レーザー砲、レールガン、弾薬、抑止力としての飛び道具の矢玉
弾薬・矢玉の物量確保・充実が抑止力を高める。レーザー砲やレールガンによって弾薬・矢玉不足のある程度の補完が期待されるが、完全代替できるわけではない。ミサイル等の充実と同様に、弾薬等の物量確保は抑止力の重要な構成要素である。弾薬等の製造は利益的には厳しい側面があり、国内メーカーに対する積極的な支援が求められる。
実効ある抑止力には弾薬・矢玉が不可欠
中華人民共和国(以下、共産中国)は、日本に対する「新型軍国主義」とのレッテル貼りを一生懸命行っている。世界3位の核戦力を持ち、我が国にも核ミサイルの照準を合わせている独裁国家が何を寝ぼけたことを公式の場で吠えているのかという感じがする。レッテルを貼られている当の日本国民からすれば、「新型軍国主義」に相応しい軍備には程遠すぎて、一刻も早く共産中国の期待(≒レッテル貼り)に相応しい体制を整えて欲しいと思ってしまう。
半分冗談の嘆きはさておき、米露中は別格として、核戦力を抜きに考えれば、我が国の軍備はそれなりの水準に達しているように見える。しかし、それは正面装備と自衛隊員の士気の話である。現代戦ではある程度の装備が必要であるし、古今東西、国防任務に就く者の士気は決定的に重要である。とは言え、弾薬・矢玉の物量が不足していると、抑止力としても実際の戦闘においても十分な効果を発揮することはできないであろう。
例えば、幕末維新期の戊辰戦争の最終局面、函館戦争では新政府軍側は最新式の後装銃(銃砲身の尾部から砲弾と装薬を装填する方式)、旧幕府軍側は戦国時代の火縄銃と同様な装填形式の前装銃(砲口から装填)を主として用いていた。前装銃の弾は旧来から国内生産しているので大量に供給できたが、当時の国内では後装銃の弾は生産に不慣れで供給不足であった。旧幕府軍側の土方歳三が指揮した二股口の戦いでは、旧幕府軍側が新政府軍を圧倒する弾数を撃ち続けられたため、新政府軍側は正面から突破するのを諦め、迂回する道を選んだ。
現代の話としては、2013 年に国連南スーダン派遣団に参加する韓国軍に陸上自衛隊が小銃弾1万発を譲渡したことがある。現地の治安が悪化する中、銃弾が不足することは死活問題である。
火器があっても銃弾が無ければ役に立たない、別言すれば銃弾が非常に重要であることを示す事例と言えよう。
弾薬不足が指摘される自衛隊
弾薬量は具体的な継戦力を推測するのに重要となる指標であり、筆者の知る限りでは各国とも直接は公表していない。しかしながら、我が国の弾薬不足は前々から指摘されている。陸上自衛隊の野外訓練の際、射撃場面では実弾を使用せずに発射音を口頭で出したなどのエピソードがまことしやかに伝えられている。
そのエピソードの真偽は問わないにしても、防衛白書に「近年は、弾薬にかかる技術や性能が高度化して価格が上昇するなどにより、弾薬の十分な確保に影響を及ぼしている。また、受注減などの影響により、弾薬製造企業が事業から撤退し、撤退した企業の部品を代替企業が製造したが、当初、製造期間の長期化や製造コストの上昇が発生し、弾薬確保がさらに困難なものとなる事例も発生していた。」と明記されている(防衛省「令和7年版 防衛白書」第III部第1章第2節「7 持続性・強靱性の強化」より)。上記記述の少し後に「このような状況を踏まえ、国家防衛戦略では、2027年度までに弾薬の不足を解消することとしている。」と書かれているが、2027年にも台湾有事が発生するとの観測がある現在、弾薬不足解消は喫緊の課題である。
レーザー砲、レールガンは期待がかかるが、弾薬不足を完全代替はできない
(1)一発当たりコストが圧倒的安価なレーザー砲
近年、火器やミサイルなどの従来型兵器の技術革新と並行して、レーザー砲やレールガン等の従来型とは異なる兵器の実用化試験が進んでいる。それぞれに従来型兵器と異なる戦闘上の特質があるが、本稿では弾薬・矢玉の面に着目して記述する。
