「協調性がない」は“解雇理由”になるのか?――スミヨシ事件に学ぶ、労使コミュニケーションの落とし穴(弁護士×NLP)
「協調性がない」「周りを萎縮させる」「改善の見込みがない」
――現場の相談で、ほぼ確実に出てくるフレーズです。
でも、この言葉がそのまま解雇理由として通るかというと、そう単純ではありません。
今回取り上げる**スミヨシ事件(大阪地判 令和4年4月12日)**は、まさに「協調性」という抽象語が、労使のコミュニケーション不全を通じて紛争化した事例として示唆に富みます。
※こちらの記事も是非あわせてご参照ください。
https://note.com/tleowakayama/n/nacf8c8da6070?sub_rt=share_sb
1. スミヨシ事件の事案を“ひと言”でいうと
障害のある方を採用した会社が、入社から約半年で「能力不足」「協調性欠如」「勤務不良で改善困難」などを理由に普通解雇したところ、裁判所は解雇理由に当たらないとして、解雇を無効と判断した、という構図です。
争点の核心はこうでした。
「協調性がない」と評価できるほどの事情があったのか
会社の指導・コミュニケーションは、解雇に至るプロセスとして十分だったのか
2. 裁判所が見た「コミュニケーションの穴」
判決のロジックを、コミュニケーションの観点から“翻訳”すると、だいたい次の4点に集約されます。
(1) 原因を“一方だけ”に寄せすぎた
職場での関係悪化(とくに派遣社員との関係)は、往々にして相互作用です。
本件でも、対立や摩擦の原因が「本人だけ」とは言い切れない事情があり、本人側にも関係改善の動き(謝罪等)が見える――という方向で評価されました。
現場でよくある失敗:
「相手(問題社員)が悪い」でストーリーを固定し、相手方にも原因がある可能性を検討しない。
→ これ、裁判では弱いです。
過去に、有名な使用者側労働弁護士の先生が主催されていたセミナーの中で、とある解雇をめぐる労働事件の証人尋問で会社側の証人(たしか上司だったと思います)が、裁判官からの質問に対し、「いや裁判官、彼に指導したって無駄ですから」というひと言が響いて、勝てると思っていた事件で負け筋の和解をされた、というお話を聞きました。
(2) 「協調性」という言葉が“曖昧すぎた”
「協調性がない」という評価は、強いラベルです。
ただし裁判所が見たいのは、ラベルではなく、
どの場面で
どんな言動が
どんな頻度で
誰に
どの程度の業務支障を
生んだのか、という観察可能な事実です。
抽象語は、現場の共通言語にはなりますが、紛争局面では争点を拡散させます。
(「協調性って何?」「普通に話してます」「相手が過敏なだけ」…になりがち)
(3) 指導の“メッセージ設計”が弱かった
この手の事件で裁判所が重視しがちなのは、次の2つです。
何が問題なのか(具体的行動)を明確に伝えたか
改善しなければ不利益があり得る(解雇も含む)ことを、適切に示したか
本件では、会社側が注意や助言をしていたとしても、
「それが解雇理由に当たるレベルの問題である」
「改善がなければ雇用継続が難しい」
という“重み”を伝え、改善を強く求めた形跡が弱い――という趣旨で評価されています。
要するに:
指導はしている。でも「何を、いつまでに、どこまで直せばよいか」が、本人の理解に落ちていない。
(4) 「業務に具体的支障」が見えるほどではなかった
「雰囲気が悪い」「やりにくい」は大事な問題です。
ただ、解雇の正当化には、もう一段階、業務上の具体的な支障が必要になりやすい。
コミュニケーションの摩擦が、
“嫌な感じ”で止まっているのか、
“業務が回らない”ところまでいっているのか。
ここが分水嶺になります。
3. ここが本題:どうすれば紛争に発展しにくかったか?
私は、こういう事件の予防は「制度」よりも、まず会話の設計で決まると思っています。
ポイントは “ラベル”を捨てて、“行動と言語”に落とすことです。
予防策①:「協調性」を行動基準に翻訳する
× 協調性がない
○ 依頼された作業の優先順位を共有せず独自判断で進め、手戻りが月◯回発生している
○ 報連相のタイミングが遅れ、他者の工程が止まった事例が◯回ある
○ 指摘に対して、相手を否定する言い回し(例:「それは間違っている」)が続き、相手が業務相談を避けるようになった
こうすると、話が「人格」から「仕事」に戻ります。
裁判的にも、指導的にも強い。
予防策②:「改善目標」「期限」「次のステップ」をセットで伝える
指導面談で最低限入れるべきは、この3点です。
問題行動(事実)
求める改善(具体)
期限と次の対応(段階)
例:
「今後2週間、Aさんへの連絡は“依頼事項+期限+確認”の3点セットで送る」
「報告は“当日中に一次報告”を徹底」
「改善が見られない場合、配置・職務の見直し、懲戒も含めて検討する」
「解雇がチラつくのは怖い」と感じるかもしれませんが、
言わないで突然やる方が、紛争になります。
予防策③:対立が“相互作用”であることを前提に、場を作り直す
当事者同士を“直接”やらせるほど、こじれます。
この手の摩擦は、第三者が設計するのが早いです。
上司+人事+(必要なら社外の専門家)
当人の「言い分」をいったん整理して、合意可能な行動ルールに落とす
ルール違反は淡々と記録し、再指導へ
4. NLPでやるなら:面談の“精度”を上げる3つの技法
ここからが、弁護士×NLPとしての実装部分です。
狙いは「説得」ではなく、認識のズレを減らすこと。
(1) メタモデル:曖昧語を具体化して“争点を小さくする”
「協調性がない」と言った瞬間、対話は崩れます。
なので、上司側の言葉も、本人側の言葉も、具体化します。
使える質問:
「“協調性がない”って、具体的には“いつ・どこで・誰に・何をした(言った)”ですか?」
「その結果、業務上どんな支障が出ましたか?」
「改善するとしたら、明日から“何ができていればOK”ですか?」
「反対に、“これが続くとアウト”は何ですか?」
これで「性格論」から「業務論」に戻せます。
(2) バックトラッキング:反発を下げて“情報を出させる”
本人が防衛に入っているとき、正論は逆効果です。
まずは事実確認の土台を作る。
例:
「あなたとしては、“必要なことを言っているだけ”という感覚なんですね」
「相手の言い方が気になって、強く返したくなる場面があった、と」
同意ではなく、理解の反映です。
これで、相手は“戦うモード”から“説明するモード”に入りやすい。
(3) ポジションチェンジ:当事者の物語を“第三者視点”へ移す
対立は、物語の衝突です。
本人視点:「自分は正しい。相手が失礼」
相手視点:「攻撃される。関わりたくない」
第三者視点:「業務が止まる/品質が落ちる/離職が増える」
面談では、こう促すのが効きます。
「第三者がこのやり取りを見たら、“業務上の課題”として何が問題になりそうですか?」
責めずに、視点をずらす。
これが“揉めない面談”のコアです。
5. まとめ:この事件は「解雇の是非」以前に、会話の設計ミスだった
スミヨシ事件から実務で学べるのは、私は次の一言に尽きると思っています。
「協調性がない」は、結論ではなく“未整理の状況”を示すサインである。
未整理なら、整理すればいい。
その整理は、法律だけでも、心理だけでも足りない。
**行動基準(法務)×対話設計(NLP)**で初めて、紛争を遠ざけられます。
