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【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ 多さわこ(おおのさわこ)編 ⑧

こちらの記事は、仲良くさせてもらっているうりもさんの企画に乗っかって書いています。

▼ プロローグはこちら。

▼ スピンオフ さわこ編 前回の第⑦話はこちら。

▼▼▼ 今回は、以下の記事の直後か直前のお話となりますので、ご参照くださいませ。


さわこ ・ エピソードⅥ ‐ 黒猫の帰還 - (中編)


今日は文化祭の当日。

大事な劇の裏方という大役が控えているので、さわこは緊張していた。
さっき、保健室で茶保先生に誕生日プレゼントを小室さん小室哲子と一緒に渡してきた。
昨日の夜、小室さんと待ち合わせて一緒に選んだプレゼント。
とっても喜んでくれていたのでさわこも嬉しかった。
その時に哲子が茶保先生に返却していた【わたしが「わたし」を助けに行こう】というタイトルの本も気になったが、そのまま哲子に手を引かれて劇の裏方の打ち合わせをしに向かって秘密兵器のイヤホンマイクを手渡された。
劇の本番では、これで連絡を取り合って連携する。

いつの間にか、さわこちゃん、哲子ちゃん、と呼び合う仲になっていた事もさわこには心地よかった。

どうやら哲子ちゃんには特殊能力があって、その場の状況を俯瞰して把握できるらしいので、目に見えない範囲の状況も的確に把握して指示をだしてくれるので、さわこも動きやすかったし、そういう連携がうまくいって劇がスムーズに進んでいくのが気持ちよかった。
今日はその指示が遠隔でもイヤホンマイクを通して届くので、リハーサルの時よりももっと連携がうまくいくはずだ。
緊張と共にワクワク感が増していくさわこだった。

学校内は、文化祭の当日ともあって騒然としていた。
学生以外にも家族や近所の人とか、いろんな人がやってきている。

クラスでもさっき、合コンで出会った獣医さんとの三回目の食事デートを今夜に控えて気合が入りまくっている油木先生がみんなに発破をかけてくれた。
緊張していたさわこの気持ちも、油木先生のかけ声で緩和され、なんだかどんな事になっても劇がうまくいく、そんな想いにさせてくれた。
とりあえず笑っておけばいいらしい、うまく笑えている自信はなかったが、さわこもみんなと一緒に笑顔になっていた。

どうやら一番に登校してきた吉田良夫は二番目に登校してきた保志田と、よっしー、ほっしーと呼び合う仲になっているようで、
小室哲子と、哲子ちゃん、さわこちゃん、と呼び合う仲になった自分たちのように、文化祭という舞台が、クラスのみんなに色んな化学反応を起こしているようだった。

おばあちゃんも張り切って朝早くから構内の清掃を用務員さんと一緒にしながらクラスの出し物の飾りつけとかいろいろ手伝っていて楽しそうだった。

筑前煮とかひじき煮は、メイド喫茶の裏メニューになったようで、指名が入ったらおばあちゃんもメイドのコスプレをして煮物とかを提供するようで張り切っていた。

メイドカフェ以外にも、お化け屋敷などのイベントや出し物が盛りだくさんで、明日はライブもあり、そこでクラスメイトの宇利くん、吉田くん、阿久くん、保志田くんが結成したミスチェリがデビューするので、彼らはその練習に打ち込んでいる。下級生の中では結構な人気になっているようだ。

クラスでもおにぎりや焼きそばの販売をする事になっていて、買出しや劇の準備でみんな忙しそうにしている。
どうも宇利くんと阿久くんがオリバーソースに夢中でうっかりキャベツと間違えて買ってきたレタスの件でひと悶着あったようだが千代子さんが対処して解決してくれていた。

さわこは売り場の準備で朝からお手伝いをしていたので、千代子の手際の良さに舌を巻いていたし、買い間違いがあっても怒らないで冷静に対処する千代子の事を凄いと思った。

それに加えて、千代子さんを手伝っている保志田くんも無駄のない動きでテキパキと状況を処理していく。二人の素晴らしい連携に感心しつつ、さわこも負けてられない思いになっていた。

