小説 高校生戦隊ヒーローズ 26. お泊り3
( お泊り2 ) の続き
僕が部屋に戻って15分ほどすると、春行先輩と一ノ瀬が戻ってきた。
「あ、お話終わった?じゃ、お風呂行こっか。」
「うん。」
僕は一ノ瀬にお泊り用の入浴セット(タオル、着替えの下着、ボディスポンジ)を渡し、自分用の入浴セットを手に取って、春行先輩に「それじゃ、お風呂行ってきまーす。」と声をかけ、一ノ瀬と連れ立って大浴場へ向かう。
「お話、どうだった?」
僕が尋ねると一ノ瀬はにこっと笑う。
「指導役の先輩、代わることになった。」
「よかったね、これで問題解決するよね!」
なにしろ指導役の先輩とは寮も同室だし、日々の訓練もしてもらうことになる、1年生にとっては士官学校でもっとも身近な存在だ。その指導役の先輩に日々ひどいことをされたら、はっきり言って逃げ場がない。
「滝川のおかげだよ、ありがとう。」
嬉しそうに言う一ノ瀬に僕も嬉しくなる。
「春行先輩すごいでしょ!頼りになるでしょ!」
春行先輩自慢を聞かされるとは思っていなかったのか一瞬意表を突かれた顔をした一ノ瀬だが、声を上げて笑う。
「滝川、春行先輩のこと、好きなんだね。」
「もちろん!あ、大浴場、ここね。」
大浴場に隣接する脱衣所の扉を開けて中に入る。隅に重ねておいてあるかごをとり、手近な棚の前で服を脱ぎ、脱いだ衣類を入れたかごを棚に置き、裸になって大浴場へ。
「へえ、玄武寮の大浴場とそっくりだね。」
「そうなんだ~。」
湯船に入る前に、2人で並んで身体を洗う。
シャンプーをしている一ノ瀬を見ると、ひょこっと跳ねていたアホ毛も濡れて他の髪に埋もれていた。おお、アホ毛がついに降参してる、とひとりにんまり笑って僕もシャンプーをする。
それから2人で湯船に向かう。
お湯に浸かってほっとひと息。
「一ノ瀬は朱雀寮にいつまでお泊りするの?」
「今日だけかな。明日の放課後には自分の部屋に戻っていい、って。」
「そっかー、お泊りは今日だけかー。じゃ、今日はこのあと一ノ瀬のお部屋に遊びに行こうかな!」
「うん、いいよ。」
こうして僕はまた遊ぶ約束を取り付けた。
お風呂を出て歯を磨いた後、トランプを片手に4階の一ノ瀬の部屋に向かい、部屋のドアをノックする。
「一ノ瀬、いるー?」
すぐに一ノ瀬がドアを開けてくれる。
「待ってたよ、さ、入って。」
そう言って笑う彼の頭にはすでにアホ毛が復活してひょこひょこしている。
「おじゃましまーす。」
そう言って部屋に入り、ベッドメイキング済みの一ノ瀬のベッドの向かいにある空いているベッドに腰を下ろす。
「トランプ、持ってきた。遊びながら、お話しよっか!」
「うん!じゃ、滝川、こっち来て!」
一ノ瀬はそう言って自分が座ったベッドを片手でぽんぽん叩く。
「そ?じゃ失礼して・・・」
僕が一ノ瀬の横にちょこんと座り、トランプを切り始める。
「指導役の先輩って誰に代わるか決まってるの?」
「ううん、まだ。明日、俺が寮に戻ってから、寮監の先生から寮生全員に話するらしいから、それからだね。」
「あ、そうか、言われてみれば、今日の夕方に話したばっかりだもんね。」
「玄武寮の3年生は、今、全員1年生が1人ずつついているから。誰かに1年生2人の指導役を受けてもらうことになると思う。」
士官学校を卒業できるのはだいたい入学した士官候補生のうちの7割くらいだから、指導役1人に下級生が2人というのは珍しくはない。ただ、3年生まで修了すれば高校卒業資格が得られるから、退学するのはほとんどが4年生に進級した後か、4年生の夏休み明けだ。だから指導役の4年生1人に指導を受ける2年生が2人つく、という組合わせはよくあるが、3年生1人に指導を受ける1年生が2人つくという組み合わせはあまりない。
「一ノ瀬の今の指導役の先輩には、もう下級生の指導は任せられない!ってことなのかな。」
何の気なしに尋ねた僕に返ってきた一ノ瀬の答えは衝撃だった。
「たぶん退学処分になると思う。」
「え!」
そういえば春行先輩も中野先輩も、玄武寮に出かける前に深刻な表情をしていた。一ノ瀬が受けた仕打ちというのは僕の想像をはるかに超えることなんだろうか?
