【AI和指紋くん】作品画像を生成AIの無断学習から守るツールのリリース──和紙LoRA+ブロックチェーン保護
【2026年8月2日 お知らせ】AI和指紋くんは、保護ツールとしての開発を停止しました。検証の結果、この記事で約束した水準の防御は作れないと判断したためです(検証結果:https://note.com/texture_lora_lab/n/n4d0a552cca63 )。質感の層を貼る仕組みは、ときめかせるための道具として作り直します。以下は停止前の記事を記録として残したものです。
リリースまでやっとこさ。
前回の記事で、Claudeと一緒に和紙×ブロックチェーンの画像保護サービスを作っている、と書いた。
開発記の続きになる。
結論から言うと、AI和指紋くんのSolanaメインネットへのブロックチェーン登録が本番稼働した。
和紙テクスチャ4種類の原本ハッシュも登録済み。

検証ページも、監視機能も動いている。
今回は、この仕組みが「なぜこうなったのか」を書く。
開発の裏側は前回の有料記事に書いたので、今回はもう少し引いた視点で。
ずっと引っかかっていたことがあった。
密度を刻んでも、盗まれたら意味がない。
質感のあるAI画像は、質感があるからこそ価値がある。
価値があるものは、盗まれる。
スクリーンショット一枚で。右クリック保存で。AIの再学習素材として吸い上げられて。
どんなに丁寧に作っても、コピーされた瞬間に「誰のものか」がわからなくなる。
デジタルの宿命だと思っていた。美術品には来歴がある
(イギリスで博物館学を学んでいた頃の話だ)、ひとつ叩き込まれたことがある。
Provenance(プロヴェナンス)──来歴。
美術品の価値は、作品そのものだけでは決まらない。
「誰が作り、誰が所有し、どこを経由して、いまここにあるのか」という記録の連鎖が、作品の真正性を担保する。
逆に、来歴が途切れた美術品は、どんなに美しくても市場価値が激減する。
「本物かもしれないが、証明できない」──美術の世界ではこれが致命的だ。
デジタル画像に足りなかったのは、これだったんじゃないかと思った。
技術的にはコピーできる。
でも、「この画像を、この時点で、この人が作った」という記録があれば、来歴は成立する。
和紙の繊維パターンという「指紋」
僕が開発した「AI和指紋くん」という画像保護ツールの仕組みを、セキュリティに障らない範囲で書く。
和紙には繊維パターンがある。
楮(こうぞ)や三椏(みつまた)の繊維が絡み合って、一枚一枚違う模様を作る。人間の指紋のように。
この和紙の繊維パターンを、目に見えない透かしとして画像に織り込む。
透かしの強度は人間の目では区別できないレベルに調整してある。
PSNR(ピーク信号対雑音比)で40dB以上。技術的には「知覚的に同一」とみなされる水準だ。
でも、パターンは画像の中に確実に存在している。

そして、このパターンのハッシュ値(デジタルな指紋)をブロックチェーンに刻む。見えないから、強い
この仕組みの一番の強みは、人間の目には見えないということだ。
透かしが入っていることを、見た目から判断できない。
「この画像には何か仕込まれているかもしれない」と疑っても、当てずっぽうにしか確認のしようがない。
和紙の繊維パターンが画像全体にグレーズ(薄い層として重ね塗り)されていることを、肉眼では見抜けないように工夫した。
じゃあ、無理矢理剥がせばいいのか?
できなくはない。
AIを使えば、透かしの層を推定して除去しようとすることは技術的に可能だ。
ただし、かなり乱暴にやることになる。
画像全体にごく微細に分散されたパターンを力づくで消そうとすると、画像そのものが破壊される。
ノイズが乗る。色が崩れる。作りたかったイメージが台無しになる。



