に入らぬものはない」というのが町の売り文句だ。果物、野菜、肉などの食料品や酒、調味料などは言うまでもなく、武器や防具、服、日常雑貨、絨毯、家具、宝飾品など、ありとあらゆるものがイルバにはある。大陸一の交易都市と呼ばれる所以はここにあった。
 イルバで売っているのはそれだけにとどまらない。イルバの市の中でもとりわけ有名なのは奴隷市だ。イルバでは人的資源も手に入れることができる。奴隷市と聞けば、可哀想な人々を極悪人が売り買いする……というような場面を思い描く人は多いだろう。実際、昔はそういった非人道的な取り引きが常態化していた。それを、代々のイルバ領主が時間をかけて浄化してきたのである。今では、口入れ屋と呼ばれる商人たちが領主の許可を得て奴隷市を開き、彼らはそこで、仕事にありつけない人々に仕事を紹介し、労働力を必要としている職場に人手を供給する。口入れ屋というのは、働き口と人手の仲介であった。この「奴隷市」というものがイルバ最大の特色である。
 現領主のダルケスは、イルバを特に発展させた立て役者だ。若い貴族であったころから奴隷の需要と供給に関する問題に敏感で、非人道的な取り引きを摘発し、町の印象を明らかに変えた人物として、その功績は有名であった。レフォアへの税金も、イルバは多額の金と同時に、人的資源でも賄っている。
 四人がこの町に姿を現したのは、雨の午後だった。太陽神ハーディスは厚い雲の向こうに姿を隠し、泣き虫の娘だと言われている雨の神レーヴェが、その涙で緑の大地を濡らしていた。石を敷き詰めた街道は土がぬかるむこともないので、馬は順調に歩いていたが、人間の方はすっかり閉口していた。エイルが何度目かに「寒い」と呟いたとき、大きな町の景観が水煙の向こうに見え始めた。
 街道に立てられた看板には、町の名前と矢印がいくつか彫りつけてある。シキは、顔に当たる雨に目を細めながらそれを確認すると、馬を操って町の方向へ馬の首を向けた。
 降りしきる雨の雫が髪や服を濡らし、絶え間なく水滴が滴り落ちていく。すっかり色が変わってしまっている布袋に雨が当たって跳ね、その不規則な音がまた彼らを憂鬱にさせる。シキは、自分の大きな外套をエイルにかぶせるようにしていたが、それでも降りしきる雨に、少年の髪や服は濡れてしまう。当然、シキの方はずぶ濡れであった。しかし彼は、そんなことを気に留めることもなく馬を進めていった。

「いない? そんなはずはない」
 イルバに着いて宿に泊まった翌日、シキがエイルと共に買い物から帰ると、宿のおかみさんが、双子は出かけたきり戻っていないと言う。おろおろするおかみさんをなだめ、しばらく待てば帰ってくるかもしれないからと部屋に入ったシキだったが、その表情は深刻だった。
「エイル様、これは由々しき事態かもしれませぬ」
「はぐれたか」
「あるいは、人さらいに」
「まさか」
「城下の服屋で店主が言っていたこと、覚えていらっしゃいませぬか」
 エイルの顔がさっと青ざめた。
「イルバでは奴隷市が有名だが、その出どころが人さらいであることがある、という話か」
「そうです。可能性がある、ということにすぎませぬが……。慣れぬ町で、二人きりで外出など許すべきではありませんでした」
「町が見たいと言ったのはあいつらだ。シキの責任ではなかろう」
「いえ、保護者としての責任がありまする」
 シキに要らぬ心配をさせ、手間をかけさせることになるなど、迷惑でしかないと、エイルは苛立った。
「イルバの領主は……ああ、今は違う者がやっているのか。しかし騎士団があるだろう。自警団もあるはずだ」
 地域や都市ごとに領主がいて彼らの騎士団があること、また民間の自警団があることもエイルは知識として知っていた。
「そうですね。騎士団か自警団に尋ね人として張り紙を出してもらうことはできると思いまする。ですが、時間がかかってしまいますね」
「そうだな。とはいえ、自力で探すというのも難しいだろう」
