家計消費は停滞、公共投資は沈降 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足②-
日本の経済停滞の原因は需要不足である。内訳を見るとGDPの過半を占める家計消費が停滞し、公共投資は沈んでいる。家計消費の伸びが期待できなければ、企業設備投資は消極的になるのが経営合理的であり、家計消費の活性化が重要。不況脱却の先導役は公共投資であるが、我が国は公共投資を敵視した経済政策を行って暗黒の30年をもたらした。
GDP前年比の変動は家計消費、民間投資、純輸出
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)では、他先進国と比較すると日本の経済停滞は明らかであり、GDP停滞の原因が需要不足であることを示した。本稿では、需要項目の内訳について記載する。なお、本稿では図で記載している「国民経済計算」の用語を、本文では一般に馴染みのある用語で置き換えている。具体的には、民間最終消費支出→家計消費(厳密には「民間最終消費支出」の97~98%程度が「家計最終消費支出」)、民間企業設備→企業設備投資、公的固定資本形成→公共投資、としている。
名目GDP前年比伸び率と項目別寄与度を示した図1を見ると、GDP前年比変動は、家計消費、企業設備投資、純輸出の前年比変動の寄与度が相対的に大きい。これらの項目は景気動向に影響されやすい項目である。2020年のコロナ禍の際の名目GDPのマイナスは、マイナス寄与度が最も大きかったのが家計消費、次いで企業設備投資であった。その後の2023年辺りまでの名目GDPの回復は、家計消費、企業設備投資のコロナ禍からの反動増の側面が強いと思われる。
図1:名目GDP前年比伸び率と項目別寄与度

出所:内閣府「国民経済計算」より筆者作成
家計消費は停滞、公共投資は沈降、政府最終消費支出のみ堅調
(1)GDPの過半を占める家計消費は停滞し、企業設備投資は消極的
図2は我が国で「財政危機宣言」が出された1995年を基準として名目GDPの主要項目を表したものである。
GDPの50%強を占める家計消費は、1995年=100とすると2010年代後半まで110を超えることなく、直近でも120に届いていない。約30年前の水準から少し上の水準での横ばい期間が長く続き、コロナ禍以降に漸く30年前の1割を超え2割に届こうかという水準になってきた。単純に年率換算すると、前年比約0.6%という状況が約30年間続いてきたことになり、日本の家計消費は大停滞に甘んじていたと言えよう。
家計消費の伸びが期待できなければ、企業設備投資は消極的になるのが経営合理的というものである。2000年代前半やリーマン・ショック以降2010年代半ばまでの期間は、企業設備投資は1995年の水準を下回っている。
図2:名目GDP及び主要項目(1995年=100)

出所:内閣府「国民経済計算」より筆者作成
なお、本稿では深入りしないが、日本企業は国内投資に消極的な一方で、海外には積極的に投資している傾向が続いている。人件費などの経済的要因や貿易不均衡に対する政治的要因など理由は様々であるが、日本の人口減少基調が長期的に続くと推測されること、いわゆる人口オーナス(onus)も大きな要因であろう。少子化についてはしっかりした対策を打てばある程度の緩和が可能であると考えられるが、この面でも政府の無策あるいは失策は救いがたい。少子化対策としては若者の就労促進などが重要との指摘が既に多くなされているが、「『公的お見合い制度』と『学費無料』が少子化対策の第一歩」(2023年1月31日)では婚姻や教育費などに焦点を当てている。少子化対策が効果を上げ静止人口が見通せるようになれば、日本企業の国内投資は前向きに転じるであろう。
(2)公共投資、民間住宅、純輸出の沈降が目立つ
公共投資は2000年代前半に大きく水準を下げ、2000年代後半から2010年代半ばまでは1995年の6割を切る水準に低迷していた(図2)。2010年代後半に入ってから徐々に水準を切り上げてきてはいるものの、直近で1995年の7割に届いておらず、この30年近く沈降を続けてきたと言っても過言ではないであろう。
民間住宅も公共投資程ではないものの沈降を続けてきている。純輸出(=輸出-輸入)については、東日本大震災が発生した2011年以降はマイナス(=輸入超過)である年が大半である。図示はしていないが、輸出は他の主要項目に比べれば長期的に増加基調にあるものの、それ以上に輸入が増加している。原発停止によるエネルギー輸入等の増加が影響していると推測される。
政府最終消費支出だけは相対的に堅調に伸びている。政府最終消費支出は、公務員等の給料、公的医療保険制度が本人負担部分以外の医療費を保険者として支払う部分、等を指す。
不況脱却の先導役であるはずの公共投資は沈んだまま
(1)政府最終消費支出と家計消費はプラス寄与であるが…
図3は、1995年を基準とした名目GDPについて、主要項目の寄与度を図示したものである。図2は各項目の水準だけを示したものであるが、図3を見ると公共投資のマイナス寄与度がより明確になるであろう。
政府最終消費支出が一貫してプラス寄与であるが、公務員等の給料と医療費の増加が需要の主力であるとしたら活力ある経済とは言い難いであろう。資本主義経済に執着する必要があるとは思わないが、民間が活発に活動し(≒公務員等の存在感が相対的に低い)、国民が健康である(≒医療費は相対的に低水準)姿が、健全な国民経済ではないだろうか。
家計消費も一貫してプラス寄与であるが、上述してきたように大停滞していたことは否めない。名目GDPの過半を占める家計消費が大停滞していたことが、前稿(「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日))で既述したように、他のG7諸国などに大きく差を開けられた要因である。
図3:名目GDP及び主要項目寄与度(1995年=100)

