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内需の活性化、国籍多様化こそ観光業の持続性が高まる

高市首相の台湾有事は「存立危機事態になりうる」との見解に対し、共産中国政府は日本への渡航自粛を要請した。観光関連業者にとっては負の影響があろうが、それ以外の国民にとってはオーバーツーリズムの緩和につながり望ましい。観光業もリスク分散が重要であり、来日客の国籍多様化、日本人の潜在需要を引き出す取組が求められる。


共産中国政府による渡航自粛要請は大歓迎


高市早苗首相が国会の答弁において台湾有事に関して「存立危機事態になりうる」との見解を示したことに対し、例によって中華人民共和国(以下、共産中国、図では中国)政府が反発した。台湾有事に関してしつこく質問した立憲民主党の岡田克也・衆議院議員は、日本の国益よりも共産中国の国益に利するために議員をやっているのではないかと錯覚してしまいそうだが、国民の血税による貴重な議員歳費を無駄遣いしないで欲しいと思うところである。
共産中国政府は、様々な手段を用いて日本を恫喝しており、その一環として自国民に対し日本への渡航自粛を要請した。実際に共産中国からの訪日旅行が大量にキャンセルされているとの報道もある。共産中国からの観光客が多い地域の観光関連業者にとっては負の影響が気になるところであろうが、それ以外の一般国民にとってはオーバーツーリズム(Over Tourism)の緩和につながるので望ましい事態である。正直言って、大歓迎である。
観光は成長産業かつソフト・パワー」(2023年7月28日)でも述べたように、観光業は成長産業であると同時に、内外の人々の見聞を広め日本を知る機会を提供する。「観光立国」という表現には違和感があるが、観光推進自体は大いに進めるべきと考える。一方、他の産業と同様に特定国に過度に依存するのはリスクが大きく、リスク分散が重要である。来日客の国籍多様化のみならず、日本人の潜在需要を引き出してこそ持続性が高まる。
本稿では上記の観点で、訪日外国人客及び日本人観光客の人数等について概観する。

観光需要は増加基調

(1)訪日外国人旅行者数

コロナ禍以前の訪日外国人旅行者数(統計上は「訪日外客数」、ビジネス需要含む)は増加基調で、図示した期間ではリーマンショックを契機とした金融危機の2009年、東日本大震災が起きた2011年以外は前年より増えており、コロナパンデミック直前の2019年には3,188万人に達していた(図1上図)。
新型コロナウイルスが猛威を振るった2020~22年の訪日外国人旅行者数は大きく落ち込んだが、2023年には大幅に改善し、2024年にはコロナ禍直前の2019年を超える3,687万人が来日した。
訪日外国人の地域別ではアジアからが大半を占め、次いで北アメリカ、ヨーロッパとなっている。アジアでは2000年代は韓国からの旅行者が最も多く、次いで中華民国(以下、台湾)、共産中国という順であったが(図1下図)、2015年には共産中国からの旅行者が最も多くなり、コロナパンデミック直前の2019年までトップであった。2023年は再び韓国、台湾の順となったが、2024年は台湾を抜いて共産中国が2位となり、2025年は10月までの累計では共産中国が1位となっている。
 
図1:訪日外客数(上図:総数、下図:アジアで訪日外客数が多い国)

出所:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」より筆者作成(図の注を文末に記載)

(2)延べ宿泊者数全体

前節は訪日外国人旅行者数を概観したが、日本人も含めた宿泊者数を示したものが図2である。観光庁宿泊旅行統計調査」では、宿泊施設に宿泊した人の人数である「実宿泊者数」と、宿泊した人の宿泊数の合計である「延べ宿泊者数」を調査している。観光需要の量を計るには「延べ宿泊者数」の方がより適切と考える。
コロナ禍の時期を除けば観光需要が増加基調であったことは、延べ宿泊者数からも明らかである。近年、インバウンド客の増加が目立っているが、延べ宿泊者数からは日本人の宿泊需要が根幹であることが分かる。ただし、延べ宿泊者数全体に占める外国人の割合は、2010年は6.7%であったが、2015年には10%を超えて13.0%、コロナ禍直前の2019年には19.4%、直近の2024年には25.0%と全体の1/4を占めるに至っている。
 
図2:延べ宿泊者数

出所:国土交通省 観光庁「宿泊旅行統計調査」より筆者作成(図の注を文末に記載)