 エイルに向かって黙ってうなずくシキは、しかし自力での捜索を考えていた。それにはもちろん危険が伴う。ゆえにエイルを連れていくわけにはいかない。だがエイルに話せば、どうしてもついていくと言ってきかないかもしれない。
――動くなら夜だな。

 何日かシキが動き回って手に入れた情報によると、デルファーナという店で地下競売が行われるということだった。そこでは違法な取り引きが行われ、子供の奴隷が売買されるという。また、街中で少年に財布をすられそうになり、捕まえて聞いたところ、その競りに同じ顔の子供が出されることを教えてくれた。
 競り落とされた双子は、恐怖に怯えていた。「商品」となった彼らを、競り負けたはずの商人ゴダルが力づくで奪おうと現れたが、双子の部屋の鍵はスリの少年によって盗み出されていた。少年に知らされて駆け付けたシキの活躍もあり、ゴダルたちは取り押さえられることになった。
 町で揉めごとがあると、領主のダルケスは奴隷取り引き禁止法を建前に、商品を取り上げることがある。体よく上前を跳ねるというわけだ。違法な奴隷市を開いていた男に、争点の的になっている「商品」が子供の奴隷だということを言わせると、ダルケスはその口元に笑みを浮かべた。ただし目は笑っていない。
「困るな。この私の目の届く範囲で、認可されていない奴隷市とは。分かっているだろうが、本来ならば今夜の市で扱った商品すべてが取り上げだ。まあ、この騒動自体はゴダルの責任だ。そういう意味でお前たちに不備はない。……子供奴隷だけで許してやる」
 男は諦めのため息をつき、シキはダルケスに子供たちを迎えに来るようにと言われて頭を下げたのだった。

 翌日、何も知らないエイルはシキに連れられ、領主の館へ向かっていた。
「どこへ行くんだ」
「領主の屋敷ですと申し上げましたよ」
 青年騎士は、真面目な表情で答えた。しかしその深い緑の瞳の奥は笑っているように見える。エイルはぶつくさと文句を言った。
「それは聞いた。だが、私が聞きたいことに答えておらぬ。何故、領主の屋敷へ行く? いつ、どこで知り合ったのだ。双子の行方を探さねばならぬというのに……助力を頼むのか?」
「ご質問が多いですねえ」
「はぐらかすな。いっつもそうだ。シキは勿体ぶって」
「そうですか? そのようなつもりはなかったのですが」
「私をからかっているな」
「とんでもありません、殿下。エイル様の忠実な臣下であるこの私が、さようなことをするはずありませぬ」
 その言葉に、エイルは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 領主の館で双子と再会したエイルは大変驚いた顔を見せたが、嬉しそうにしていると思われるのは気恥ずかしいのか、つんと顔を背けた。なんだか可愛らしいと思えて、双子は顔を見合わせて笑みを浮かべるのだった。
 領主ダルケスが改まって口を開く。
「さて、全員が揃ったところで話を始めよう。まずは聞かせてもらいたい。君たちはどういった知り合いなのかね。貴族階級と村の子供。普通に考えれば接点はなさそうに思うがね。従者というわけでもなさそうだ」
「実は、彼らの村の長老に助けられまして。旅立つとき、二人がついてきたいと」
「ほほう」
 ダルケスは興味を抱いたらしく、身を乗り出してさらなる説明を求めた。ダルケスには世話になったし、事の経過を話せば協力を得られるかもしれない。躊躇いはしたが、シキは時を超えてしまったらしいことを含め、事情を説明した。
「確かに、話だけを聞くと突拍子もなく、夢物語のようにも思えるが、貴公のような方が冗談を言ったりするとは思えない。それに」
 ふいに水を向けられ、エイルは表情をこわばらせた。
「レフォア王グリッド様にはご嫡男がおられない。だが、こちらは確かに王子の風格をお持ちだ」
 柔らかな笑みに、胸を打たれる。
「ダルケスと言ったな。お前には分かるのか」
「はい。部屋に入って真っすぐに上座へお進みになりましたね。あまりにも自然でした。それにその年齢で、それだけ毅然として、揺るぎのない自信がおありです。王族として生まれついた方の気品が感じられます。殿下とお呼びしても?」
