長く低迷した所得、増税予想に慄く消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足③-
日本の経済停滞の原因は需要不足である。「家計調査」からは家計の所得が長らく低迷していた姿が浮かび上がる。所得が伸びなければ、消費も盛り上がらない。2010年代後半から所得は増加基調となりコロナ禍の下でも所得水準は落ちなかったが、消費は低迷した。平均消費性向の低下は、大増税を企図する政治に対する防衛反応と考えられる。
「家計調査」から家計収支、国民負担を見る
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)では、他先進国と比較すると日本の経済停滞は明らかであり、GDP停滞の原因が需要不足であることを示した。さらに「家計消費は停滞、公共投資は沈降 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足②-」(2025年3月19日)で需要不足の内訳について記述した。GDPの過半を占める家計消費は停滞し、消費低迷を受け企業設備投資は消極的、不況脱却の先導役であるはずの公共投資は沈んだままである。
本稿では家計消費大停滞の中身についての描写を試みる。まずは家計収支と国民負担について記述し、次稿にて消費支出の中身を記述予定である。
加工統計である国民経済計算(GDP統計)にも家計消費のある程度の内訳項目があり、国民負担率などの議論をする際はGDP統計ベースで行うことが多い。しかし、本稿ではGDPの基礎資料の一つであり調査統計(一次統計)である総務省「家計調査」の数値を用いることとし、より実感に近い状況の描写を試みる。なお、本稿で用いている「家計調査」等のデータ属性等について関心ある方は、本稿最終章の「『家計調査』に関する若干の解説」を参照頂きたい。
消費税率引上げ後からコロナ禍まで低迷していた所得、低迷続く消費
(1)可処分所得が増え始めたのは第二次安倍政権半ば以降
図1は、「家計調査」における「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」について、年平均1世帯当たり1か月間の勤め先収入、可処分所得、消費支出等を図示したものである。上図が実額、下図は我が国で「財政危機宣言」が出された1995年を100として指数化したものと平均消費性向を図示している。
所得等は1997年にピークを迎えた後は2000年代前半まで減少基調となり、一旦横ばいとなるが、リーマン・ショックの影響が及んだ2009年には一段と減少している。勤め先収入と可処分所得は東日本大震災があった2011年が底であるが、その後も低い水準での横ばいが続き、ようやく増加基調へ転換したと言えそうなのは、第二次安倍政権半ば以降の2017、2018年頃である。コロナ禍が始まった2020年に入って、ようやく勤め先収入、可処分所得の水準が1995年を超えた。
「可処分所得-消費税」については、消費税率が5%から8%に引上げられた2014年が大底である。2020年にようやく1995年の水準近くになったが、その後は1995年の水準を行き来し、明確に1995年の水準を大きく上回ったのは、経済面でコロナ禍の影響が概ね払しょくされた2024年に入ってからである。
つまり、1997年の消費税率3%から5%への引上げはバブル崩壊後も上昇基調だった所得を減少基調へと転換させ、2014年の8%への引上げが景気に冷や水を浴びせたと言える。2019年の消費税率8%から10%への引上げが無かったら、さらに言えば消費税軽減、より大胆に消費税廃止をしていれば、コロナ禍の経済へのマイナス影響をかなり相殺できたかもしれない。いずれにしても、消費税が家計の所得にもマイナスの影響を及ぼしたことが見て取れる。
図1:1世帯当たり1か月間の所得等と消費支出(上図:実額、下図:1995年=100)


(2)平均消費性向の低下
消費支出は、所得と同様に1997年がピークであり、その後は若干前年比増加する年もあったものの、2011年まで概ね減少基調であった。その後は、1995年=100とした89~91水準のレンジを行き来し、2019年にやや上向いたところでコロナ禍の影響で2020年は再び減少して大底となった。その後は増加基調に転じたものの、2024年時点で1995年の水準を越えられていない。
平均消費性向(=消費支出÷可処分所得)を見ると、消費税率が3%から5%に上がった翌年の1998年を底に暫くは上昇基調であった。所得が減っても消費は所得程にはすぐには減らせないというラチェット効果が働いたと推測される。
5%から8%への消費税率引上げがあった2014年以降、平均消費性向は目立って低下傾向となった。さらに、2019年10月に消費税率10%への引上げがあったことに加えコロナ禍が発生したことで、2020年の平均消費性向は大幅に低下した。2020年の大幅な落ち込みはコロナ禍により外出などが制約されて消費が減少する一方で、特別定額給付金などの各種支援策により可処分所得が増えたことも影響しているであろう(平均消費性向の分子は減少、分母は増加)。
コロナ禍に慣れ、さらにコロナ禍が一応の収束となった2023年までは平均消費性向は上昇基調となったが、かつての水準よりは大幅に低い。2024年には再び平均消費性向が低下している。現与党及び野党第一党の態度、財務省のプロパガンダにより、大増税が続きそうなことに対する警戒感から家計における防衛反応が平均消費性向の低下に表れているのかもしれない。
国民負担の増加は消費税と社会保険料が主だが、直接税も東日本大震災以降増加基調
図2の「実収入に占める比率」が、いわゆる国民負担率に近い概念である。「実収入に占める比率」は、1980年代後半は10%台半ばであったが1993年まで上昇基調、1994年に一旦低下するが1997まで再び上昇基調となった。その後暫くは低下から横這いであったが、2009年には20%を超えた。2011年以降は再び上昇基調となり、2022年には23.4%、直近の2024年は22.3%である。1994年はバブル崩壊の影響が労働市場にも及んできた時期、1998年は前年の3%から5%への消費税率引上げにより曲がりなりにも直間比率の是正が実現し、直接税が減少に転じた時期である。2009年は前年からのリーマン・ショックの影響で実収入が減少した。
