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海洋国家日本を支える港湾機能の強化

海運は日本列島の住民の生活維持に欠かせない。海運の物資の陸との結節点が港湾である。現在の日本は国際基幹航路が減少している。国内経済の相対的な低迷に加え、国際貨物の構造変化に港湾機能等が適切に対応してこなかったと考えられる。港湾機能の国際貨物への適応等を通じ、日本が再び国際基幹航路の一翼を担うことが期待される。


海と陸の結節点である港湾


重量ベースで見た世界の貿易量における海上輸送の割合は90.0%、さらに日本の貿易量における海上輸送の割合は99.6%である(数値の出所:「一般社団法人 日本船主協会」ウエブサイト「船と海の基礎知識」より。情報更新日:2022年7月)。我が国はエネルギーや食料などの生活に欠かせない物資の多くを海外からの輸入に頼っている。対外依存度は原油99.6%、LNG100%、鉄鉱石100%、大豆94%、小麦84%など(数値の出所:前同)。こうした物資は日常生活に直結し、安く大量に運ぶことが求められ、海運が中心となる。別言すると、現状の国内需要量を前提とするならば、海運が機能しないと日本列島の住民の大半は最低限の生活維持もままならなくなるであろう。
一方、大半の人々の生活空間は陸上である。輸入したエネルギーや食料を最終消費者が消費できる形に加工する施設や、最終消費者の手元に届けるための小売施設へ輸送するために、まずは船から物資を陸揚げする。また、国内で生産した物資を船便で輸出する場合は、物資を船積みする。こうした海と陸の結節点が港湾である。
 
図1:港湾の概念

出所:国土交通省関東地方整備局東京港湾事務所ウエブサイト「港湾豆知識」「港湾施設とは、どこのことを言うのですか?」より抜粋

国際基幹航路から外れた日本


かつて日本は東アジアにおける国際貿易の一大拠点であったが、現在の日本は国際基幹航路から外れてきている(図2、図3。なお、TEUはTwenty-foot Equivalent Unitの頭文字からなる物流用語の単位で、20フィートの海上コンテナに換算した荷物の量を表す)。
90年代以降、経済における日本の相対的地位が長期低迷し続けており(「財政均衡至上主義では財政バランスは回復しない」(2023年4月21日)、「経済停滞は緊縮財政路線による需要不足」(2025年2月27日)等も参照)、国際物流においても日本の相対的地位が低下している。その一方で共産中国や韓国の相対的な地位向上は、日本から共産中国や韓国への国際基幹航路のシフトをもたらしている。
マクロ経済の相対的な比重変化だけではなく、国際貨物の構造変化も日本が国際基幹航路から外れる要因となっている。今の日本には、国際基幹航路の発着点となるコンテナ船のハブ港が無いと言っても良い状況である。共産中国の上海港、寧波港、深圳港、韓国の釜山港等に、コンテナ貨物量で大幅に後れを取っている。
石油、LNG、鉱石などバルク(ばら積み)輸送を除く国際貨物は、ほぼコンテナ輸送になっている。コンテナ輸送では、1度に運べるコンテナ数が多いほどコンテナ1個当たりの燃費や船員のコストが低くなるので、コンテナ船は大型化が進んでいる。巨大コンテナ船は、船自体の運航コストは高いので、効率性向上のために巨大なハブ港だけに立ち寄るようになり、ハブ港以外の港には相対的に小型のコンテナ船に荷を積み替えてフィーダー輸送している。こうした積み替えをトランシップと呼び、その貨物をトランシップ貨物と言う。トランシップは外航-内航の受け渡しでは普通であったが、現在は韓国の釜山-日本の各港湾などの国際的なトランシップ扱いが拡大している。
巨大コンテナ船が寄港するハブ港には、入港できるような水深、効率良く荷役作業ができる機械、使い勝手の良い運営体制等が求められる。日本の港湾がハード・ソフト面での港湾機能において中韓に後れを取ったことも、日本が国際基幹航路から外れた要因として大きい。
 
図2:コンテナ取扱数の推移(上図:世界各地域の港湾、下図:アジアの主要港)

