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小説 高校生戦隊ヒーローズ 20. 補習2

補習1の続き)


数学の補習は9時過ぎから12時までの3時間、いちど間に10分間の休憩を挟んだだけの密度の濃いものだった。前半は試験問題の詳細な解説を聞き、後半は先生が用意した特製の演習問題を解いた。

試験問題の解説の時に、僕が「$${x^2+x+1=0}$$の時、$${x^3}$$の値を求めよ」の解答例がパズルみたいでなんか納得いかないと主張したので、午後には別解を提示するためにまだ授業ではやっていないが複素数について特別授業をしてくれることになった。


昼休みは午後1時までの1時間。
先生が教室を出ていくと、僕は「うーん」と伸びをして、隣の机に置いてあった弁当の包みを取り、もう1人の受講生の隣の席に移動する。

「改めまして、初めまして、滝川行人です。1年1組、サッカー部、朱雀寮所属。いっしょにお弁当食べない?」

僕がそう言うと彼もにこっと微笑む。

「あ、うん、こちらこそ初めまして。一ノ瀬律(いちのせ りつ)です。1年6組、野球部、所属は玄武寮。」

僕は椅子だけ彼の机に寄せ、弁当の包みも彼の机に移動させた。

「滝川の弁当、大きいね。」

「おやつ付きなんだよ。上の段には甘夏が入ってるって!」

「嬉しそうだね。」

「うん!甘夏、好きだから!」

そんなことを話しながら、2人そろって弁当のふたを開ける。

押麦がたっぷり入った白いご飯に、鯵の干物、卵焼き、いんげんの胡麻和え、ピリ辛こんにゃく、きゅうりと大根の糠漬け。
今日も美味しそうだ。

弁当を食べながら話をする。

「2組の山中って知ってる?」

「ああ、知ってる。玄武寮じゃ有名だから。シンバルでも鳴らさないと起きない1年生、って。」

朝なかなか起きない山中を起こすために同室の先輩がシンバルをばんばん鳴らして起こしたという件、苦情が多数発生したというし、そりゃ有名にもなるだろう。

シンバルのエピソードの詳細は第15話「玄武寮訪問」にあります。

「先月初めの野外実習の後、軍の宿舎に一泊したでしょ?あの時山中と同じ部屋になってね・・・」

しばらくその話題で盛り上がり、僕が玄武寮を訪ねて山中の起こし方を同室の渡辺先輩から聞き出し、朱雀寮に戻ってその話を披露したという件(くだり)にも言及する。

「で、話を聞いたあと、寮に戻って昼ごはんの時にその話をしたら大ウケ!」

「誰にその話したの?」

「その場にいた朱雀寮の寮生たち。休みの日は指導役の鈴木先輩といっしょにごはん食べるんだけど、周りに他の寮生もいるから。その日はけっこう人がいたから、話聞いた人多いと思う。」

「鈴木先輩ってどんな人?」

「えっと、背が高くて、面倒見が良くて、武術が強くて、毎週日曜日の朝には稽古つけてくれる。」

「そうなんだ。」

「あと、音楽部でギターが弾けてめっちゃ歌が上手!音楽部の活動があった日曜日にいちど、遊びに行って!先輩が弾き語りしてくれたんだけど!めっちゃくちゃかっこよかった~!」

あの時は途中から他の先輩も加わってアンサンブルになって、最後は僕もいっしょに歌おうとアンサンブルに巻き込まれていっしょに歌って、とっても楽しかった!