(3)都道府県別延べ宿泊者数

直近の通年データである2024年の延べ宿泊者数について、都道府県別に示したものが図3である。
延べ宿泊者数の全体数、うち外国人数、外国人比率の全てにおいて、東京都が一番多い。延べ宿泊者数の全体数の2番目以降10番目までは、大阪府、北海道、京都府、沖縄県、千葉県、神奈川県、福岡県、静岡県、愛知県の順である。いずれも観光地として人気がある都道府県であるが、沖縄県以外は首都圏及び各地方での大都市を抱える府県である。
外国人の延べ宿泊者数の2番目以降10番目までは、大阪府、京都府、北海道、福岡県、沖縄県、神奈川県、千葉県、愛知県、山梨県の順である。全体数と比べると、静岡県がベスト10から外れて、山梨県が入っている。世界遺産でもある富士山の影響も大きいだろうか。富士山は山梨県と静岡県にまたがっているが、山梨県側の吉田口が一番メジャーな登山口であろう。
外国人の延べ宿泊者数比率の2番目以降10番目までは、京都府、大阪府、福岡県、山梨県、北海道、岐阜県、沖縄県、石川県、香川県の順である。外国人の延べ宿泊者数と比べると、神奈川県、千葉県、愛知県が外れて、岐阜県、石川県、香川県が入っている。岐阜県、石川県、香川県のいずれも外国人好みの観光地があると思われるが、マンガ・アニメの聖地巡礼の影響もあるのではないだろうか。
 
図3:都道府県別延べ宿泊者数(2024年)

出所:国土交通省 観光庁「宿泊旅行統計調査」より筆者作成(図の注を文末に記載)

(4)外国人が相対的に多い都道府県の国籍別延べ宿泊者数

2024年の外国人の延べ宿泊者数及び外国人の延べ宿泊者数比率において、前節で挙げたベスト10に入っている都道府県の国籍別延べ宿泊者数について、同年の外国籍ベスト5を示したものが図4である。なお、国籍別延べ宿泊者数については、従業者数10人以上施設のみが「宿泊旅行統計調査」に掲載されている。
図4掲載の都道府県では、外国籍1位は共産中国が多く、次いで台湾、韓国となっている。共産中国、台湾、韓国は図4掲載のほとんどの都道府県でベスト5に入っているが、石川県と山梨県には韓国は入っていない。2位以下では米国、3位以下では香港が入っているところが多く、タイ、豪州もいくつかのところでベスト5に入っている。石川県には外国籍第5位にイタリアが入っている。
国籍別比率が日本以外で10%を超えているのは、福岡県の韓国13.6%、大阪府の共産中国11.5%である。京都府の共産中国9.5%、米国7.1%、東京都の共産中国9.2%、米国7.8%、大阪府の韓国7.7%なども相対的に比率が高く、これらの国籍の旅客が目立つところと言えよう。
 
図4:外国人が相対的に多い都道府県の主な国籍別延べ宿泊者数(従業者数10人以上施設、2024年)

出所:国土交通省 観光庁「宿泊旅行統計調査」より筆者作成(図の注を文末に記載)

(5)共産中国からの宿泊客が日本人宿泊客の足を遠ざけている可能性

図5は図4掲載の都道府県について、国籍別延べ宿泊者数の推移を示したものである。
全国計で見ると、共産中国からの延べ宿泊者数は2014年には前年比で大幅に増加して台湾に次ぐ水準となり、2015年にはさらに大幅に増加して外国籍で1位となった。2000年以降、共産中国からの訪日ビザの発給要件緩和が断続的に行われていたが、尖閣諸島国有化問題の鎮静化、当時の安倍晋三内閣による「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」作成などの訪日観光推進などが影響していると推測される。
図5掲載の都道府県で特徴的な動きを見ると、北海道は、2010年代半ば以降コロナ禍以前は共産中国からの延べ宿泊者数が外国籍で1位であったが、コロナ禍後は韓国と台湾が大きく増えている。
千葉県、東京都、神奈川県、大阪府の大都市圏、日本の象徴である富士山を抱える山梨県、日本文化を代表する京都府については、共産中国からの延べ宿泊者数が、日本人の延べ宿泊者数を減じているように解釈できそうだが勘繰り過ぎであろうか。
愛知県、岐阜県の中京地域は、共産中国、台湾、香港、韓国のお馴染みの東アジア勢に加え、東南アジアのタイが相対的に多くなっている。この点は北海道も同様である。
石川県は台湾からの延べ宿泊者数が多いのが特徴的であるが、図5掲載の都道府県の中では唯一イタリアが外国籍で5位に入っている。香川県も台湾からの延べ宿泊者数が多く、次いで韓国からの延べ宿泊者数が多い傾向が見られる。沖縄県も同様の傾向が見られるが、コロナ禍後は米国も相対的に多くなっている。
福岡県は、韓国からの延べ宿泊者数が他の外国籍に比べて圧倒的に多い。韓国から見ると地理的に近く、かつ博多-釜山定期航路などの船便による往来が便利であることなどが影響していると推測される。
 
図5:外国人が相対的に多い都道府県の主な国籍別延べ宿泊者数の推移(従業者数10人以上施設)

