大企業と中小企業では、「仕事ができる」の意味が違う
大企業から中小企業へ行く人。
中小企業から大企業へ来る人。
この移動を見ると、「仕事ができる」とは何かがかなり見えやすくなる。
よくある雑な見方として、「大企業の人は仕組みに乗っているだけ」「中小の人は自分で動ける」というものがある。
これは半分当たっている。
ただし、それだけで切るとかなり雑になる。
大企業にも、本当に決める側にいた人はいる。
中小にも、自分で動けるだけでなく、その力を別の組織の仕組みに合わせられる人がいる。
逆に、大企業には仕組みに乗っていただけの人がいる。
中小にも、自分で動いているように見えて、実は社長、古参、近い顧客、なあなあの運用に支えられていただけの人がいる。
だから見るべきなのは、出身企業の規模ではない。
その人が前の会社で何を背負っていたのか。
仕組みに乗っていただけなのか。
仕組みを運用していたのか。
仕組みを作り、変え、決めていたのか。
自分で仕事を成立させられるのか。
それを別の組織の責任分界に合わせられるのか。
ここを見ないと、大企業出身か中小出身かだけでは何も分からない。
大企業出身者は三種類に分かれる
大企業出身者は、まず三つに分けた方がいい。
一つ目は、仕組みに乗っていただけの人である。
大企業には、強い仕組みがある。
法務、購買、品質保証、標準帳票、承認ルート、過去資料、上司のレビュー。
こういうものに支えられていると、自分の力で仕事を成立させているように見える。
でも実際には、前提を整えてくれる人がいる。
抜け漏れを拾ってくれる部署がある。
判断を引き取ってくれる上司がいる。
過去の優秀な人が作った型がある。
このタイプが中小に行くと苦しい。
中小には、同じ厚みの仕組みがない。
専門部署も少ない。
過去資料も薄い。
レビューも弱い。
そこで「前の会社ではこうだった」と言うだけなら、役に立たない。
二つ目は、仕組みを運用していた人である。
この人は、大企業の仕組みの意味をある程度理解している。
承認、証跡、品質、法規、責任分界。
それらが何を防ぐためにあるのかを知っている。
この人は、中小でも役に立つ可能性が高い。
ただし、大企業のやり方をそのまま持ち込むと失敗する。
中小には中小の規模と速度がある。
大企業の重い制度を丸ごと入れれば、会社は動きにくくなる。
必要なのは、大企業式のコピーではない。
その仕組みが守っていた本質を取り出し、中小の規模に合わせて軽く作り直すことだ。
三つ目は、仕組みを作る、変える、決める側にいた人である。
この人は強い。
大企業の中で、品質、法規、コスト、日程、顧客影響、取引先影響を見ながら、何を守り、何を捨て、どこに責任を置くかを決めてきた人である。
このタイプは、どこでもやっていける。
むしろ、決めた後に大量の関係者へ展開し、標準化し、承認を通す負荷が少ない分、中小の方が楽に感じるだろう。
彼らの最近の転職先は決まって大手コンサルであるので、あまり中小に行くことはないかもしれないが。
中小出身者は、「自分で成立させる力」をどう扱えるかで見る
中小出身者は、「有能か普通か」だけで見るより、自分で仕事を成立させる力を、別の組織でも使えるかで見た方がいい。
一つ目は、自分で仕事を成立させ、組織の仕組みに合わせられる人である。
このタイプは守備範囲が広い。
顧客、現場、外注、社長、金、人の問題を、ある程度まとめて見る。
足りない情報は取りに行くし、前例がなくても動ける。
誰かが整えてくれるのを待たない。
この人は、大企業に来てももちろん強い。
ただし、中小で強かった力を、そのまま出せばいいわけではない。
大企業では、責任分界、承認、証跡、関係部署の利害に合わせる必要がある。
出来る人なら仕組みがそうなっている理由はすぐ理解できるだろうが、優秀であるほどもどかしく感じるだろう。
二つ目は、自分で仕事は回せるが、属人的なやり方に寄っている人である。
社長に聞けば決まる。古参に聞けば分かる。
顧客と直接話せば何とかなる。多少雑でも、その場で直せる。
中小では普通に成立する。
ただ、大企業に来ると詰まりやすい。
誰に聞けば決まるのか分からないし、勝手に顧客へ話せない。
法務、品質、購買、情報システム、人事などが絡む。
「それ、誰の承認で進めたの」と聞かれる。
ここで「大企業は遅い」「何も決めない」と感じる。
それは半分正しい。
ただし、大企業の遅さには理由もある。