「滝川、手、止まってるよ。」
「あ、うん。」
びっくりし過ぎて、トランプを切る手が止まってしまっていたようだ。僕は再びトランプを切り始め、「とりあえずババ抜きとか?」と言う一ノ瀬の言葉にしたがいぼんやりしたままカードを配り、ぼんやりしたままゲームに突入した。そのせいなのか単に運が悪かったのか、僕は負けた。
「さて、負けた滝川には・・・くすぐりの刑だー!」
そう言うと一ノ瀬は僕の両脇腹に手を伸ばした。
「あはははっ!やめて~!」
ベッドの上で身をよじるが一ノ瀬はさらに脇腹を攻めてくる。
「あははっ!ぎぶあっぷ、ぎぶあっぷ!」
息も絶え絶えに僕がそう言うとようやく一ノ瀬は手を離してこう尋ねてきた。
「元気出た?」
退学と聞いて少しショックを受けたのは確かだ。卒業できない士官候補生もそのほとんどは3年生を修了した後に自主退学するからだ。
「そんな落ち込んでるように見えた?」
「ちょっとだけね。ドンジャラの時はもっと元気だったから。」
「そっかあ。じゃ、気を取り直して、次は何しようか?」
次はポーカーをやった。
また僕が負けた。
そしてまたくすぐりの刑。
「あはははっ!脇腹、ダメ!あははっ!」
四つん這いでベッドの端に逃げる僕を追って一ノ瀬が追いかけてくる。
笑い過ぎて息も絶え絶えの僕と、「滝川はくすぐりがいがあるなあ!」とこちらもきゃっきゃと声を上げる一ノ瀬。そんなふうに二人で騒いでいると、部屋の壁が隣室側からどんっ!と叩かれた。
僕たちは飛び上がり、それから顔を見合わせてお互いに「しーっ」と言う。そして一呼吸か二呼吸の間だけ静かにした後に、またくすくす笑い出した。
「お泊りだから、ちょっと、はしゃぎ過ぎちゃった。」
「え、滝川ってわりといつでもはしゃいでるよね?」
「えーっ!そんなことないと思うけど。」
どうも僕と一ノ瀬の間には見解の相違があるようだ。
「でもそれ、お店やる素質に恵まれてるってことじゃない?」
なるほどそういう考え方もあるか。
「俺は人見知りするから、あんまり向いてなさそう。」
そう言う一ノ瀬に、僕は一ノ瀬のことをまだほとんど知らないことに気づいた。先週の補習の時も、今日の昼も、ほとんど僕のことを話していたから。
「そうなの?それじゃ、せっかくのお泊りなんだし、一ノ瀬のこと知りたいな。」
「そうだね、それじゃ、何から話そうか。」
それから一ノ瀬のことをいろいろ聞いた。
北陸の出身であること。
お父さん、おじいさんは会社勤めをしているが、曾おじいさんは元軍人で、一ノ瀬が軍人になりたいと思ったのは曾おじいさんの影響であること。
曾おじいさんは今年90歳になるがまだ矍鑠(かくしゃく)としているそうだ。
長男で下に弟と妹が1人ずついること。
「へえ、オレも3人兄弟だよ。男2人、女1人なのもいっしょ。」
「滝川はお兄さんいるって言ってたね。もう1人はお姉さん?妹?」
「姉だよ。」
「あ、末っ子か、言われてみればそういう雰囲気するよね。」
「いったいどういう雰囲気?!」
そんな調子でひととおり一ノ瀬の家族の話を聞く。
言葉の端々から察するに、一ノ瀬は曾おじいちゃん子のようだ。
「一ノ瀬の曾おじいさん、90歳でしゃんとしてるってすごいよね。実はまだ軍の顧問してるとか、軍の教官をしてるとか、するの?」
僕が尋ねると一ノ瀬は首を振る。
「ううん、軍にはもう関わってはいないよ。今は畑仕事して、あとは地元の歴史の研究してるよ。古い文書持ってそうな旧家を訪ねたり、図書館に行って文献調査したりとか。」
「へえ!すごい!オレも歴史は興味あるんだよね!なにか、全国的には有名じゃないけど地元のおもしろい話とか、定説を覆すようなすごい発見とか、あったりする?」
「そうだね、じゃ、ひとつ地元に伝わる昔話をしようか。」
「うん!」
「でも疲れたからちょっと体勢を変えて。」
そう言って一ノ瀬は僕の手を掴んでごろんとベッドに寝転がる。
その勢いに引っ張られて僕もベッドに寝転んだ。
「これはまだ明治の初期、戊辰戦争の頃の話なんだけど・・・」
ふんふん、これはまた激動の時代、いったいどんなお話なんだろうと興味をかき立てられるのだが、寝転がったら急速に眠気が襲ってきた。
ずいぶんと長く話をしていたし、おそらくいつもの寝る時間をだいぶ過ぎているだろう。
「戊辰戦争って言うと、会津若松とか函館での戦闘が有名だけど、今の新潟県にあった長岡藩でも戦闘があって・・・」
穏やかな語り口の一ノ瀬の声が眠気を誘い、僕の意識はそこで途切れた。次に気がついた時にはもう朝で、窓の外は明るくなり、目の前にはすうすう眠っている一ノ瀬の顔があった。
月曜日はサッカー部の朝練がある。朝のグラウンドは野球部とサッカー部が交代で利用しているので、きっと一ノ瀬は今日は朝練は休みだろう。僕は眠ってる一ノ瀬を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、部屋を出た。
朝練を終えて一ノ瀬を起こしに戻ってきた時、なかなか起きない一ノ瀬を起こすためにひと騒動あったのだが、それはまた別の機会に話すことにしよう。
小説 高校生戦隊ヒーローズ 第2章 完
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