出所:国土交通省「令和6年度 交通の動向 令和7年度 交通施策」(通称「令和7年版 交通政策白書」)より抜粋

図3は日本の主な港湾のコンテナ取扱数の世界における順位を示したものであるが、1980年には世界4位のコンテナ取扱量だった神戸港は、2023年には72位となっている。1995年の阪神淡路大震災による港湾機能損壊の際に、他の港湾に国際貨物が流れた影響もあるが、その後も相対的に国際貨物の戻りが鈍かった。2023年で日本で一番順位が高い港湾は東京港であるが、46位となっている。1980年、1990年、2000年に東京、横浜、名古屋、大阪、神戸の5大港全てが50位以内に入っていたのとは、隔世の感を持たざるを得ない。
海洋国家日本の復権に向けた造船新機軸」(2024年9月20日)で書いたように、世界最大級の超大型コンテナ船は日本の造船会社が建造し、日本の海運大手三社が設立した企業が運航し、船主は日本企業である。しかし、日本にはこの大きさの船が入れる港が無く、日本以外の港湾間で活躍している。
 
図3:日本の主な港湾のコンテナ取扱数の世界における順位

出所:日本港湾協会 港湾政策研究所ウエブサイト「港湾物流情報」「港湾関連データ」「世界の上位20港のコンテナ取扱量の推移」より筆者作成

国際基幹航路から外れると、積地港から仕向港まで同一の船で輸送されずに途中の寄港地で積替えすることになる。輸送距離が長くなり、積替え費用がプラスされ、時間も余計にかかることになるので、国際基幹航路に入っているか否かは交易条件の良し悪しに影響する。輸出の場合は競合とのコスト競争力で不利になり、輸入の場合は国内コスト増加要因となる。
従って、国際基幹航路に復帰することはエネルギーや食料の海外依存度が高い我が国にとっては重要な課題である。なお、本稿の論点からは外れるが経済安全保障などの観点からは、自給率を高めて海外依存度を引き下げる方向で対応することも望まれる(「二つの自給率向上が生き残りの鍵(3) -農業の企業組織化・大規模化-」(2023年2月22日)、「二つの自給率向上が生き残りの鍵(4) -分散型エネルギーの推進-」(2023年3月6日」等を参照)。

政府の対応


日本が国際基幹航路から外れる事態に対し、政府が全く対策を打っていないわけではない。
コンテナ取扱拠点を集中し、コンテナターミナルのサービス水準の向上や港湾コストの低減を通じて国際基幹航路の寄港頻度向上を目指し、2004年度に「スーパー中枢港湾」政策を開始した。2005年には港湾法を改正して京浜港(東京・横浜)、伊勢湾(名古屋・四日市)、阪神港(大阪・神戸)をスーパー中枢港湾に法的に位置づけた。支援策の拡充、投資の重点化などが図られ、国際競争力向上などのため関連法の改正も進められた。
2006年には埠頭公社の民営化法、水先料金規制を緩和等する水先法の改正などを実施、2009年度から「コンテナ物流の総合的集中改革プログラム」を実施した。
さらに2010年には「国際コンテナ戦略港湾」として京浜港、阪神港を選定し、2011年には港湾の種類に国際戦略港湾を追加、港湾運営会社制度の創設等を盛り込んだ港湾法の改正が行われた。「国際コンテナ戦略港湾」では、広域からの貨物集約、荷主サービスの向上、コンテナ船大型化の進展への対応、「民」の視点での戦略的港湾運営の実現、ターミナルコストの低減の5つの施策を推進することとしている。
なお、これらの港湾強化については、内航フィーダー、鉄道フィーダー、トラックフィーダーの育成・強化などの施策も盛り込まれており、海陸の結節点である港湾を軸に内外物流の総合的な強化が意図されている。
その後も、図4のように委員会等での取り纏めを踏まえた法改正などが順次実施されている。
 
図4:国際コンテナ戦略港湾政策の経緯

出所:国土交通省ウエブサイト「国際コンテナ戦略港湾政策の概要」「国際コンテナ戦略港湾政策のこれまでの経緯」、同ウエブサイト「新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会」より筆者作成

日本が再び国際基幹航路の一翼を担うには、政府側の施策が大きな影響を持つことは間違いない。港湾の水深などのインフラ整備については国や地方公共団体などの公的機関の役割が大きいであろう。さらに、港湾運送や倉庫など港湾関連企業、荷主企業、海運会社などが協力して、使い勝手の良い港湾を実現し、世界貿易における日本発着の交易品の比率を高めていく事が求められるであろう。


20250530 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
デフレマインドが強固な家計消費 -経済停滞は緊縮財政路線による需要不足④-」(2025年5月13日)

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