影響範囲が広く、失敗時の責任も大きい。
個人の即断だけで回すには、リスクが大きすぎる。
この差を掴めるかどうかが勝負になる。
三つ目は、自分で動いているように見えて、実は環境に依存していた人である。
中小にも、その会社なりの暗黙の仕組みがある。
社長の即断、古参の記憶、近い顧客との関係、なあなあで回る運用。
そこに乗っていただけの人もいる。
このタイプは、大企業に来るとめっぽう弱い。
しかも、証跡、標準化、品質、法規、承認を「大企業病」として軽く見るとかなり危ない。
中小ではスピード感に見えていたものが、大企業では責任分界を壊す行動になる。ただ後述するがこのタイプは構造的にあまりいない。
管理職と現場担当では、見られる能力が違う
ここに、管理職と現場担当の違いを入れると、さらに分かりやすい。
管理職に求められるのは、決める力と、決めたことを仕組みに落とす力である。
大企業の管理職でも、肩書きだけでは分からない。
本当に決めていた人は強い。
大きな影響範囲を見て、関係部署を動かし、リスクを引き受けて判断していた人は、中小でも通用しやすい。それどころかワンランク上の上級管理職として働けるタイプである。
一方で、上から来た方針を流し、下から来た情報を丸めていただけの管理職はものずごく弱い。
誰かが前提を整えてくれないし、判断を待っているだけでは仕事が止まる。
現場担当に求められるのは、動ける力と、組織の中で安全に動く力である。
大企業の現場担当なら、単に帳票を埋めていた人は弱い。
しかし、なぜその帳票があり、どこまで削ってよく、どこは削ってはいけないかを理解していた人は強い。
中小の現場担当なら、広く動けることが強みになる。
ただし、大企業では勝手に動くと危ない。
自分で動く力を、承認、証跡、責任分界の中に入れられるかが勝負になる。
そして壊れ方はだいたい決まっている
企業規模をまたいだ移動で失敗するとき、壊れ方はだいたい決まっている。
大企業出身者が中小に行くと、まず判断停止が起きやすい。
前の会社では、上司がレビューしてくれた。
品質や法務や購買が拾ってくれた。
承認ルートがあった。
でも中小では、誰も前提を整えてくれない。
そこで「誰に聞けばいいですか」「前例はありますか」と止まる。
自分の中で基準がなかったことがそこで発覚する。
もう一つは、過剰設計である。
大企業の品質水準や承認手順をそのまま持ち込み、コストと納期を壊す。
品質は大事である。
ただし、どの品質要件が、この製品、この顧客、この規模で必要なのかを切れないと、ただ重いだけの仕組みになる。
仕組みの上っ面だけで本質を理解できていないからこうなる。
逆に、中小出身者が大企業に来ると、責任分界の破壊が起きやすい。
承認前に顧客と約束する。仕様変更を口頭で済ませる。
証跡が残らない。関係部署を巻き込んでいない。
中小では柔軟な現場対応に見えていたものが、大企業では後で追跡できない危険な動きになる。
特に最近はトレーサビリティを残すことの重要度が上がってるのでなおさらだ。
そして、もう一つ見えにくい壊れ方がある。
学習停止である。
大企業出身者が中小に来て、「この会社にはまともな仕組みがない」と見下す。
中小出身者が大企業に来て、「この会社は遅いだけだ」と見下す。
どちらも、そこで学びが止まる。
判断停止は、動けない問題である。
学習停止は、動いているように見えるが、ずれたまま走り続ける問題である。
後者の方が危ないこともある。
本人は仕事をしているつもりで、周囲も「経験者だから任せている」と思う。
しかし、前の環境との違いを理解しないまま動くので、問題の発見が遅れる。
結局、学び続けられない人はどこへ行っても厳しい。
プライドが高く、他責に寄る人ほど、自分が新しい環境を理解できていない可能性を見ない。
大企業社員を見下す中小出身者にも、大企業出身であるプライドしかない人にも、これは起きる。
本質と枝葉を分けられるか
大事なのは、前の会社のやり方を捨てることでも、丸ごと持ち込むことでもない。
その仕組みが何を守っていたのかを見ることだ。
この手順を省いたら、何が起きるか。
この承認を飛ばしたら、誰が困るか。
この品質基準を下げたら、安全、法規、顧客、後工程のどこが壊れるか。
ここに答えられる人は、仕組みの本質を見ている。
逆に、答えられない人は、前の会社のやり方を持ち込んでいるだけである。
ただし、答えが社内に残っているとは限らない。
