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小説 高校生戦隊ヒーローズ 18. 中間考査、午後の部

中間考査、午前の部の続き


午後の試験が始まった。

まずは物理学。

エネルギー保存の法則 $${\frac{1}{2} m v^2 + mgh = const.}$$、運動量保存の法則 $${ mv + MV = const.}$$ を使った力学の計算問題や、運動方程式 $${ma =F}$$ に関する問題など計算問題が多く、特に支障なく解答できた。


次は化学。

化学反応 $${3 H_2 + N_2 \leftrightarrow 2 NH_3}$$ に関する以下の問いに答えよ。

この化学反応を利用して $${NH_3}$$ を工業生産する手法の名称を答えよ。これはハーバー・ボッシュ法。

以下、使用する触媒、反応を進めるために必要な条件、原料である $${H_2}$$ や $${N_2}$$ の調達方法などに関する問いが続く。$${H_2}$$は水の電気分解でも得られるが、天然ガスを水蒸気と反応させる方が効率はよい。$${N_2}$$は大気中にある。そう、回答欄に書いた。

最後は記述式の問題。$${NH_3}$$ を工業生産する手法が確立できたことの意義を述べよ。1つ、$${NH_3}$$、アンモニアは化学肥料の原料となる。ハーバー・ボッシュ法が確立するまでは、植物の根などに棲む一部の細菌にしかできなかった、大気中の窒素を植物の栄養源として取り込むことが人工的に可能になったことで、食糧生産量が飛躍的に増加した。2つ、この化学反応は高温高圧下でないと進行しない。高温高圧に耐える反応炉の開発が必須だったため、材料科学の発展にも寄与した。

アンモニア製造工場の見学でもしたらこんなレポート書くんだろうな、と思うような内容だった。


最後は歴史学、政治経済を合わせた社会科。

まず最初に配られたのはB4サイズのレポート用紙4枚だった。
あちこちから悲鳴が上がる。

「えーっ、人名とか法律の名前とか答える感じじゃないのー?」

「俺、文章問題、苦手ぇ~。」

「もう疲れちゃったよお。」

そんな生徒たちの声を聞いて、試験監督、白髪の小柄なおじいちゃんといった風情の先生が「ほっほっほ。」と楽しげに笑う。

「諸君の予想通り、論述試験じゃの。2問じゃな。
 試験時間は50分だから、疲れるほどたくさん書くには時間が足らんじゃろう。要点をしぼって、簡潔に書くのがよかろうて。
 それに見方を変えれば、あと1時間もすれば試験はすべて終了じゃ。
 ほれ、もうちょっとじゃ、がんばれ。」

そう言って、試験問題を配布する。
試験問題が配布されると、弛緩しかけていた教室の雰囲気がぴりっと切り替わる。このあたりは、さすが士官候補生といったところだ。

僕も気持ちを切り替えて問題を読む。

「五・一語事件が起きた時代背景と事件の概略、事件がその後の日本に及ぼした影響を説明せよ。」

「国防委員会設置法の立法に至る背景・意図、法律の概要、この法律成立後に日本の政治に及ぼした影響を説明せよ。」

試験監督のおじいちゃんの助言に従い、先に要点をまとめて、その後ろに補足説明を付け足すことにした。

まず五・一五事件の時代背景は、関東大震災や昭和恐慌などにより、市井に暮らす一般の人々が経済的な苦境にあったことで政治への不満が高まりやすい状況にあったこと、軍部は海軍軍縮条約締結や満州事変への対応などで政府への不満があったこと。その不満を背景に一部の軍の強硬派が犬養毅首相など政府首脳に武力行使したのが五・一五事件。一命をとりとめた犬養首相の尽力により、軍を議会と内閣の支配下に抑え込む一連の行政改革(国防委員会設置法の成立と、憲法改正)に成功したことで、軍の暴走抑止と議会を中心とした民主政治が確立したことが、後世に生きる僕らの視点から見た事件の意義。

次に国防委員会設置法。これは五・一五事件のすぐ後に、軍部の暴発を防ぐために作られた法律。この後にはさらに大日本帝国憲法の改正が続く。どちらも犬養首相の渾身の成果。国防委員会は内閣総理大臣、外務大臣、10人の衆議院議員の合計12人で構成され、帝国軍の軍事行動を完全に支配できる極めて強力な権限が委員会に付与されている。派兵も撤兵も国防委員会に決定権がある。大日本帝国憲法下では議会、内閣、裁判所、帝国軍の間に明確な序列はなく、唯一上位にある天皇は慣例として実権をふるわないことになっていたため、この頃には天皇の統帥権を盾に軍が政府の意向を無視して行動することが目立ってきていた。五・一五事件の前年に中国で発生した満州事変もその一例である。国防委員会設置法の成立により、委員会を通して内閣と衆議院が明確に帝国軍の上位機関として機能するようになったことで、軍の勝手な行動や暴発を防ぐと同時に、民主政治体制を強固なものとすることにつながった。

