新刊チェック:2026年5月第4週分②
今日も元気に新刊チェック!
2026年の5月第4週(17日~23日)に発売される新刊から面白そうなものをピックアップしました! 今回はその②です。
2026年5月分のリストはこちら👇
新刊チェック:2026年5月第1週分
新刊チェック:2026年5月第2週分
新刊チェック:2026年5月第3週分①
新刊チェック:2026年5月第3週分②
新刊チェック:2026年5月第4週分①
村松友視『鎌倉のおばさん』P+D BOOKS
5月21日、小学館より発売予定。P+D BOOKSといえば、昭和の名作を復刊しているレーベルです。掘り出し物が多くて助かっています。
作者紹介
村松友視(1940-)は、もともと中央公論社の編集者として活躍していたようですが、1980年にプロレスのエッセイで作家デビューを果たしたみたいです。そして、1982年に『時代屋の女房』で直木賞を受賞し、1997年に今回扱っている『鎌倉のおばさん』で泉鏡花文学賞を受賞しました。
祖父は作家の村松梢風(1889ー1961)。代表作は、のちに引用する作品紹介にもあるとおり、『残菊物語』と『男装の麗人』らしいのですが、まったく存じ上げませんでした。
なぜ突然、作者のおじいちゃんの話を? とお思いになるかもしれません。その疑問についてお答えしておくと、本作の中心人物が作者の祖父・梢風と祖父の愛人・絹江だからです。
作品紹介
その点を踏まえて作品紹介を見ていきましょう。
村松梢風の愛人・絹江の破天荒な半生を描く
──フィクションの衣をまとった絹江にとって、梢風は勝負しがいのあるしたたかな相手だったのだ。二十歳そこそこの絹江は、独特の勘で梢風のその凄味を嗅ぎ取ったのではなかろうか。──
二代目尾上菊之助の悲恋を描いた『残菊物語』、“東洋のマタ・ハリ”川島芳子にスポットを当てた『男装の麗人』等で知られる小説家・村松梢風。妻子ある身にもかかわらず放蕩の限りを尽くしていた梢風だが、正妻以上に厚く遇していたのは若い愛人・絹江だった。
絹江の話すことはことごとく真偽不明だが、梢風の孫である著者(村松友視)の目にはなぜか絹江が魅力的に映り、絹江との言葉のやりとりが、「こたえられぬほど楽し」く、「為体の知れぬ快感を感じ」たという。それは絹江と著者が、ある共通点を持っていたからだった──。
梢風の自伝的作品「梢風物語」や、梢風と近しかった小島政次郎の「女のさいころ」などを下敷きにしながら、村松家の人間模様を描いていく泉鏡花文学賞受賞作品。
作者にとって絹江は魅力的に映ったようです。「絹江の話すことはことごとく真偽不明だが」とあるように、作者にとって、絹江はきっとミステリアスな雰囲気のある年上の女性だったのでしょう。こうした女性は泉鏡花の作品にもたびたび出てくるので、そういう意味では泉鏡花文学賞にふさわしい作品といえそうな気もします。(あくまで作品紹介から想像した範囲内で。)
『ダウナー系お姉さんに毎日カスの嘘を流し込まれる話』
現代でも〈少年時代にミステリアスな雰囲気のある女性に翻弄されたかった〉という欲望を受け持つコンテンツはやはり人気があるようです。少し前のXで〈暗い雰囲気のある年上の女性が、近所に住んでいる少年に対して、毒にも薬にもならないようなささやかな嘘を吹き込む〉という設定のコンテンツが流行っていたと記憶しています。
そして、そのマンガが、生倉のゑる著・はるばーど屋原作『ダウナー系お姉さんに毎日カスの嘘を流し込まれる話』なのだそうです。Kindle Unlimitedで1巻が読めたので、今回はそれを読んでみることにしました。