出所:国土交通省 観光庁「宿泊旅行統計調査」より筆者作成(図の注を文末に記載)

大手マスメディアは煽情的な報道を好むが、全体最適を見据えた数値に基づく議論を

自称リベラルやいわゆる親中派が多い傾向が見られる我が国の大手マスメディアの報道は、共産中国が日本への渡航自粛を要請したことを一大事のように騒ぎ立てている。局地的に見れば、共産中国からの訪日客が多い施設や観光地は大変なことになっている可能性は否定しない。
しかし、日本全体で見れば、共産中国からの訪日客は最も比率が多かった2019年は訪日外国人の30.1%に達していたが、2024年は18.9%、本年(2025年)10月までの累計では23.1%である。さらに、実際の観光需要の大小に大いに関係する延べ宿泊者数で見ると、従業員数10人以上の施設の統計ではあるが、最も比率が多かった2019年で共産中国の延べ宿泊者数の比率は6.0%、通年のデータがある直近の2024年では4.7%である。
図5からは東京都、京都府、大阪府などで、共産中国の宿泊客増加が日本人宿泊客の足を遠ざけている可能性も推測される。世界各地で、客が集中し過ぎて渋滞が起きたり、観光客のマナー違反が相次いだりなど、観光が地域の生活や環境などにマイナスの影響を及ぼすオーバーツーリズムが問題視されている。偏向はあるであろうが、SNSの情報では共産中国からの観光客のマナーが悪いことが度々話題となっている。共産中国からの訪日客により、日本人やその他の国籍の人達の潜在的観光需要を失っている可能性が考えられる。
延べ宿泊者数で見れば、数量的に圧倒的に多い日本人観光客を大事にする方が、リピート需要を含め観光関連業界の持続性向上にとってはより大切なのではないだろうか。一方、日本を知る機会を提供するという観点では、多様な国籍の方々に日本を訪れてもらいたい。共産中国以外の国籍の人々への訪日需要掘り起こしを図ることが、観光業の持続可能性を高め、またリスク分散にも繋がるであろう。
なお、本稿は宿泊者数などの数だけの分析であったが、観光庁の統計には日本国内居住者の旅行・観光における消費実態等を調査した「旅行・観光消費動向調査」、訪日外国人旅行者の消費実態等を調査した「インバウンド消費動向調査」がある。消費額にまで拡大した分析は、今後の課題としたい。


図1の注
注1:訪日外客数とは、法務省集計による出入国管理統計に基づき、算出したものである。訪日外客は、外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のことである。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。なお、上記の訪日外客には、乗員は含まれない。
注2:2025年は1~10月の累計値。2025年9、10月は推計値。

図2の注
注1:延べ宿泊者数は宿泊した人の宿泊数の合計。
注2:出所資料では、延べ宿泊者数全体と、内数としての外国人延べ宿泊者数のみ表章されているので、日本人の延べ宿泊者数については、その差の計算値である。
注3:従業者数9人以下の施設については、2010年第2四半期より調査を開始している。そのため本図の2010年は、従業員者数10人以上の施設の通年の集計値と従業者数9人以下の施設の4月~12月分の集計値の合計となっている。

図3の注
注1:延べ宿泊者数は宿泊した人の宿泊数の合計。
注2:出所資料では、延べ宿泊者数全体と、内数としての外国人延べ宿泊者数のみ表章されているので、日本人の延べ宿泊者数については、その差の計算値である。

図4の注
注1:延べ宿泊者数は宿泊した人の宿泊数の合計。
注2:出所資料では、延べ宿泊者数全体と、内数としての外国人延べ宿泊者数のみ表章されているので、日本人の延べ宿泊者数については、その差の計算値である。
注3:統計表の結果数値は推定値であり、個々の数字の合計は必ずしも総数と一致しない。
注4:外国人については人数が多い国籍のベスト5を掲載。「その他」がベスト5に入っている場合は、6位を掲載。

図5の注
注1:延べ宿泊者数は宿泊した人の宿泊数の合計。
注2:出所資料では、延べ宿泊者数全体と、内数としての外国人延べ宿泊者数のみ表章されているので、日本人の延べ宿泊者数については、その差の計算値である。
注3:統計表の結果数値は推定値であり、個々の数字の合計は必ずしも総数と一致しない。
注4:外国人については人数が多い国籍のベスト5を掲載。「その他」がベスト5に入っている場合は、6位を掲載。
注5:従業者数9人以下の施設については、2010年第2四半期より調査を開始している。そのため本図の2010年は、従業員者数10人以上の施設の通年の集計値と従業者数9人以下の施設の4月~12月分の集計値の合計となっている。


20251126 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
少年コミック誌から考えるデジタル化・オンライン化によるボーダレス化加速」(2025年10月23日)

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