大企業では、その仕組みを作った人が異動や退職でいなくなっていることがある。
中小では、社長や古参の頭の中にしかないこともある。
その場合は、いきなり大きく変えない方がいい。
小さく試す。何が壊れるかを見る。
壊れなかった範囲から、少しずつ軽くする。
ここを飛ばすと危ない。
仕組みを軽くすることと、仕組みを抜くことは違う。
品質管理を簡素にするのは正しい場合がある。
しかし、簡素にした結果、異常を検出できなくなるなら、それは軽くしたのではなく壊しただけである。
本質を取り出すとは、何を減らしても機能が残るかを確認しながら削ることであって、一律に削ることではない。
「前の会社ではこうだった」は、使い方を間違えるとかなり弱い。
本当に強い人は、前の会社のやり方をそのまま持ってこない。
そのやり方が守っていた本質を取り出し、今いる会社に合う形に変える。
これは大企業から中小へ行く場合も、中小から大企業へ行く場合も同じである。
中小から大企業に来る人は、そもそも選抜後である
経験上、取引先から大企業に来た人は、ある程度できる人が多い。
これは、中小出身者が全員優秀という意味ではない。
そもそも大企業の中途採用に通る時点で、明らかなポンコツはかなり落とされているからだ。
つまり、大企業の中で観測できる中小出身者は、最初から選抜後の集団である。
その中でも優秀な人は、やはり頼りになる。
大企業の中にいる仕組みに乗っているだけの人と違い、自分で動ける。
分からないことを取りに行くし、仕事を覚えるのも早い。
大企業の仕組み化にも、比較的すぐ対応する。
一方で、そこまでではない人は、最初は大企業を少し舐めがちになる。
なぜこんなに遅いのか。
なぜこんなに承認が多いのか。
自分ならもっと早くできる。
そう思うのは自然でもある。
ただ、数年たつと、大企業の仕組みの意味を理解していく。
自分一人でできるスキルの高さと、会社として出す最終成果物との距離を理解し、組織に馴染んだということだ。
とびぬけて優秀とは言えないかもしれないが、安心して仕事を任せられる。
個人が早く動けることと、大きな会社として品質、法規、責任、供給、保証まで含めて成立させることは別である。
大企業から中小に行く方が、採用ミスは起きやすい
逆に、大企業から中小に行く場合は少し違う。
中小側の面接官が、大企業の看板に騙されることがある。
有名企業出身。大規模プロジェクト経験あり。
管理職経験あり。有名メーカーで〇〇担当。
こう書かれると、強そうに見える。
しかし、それは本当に決めていた経験なのか。
仕組みを作った経験なのか。
それとも、仕組みに乗っていただけなのか。
ここを見抜かないと危ない。
大企業では、会議に出ていただけでも大きな仕事をしたように見えることがある。
承認欄に名前があっても、実際の判断をしていたとは限らない。
誰かが作った方針を、関係者に流していただけの人もいる。
そういう人を「大企業出身だからできるはず」と採ってしまうと、中小ではかなり苦しい。
しかも、中小側には見抜く構造がないことも多い。
専任の人事がいない。面接官が大企業の中身を知らない。
社長が直接面接して「なんとなく良さそう」で決める。
大企業出身者が来てくれる時点で、期待が先に立つ。
だから、看板ではなく、その人が実際に何を決め、何を作り、どこまで責任を持ったかを見る必要がある。
中小にとって、中途採用はそれなりの投資である。
見抜けなかった場合、年収だけでは済まない。
教育、既存社員の時間、顧客影響、再採用コストまで失う。
だからこそ、「大企業出身」という看板は、慎重に見た方がいい。
受け入れる側の設計がないと、人は機能しない
ただし、これは本人の能力だけの話ではない。
受け入れる側が、その人に何を期待し、どこまでの権限を渡し、何を変えてよいのかを決めていなければ、仕組みを作れる人でも機能しない。
中小企業が「大企業のやり方を入れてほしい」と言う。
でも、社長が最終決裁を手放さない。
既存社員との役割分担も決めない。
どのルールを変えてよいのかも曖昧。
これでは、外から来た人は提案だけして終わる。
大企業側も同じである。
中小で管理職相当だった人を採る。
でも、入社後の等級や権限は一般担当者扱い。
本人は動けるが、組織上は動かせない。
この状態で「期待したほど活躍しない」と言うのは雑である。
人を採るなら、箱も作る必要がある。