嘘しかつかない「お姉さん」と高校1年生かと思われる少年が公園のベンチで会話するという基本の形式があり、回を追うごとに「お姉さん」の実態や少年の私生活がほんの少し垣間見えていく、という構成でした。
「お姉さん」がつく嘘の豆知識は荒唐無稽なものからうっかり信じ込んでしまいそうなものまで多種多様。私生活に関しても、毎日のように公園に通っていること以外はほぼ嘘で、発言を裏返しに解釈することでしか真実を得られません。前半はじつにミステリアスといった感じですが、後半になってくると色んな意味で哀愁を感じさせます。
一方、「お姉さん」に嘘を吹き込まれている少年は、彼女に翻弄されるのかと思いきや、彼女のことを魅力的に感じつつも、すごく冷静に観察しているように感じました。
個人的には第2話の文学に関する嘘が好みでした。誰のどの作品についてかは読んでからのお楽しみということで。
ナオミ・クリッツァー著・桐谷知未訳『陽の光が消えた町で』
5月21日、早川書房より発売予定。
作者と作品
作者はナオミ・クリッツァー(????-)。本人のブログにあたってみたのですが、生年に関する記述は見つからなかったので非公開だと思われます。
英語版wikipediaによると、1999年にデビューして以来、特にSF小説を書き続けているようです。英米圏の大きなSFの賞であるローカス賞・ヒューゴー賞・ネビュラ賞の常連みたいですね。作品が何度も最終候補に残ったり、受賞したりしてします。
しかし邦訳は今回が初めて。本作には6つの短編が収録されているので、主要な短編は読み切れそうな感じがします。公式サイトの作品紹介は以下の通り。
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞の受賞作・候補作ぞろいの作品集
食糧も電気も供給が不安定になった近未来、近隣の住人たちで自転車発電チームを結成することに……。暗い世の中での希望を描く表題作など6篇を収録。未来への夢、過去への想いや未知のものとの出会いを温かく描きだす、ヒューゴー賞ほか7冠の傑作SF短篇集
表題作について、〈近隣の住民たちとコミュニティを作って自活していく〉という筋書きにアメリカらしさというか、アメリカの建国精神にある革命権の担い手としての自覚みたいなものを感じさせますね。
Prepper(プレッパー)について
同時にPrepperという言葉も思い出します。自然災害や経済危機(人によっては核戦争)といった破局に備えて、平時からサバイバル術の学習や物資・武器の備蓄、エネルギー供給源の確保などを行っている人たちのことを指します。(詳細については『現代ビジネス』のWeb記事・真鍋厚「第三次世界大戦に本気で備える「プレッパー」たちを知っていますか」をご覧くださるとよいかと思います。)
色んなドキュメンタリー番組(特に海外のもの)で何度も特集されているので、既にご存じの方もいらっしゃるかもしれません。一例として、ナショナルジオグラフィックの番組『プレッパーズ ~世界滅亡に備える人々~』を挙げておきたいと思います。
ただ、本作の場合は、「食糧も電気も供給が不安定になった近未来」とあるので、すでに危機が起きています。よって、登場人物たちはもはやPrepperとは言えないのかもしれません。とはいえ、こうした概念を知ったうえで読むと、より楽しめそうな気がします。
白川尚史『後宮の呪術妃』
5月22日、宝島社より発売予定。
作者と作品
白川尚史(1989-)は推理作家。2024年に『ファラオの密室』でデビュー。本作が2作目の長編ということらしいです。前回の舞台は古代エジプトでしたが、今回は古代中国。それでは作品紹介を確認してみましょう。
20万部突破『ファラオの密室』著者最新作は、古代中国ミステリー!