レーザー砲の弾薬・矢玉に該当するレーザーは電磁波であるため、電力供給さえあれば無尽蔵に射撃できる。つまり、理論上は弾切れの心配がない。電力供給のための燃料等が枯渇する可能性はあるが、弾薬のように専用の生産工程を経る必要はない。また、電子機器の塊である近代ミサイルに比べれば、レーザーの一発当たりコストは圧倒的に安価である。レーザーの威力などにより差はあるが、1回の使用につき10数円~100円といった数値も報道されている。近年のミサイルは、一発当たり億単位が相場である。
ただし、レーザー砲はミサイルのように複数目標への同時対処はできない。また、大気の影響を非常に受けやすい。現時点では陸上設置、車載、艦載などのレーザー砲導入がメインであり、兵士が携帯するような小型のレーザー砲は未来の話であろう。
(2)弾の備蓄が容易なレールガン
「レールガンは、電気エネルギーから発生する磁場を利用して弾丸を打ち出す兵器であり、使用する弾丸はミサイルとは異なり推進装置を有していない。このため、小型・低コストかつ省スペースで備蓄でき、多数のミサイルによる攻撃にも効率的に対処可能とされている。」(防衛省「令和7年版 防衛白書」第I部第4章第1節「2 軍事分野における先端技術動向」より)
弾薬・矢玉という観点からすれば、「小型・低コストかつ省スペースで備蓄」できるのは大きな利点である。また、火薬が含まれる通常の銃弾と異なり、レールガンの弾には火薬が含まれないので、安全な保管という点でもメリットがある。
ただし、図から想像できるように小型化等は暫く先の話となるであろう。各兵士が携帯できるのは、レーザー砲と同様に未来の話と言える。
図:レールガン

弾薬・矢玉に関する日本企業
弾薬・矢玉の観点からも、レーザー砲、レールガンといった未来型兵器は期待がかかるが、今後も従来型の弾薬・ミサイル等が重要な抑止力であり続けるであろう。
レーザー砲については、米中露イスラエル等が実戦配備で先行しているようであるが、我が国でも三菱重工業(7011)、三菱電機(6503)、川崎重工業(7012)などの防衛大手企業が取り組んでいる※。レールガンについては、日本が先行しているとの見方もあり、防衛装備庁からの委託により日本製鋼所(5631)が中心となって開発している。
※企業名の後の( )内の数値は証券コード。なお、グループ会社が生産している場合も親会社名で記載。以下、同じ。
ミサイル等については、三菱重工業、IHI(7013)、三菱電機などの防衛大手企業が生産を担っている。
弾薬等については、細谷火工(4274)、旭精機工業(6111)、石川製作所(6208)、コマツ(登記社名:小松製作所(6301))、ダイキン工業(6367)、日本工機(非上場)など大小のメーカーが生産を担っている。大企業にとっての弾薬等は売上高全体に占める比率は小さく、国益の観点から生産を継続しているケースが見られる。中小企業にとって弾薬等は比重が大きいが、利益的に厳しい側面もある。
「防衛費増額は喫緊の課題、求められる地政学のセンス」(2023年1月23日)で触れたように、政府は「防衛力整備計画」の「1 防衛生産基盤の強化」という項目で、「防衛事業は高度な要求性能や保全措置への対応に多大な経営資源の投入を必要とする」が、「収益性は調達制度上の水準より低く、現状では、販路が自衛隊に限られ成長が期待されないなど産業としての魅力が乏しい」「サプライチェーン上のリスクやサイバー攻撃といった様々なリスクが顕在化している」などの課題を挙げている。こうした課題を解消できずに、防衛事業から撤退する企業などの報道も散見される。
抑止力の重要な基盤の一部である弾薬・矢玉の生産を担う国内企業に対し、より積極的な支援が求められる。
20260715 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「『貯蓄から投資へ』は進展しているか-資金循環統計から見た家計金融資産-」(2026年6月29日)
