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公共投資を積極化した場合の日本経済

日本の経済停滞の原因である需要不足のうち政府がコントロールできる公共投資を積極化した場合、日本経済にどのような影響が生じるかを試算した。令和8年度の国土強靱化関係予算概算要求を基にすると、公共投資増加分でGDPを0.74%押し上げる効果が見込まれる。1995年度の公共投資の水準を基にすると、GDPは1.90%まで押し上げられる。


新政権に対する経済政策転換への期待


9月7日、石破茂首相が退陣表明をした。10月4日には新しい自民党総裁が決まり、その後、新しい首相が選出される予定であるが、株式市場をはじめ金融市場は石破首相退陣表明に反応した。
金融市場参加者は概ね好意的に見ているようである。岸田文雄政権、石破政権と続いた大増税・緊縮財政路線を新政権が転換し、減税あるいは財政出動により日本経済の停滞感を払拭することを期待したものと考えられる。

公共投資削減が暗黒の30年を生み、社会経済の基盤の弱体化をもたらした


家計消費は停滞、公共投資は沈降 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足②-」(2025年3月19日)において、不況脱却の先導役であるはずの公共投資が沈んだままであることが、我が日本が暗黒の30年(既に35年という考え方もある)から抜け出せない大きな要因であると示した。さらに、公共投資削減は社会経済活動の基盤となる公共インフラの劣化を通じて、日本経済の基礎体力の弱体化につながる愚策であり、沈んだままの公共投資の中身について「公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)で描写した。
公表されているデータで直近の2022年度の事業別行政投資は、全ての事業で1995年度の水準を下回っている。特に社会経済活動の基盤という観点では、国土保全、道路、農林水産、下水道の低迷の影響が大きい。

公共投資積極化の試算

(1)試算前提

新政権が積極財政路線に転換するとの期待を前提に、本稿では公共投資が増加した場合の影響を産業連関表により試算する。なお、全ての公共投資を一律に増加させるのではなく、前章で挙げた国土保全、道路、農林水産、下水道など国土強靱化とも密接に関係する分野に重点的に公共投資が実施されると仮定する。
具体的には、総務省・内閣府・金融庁・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省「令和2年(2020年)産業連関表」の統合小分類(188部門)の「公共事業」「その他の土木建設」について、「国内総固定資本形成(公的)」(以下、公共投資、公的固定資本形成)が増加した場合の国内生産額及び粗付加価値(以下、GDP)を試算する。なお、「公共事業」は基本分類(行445部門×列391部門)の「道路関係公共事業」「河川・下水道・その他の公共事業」「農林関係公共事業」を統合したものである。「その他の土木建設」は基本分類の「鉄道軌道建設」「電力施設建設」「電気通信施設建設」「その他の土木建設」を統合したものである。なお、上・工業用水道等に関する構築物、埋立・土地造成等の工事については、基本分類では「その他の土木建設」に含まれている。
公共投資をどの程度増加させるかについては、下記の三つのパターンについて試算した。どの程度増加させるかについては様々な考えがあるが、産業連関分析の性質上、公共投資を増加させればさせるほど経済効果は大きくなる計算になることは留意しておくべきであろう。
 
「令和8年度概算要求」:
内閣官房国土強靱化推進室「令和8年度国土強靱化関係予算概算要求の概要」(令和7年8月)(内閣官房サイト「国土強靱化」「予算・税制」掲載)を参考に公共投資を増やしたケース。
 
「2000年度水準」:
総務省「行政投資実績」のデータに基づき、2020年度と比較した2000年度の水準を参考に公共投資を増やしたケース。小泉純一郎-竹中平蔵ラインによる悪夢の経済政策(市場原理主義と見紛うような新自由主義と緊縮財政の組合せ。「『新しい資本主義』は中間層の再建が鍵-提案編-」(2023年7月13日)等も参照)が始まる前の公共投資の水準と言える。なお、総務省「行政投資実績」の投資額等については「公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)の図1、図2など参照。
 
「1995年度水準」:
総務省「行政投資実績」のデータに基づき、2020年度と比較した1995年度の水準を参考に公共投資を増やしたケース。産業連関表作成年では、我が国の公共投資が最も多かった水準である。「財政均衡至上主義では財政バランスは回復しない」(2023年4月21日)の「公共投資は日本だけが削減したまま、他のG7諸国は増加基調」等に記述したように、我が国以外のG7諸国は全て1995年の水準を上回る公共投資を既に実施しており、無茶な水準と切り捨てるのは世界を見ていない人間の言うことであろう。
 
