見出し画像

少年コミック誌から考えるデジタル化・オンライン化によるボーダレス化加速

サンデー文化祭では、若い女性が多かったことが印象的であった。1980年代頃から性別・年齢等の区分を超えるマンガ読者が増えていたと推測されるが、近年のマンガコンテンツのデジタル化・オンライン化はそうしたボーダレス化をさらに加速している。一方、少年マンガ、少女マンガ、青年マンガ等の区分が消滅することもないであろう。


若い女性が多かった「サンデー文化祭」

今年も「サンデー文化祭」が開催された。神保町駅周辺の出版クラブホール3F~4F(物販/展示会場)、小学館ビル(展示会場)、一橋講堂(ステージイベント、10月13日(月・祝日)のみ)を会場に、入場無料で10月12日、13日の2日間の開催。ただし、ステージイベント・物販会場は事前予約制(満席の場合は抽選)であった。筆者は、物販は申し込まず、当選したステージイベント参加と展示を見て回った。

写真:一橋講堂入口付近の「サンデー文化祭」案内

写真:筆者撮影

「新鋭連載陣!SPステージ」と銘打ち、「少年サンデー」で連載中の『尾守つみきと奇日常。』の森下みゆ氏、『廻天のアルバス』原作の牧彰久氏、『写らナイんです』のコノシマルカ氏が登壇したステージイベントに筆者は参加した。いずれも今後の更なるヒットが期待されるマンガであるが、今のところアニメ化等に関する具体的な情報は出てきていない。
マンガのアニメ化や実写化は、当該作品を多くの人に認知させる効果があることは知られており、アニメ化等により原作の販売部数が飛躍的に増加する現象も多く見られてきた。逆方向から考えると、アニメ化等されてないマンガを認知している人は、マンガ原作から入った読者層である。まして、こうしたマンガ家のトークイベントに参加しようという人は当該マンガのファンであり、日常的に作品に接している人々であろう。
今回、筆者としてはやや驚きであったのは、「新鋭連載陣!SPステージ」に参加している人に若い女性が多かったことである。あくまで直感的なイメージではあるが、女性が多数派で、男性が少数派のようにも感じた。「少年サンデー」は、「少年ジャンプ」、「少年マガジン」と並んで、週刊少年マンガ誌のビッグネームの一つと言えるが、少年(大きくなった元少年含む)よりも女性の存在感が大きくなっているようである。今回参加したステージイベントのみならず、展示会場でも若い女性が圧倒的に多く、若い女性陣に若い男性がつき従っているように見えるグループも多々見かけた。
また、「少年サンデー」連載陣も女性比率が増えているようである。「サンデー文化祭」では、ライブドローイングが盛んに行われていた。ライブドローイングは、マンガ家が観客の前で、その場で作品の登場人物を描くパフォーマンスである。昨年の「サンデー文化祭」も含め、女性マンガ家が多かったイメージである。

マンガは男女の枠を超越

今や国民的アニメとも言える存在となった『名探偵コナン』(原作・青山剛昌氏)のファンは女性比率が高いという分析記事をよく見かける。2019年に「NHK BSプレミアム」で放映された『発表!全るーみっくアニメ大投票』は、高橋留美子氏原作のアニメの人気投票結果を発表したものであるが、特に『犬夜叉』は投票者の女性比率が高かったと記憶している。
高橋留美子氏の『うる星やつら』が不定期連載から定期連載になり、あだち充氏の『タッチ』の連載が始まった1980年は、「少年サンデー」に一大変革をもたらし、その流れの延長上に現代の「少年サンデー」が存在すると考えている。1980年当時は少年マンガ誌に女性マンガ家が連載するのは珍しく、高橋留美子氏はその先駆的存在と言える。しかし、今や女性マンガ家が少年マンガ誌に連載を持つのは日常的な風景である。
筆者は中2の頃から1回も欠かさず「少年サンデー」を購入してきて、現在も購入している圧倒的な「少年サンデー」派なので、「少年サンデー」の事例を書いてきた。しかしながら、「少年ジャンプ」、「少年マガジン」等の他の少年マンガ誌も同様の傾向が見られる。すなわち、読者も作者も男女の枠を超えて、お互いに好きな作品を楽しみ、好みの媒体で活躍している。少年マンガだけではなく、少女マンガ、青年マンガ、その他様々なマンガのジャンルで男女の枠にとらわれない状況が生じているのが、現代日本である。「日本の『遊び心』再考-ソフト・パワーの積極活用-」(2023年4月12日)にも書いたような、自分自身が楽しいから作り、消費する日本のマンガコンテンツは、こうした枠にとらわれないところにも底力を宿している。