期待値、権限、責任分界、既存社員との接続。
ここを決めずに「優秀な人なら何とかしてくれる」と考える会社は、採用した人の力を使い切れない。
そして、これは入社してから考える話ではない。
採用を決めた人が、内定時点で期待値を決める。
直属上司が、入社前後で権限と責任分界を決める。
入社後3ヶ月、6ヶ月で、期待と現実がずれていないかを見る。
何をもって成功とするのか。どの時点で見直すのか。
学習停止していないか。本人が会社を理解しているか。
会社側も、その人に必要な情報と権限を渡しているか。
ここを見ないまま「優秀な人なら何とかしてくれる」と考えると、受け入れ側の失敗が本人の能力不足にすり替わる。
採用判断と受け入れ設計の責任は、採用を決めた側にある。
中小なら社長。大企業なら配属先の部門長。
ここを曖昧にすると、採用がギャンブルになる。
大企業から中小は、海外駐在に近い
大企業から中小へ行くことについては、海外駐在もかなり近いと思っている。
海外の小規模部署に来ると、本社にいたときとは仕事の見え方が変わる。
人数が少ない。社長との距離が近い。
担当範囲が何倍も広い。裁量も大きい。
何か起きたら、自分で切って、自分で説明して、必要があれば本社に戻す。
これは、大企業にいながら中小転職に近い負荷を受ける場所だと思う。
昔、「良い駐在、悪い駐在」という話を聞いたことがある。
良い駐在は、その国のやり方を尊重し、その中で自分の価値を出す。
さらに、その国のやり方をベースに、日本の良いところだけを取り込んで進化させることが成功の証。
悪い駐在は、ひたすら「日本ではこうだった」と言って、日本のやり方に固執する。
昔は文化論として聞いていた。
でも今は、これは仕組みの理解の話だったのだと思っている。
内容を理解せずに、日本のやり方が良いと盲目的に信じているだけの人。
つまり、仕組みに乗っていただけの人の話だったのだと思う。
本当に強い人は、日本のやり方をそのまま持ち込まない。
なぜその仕組みが必要だったのかを見て、現地の規模、能力、文化、責任範囲に合わせて作り直す。
これは、大企業出身者が中小に行くときも同じだと思う。
周りの駐在員を観察しているとこれがかなり露骨に出る。
何をするにも「日本に聞いてみないと」「前例がない」となる。
自分で決める経験が著しく少ない場合はこうなるのだろう。
本社では、それでも仕事が回っていたのかもしれない。
前例があり、承認ルートがあり、誰かが責任を持ち、仕組みが支えてくれたからだ。
でも海外の小規模部署では、それでは動けない。
挙句、「ここにはまともなシステムがない」「やはり外国人はダメ」などと言い出す。
これが仕組みに乗っていただけの人の末路なのだと理解した。
最後に
大企業出身が中小で通用するか。
中小出身が大企業で通用するか。
この問いは、そのままでは雑すぎる。
見るべきなのは、会社の規模ではない。
その人は、前の会社で何を背負っていたのか。
決めていたのか、運んでいただけなのか。
仕組みを作っていたのか、使っていただけなのか。
自分で仕事を成立させられるのか、組織に合わせられるのか。
大企業から中小へ行くと、仕組みを作れる人か、仕組みに乗っていただけの人かが見える。
中小から大企業へ行くと、自分で仕事を成立させる力を、制度と責任分界に合わせられる人か、ただ勝手に動いていただけの人かが見える。
管理職なら、決める力と仕組みに落とす力。
現場担当なら、動ける力と安全に動く力。
ここが問われる。
ただし、本人だけを見ても足りない。
受け入れる側が、その人に何を任せ、どの権限を渡し、何を変えてよいのかを設計していなければ、優秀な人でも機能しない。
そして、もう一つ大事なことがある。
環境が変わったときに、学び続けられるかどうかである。
大企業にも、中小にも、強い人はいる。
逆に、どちらにも環境に助けられているだけの人はいる。
しかし、どこに行っても厳しいのは、前の環境の成功体験にしがみつき、新しい環境を学ばない人である。
大企業を見下す中小出身者。
中小を見下す大企業出身者。
自分の失敗を環境のせいにし続ける人。
こういう人は、会社の規模に関係なく伸びない。
会社の規模は、その人の能力を決めない。
ただし、会社の規模が変わると、今まで隠れていた能力の差は露骨に出る。
そして最後に残る差は、前の会社で何をしていたかだけではない。
新しい環境で、学び直せるかどうかだ。