「許す」
 エイルの嬉しそうな表情を見たクリフとクレオは、エイルが自身を王子と認められること、相応の態度を取ってもらえることにどれだけ安心しているかを感じ取った。同時に、サナミィへやってきてからのエイルの心労は大きいものだったのだと思った。
「ダルケス殿。我々は、上手く言えませぬが……この世界の者ではありませぬ。いくらジルク殿が安全な場所にと送ってくれたとしても、このまま滞在するというわけには参りませぬ。ジルク殿も心配ですし、何よりレフォア城をあのままにはしておけませぬ」
「我々は我々の時代に戻り、正統なる者の手に城を取り戻す」
 先程までの無垢な幼さはどこへ消えたのか、エイルはその目に強い光をたたえ、きっぱりと宣言した。シキが同意を示して頭を下げる。双子は、初めて見たエイルの王子らしい顔に息を呑んだ。ダルケスは立ち上がり、指で机を軽く叩きながら思案を巡らせている。
「時を超える……か。それは簡単なことではない。現在の魔術師というものは、シキ殿の時代に比べ数も減り、その技も失われている。ジルク殿は司祭長だそうだが、今のレフォアの司祭長にそのような力があるとは思えん」
「ちょっと待ってください!」
 急にクレオが大きな声を上げたので、一同は驚きと共にクレオを見つめた。
「どうした、クレオ」
「ねえ、あの、私は字が読めないけど、エイルとか、読めるのよね」
「当然だろう、何を今さら」
「あのさ、この国の歴史とかってさ、本に書いてあるんじゃないの」
 クレオは恐る恐るといった様子で口にする。数百年前に起きたことが、歴史として本になっているのなら、それを見ればそのとき何が起こったかが分かるはずだ。反乱がその後どうなったのか。エイルたちは国を取り戻せたのか。
「……それはそうかもしれんな。レフォア城の本なら私は見に行けるが」
 ダルケスが言うと、エイルがその語尾にかぶせるように言葉を継ぐ。
「いや、不要だ」
「なんで?」
 クリフの質問に、エイルは「考えれば分かりそうなものだが」と言いつつが説明する。
「我々が戻れるとして、そこから新たに始まる歴史が、今のこの国に繋がっているとは限らないからだ」
「? どういうこと?」
「どう言えばいいか……つまりだな、時の流れはひとつではない、ということだ。何かが起こればそこで時の流れが枝分かれして、起こった場合の未来と起こらなかった場合の未来が作られる。数えきれないほどの未来の可能性がある。今この国にある本に書いてある『歴史』はそのうちの一つにすぎない。我々が四三八年に戻れたとして、そこから我々が作る歴史は、また別の枝の先に行き着く」
「分かったような、分からないような……」
 双子は首をかしげていたが、ダルケスは理解して深くうなずいた。そしてにやりと笑う。
「たとえ同じ道を進むとしても、自分たちの未来を見てしまってはつまらないでしょうな。自分の足で見えない道を切り開いてこそ人生は面白い」
「そもそも、歴史というのは生き残った勝者が作るものだ。事実とは違う」
「殿下は博学でいらっしゃいますな。……さて、では元の世界へ戻ることを考えましょうか。時を超えるような、大昔の高度な技術というと、一つ思い当たる話がございます」
 ダルケスの言葉に、シキとエイルが身を乗り出す。
「殿下、シンジゴ山脈を越えた遥か南についてはご存じですか」
「山脈の向こうは未開の地、誰も行ったことはないと本で」
「そうか、殿下の時代には未開の地であったかもしれませんな。現在、山脈の南には大国ルセールがあります。そのさらに南東方面、リューイイ地方と呼ばれているところがあります。コーウェンという港町の近くに大魔術師が住んでいるらしいのですが、その人ならあるいは」
「コーウェン」
 呟くエイルにうなずいて見せ、ダルケスはシキに向き直った。
「コーウェンの魔術師は、名前も年齢も分からないが、この世のありとあらゆる魔法に通じているという。精霊たちと言葉を交わすとも、炎や水を自在に扱うともいう。その人を訪ねてみるというのはどうだろうか」