漢軍に一族を滅ぼされた翠玉(すいぎょく)は、敵討ちのため後宮に忍び込む。しかし皇帝に近づく機会は訪れず、絶望していた。
いっぽう、女史の雪花(せつか)は妃嬪(ひひん)の葬儀を記録中、遺体の首が切断されて別人の頭部が縫い合わされていることを指摘するが、本人だと断言する周囲の逆鱗に触れてしまう。「事実を記す」と曲げない雪花は、このままでは命を落とすことになると若き高官である利夏(りか)に警告されるが、後宮で頻発している妃嬪の急死・失踪事件の情報を集めることができれば放免されると助け舟を出される。期限は三日。雪花は調査を始めるが――。
「漢軍に一族を滅ぼされた翠玉」ということから、前漢あるいは後漢が存在している時期ということになるのでしょうか。とはいえ、翠玉(の一族)がどの戦争を経験したのかまでは絞り込めませんでした。これについては発売後に特定するしかなさそうです。
作品紹介を見る限り、雪花はきっと探偵役でしょう。雪花の何があっても事実を記そうとするキャラクターは司馬遷を彷彿させます。司馬遷といえば前漢を生きた歴史家で、『史記』が有名かと思います。
事件に関しては、少なくとも2人分の頭部の切断とすげ替えのトリックがどうなるかという部分が焦点になりそうですね。
作品紹介には世界史の授業に出てくるような固有名詞が「漢」以外にないので、歴史物が苦手な方にも読みやすいミステリ小説なのではないでしょうか。たぶん。
橋本治『輝ける星の下に』
5月22日、河出書房新社より発売予定。
作者紹介と与太話
橋本治(1948ー2019)は小説家・評論家・随筆家。私は小説と評論・エッセイを合わせても2作程度しか読んでいないのですが、読んでいないなりに語っていきたいと思います。
代表作は、小説だと『桃尻娘』や『草薙の剣』ということになるでしょうか。
『桃尻娘』に関しては未読です。ちなみに、以前ブックオフで『桃尻語訳 枕草子』という本があったので購入してみたはいいのですが、文体が受け付けずに断念してしまった、という苦い記憶があります。
『草薙の剣』は令和に向けて書かれた平成の遺作で、10歳ずつ年齢が異なる6人兄弟たちが主人公の小説で、一家に大事件が起きるということはないのだけれど、歴史的事件や一家の記憶をたどりながら、その時代=兄弟たちのキャラクターを浮き彫りにしていく、という点で面白かったです。(文体も抑制的でなんとか読み切ることができました。)
それとともに、「令和」という元号が発表された直後、pixivという画像投稿サイトで元号の擬人化イラストが流行したことを思い出しました。明治男子、大正男子、昭和男子、平成男子……といった具合に美形の男性(女性もあるかも)を描くことが流行っていたのです。
『草薙の剣』の場合は、キャラクターが必ずしも元号に対応しているわけではないのですが、そうした流行と呼応しているかのような設定だったので、これも当時の雰囲気が反映されていたのだなぁ、としみじみ思いました。(さすがに、pixivのイラストで描かれる男性みたいにかっこよくはないのですが。)
それから、未完の大作として『人工島戦記』がありました。図書館で見かけたことがある程度で、まったく読んだことはないのですが、とにかく厚いし重かった。値段も新品で1万円程度したのではないかと思います。
評論やエッセイであれば、『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』や『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』になるのでしょうか。
前者は(特に花の24年組あたりの)少女漫画論としてすごく評判が良いのですが、何年も前に河出文庫で出たっきりで、新装版が発売される気配もないので、古書価格が高騰しています。そうした事情から私も未読です。
(追記:私が見間違えていたみたいです。古書としては前篇が1000円台で後篇が1600円台と普通に買いやすい部類でした。ということで、読んでいないのは私の怠惰です。)
後者は比較的最近に書かれたものです。新潮文庫から出ているので入手は容易でした。私も以前に三島由紀夫の作品について語ることがあり、そのときにチェックしてみたのですが、あまり説得力を感じず、けっきょく引用することもなかった、と記憶しています。
ディスっている(ように見える)部分もあったかと思いますが、重要な作家だとは伺っているので、積極的に読んでいきたい作家ではあります。
作品紹介
作者紹介とそれにまつわる与太話が長くなってしまったので、作品紹介の方は手短に。
単行本未収録作を中心とした、最後の小説集。熟年夫婦もの、昭和もの、谷崎パロディ、落語・講談オマージュ、時代小説、SF……ジャンルの異なる貴重な小説が1冊に!
個人的に気になるのは「谷崎パロディ」と「落語・講談オマージュ」のふたつ。
谷崎パロディというと、『細雪』や『春琴抄』のように、とめどなく流れていく長い文章が特徴的な作品になっているのでしょうか。
また、橋本治と落語という取り合わせだと、北村薫(1949-)の『水 本の小説』の「〇」という短編に、〈小林信彦(1932ー)の小説について論じた橋本のエッセイについて、橋本が見落としていた点=落語について語り手≒北村が種明かししつつも、それでもなお橋本の読解がすぐれているということを語り手≒北村が指摘する〉というくだりがあり、それを思い出します。
語り手≒北村は橋本と小林のどの作品のどんな箇所を引用したのか? 橋本は小林信彦についてどのように論じていたのか? 橋本が見落としていた噺とは何か? それらも『水 本の小説』という作品の魅力に直結している部分だと思うので、ここでは伏せておきます。
おわりに
次回はいよいよ5月の最終週分の紹介です。……と言いながら、最終週分の紹介で最低あと4回はかかる予定です。
長くなりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
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