1997年の3%から5%への消費税率引上げによる直間比率是正により、1世帯当たり1か月間の直接税は1997年の5万円から1998年には4.4万円に下がり、その後も減少して2001年から2007年までは4万円を切る水準が続いた。その後は増減を繰り返し、2011年の東日本大震災を踏まえた復興増税等が導入された2012年以降は2022年まで増加基調が継続した。
1997年の3%から5%への消費税率引上げ以降、1世帯当たり1か月間の消費税の水準は1万円程度から1.5万円程度に上がった。さらに2014年の5%から8%への消費税率引上げ以降は、1世帯当たり1か月間の消費税の水準が2.2~2.3万円水準に上がり、2019年10月の8%から10%への消費税率引上げが年ベースで反映された2020年には2.7万円、2022年以降は2.8万円となっている。
「100年安心年金プラン」を謳った年金の財政再計算及び改革が実施された2004年以降の数年を除き、社会保険料はほぼ増加基調であった。
国民負担の増加は消費税と社会保険料が主だが、直接税も東日本大震災以降増加基調であり、国民の負担感は増加する一方となっている。このことが既述した平均消費性向の低下にも大きく影響しているであろう。
なお、国民負担率は財務省によると2023年度(実績)46.1%、2024年度(実績見込み)45.8%、2025年度(見通し)46.2%であるため(財務省ウエブサイト「国民負担率」より)、図2の「実収入に占める比率」は低めに見える。我が国税収の1/4ほどを占める法人税などの法人関係税収は「家計調査」の対象外であり、また図2は「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」を対象にしているので、それ以外の世帯の状況は反映できてない。それらを考慮すると妥当な水準と考えて良いのではないだろうか。いずれにしても、増減の方向性は大きく変わらないと考えている。
図2:1世帯当たり1か月間の税金と社会保険料

本稿では「家計調査」ベースで見た家計の収支と国民負担について記述した。次稿では消費支出の中身について記述予定である。
「家計調査」に関する若干の解説
総務省「家計調査」では「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」以外の収入項目は明らかではない。本稿では、収入と支出の関係が焦点の一つなので、「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」のデータを対象としている。また、「農林漁家世帯」の取扱いが何度か変わっており、2018年には「農林漁家世帯」の世帯区分が廃止されている。現行の形式でデータを遡れるのは2000年までであり、1999年以前については厳密には接続できないが、大まかな傾向を見るのには差し支えないと考えている。さらに詳細について関心のある方は、総務省統計局ウエブサイト「家計調査」の「調査の沿革」「家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)」「過去に作成していた結果表(二人以上の世帯)」などをご参照。
なお、厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、「雇用者世帯のうち二人以上の世帯」が「世帯総数」に占める比率は、2000年は約49%、2023年は約42%である。従って、本稿の家計消費の動向は全体像とは言い難く、全体の4~5割程度を描写しているといったスタンスで考えるのが適切であろう。しかしながら、他の世帯業態の動向と方向性に大きな相違があると考え難く、水準の相違であると考えている。
図1の注
注1:二人以上の世帯のうち勤労者世帯、年平均。
注2:1999年以前は「農林漁家世帯を除く」、2000年以降は概念的には「農林漁家世帯を含む」データ。接続調整はしていない。
注3:消費税は、消費税率を用いて消費税課税前消費支出を算出し、実際の消費支出額との差額を計算。2019年10月以降については、外食を除く食費について軽減税率を適用して計算。
注4:消費税導入及び消費税率引上げは4月と10月に実施されたので、引上げ等の該当年は四半期ベースで単純案分。
図2の注
注1:二人以上の世帯のうち勤労者世帯、年平均。
注2:1999年以前は「農林漁家世帯を除く」、2000年以降は概念的には「農林漁家世帯を含む」データ。接続調整はしていない。
注3:消費税は、消費税率を用いて消費税課税前消費支出を算出し、実際の消費支出額との差額を計算。2019年10月以降については、外食を除く食費について軽減税率を適用して計算。
注4:消費税導入及び消費税率引上げは4月と10月に実施されたので、引上げ等の該当年は四半期ベースで単純案分。
注5:本図では、国民負担=直接税+消費税+社会保険料。「実収入に占める比率」は国民負担が占める比率。
20250430 執筆 主席研究員 中里幸聖
前回レポート:
「資金循環統計からみた異次元緩和終了後の国債の動向」(2025年4月2日)
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」シリーズ:
「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)
「家計消費は停滞、公共投資は沈降 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足②-」(2025年3月19日)
「長く低迷した所得、増税予想に慄く消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足③-」(2025年4月30日)
「デフレマインドが強固な家計消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足④-」(2025年5月13日)
「公共投資削減は需要不足のみならず、長期的な基礎体力を弱体化させる愚策 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足⑤-」(2025年6月25日)
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