売り場では、哲子とさわ子が机を並べたり大忙しで、千代子と保志田に負けず劣らずの連携を発揮して開店間際のお店の準備をどんどんと進めていく。

「おにぎりを売るなら豚汁とセットも良かったよね」と哲子。
「うん。でもさすがに豚汁までは手が回らないっか」とさわ子。

そうこうしているうちに保志田が箱を抱えてやってきた。
「焼きそば持ってきたよぉ」

開店まであと10分。
食券を持ったお客さんがポツポツと集まり始めてきた。

その中に、どこまで見かけたくたびれた雰囲気のおじさんの姿を見つけた。

あ、クッマで頑張ってサラダを食べている挙動不審おじさんだ。

さわこは、たまにクッマで見かける田中健一を見つけて、誰かのお父さんなのかな?と思ったが、開店準備がいよいよ忙しくなったので、それ以上おじさんを気にする余裕はなくなってしまった。

一通りの開店準備を終えると、劇の主役の緊張感が頂点に達した宇利盛男が調子を崩して保健室に居るので、彼のための差し入れ用のおにぎりを用意した保志田が、

「 あとで届けてね。 」
と言って、さわこに手渡した。

「 OK! 」
と言って受け取ったさわこだったが、自分の口から自然にOK、なんて言葉が出てくるなんて思わなかったびっくりしたが、体調を崩した宇利くんの事も少し気になっていたので、保健室に行く口実ができてなんだか嬉しくなっていた。

昨日、おばあちゃんが宇利くんの事を婿殿むこどの、なんて言ってからおかしな気持ちになっている気がする。

宇利くんも困ってはいたけど嫌そうではなかった・・・ような気もする・・・。

宇利くんは、どう思っているんだろう・・・。

目の前をゴリラの着ぐるみを来た別のクラスの呼子が通りすぎていく。

ゴリラを見かけて宇利盛男の事がまた気になったさわこの脳内で、脳内盛男が『誰がゴリラやねん!』とツッコミを入れていた。

目指せ売上ナンバー1。
自然と腕まくりをするさわこだった。



売り場も落ち着いて、いよいよ劇の出番を30分前になった頃、さわこは保健室におにぎりを差し入れに行く事にした。

保健室へ向かう足取りが自然と足早になっていく。
もう元気になっていたらいいのだけれど・・・。

保健室の前につくと、茶保先生と宇利盛男の声が聞こえてきた。

前半は聞き取れなかったが、最後の宇利の言葉はよく聞こえた。

『 あー焼きそば食べたかったなぁ 』

さわこは、自分が持っている差し入れにはおにぎりしか入ってない事を知っていたので、その場で立ち尽くしてしまった。

ちょっとした時間だったが、さわこにはすごく長く感じたのだが、保健室のドアの前に生徒の気配を感じた茶保先生が、ドアを開けて、そこに立ちつくしているさわこを見つけて声をかけてくれた。

『 なんや、おおのさんやないか、入り入り! 』
『 あ、なんか持ってきてくれたん? 』
『 おにぎりやんか!おいしそうやん、これゴリラに差し入れか? 』

『 誰がゴリラなんですかぁ・・・ 』
宇利盛男のツッコミが弱弱しい。
体調はまだよくないようだ。

おにぎりじゃなくてごめんね、こんなんじゃ元気でないよね・・・。

どうしたらいいか分からなくなってしまって、さわこは手に持った差し入れを茶保先生に押し付けるくらいしか出来なかった。

『 ほら、ちょうどよかってん。』
『 こんな調子だからアッサリしたもんしか食べれへんからおにぎりがよかったんや。 』
そういって、さわこから受け取った差し入れのおにぎりを茶保先生が宇利盛男に差し出す。

『 お・・・おおのさん、ありがとう・・・ 』
宇利盛男が弱弱しくさわこに声をかけてくれた。

こっちを見て言ってくれているようだったが、さわこは顔を上げる事ができずに俯いたまま、小さく頷いた。

宇利くんを元気づけるような事を言ってあげたかったさわこだったが、頭が真っ白になってしまって、焼きそばじゃなくてごめんね、という事しか頭に浮かばなくなってしまって、なんでここにいるのかもわからなくなってしまったので保健室を出ていこうとドアの近くに後ずさりして、それを茶保先生が静止しようと腰を浮かして声をかけようとした瞬間、ドアが開いてクラスメイトが大挙して押し寄せてきた。