「朱雀寮の運営委員長もしてるよ。でも朱雀寮にはシンバルばんばん鳴らす先輩も、叩き起こしても起きない人もいないから!寮生のお世話に関しては玄武寮の運営委員長ほどたいへんではないと思うよ。」

こんな感じで僕が話をすることの方が多かったので、一ノ瀬が弁当を食べ終えた時、僕の弁当箱にはまだごはんもおかずも半分ほどが残っていた。

なので僕は調理師さんがおやつにと用意してくれた甘夏を入れた容器のふたを開けた。おやつはみんなで食べた方が楽しいし、午前中の状況から考えて午後におやつを食べている時間はなさそうだ。いっしょに食べるなら今しかないだろう。

「甘夏、食べる?」

「ありがとう、せっかくだから、いただきます。」

今度は彼の話を聞こうと、甘夏をつまむ一ノ瀬に「一ノ瀬の指導役の先輩ってどんな人?」とか「どんなこと教えてもらってるの?」とか、食事のかたわら聞いてみたが、彼は言葉少なだった。僕のお口も食べる方が忙しく、自然会話が少なくなる。あまり、この話題、しない方がいいのかな?それとも僕がしゃべり過ぎて呆れられちゃっただろうか?

気にはなったが、腹が減っては戦はできぬ、食べる方を優先し、午後の補習に備えて弁当をしっかりと食べきり、僕も甘夏に手を伸ばす。

一口食べて、

「ああ、この爽やかな酸味と瑞々しい食感。もうすぐ、夏だねえ。」

そしてさらにもう1切れ、2切れを口に放り込んでもぐもぐ咀嚼する。
そんな僕を見て、一ノ瀬はようやく笑顔を見せた。

「滝川、ほんとうに甘夏が好きなんだな。」

もぐもぐしながらこくこく頷くと一ノ瀬はさらに破顔して「はははっ」と笑った。

寮の話題は、あまりしたくないのかな?
気にはなったが、彼とはまだ知り合ったばかりだ。
あまりずかずか踏み込むのも良くないだろうと、僕は話題を変える。

「オレの実家はお商売やっててね、一般のお客さんにも売るんだけどメインは事業をやってるお客さんでね。オレがまだ小学生だった頃に、夏にぴったりのスカッとする感じのお酒を作りたいっていうお客さんがいて。兄がその試作品に使う材料集めをしたんだけど。試作品だから20個で良かったのに甘夏200個発注しちゃってね・・・」

「へえ、滝川ん家、お店屋さんなんだ、それでそれで?」

昼休みの残りの時間は、甘夏をつまみながらそんな話をしたり、人の少ない校舎の上の階に行ってみたりして過ごした。僕たち以外にも別の科目、別の学年でも補習をしている生徒はいたので無人ではなかった。


午後の授業は複素数についてだった。
$${i^2=-1}$$となる虚数単位$${i}$$の説明に始まり、複素数の加算、減算、掛け算。複素数の掛け算が複素平面上での原点周りの回転に相当するというのはおもしろいと思った。
そこまで説明が終わってようやく本題の $${x^2+x+1=0}$$の時に$${x^3}$$がいくつになるか、に話が戻ってくる。

「方程式$${x^2+x+1=0}$$の解は、複素平面上で偏角120度と240度の位置にあります。これを3回掛け算したら・・・」

「わーすごい!偏角0度のところに戻ってきたー!・・・はっ、すみません。」

先生の説明の途中だったが思わず叫んでしまった。が、先生は笑っている。

「理解できたようですね。一ノ瀬も分かりましたか?」

先生が尋ねると一ノ瀬も「はい。」と頷いた。

「では、今日の補習はこれまでにしましょう。滝川は帰ってよし。一ノ瀬は少し特別授業をしましょう。」

「え゛。」

へんな声を出す一ノ瀬に僕は笑って声をかける。

「だいじょぶだいじょぶ、白装束に着替えて滝に打たれろとかじゃないから。オレも一ノ瀬が来る前に特別授業してもらったけどね、オレの改善ポイントがどこなのか端的に分かるまさにオレのための特別授業だったから。期待して、いいんじゃない?」

それを聞いて一ノ瀬はほっとした表情を見せる。

「そっか。」

「じゃ、オレは先に帰るね、また来週。」

「うん、またね。」

それから僕は立ち上がって中村先生の方を向き、右手の指をまっすぐ伸ばし胸に当てて少しだけ前傾姿勢になる。

「では先生、今日はありがとうございました。お先に失礼します。」

そうして「ええ、お疲れさまでした。」という先生に一礼して教室を後にした。



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