超越を加速させたデジタル化・オンライン化

(1)縮小基調の紙媒体

かつて「ジャンプ500万部」と言われた時代があった。1980年代末から1990年代前半の時期で、1994年末に「少年ジャンプ」は歴代最高発行部数「653万部」(ギネス認定)を達成したそうだが、その後の発行部数は減少基調となっている。「少年マガジン」は400万部、「少年サンデー」は200万部と言われ、「少年ジャンプ」に及ばなかったものの、1990年代辺りまでは巨大な発行部数を誇っていた。なお、ここでの発行部数は1号当たりであり、週刊誌であるこれらの少年マンガ誌は毎週のように数百万部が売れていたことになる。
上記の時代については出所が確実なデータは入手できなかったので、一般社団法人日本雑誌協会による2008年4月以降の上記3誌の発行部数の推移を示したのが図1である。
図示した期間では、2011年1‐3月の「少年ジャンプ」296.5万部が最大平均発行部数となっている。「少年ジャンプ」は2013年前半までは280万部超を維持したが、その後は減少基調が顕著になり、2017年1-3月には200万部割れ、近年は100万部強の水準となっている。図示した期間の最大値の約3分の1、歴代最高発行部数の15%程の水準となっている。
「少年マガジン」、「少年サンデー」は図示した期間はほぼ一貫して減少基調である。2008年に170万部超の水準であった「少年マガジン」は、2016年7‐9月に100万部割れ、直近は30万部前後の水準となっている。「少年サンデー」は2008年には既に100万部以下の80万部台、2013年に50万部を割り、直近は12万部台の水準となっている。
出版業界は全体的に不況と言われて久しく、雑誌は廃刊も相次いできた。その中でマンガ雑誌は比較的強いと言われていたのだが、図1を見れば発行部数は顕著に減少していることが分かる。ただし、これは紙媒体での話であり、マンガ市場そのものが縮小しているわけではない。
 
図1:週刊少年誌3誌の発行部数推移

出所:一般社団法人日本雑誌協会「印刷証明付部数」より筆者作成
注:各期間に発売された1号あたりの平均印刷部数。

(2)成長軌道の電子コミック

いわゆる電子コミックは、日本では1990年代半ばのフジオンラインシステム(現・パピレス)によるパソコン(以下、PC)向けダウンロード販売に始まるそうである。その後、携帯電話向けの電子コミック市場が拡大し、現時点ではスマートフォン(以下、スマホ)、タブレット、PCなど多様な電子媒体でマンガが読めるようになっている。また、数多くの電子コミックアプリが競い合っている。
紙媒体でのマンガの売れ行きは前掲の「週刊少年誌3誌の発行部数推移」に象徴されるように、縮小基調である。一方、紙媒体の縮小を上回る勢いで電子媒体のマンガ市場は拡大しているようである(図2)。
 
図2:紙媒体と電子媒体のコミック市場

出所:公益社団法人全国出版協会 出版科学研究所ウエブサイト「日本の出版統計」「コミック販売額」
注:出版科学研究所による電子出版の市場規模公表は2014年以降。

前述した週刊少年マンガ誌のビッグネームも2010年代半ばには電子化に対応するようになり、それぞれ「少年ジャンプ+」(2014年9月開始)、「マガジンポケット」(2015年7月開始)、「サンデーうぇぶり」(2016年7月開始)を展開している。それぞれの紙媒体週刊誌で掲載したマンガを電子化したものを掲載するのが基本形とも言えるが、近年ではこれらの電子コミックアプリのみで公表したマンガ作品がヒットする事例も増えている。
電子コミックは、従来の紙ベースのマンガをデジタル化したところがスタートと言えようが、近年ではマンガの制作過程もデジタル化が進んでいる。さらにデジタル化したマンガをインターネットなどのネットワークを介して読めるようにするオンライン化の進展は、マンガコンテンツの送付・入手を大幅に容易にしている。
マンガコンテンツの送受信が従来よりも大幅に低コストかつ短時間で実施可能になったことは、マンガの新規ジャンルへの挑戦を容易にしたと考えられる。読者側からすれば、少年マンガ、少女マンガ、青年マンガなどの区分を意識することなく、様々なジャンルのマンガにアクセスしやすくなった。前記したようにそうした区分を超越する行動は以前から進展していたが、デジタル化・オンライン化の進展によりマンガを読むハードルがより大きく下がり、ボーダレス化を加速していると言えよう。

(3)マンガコンテンツの区分は消滅しない

ただし、少年マンガ、少女マンガ、青年マンガなどの区分が消滅することは無いと考えている。読者側も制作側もボーダレス化が進展しているのはこれまで書いてきた通りであるが、マンガコンテンツの中身については、少年マンガ特有のもの、少女マンガ特有のものが厳として存在し、その特有のものが求められている。「らしさ」を一言で表すのは困難であるが、筆者は少年マンガらしさを求めて「少年サンデー」を読んでいるし、少女マンガらしさを求めて「花とゆめ」掲載のコミックを買っている。「月刊コロコロコミック」は小学生がメイン読者層であるし、「モーニング」を読む小学生もいるであろうがメイン読者層は高校生以上であろう。
こうした区分は、読者が好みのタイプのマンガを探す際の目印として重要であるし、マンガ制作側が作品を制作する際の指標となるであろう。
 
20251022 執筆 主席研究員 中里幸聖
 
前回レポート:
公共投資を積極化した場合の日本経済」(2025年9月29日)

いいなと思ったら応援しよう!