なお、本稿で用いている「産業連関表」について関心ある方は、本稿最終章の「『産業連関表』に関する若干の解説」を参照頂きたい。

(2)試算結果全体像

前節の前提に基づいてGDP等を試算した結果が図1である。なお、「国内生産額」は中間投入なども含んだ生産額であり、企業会計の売上高に近い概念である。
公的固定資本形成増加率が最も少ない「令和8年度概算要求」ではGDPが0.74%、「2000年度水準」では1.39%、最も増加率が多い「1995年度水準」では1.90%の押し上げ効果が見込まれる。2020年代に入ってからの名目GDPの成長率は平均2%を超えるようになっているが、2010年代は平均で1%強、2000年代はゼロ~マイナス成長であったことを考えれば、十分な水準であろう。
 
図1:GDP等の試算結果と公的固定資本形成の前提

出所:総務省、他「産業連関表」、総務省「行政投資実績」、内閣官房国土強靱化推進室「令和8年度国土強靱化関係予算概算要求の概要」(令和7年8月)より筆者作成

(3)試算結果部門別ベスト20

図2は統合小分類(188部門)の部門別波及効果について、国内生産額誘発額、国内生産額増加率、それぞれ多い順のベスト20部門を並べたものである。
「2000年度水準」と「1995年度水準」は、増加させる部門の部門間比率は同一で金額が異なるだけなので、順位はほぼ同じとなっている。「令和8年度概算要求」は「その他の土木建設」の方が「公共事業」より公的固定資本形成の増加率が多い前提で試算しているので、「2000年度水準」「1995年度水準」とは部門間順位に相違が生じている。
いずれの試算ケースにおいても、公的固定資本形成つまりは最終需要部門を直接増加させる「公共事業」部門の国内生産額が、誘発額、増加率ともに1位となっている。国内生産額誘発額については、2位以下では、土木や建設に関連する部門が大きくなっている。
国内生産額増加率については、「砂利・砕石」「鋼管」「建設用土石製品」などの金額は多くないものの土木や建設で用いられる資材などが上位に入ってくる。
 
図2:統合小分類の部門別波及効果ベスト20(上図:国内生産増加額、下図:国内生産増加率)

出所:総務省、他「産業連関表」、総務省「行政投資実績」、内閣官房国土強靱化推進室「令和8年度国土強靱化関係予算概算要求の概要」(令和7年8月)より筆者作成

まとめ


与党が連敗した昨年の衆議院選挙、今年の東京都議会選挙、参議院選挙から明らかなように、増税と公共投資削減の緊縮財政路線に国民はNOを突き付けている。「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズ等で記述してきたように(「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)など参照)、我が国の暗黒の30年の大きな要因は緊縮財政路線であり、国民は苦しみ続けている。緊縮財政路線から積極財政路線への本格的な転換が新政権に期待されている。
本稿では、積極財政路線のうち減税ではなく、公共投資を増加させた場合のGDP押し上げ効果を試算した。その際、国土強靱化の観点で重点化を図る前提を置いた。国土強靱化の観点はインフラの老朽化対策の観点とも重なる部分がある。減税でも様々な前提を置くことにより、GDP押し上げ効果を試算するのは可能であるが、いずれにしても積極財政路線で最終需要を増加させることが重要である(産業連関表は用いていないが、減税によるGDP押し上げ効果等については、「税収と景気(番外編)-『年収の壁』引上げの効果-」(2024年11月14日)も参照)。明るい明日への展望を描くことが、持続可能性の向上に繋がるであろう。

「産業連関表」に関する若干の解説


産業連関表は、「一定期間(通常1年間)において、財・サービスが各産業部門間でどのように生産され、販売されたかについて、行列(マトリックス)の形で一覧表にとりまとめたもの」である(総務省ウエブサイト「産業連関表とは」より)。内政部門、最終需要部門、粗付加価値部門で構成され、行列式などを用いることにより、最終需要部門の増減が、部門別の国内生産額、粗付加価値額、給与等をどの程度誘発するかを試算することができる。
「現在、わが国では、10府省庁の共同作業による産業連関表(全国を対象としていることから「全国表」ともいう)を5年ごとに作成」している。その他に、経済産業省が5年ごとに地域産業連関表、全国表の間の年を推計した延長産業連関表、都道府県や市が5年ごとに作成する都道府県・市産業連関表などが作成されている。
なお、本稿では基本分類をさらに細分化した「部門別品目別国内生産額表」の数値なども活用して、本稿内の前提を設定している。


20250929 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
九州北部旅行で考える交通機関-福岡市、唐津市、壱岐市-」(2025年8月19日)


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