デフレマインドが強固な家計消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足④-
日本の経済停滞の原因は需要不足であり、家計消費の停滞が響いている。「家計調査」により10大費目の動向を見ると、保険医療費は増加基調、交通・通信費も増加基調の一方、被服及び履物費、「その他の消費支出」は減少基調が継続した。日々の生活に直結する食料費は、購入価格帯シフトや物価変動が食料費増減に影響したと考えられる。
「家計調査」から家計消費支出の内容を見る
本稿では「長く低迷した所得、増税予想に慄く消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足③-」(2025年4月30日)に引き続き、日本の経済停滞の原因である需要不足の一角を成す、家計消費大停滞の中身の描写を試みる。前稿では家計収支と国民負担について記述した。今回は消費支出の内訳について記述する。
なお、前稿に引き続き総務省「家計調査」の数値を用いて、より実感に近い状況の描写を試みる。なお、本稿で用いている「家計調査」等のデータ属性等について関心ある方は、前稿最終章の「『家計調査』に関する若干の解説」を参照頂きたい。
2011年以降、食料が最大支出費目、交通・通信は2010年代半ばまで増加基調
図1は、「家計調査」における「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」について、年平均1世帯当たり1か月間の消費支出の10大費目を図示したものである。
直近の2024年の消費支出は、食料が最も多く、次いで「その他の消費支出」、交通・通信、教養娯楽、光熱・水道、住居、教育、保健医療、家具・家事用品、被服及び履物、の順となっている。
「その他の消費支出」は、諸雑費、理美容サービス、理美容用品、身の回り用品、たばこ、他の諸雑費、こづかい(使途不明)である。2010年までは最大支出費目であったが、2011年以降は食料費に取って代わられている。
交通・通信費は、2010年代半ばまではほぼ増加基調である。2010年代半ばまでは通信費が増加しており携帯電話・スマートフォンの普及が影響していると推測されるが、その後の通信費は減少基調となっている。2019年以降は、自動車等関係費(購入のみならず、燃料費などを含む)が以前より高い水準で横ばいとなっている。
図1:1世帯当たり1か月間の消費10大費目実額

注2:1999年以前は「農林漁家世帯を除く」、2000年以降は概念的には「農林漁家世帯を含む」データ。接続調整はしていない。
出所:総務省「家計調査」より筆者作成
長期に亘る節約志向
(1)保険医療費、交通・通信費が増加基調
図1の10大費目について、我が国で「財政危機宣言」が出された1995年を100として指数化したものが図2である。上図が2024年時点で1995年の水準を上回っている費目、下図は1995年の水準を下回っている費目である。
図示した期間では保険医療費、交通・通信費が全体として増加基調である。保健医療費は2000年代前半から2010年代半ばまでは増減を繰り返していたが、2016年以降は増加基調が顕著となっている。交通・通信費は近年では2014年、2019年と二つの山があるが、その後はやや水準が下がっている。携帯各社への値下げ要請なども影響していよう。
食料費は1999年以降減少基調が続いたが、2011年を底に増加基調に転じた。しかし、1995年の水準を超えたのは2020年である。2022年以降は顕著に増加している。食料費は不況時の節約項目に上がりやすいが、大幅に量を減らせるものでは無く、低価格品にシフトする行動を取ることとなろう。一方、好況になったからと言って大量に消費する類の費目ではない。高級品にシフトする行動もあろうが、食に関する生活様式が極端に変わる家計は多くはないであろう。食料費の増減は、物価の影響が大きいと推測される。2020年代に入ってからは、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻に象徴される世界的インフレ時代への移行が始まっており、食料費の増加はその影響と思われる(「デフレの時代からインフレの時代へ」(2023年2月3日)も参照)。
家具・家事用品費はバブル最終局面の1991年をピークに減少基調が続き、2007年が大底となった。その後は若干増加したものの、増加基調に転じたと言えそうなのは、いわゆるアベノミクス効果が出始めた2014年以降である。しかし、1995年の水準を超えたのは2020年で、その後は1995年の水準を若干下回り、2024年はほぼ1995年の水準となっている。家具・家事用品は節約対象となりやすい費目であり、この間の人々の景気に対する停滞感が表れていると言えそうである。
図2:1世帯当たり1か月間の消費10大費目指数(1995年=100、上図:プラス費目、下図:マイナス費目)