「剥がせるけど、剥がしたら使い物にならない」──これが実質的な抑止力になる。
もうひとつ面白い副作用がある。
もし誰かが、和紙で保護された画像を大量に集めて、LoRA学習の素材に使ったとする。
すると、出来上がったLoRAには和紙の繊維パターンが「学習」されてしまう可能性がある。
生成される画像にうっすらと繊維の気配が漂う、微妙に使いにくいLoRAになる。
トレーニングの精度が下がるのだ。
さらに、仮にグレーズに使っている和紙パターンが特定されたとしても、和紙LoRAから新しいパターンをいくらでも生成できる。
パターンが破られたら次のパターンに切り替えるだけでいい。
保護が陳腐化しない構造になっている。
この無限パターン生成を支えているのが、Floyo(ThinkDiffusion製)のクラウドGPUだ。
H100 94GBの環境でLoRA学習を回せるので、新しい和紙テクスチャのパターンを必要に応じて追加学習できる。
ローカルGPUだとVRAMの制約で時間がかかる作業が、クラウドなら現実的な速度で回る。
そしてこの仕組みが世の中に存在していること自体が、ひとつの抑止になってほしいと思っている。
「あの画像、和紙の透かしが入っているかもしれない」
「学習素材に使ったら、LoRAに繊維パターンが混入するかもしれない」
そう思わせるだけで、無断学習のハードルは上がる。
実際にどこまでの抑止効果があるかは、わからない。
でも、「保護されているかもしれない」と思わせるだけで、雑に扱うハードルは上がる。自分で管理できる
もうひとつ大事なこと。
全部、自分で管理できる。
ブラウザで処理が完結するので、画像はどこにも送信されない。
もちろん僕のところにも。一切どこかにデータが出回らないようなサイト構成にしてある。
ブロックチェーンを使う場合はSolanaに登録されるが、登録される代わりに世界中の人が作品をあなたのものだと証明してくれる。
PCでもスマホでも使える。PWA対応なので、ホーム画面に追加すればアプリのように起動できる。
保護するかしないか、どのテクスチャを使うか、すべて自分で決められる。
プラットフォームの規約変更に振り回されることもない。
自分の作品の管理を、自分の手元に置いておける。
さらに、ブロックチェーンに登録されることで、「この画像をこの時点で保護したのは自分だ」ということが一応証明できる。
法的な著作権登録ではないが、技術的な事実として改ざんが極めて困難な形で残る。
何かあったときに「少なくともこの時点で自分が持っていた」と示せる記録があるのとないのとでは、だいぶ違う。
なぜブロックチェーンなのか
「データベースに記録すればいいのでは?」と思うかもしれない。
違う。足りない。
データベースは管理者が書き換えられる。
サーバーが落ちれば消える。会社がなくなれば記録もなくなる。
ブロックチェーンは違う。
一度刻まれた記録は、誰にも改ざんできない。
サーバーが落ちても、僕がいなくなっても、記録は残り続ける。
世界中に分散されたノードが、その記録を保持し続ける。
つまり、記録の永続性がデータベースとは根本的に違う。
実際にやったこと
具体的に何を実装したかを書く。
セキュリティ上の理由から、アーキテクチャの詳細は割愛する。
1. 和紙テクスチャの原本登録
和紙テクスチャ4種類(繊細・標準・しっかり・重厚)のハッシュ値を、Solanaメインネットに登録した。
これが「原本」になる。すべての保護処理の起点。
4枚すべてのトランザクションは、Solscanで誰でも確認できる。
2. 保護時のリアルタイム登録
ユーザーが画像を保護するたびに、処理結果のハッシュ値がブロックチェーンに自動登録される。
「この画像が、この時点で、このパターンで保護された」という事実が記録される。
処理はすべてブラウザ内で完結する。画像がサーバーに送信されることは一切ない。
3. 証明書の発行
保護が完了すると、JSON形式の証明書がダウンロードできる。
テクスチャのハッシュ、処理結果のハッシュ、ブロックチェーンのトランザクション署名、検証用リンクが含まれている。
4. 検証ページ
証明書を持っている人は、検証ページでいつでも真正性を確認できる。
ブロックチェーン上の記録と照合して、改ざんがないことを確かめられる。「所有」の意味が変わる
この仕組みは従来の「所有権」とは少し違う概念を作る。
著作権登録ではない。法的な権利の証明でもない。
でも、「この画像を、この時点で、この処理で保護した」という技術的事実は、改ざんが極めて困難な形で証明できる。
これは新しい種類の「来歴」だと思う。
コピーは自由にできる。でも、「原本を保護した人は誰か」の記録は残る。
監視という「目」
もうひとつ実装したのが、監視機能だ。
CivitAI(AIモデルの共有プラットフォーム)で、保護した画像やパターンが無断でAI学習に使われていないかを定期的にスキャンする。
不審な活動が検出された場合、メールで通知が届く。
透かしだけでは守れない場合もある。
だから、透かし+ブロックチェーン+監視の三層構造にした。
正直に言うと
正直に言う。
この技術は、まだ研究段階だ。
大幅なトリミング、AIによる再生成、スクリーンショットからの復元──こうした攻撃に対して、完璧に耐えられるとは言えない。
透かしの検出精度もまだ検証中のものがある。
法的な権利の証明でもない。
わかっている。
それでも、商用で通用するレベルで作った。
「研究だから」と手を抜くことは、したくなかった。
自分が作品を作る側の人間だからだ。
完璧になるまで待っていたら、その間にも作品は流出する。
だったら、今できる最善をちゃんと作って出すほうがいい。
テストネットじゃなくてメインネットに。デモじゃなくて本番で。
和紙テクスチャ4枚の原本も、Solanaのメインネットに登録した。
安心して欲しい。仮想通貨代は僕が支払っているし、ブロックチェーン技術を知る必要さえないようにサイトは作った。
AI和指紋くんの強み
人間の目に見えない──透かしの存在を肉眼で判別できないように工夫した
剥がすと画像が壊れる──AIで除去しようとすると、画像そのものが破壊される
無断学習を汚染する──保護画像でLoRA学習すると、繊維パターンが混入して精度が下がる
パターンが陳腐化しない──和紙LoRAから無限に新パターンを生成できる(Floyo H100で学習)
全部自分で管理できる──ブラウザ完結、画像はどこにも送信されない
スマホでも使える──PWA対応、ホーム画面に追加すればアプリのように動く
ブロックチェーンで証明が残る──「この時点で自分が保護した」という記録が改ざんが極めて困難な形で残る
監視機能つき──CivitAIでの無断利用を定期スキャン、検出時にメール通知
まとめ
まだ研究段階だし、不完全な部分もある。
でも、基盤はできた。
透かし+ブロックチェーン+監視の三層で、自分の手元で管理できる画像保護の仕組みが動いている。
──
AI和指紋くん──和紙の繊維パターンで画像を保護するツール。ブラウザだけで完結し、画像はどこにも送信されません。
→ 画像を保護する
→ 証明書を検証する
開発の裏側(迷ったことも、やり直したことも)はこちら:
→ 美大卒SEがClaudeと作る、和紙×ブロックチェーンの画像保護サービス開発記
LoRA学習のクラウドGPU環境
この記事で触れた和紙LoRAの学習にはFloyo(H100 94GB)を使っています。ブラウザだけで動く、セットアップ不要のComfyUI環境です。
プロモコード SHITSUKAN33 で30日間無料で試せます。
→ Floyo
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質感LoRAラボ シツカン
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