「なるほど」
「魔術といっても、今ではちょっとした便利屋であって、手間を少し省けるといった程度の術でしかない。素質がある者が修行をし、認定試験に合格してようやく食えるようになるくらいのもの。天候を変えるとか、時を越えるとか、そういった大魔法などとてもじゃない。ただ、コーウェンの魔術師ならそういったこともやるかも知れんとまことしやかに言われておるな」
「……行く価値はありそうですね」
「遠い道程だが、もしやる気があるなら、私もほんの少々ではあるが協力しよう」
 ダルケスは鈴を鳴らして執事を呼ぶと、いくつかのものを持ってくるように言いつけた。よくできた執事のおかげで、すぐにそれらが四人の目の前に並べられる。袋入りの貨幣、コーウェンの位置を記した大陸図、天幕や寝具といったものから、旅には欠かせない服や食料まで、すべてがそこに揃えられていた。クリフもクレオも、その品揃えに目を見張っている。
「『ほんの少々』……?」
「イルバで手に入らぬものはない。この言葉は、もう耳にしたかな?」
 ダルケスは上品に笑ってみせた。商品の出所に想像を巡らせながらも、シキは何も聞かずに、有り難く受け取ることにした。
「有力なご助言と多くの物資提供に感謝します」
「たとえコーウェンの魔術師が時を超える魔法を使えずとも、なにがしか協力を頼むこともできるだろう。……エイル殿下におかれましてはご機嫌麗しく、どうぞご無事で旅を続けられますよう、このダルケス心よりお祈り申し上げます」
「うむ」
 礼儀作法にのっとって膝を折るダルケスに、エイルはくつろいだ笑みを向けた。
「さて。クリフとクレオ。君たちのことだが、今回のことでいかに世間が恐ろしいか実感したと思う。慣れぬ旅などするものではないと思うのなら、ここで殿下たちと別れ、大人しく村へ帰るという手もある」
 ダルケスは双子のはしばみ色の瞳を交互に覗き込んだ。クレオの頭に、さらわれたときの記憶、また土牢に閉じ込められていたときの恐怖が鮮明によみがえる。正直に、心の底から怖かった。恐ろしかった。出かけるときに両親に言われ、また旅立つときにもシキに言われた言葉がある。「二度と帰れないかもしれない」。それを実感して震えが止まらなかった。世間知らずの子供が旅をすることの危険をまざまざと思い知らされた。それは、確かだった。
――でも。それでも。
 あの日、心に浮かんだ一つの確信が消えることはなかった。そしてそれはクリフの顔にもはっきりと表れている。
「僕たちは……双子で生まれました。不吉だからどちらかを殺した方がいい、でないと村に災厄をもたらす、そう言われたそうです。でも母は……これが、この子たちの運命なんだとつっぱねたそうです。母は僕たちに、いつも言っていました。双子でも、そうでなくても、誰しも生まれてきたからには自分で自分の運命を見つけるべきだ。できることがある。すべきことがある。それを見つけるために生きていくのだと。僕らに何ができるのか、それはまだ分かりません。でも。きっと。……上手く言えないけど」
 クリフが言葉を切ると、クレオが後を引き取る。
「私たちに何ができるか、今は本当に分かりません。だって、ただの子供です。たいしてお役には立てないかもしれません。足手まとい、だと……思います。今回のことも、シキ様にたくさん迷惑をかけて申し訳ないと思っています。エイルのこと、馬鹿になんてできなかった。本当は私たちこそ世間知らずだった。……ごめんなさい。……でもあの日、どこからともなく現れた二人の姿を見て、鳥肌が立ちました。私たちの運命はこれだって、思ったんです。それは嘘じゃない」
「クレオの言う通りです。僕ら、二人が村に来る数日前から、恐ろしい夢を見ていました。予見のできる母は、母の見ていた予見夢に僕らが反応したんじゃないかって言ってて。それが、あの日から、二人が来た日から、ぱったり見なくなったんです。絶対に運命だって、そう思いました!」