注2:1999年以前は「農林漁家世帯を除く」、2000年以降は概念的には「農林漁家世帯を含む」データ。接続調整はしていない。
出所:総務省「家計調査」より筆者作成
(2)被服及び履物、「その他の消費支出」は長期減少
被服及び履物、いわゆる衣類は人々の景況感の好悪が影響しやすい費目の筆頭であろう。図示した期間では、バブル最終局面の1991年をピークにほぼ一貫して減少基調であった。さらにコロナ禍により外出が抑制された2020年は前年比で大きく減少している。2021年を大底に若干増加傾向にあるが、2024年の被服及び履物費は1995年の5割強、1991年と比べると半分にも満たない。大半の人々の景況感は、足元でもほとんど回復してない証左ではないだろうか。
諸雑費やこづかい(使途不明)等の「その他の消費支出」も長期減少基調が続いており、回復の気配は感じられない。こづかいが減らされてしまっているのだろうか。
住居費の内訳は家賃地代、設備修繕・維持、設備材料、工事その他のサービスである。家賃地代はデフレの影響が大きく、その他の費目は節約対象となりやすい。バブル期は地価と同様に家賃も急上昇していた時期であり、特に1990年から1992年までの住居費は大きく増加していた。バブル崩壊時は金融資産に遅れて地価が下がりだしたが、家賃への反映はさらにタイムラグがあったであろう。また、バブル崩壊後暫くは不況期間が長引くと予想していた人は少なく、金利低下を奇貨として住宅購入した世帯も多いと推測される。住宅購入は設備材料や工事その他のサービスへの支出を伴うであろう。そうした要因もあり、住居費のピークはバブル崩壊から数年経った1996年であり、その後は減少基調であったが、2008年から2011年にかけては増加している。金利や地価、あるいは政府による住宅支援策なども住居費の動向に影響してくるので、一本調子での減少基調ではなかったようだ。
教養娯楽費も節約対象となりやすいと思われるが、2011年の東日本大震災時に減少するまでは増減を繰り返していた。教養娯楽費の内訳は、教養娯楽用耐久財、教養娯楽用品、書籍・他の印刷物、教養娯楽サービスであり、さらに教養娯楽サービスは宿泊料、パック旅行費、月謝類、他の教養娯楽サービスからなる。東日本大震災後暫くは1995年の水準に比べて90前後となっており、テレビ・映像用機器・パソコン・楽器などの教養娯楽用耐久財への支出が減少している。2019年の前年比増加は消費税増税前の駆け込み需要などが推測されるが、2020年にはコロナ禍の影響を大きく受けて、パック旅行費、宿泊料、月謝類などが減少している。
教育費はバブル期を通じて増加した後、増減はあるもののほぼ1995年の水準前後で推移してきた。前年比で大きく減少したのは2020年、2023年で、いずれも授業料等が大きく減少している。2020年はコロナ禍の影響と思われるが、2023年は各種の授業料等の支援制度が適用され始めた影響と推測される。
プラス寄与は交通・通信費、マイナス寄与は「その他の消費支出」
図3は、1995年を基準とした消費支出について、10大費目の寄与度を図示したものである。図2は各費目の水準だけを示したものであるが、図3を見ると「その他の消費支出」と被服及び履物のマイナス寄与度、交通・通信費のプラス寄与度がより明確になるであろう。
1996年以降2019年までの期間のほとんどで食料費はマイナス寄与である。既述したように食料の物理的消費量が大幅に増減することは考えにくいので、購入価格帯のシフトや物価の影響が表れているのが食料費支出と考えられる。四半世紀近い長期に亘る食料費のマイナス寄与はデフレマインドを強固にしたと考えられる。一方、2023年、2024年の食料費の相対的に大きなプラス寄与は、人々の物価高認識に大きく影響を与えていると推測される。
図3:1世帯当たり1か月間の消費支出の10大費目寄与度(1995年=100)

注2:1999年以前は「農林漁家世帯を除く」、2000年以降は概念的には「農林漁家世帯を含む」データ。接続調整はしていない。
出所:総務省「家計調査」より筆者作成
本稿でのまとめ
前稿に引き続き総務省「家計調査」の「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」のデータを用いて、本稿では消費支出の10大費目の状況を記述した。
デフレ下にもかかわらず保険医療費は増加基調、携帯・スマホの普及という構造変化を背景に交通・通信費も増加基調であった。一方、節約対象となりやすい被服及び履物費、「その他の消費支出」は減少基調が継続した。
日々の生活に直結する食料費は、物理的消費量を大きく変動させることは考え難いので、購入価格帯のシフトや物価そのものの変動が食料費増減に影響したと考えられる。長期に亘る食料費の水準低下はデフレマインドを強固にした一方で、ここ数年の食料費増加は物価高の懸念を家計に抱かせるに至っていると推測される。
なお、「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズの次回では、公共投資削減の状況を検証したいと考えている。
20250513 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「長く低迷した所得、増税予想に慄く消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足③-」(2025年4月30日)
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズ:
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)
「家計消費は停滞、公共投資は沈降 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足②-」(2025年3月19日)
「長く低迷した所得、増税予想に慄く消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足③-」(2025年4月30日)
「デフレマインドが強固な家計消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足④-」(2025年5月13日)
「公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)
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