出所:内閣府「国民経済計算」より筆者作成
(2)見当違いな公共投資の敵視
さらに公共投資のマイナス寄与は救いがたい。米国のケインズ学派の解釈などではなく、ケインズ本人が唱えていた説を是とするならば(我が国では小室直樹『日本人のための経済原論』(2015年、東洋経済新報社)などを読むと得心できるであろう)、公共投資こそ不況脱却の先導役である。
やや脱線するが、戦前の大恐慌後の米国が景気回復軌道に本格的に復帰したのは第二次世界大戦の戦争特需によるものであり、フランクリン・ルーズベルトは公共投資による不況脱却には失敗している。F・ルーズベルトが実施した公共投資の象徴であるニューディール政策はあまりにも中途半端で、当時、ケインズが直接F・ルーズベルトにアドバイスしたが聞き入れられなかったようである。フロー面では、戦争特需は公共投資と同様の効果を持つ。また、安全保障は広義のインフラと捉えられる。
公共投資の乗数効果や生産誘発効果に疑念を持ち、公共投資の財源調達に関する将来の増税懸念から効果が相殺される、といったような「合理的期待形成学派」等の議論が米国を中心に一世を風靡し、一時期はケインズ的経済政策が批判にさらされたが、現在では日本以外のG7諸国などは公共投資を積極的に実施している。「財政均衡至上主義では財政バランスは回復しない」(2023年4月21日)の「公共投資は日本だけが削減したまま、他のG7諸国は増加基調」等に記述したので、そちらも参照頂きたい。
一方、我が国では高度成長期が終焉した後の公共投資については一見無駄なものが多かったように捉えられていた(真の意味で無駄な公共投資があったことは否定しない)。また財務省(20世紀は大蔵省)は、景気変動や経済発展を扱う経済動学の観点からは意義不明な財政均衡論を金科玉条の如く掲げて、増税必要論の啓蒙活動にいつ頃からか勤しむようになり、まずは直間比率の是正というお題目の下、1989年に消費税導入に漕ぎ着けた。さらに1997年には消費税増税を実現させている。さらに2000年代前半の小泉純一郎-竹中平蔵ラインによる経済改悪は、「合理的期待形成学派」的発想を概念的支柱としていたように考えられ、政治的理由により増税には踏み込まなかったものの、公共投資削減により緊縮財政路線を強化した。これらが、前述した家計消費大停滞と相まって、我が日本が暗黒の30年(既に35年という考え方もある)から抜け出せない大きな要因である。
なお、公共投資には景気刺激というフロー効果以上に、整備された社会資本が機能することによって長期的に生産性や安全性を向上させるストック効果がある。この点については、次々回に改めて触れる予定である。
本稿でのまとめ
我が国のGDP停滞の原因は、大きく見れば需要不足である。その内容を見ると、家計消費は大停滞、公共投資は沈降、政府最終消費支出のみ堅調という真っ当な経済活動とはかけ離れた姿が浮かび上がる。これらの多くは経済失政、特に財務省を中心とした財政均衡論、緊縮財政路線、もっと言えば際限ない増税志向がもたらしたものである。これらについては、「税収と景気」シリーズ(「税収と景気(1)-税収と景気の連動性-」(2023年12月27日)など)なども併せてご覧頂きたい。
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズの次回では、家計消費大停滞の中身を検証する予定である。さらに次々回にて、公共投資削減の状況を検証したいと考えている。
なお、データや情報整理等に時間がかかるので、「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズの合間に別のレポートが入る見込みである。
20250319 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズ:
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)
「家計消費は停滞、公共投資は沈降 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足②-」(2025年3月19日)
「長く低迷した所得、増税予想に慄く消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足③-」(2025年4月30日)
「デフレマインドが強固な家計消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足④-」(2025年5月13日)
「公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)
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