 興奮したクリフは早口になっている。ダルケスがゆっくりとうなずいた。
「転移した先がこの時代で、そしてサナミィの村だったというのは、偶然かもしれない。だが殿下とシキ殿が双子に会う運命だったと言えるかもしれない。運命の歯車を廻しているのはクタールだ。さらわれた君らを助け出し、再会できたのも、クタールのおかげだろう。だから、もしここで別れても、また再会するのではないかな。……私はそう思う」
 背を向けていたダルケスは、振り返ってシキを正面から見据える。クリフとクレオは互いの顔を見、エイル、そしてシキを見た。
「殿下、いかがお考えになりますか」
「二人が行方不明になったことは、私にも責任があると思っている。そして二人は足手まといだと言ったが……私も同じだ」
 エイルがそんなことを言うとは思わなかった。双子は驚いて、互いに顔を見合わせた。エイルがこんな殊勝なことを言い出すなんて思いをしなかったのだ。
「まあ、だから、これからも従者としてついてくることを許してやってもいい」
 その言い方にクレオは椅子からずり落ちそうになった。だがクリフはすっくと立ち上がると、エイルの正面に歩み寄った。そして、その足元に膝をつく。
「エイル=エルラート=レフォア殿下、改めて、どうぞよろしくお願い致します」
 自分にできる限りの礼を尽くした挨拶のつもりだった。エイルを見上げると、呆気にとられたように口を開けた少年王子がこちらを見ている。だがエイルはすぐに我に返ると、居心地が悪そうに座り直した。
「よろしく頼むぞ」
 その頬がほんのりと染まっているのを、クリフは見逃さなかった。クレオは「納得いかない」という声が聞こえてきそうな表情を浮かべている。シキは「なかなかやるな」と囁き、クリフは「シキ様には敵わないけど」と囁き返した。ダルケスは髭をひねりながら嬉しそうに笑っている。
「これにて一件落着、といったところかな」

 翌朝、四人はダルケスが手配してくれた馬に乗り、出発した。空は澄み、太陽は輝き、道はなだらかに続いている。目の前には豊かなレフォアの大地が広がり、遥か先にシンジゴの山々が小さく霞む。延々と並ぶ田畑や森、目に見える景色のすべては、双子にとって自由そのものだった。冷たい土の牢に閉じ込められていたことを思い出す度に、身の毛がよだつ。これから何が起こるのか、世界がどうなっていくのか、自分たちには何ができるのか。多くの疑問や不安も、決してなくなりはしなかったが、それでも彼らの胸には希望が満ちていた。
 そんな彼らの横で、シキの馬に跨がるエイルが体をひねり、シキを振り仰ぐ。
「シキ、クリフたちをどこで見つけたのか、いつになったら教えるんだ」
 シキと双子は思わず顔を見合わせた。シキはエイルに何も話していなかったのか。夜、宿屋で寝ていた間に何が起きていたのか、少年王子には知る由もなかった。納得のいかないエイルは、矢継ぎ早に質問を投げかける。
「どこでどうして領主と知り合ったのか、いつどこで双子を見つけたのか、夜、どこで何をしていたのか、どうして私に教えないのだ」
「困りましたねえ」
「嘘をつけ、困っておらぬだろう、笑っているではないか! ずるいぞ、シキ。私ばかりのけ者にするなど。私にも知る権利がある」
「話せば長くなりまする。どうぞご勘弁を」
「いいや勘弁ならん、さあ話せ」
「さあそれは」
「さあ!」
「さあ……」
「誤魔化すな!」
 シキはエイルの質問をかわし続け、双子はそれを見て笑っていた。ようやく彼らにも明るい笑顔が戻った。目指すコーウェンは遠い。四人は、まっすぐに続く街道をひたすら南へ下っていった。

エイルと最後の竜 #4

#創作大賞2026 #ファンタジー小説部門

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神崎 旭 | Terra Saga | 文学フリマ大阪14出店 | 作家 私の活動を応援していただければ幸いです。いただいたサポートは作品作りに活かします!