夏休みが始まる前に|掌編小説
夏休みが始まる前に、連絡先を聞こう。
そう決心してから一週間。
とうとう一学期最後の日を迎えてしまった。
先生から生活指導の話を聞きながら、
ちらっと彼女の顔を盗み見る。
ふと、あの日一緒に帰った日のことを思い出す。
シュワシュワに弾けたサイダー。
ビー玉を転がしたような、可愛い笑顔。
あの時の光景が、まだ心の中にじんわりと残っている。
あれから、僕たちの関係に進展はない。
何度か目が合ったりしたのだけど、なんとなく
恥ずかしくて、すぐ目を逸らしてしまった。
俺、嫌われたかも。
そんなことをグルグル考えていたら、あっという間に先生の話は終わり、ケージから解き放たれた九官鳥のように、皆次々と喋り始めた。
ねぇ夏休みどっかいこーよ
このあと、どうする?
なぁ通知表どうだったか見せろよ〜
賑やかなざわめきの中、彼女の方を見る。
どうしよう。
連絡先なんて聞いたら、下心バレバレだよな。
幸い同じクラスだし学校始まってからもチャンスはあると思うし….今無理しなくても....
と、うかうかしているうちに、
彼女は席を立って教室を出て行ってしまった。
「なぁ、このあと遊びに行こーぜ!」
友達の海斗にそう言われたが、上の空だった。
ーーーー
彼女と出会ったのは、高校一年の春。
たまたま同じクラスで、前の席だった。
見た目は大人しいが、
真っ直ぐ相手の顔を見て話を聞くところとか、
他のクラスメイトが掃除をサボっても、
一人だけ黙々とこなすところとか、
そういう誠実なところが好きになった。
二年生になって、また同じクラスになって、
すごく嬉しかった。
このまま、ただのクラスメイトでもいいと思ったのだけど、だんだん、自分の中で独占欲みたいなものが芽生えてきて、彼女の良いところを他の奴に知られたくないと思うようになった。
んで、アクションを起こそうと、
先日、彼女が好きな三ツ矢サイダーで接触を図ったわけなんだけど....
結局、肝心な想いは何も伝えられていないままだ。
彼女は、俺のことをどう思ってるんだろう。
あの日、なぜ追いかけてきてくれたんだろう。
ガラガラッ
「おーい何してる、さっさと帰らんか!」
気づけば教室は俺一人だけになっていた。
携帯のLINEを見ると、海斗からお怒りスタンプが送られてきていた。
「何してんだよ、俺」
はぁ、とため息を吐き、トボトボと教室をあとにした。
ーーーー
生徒たちは皆ほとんど帰ったのか、昇降口は
しんと静まり返っていた。
さっきまであんなに賑やかだったのに、
なんだか自分だけ取り残されたような、不思議な気持ちになった。
さすがに帰っちゃったよなと思い、彼女の下駄箱を見た。すると、まだ靴が残っているのが見えた。
え??なんで??俺より先に帰ったんじゃ...
「佐藤くん」
振り返ると、彼女がそこに立っていた。
「あのね、これ」
そう言うと、彼女は三ツ矢サイダーを俺に渡してきた。
「楽しかったから。良かったら、また一緒に帰らない?」
そう言う彼女の顔は真っ赤になっていた。
もう、それで、充分だった。
「小西さん。連絡先、教えて。」
彼女は嬉しそうに、こくりと頷いた。
シロクマ文芸部のお題、「夏休み」で書いてみました。今週もお題ありがとうございます!
前に書いた小説の続きです。今回は男の子サイド。
前回のお話はこちら。
今回のお話はいつもよりちょっと長めです。
(1200字くらい?)
いつもは飽きられないよう、文字数短く心がけているのですが、ものは試しってことで。
チャレンジです!