以上をレポート用紙に書き込んだ後、余っている余白に思いつくことを補足的に追記していった。


試験が終了し、試験監督の先生が「おつかれさん。」と教室を出ていくと、間を置かず担任の中村先生が教室に入ってきて、HRが始まった。

「まずは試験お疲れさま。
 最初に事務連絡をしておきます。
各試験の答案の返却と回答例の解説は明日以降、各科目の授業で行われますが、全科目の採点の結果は明日の夕方のHRまでには揃います。指定の点数に到達していない科目については、今週末と来週末、日曜日に行われる補習に参加しなければいけません。明日のHRで、補習参加者と補習日程を連絡します。」

それを聞いて七瀬がいやそうな顔をする。

「先生、それって赤点取ったとクラス全員の前でさらし者にされるってことですか?」

他のクラスメイトからも「えーっ!」「ひどいっ!」「俺、ちょっと旅に出ます・・・」といった声が上がる。
そういった声に中村先生は苦笑しながら答える。

「全科目の合計点と順位は張り出されるから、明日のHRで言わなかったとしても、結局は学校中にわかってしまいますけど。
それに誤解しているかもしれませんが、赤点を取るのはべつに恥ずかしいことではないですよ。新しいことに挑戦した時には失敗することもあります。だいじなのは失敗した時に、それを反省して次に活かすことです。今回はきみたちにとって高校で最初の試験だったのですから、今回失敗したのなら、次の期末考査で失敗しないようにすればいい、それだけのことです。別に赤点を取ったからといって、誰もきみたちの人格や存在を否定したりしません。」

先生の答えに感じ入ったのか、クラス中がしーんと静まり返っている。

「さて、それで。反省するのは答案が返却されてからでもいいでしょう。今日のところはゆっくり頭と身体を休めてください。部活動で、気分転換してもいいでしょうし。では、終わりにしましょう、滝川、号令を。」

「起立、礼。」

こうして中間考査は終了した。


その後、僕は田代とサッカー部の練習に参加するため、連れ立ってグラウンドに移動する。

「滝川、よかったな!数学で赤点取っても、堂々としてればいいって!」

「田代田代、その言い方はなにか誤解を招くよ?先生は赤点を恥ずかしいと思う必要はないって言ったのであって、自慢げにしていいって言ったわけじゃ、ないからね?」

「まあまあ、細かいことは気にしない。いやあ、俺も英語とか社会とかヤバいけど、堂々としてるよー!」

「あ、田代、さっきの社会の論述問題、自信ないの?」

「そーなんだよ!答案返ってきたら、滝川、写させて?」

「それは別にいいけど。」

それこそ写すだけじゃなくて敗因を考えて対策すべきなのでは?と思ったが、試験が終わって解放感に浸っているであろう今の時点で、わざわざ言わなくてもいいだろうと僕は口を閉ざす。
数学は赤点で週末補習だろうなあと少し憂鬱の種もあるが、僕も今日は解放感に浸ることにして、何やら楽しげにスキップしている田代の背中に飛び乗った。

「おわっ!滝川、どうしたんだよ?」

「ん-、なんか楽しそうだったから、つい。」

「そっかあ、じゃあボクはおにーさんがグラウンドまで連れてってあげようね。」

「オレそこまで小さい子じゃあ、ないからね?」

そう主張したものの、連日のテスト勉強での寝不足が祟ったらしい。田代の背中で揺られているうちに気持ちよくて眠ってしまい、目が覚めたらグラウンドでサッカー部員に囲まれていて。
「あらあ行人くんお目覚めでちゅか~?」「おにーさんがサッカー教えてあげようね~」などとひとしきりからかわれることになってしまった。


<注意>
この小説には、1931年勃発の満州事変、1932年の五・一五事件を題材にした歴史の記述がありますが、事実として伝わっている歴史に創作を織り交ぜた作り話で、歴史的事実と大きく異なる箇所がいくつもあります。
事実確認は歴史の教科書など信頼できる文献をあたってください。



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