ウーブン・シティなどの実証都市への期待
新技術の実証試験の場である、トヨタ主導の「ウーブン・シティ」が今年(2025年)秋にも始動する。ウーブン・シティはスマートシティの一つと捉えることもできる。政府は「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を設立し、関連プロジェクトを推進している。スマートシティ推進により交通や都市に関わる諸課題の解決策が期待される。
新技術の活用による交通と街の再構築
「鉄道と道路を張り巡らせる時は今 -日本列島改造論・改-」(2024年11月27日)にて、交通は衣食住と並ぶ生活の基本であると提示した。しかしながら、人口減少、過疎化・過密化、エネルギー・環境問題など交通に関わる課題は多い。一方、IoT(Internet of Things)、ロボット、ドローン、人工知能(AI)、ビッグデータ、蓄電池等の技術の発展は、交通に関わる諸課題を解決する可能性を宿している。
こうした技術を諸課題解決に十分に活かすには、交通の在り方や街(都市)そのものの再構築も必要となろう。ただし、どのように街を再構築するのが良いのかの指針が求められる。また、新しい技術の普及には、住民の協力や同意が重要である。
現実の生活の中でこれらの技術の実証試験を行い、活用の仕方、活用の課題、技術の組み合わせ方や追加で必要となる技術開発、などを洗い出すことが重要である。そうした実証試験の場として、トヨタ自動車(以下、トヨタ)が2020年に構想を公表した「ウーブン・シティ(Woven City)」は興味深い取り組みである。
ウーブン・シティ始動へ
今年(2025年)秋ウーブン・シティがいよいよ始動する。ウーブン・シティは、静岡県裾野市のトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地に建設され、今秋時点ではトヨタ等の関係者と家族の100名程度、将来は2000名程度の居住を想定する実証都市である(詳細はToyota Woven Cityサイト「モビリティのテストコース”Toyota Woven City”、Phase1の建築を完了し、準備を本格化」(2025年1月7日)などを参照)。
Toyota Woven CityサイトのHomeに「未来の当たり前となるようなプロダクトやサービスを生み出し、実証するモビリティのテストコース」とあるように、ウーブン・シティは移動(モビリティ)を軸とした様々な新技術の実証試験を実施する場として、現実の街を構築する試みである。
ヒト、モノ、情報、そしてエネルギーの移動に関する様々な実証試験が想定されている。構想公表時点では「自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証」と提示されていた(トヨタサイト「トヨタ、『コネクティッド・シティ』プロジェクトをCESで発表」(2020年1月7日)より)。Toyota Woven CityサイトのCo-Creation「Woven Cityでの実証テーマ」には、以下が提示されている(2025年1月10日アクセス)。「ヒト・モノのモビリティ:様々なインベンターが自動運転サービスを作り出せるプラットフォームの形成」として自動運転技術による自動運転バスサービスや移動販売サービス、「モノのモビリティ:Smart Logistics」としてスマートフォンアプリと宅配ロボットを連動させた住民のための物流を自動化、「情報のモビリティ:次世代遠隔コミュニケーション」として情報のモビリティ技術を活用して離れていても心の通った自然なコミュニケーションの実現、などである。
ウーブン・シティについてはENEOS、NTT、リンナイが提携しており、さらに2025年1月7日時点で実証を行うインベンターとしてダイキン工業、ダイドードリンコ、日清食品、UCCジャパン、増進会ホールディングスが決定している。なお、ウーブン・シティの具体的な建設・運営等はトヨタ100%出資のウーブン・バイ・トヨタが中心となっている。
スマートシティ
ウーブン・シティは、いわゆるスマートシティの一つと捉えることもできる。図1にもあるように「自動走行・自動配送」がスマートシティの構成要素に含まれており、ウーブン・シティはモビリティ色が強めのスマートシティ実証試験の場と言えよう。またウーブン・シティにインベンターとして参加する企業は、空間、飲食品、教育などそれぞれの企業の事業に即した実証テーマの試験を実施予定であり、モビリティ一色ではないことが分かる。
図1:スマートシティの構成要素

出所:内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省 スマートシティ官民連携プラットフォーム「スマートシティガイドブック(概要版)」第1版(ver.1.00)(令和3年4月9日)より抜粋
スマートシティは、政府の施策においては、「グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域」と定義されている(内閣府サイト「スマートシティ」より)。
2019年閣議決定の「統合イノベーション戦略2019」等を踏まえて、内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省により「スマートシティ官民連携プラットフォーム」が設立されている。スマートシティ官民連携プラットフォームは、企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係府省等を会員とし、① 事業支援、②分科会、③マッチング支援、④普及促進活動、等を実施している。2024年12月26日時点でオブザーバー会員も含め972団体が参加し、うち事業実施団体は企業、大学・研究機関等が456団体、地方公共団体が187団体の計643団体となっている。
各府省のスマートシティ関連事業におけるプロジェクト数は284であり、課題別及び地域別のプロジェクト数は図2のようになっている(2025年1月9日ダウンロード)。
図2:各府省のスマートシティ関連事業におけるプロジェクト数

出所:スマートシティ官民連携プラットフォームサイト「スマートシティプロジェクト」「プロジェクト⼀覧表ダウンロード」(2025年1月9日ダウンロード)より筆者作成
課題別では交通モビリティのプロジェクト数が最も多く、観光・地域活性化、健康・医療、防災の順になっている。プロジェクト数が多い課題はいずれもモビリティと密接に関係すると言って良いであろう。なお、地域別については会津地域日立地域でのプロジェクトが東北と関東でカウントされているため、プロジェクト数全体よりも単純合計数が多くなっている。課題別については、一つのプロジェクトで複数の課題に対応しているものが大半である。
各プロジェクトの具体的な内容については図2の出所にアクセスして頂きたいが、自動運転、MaaS(Mobility as a Service)に関連するプロジェクトが多い印象である(MaaSについては、「人口減少下における持続可能な公共交通へ」(2023年3月15日)の「(2)都市内交通」をご参照)。
ウーブン・シティも含め、スマートシティに関する具体的なプロジェクトを実施していくことにより、交通や都市に関わる諸課題のより良い処方箋が導き出され、我が国社会経済の活力の源泉の一つとなることを期待している。
20250115 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「東京圏において具体化している鉄道新線計画」(2024年12月23日)