「宇利くん?いるよ」
「宇利、大丈夫か?」
「宇利、どうした?」
「お腹痛いのか?」
「心が痛いのか?」
「誰に振られた?」
宇利盛男と仲のいい阿久と保志田と小郷とヨメンを中心にクラスメイトが口々に声をかける。

「うり、お腹ぴちぴちやねん」
茶保先生がみんなに言う。

「先生…みんなに言わなくても…女子もおるのに…。いてててて…」
ベッドの上で横になっていた宇利盛男が弱々しく言った。

「しゃーないやん。ホンマのことやし」
「宇利出られへんの?」
「ごめん…お腹に力入れられへんねん」
「え?もうすぐ俺らの出番なんやけど…ムリか?」

「今ようやくトイレから出て落ち着いてきたところやねん。舞台には出られへんかもなぁ」
茶保先生が答えた。

「えー。どうする?」
「どうしよう」
「え?劇なし?」
「えーあんなに練習したのに?」
「えーっ頑張って衣装作ったのに…」
「宇利がこんな状態じゃあなぁ…」
みんな口々に色んなことを言う。

「宇利くん、これ飲んで」
茶保先生が錠剤の薬を渡した。
宇利盛男が口に入れた。
その時だった。

「節子〜!何舐めとるんや!それおはじきやろ。ドロップちゃうやんか!」隣のベッドのカーテンが開き、垣野先生が現れた。

さすがにこれにはドアの近くで息をひそめていたさわこもびっくりした。

「おはじきちゃうし。ドロップでもないし。火垂るの墓やってる場合ちゃうし…。あかん。ツッコミ出来へんわ」
宇利盛男のツッコミはいつもよりキレが悪かった。

「垣野先生、こんなところで何してるんですか?」
「何してるってベッドがあったら寝るでしょ」
「垣野先生も具合悪いんですか?」

「具合が悪くないと寝たらダメなの?」
と言いながら髪を直し、ベッドから降りる垣野先生。
「私はね、二度寝、うたた寝、お昼寝が大好きなの。寝るために生きてるようなもんだからね。」
何を当たり前の常識を今更聞いているのかね?というような雰囲気で垣野先生が、ゆっくりと立ち上がりながらその場にいるクラスメイト全員の一人ひとりの瞳を見つめながら胸を張って言い切った。

・・・そうなんだ・・・、とさわこは妙に納得してしまった。
生きるって・・・なんなんだろう・・・。

「えー、どうする?」
「もう開演まで時間ないよ」
「あと何分?」
「10分くらいかな?」
「もうムリだよね」
「諦めようか」
劇本番の主役の体調不良によるダウンで、クラスメイトのほとんどが諦めムードになってしまっていた。

当然さわこも同じ気持ちで、秘密兵器のイヤホンマイクまで準備してくれた哲子ちゃんがガッカリする顔を想像してしまっていた。
しかし、そんな中でも諦めていない人がこの場には少なくとも2人いたのだ。

「誰か宇利の代わりできないの?」
「え?宇利の代わり?」
「ハイジを?」
「ムリっしょ。ハイジのセリフめちゃくちゃ多いし」
「だよねー」
「誰かいないのー?」
「セリフ全部入ってるやつ!」
「いるわけないだろ」
「えー、どうする?今からカンペ作ってそれ見ながらやる?」
「いやいや、ムリだろ」
「時間なさすぎ」
「私自分のセリフで精一杯だよ」
「俺だって自分のシーンだけしかわかんねーよ」
「一通り覚えてるやついないか?」

さわこは、その瞬間に橋田寿賀美が背筋を伸ばした事に気が付いたが、同時に保健室にあの独特な地声なのか裏声なのか判別できない声が響き渡った。

「私セリフ全部入ってます!」

背筋を伸ばして、おかっぱ頭をかきあげながら顎を突き出して、その場にいる生徒全員を品定めするように目を細めて視線を送りながら言葉を続ける。「なーるほどね。みんなの気持ちはよ〜くわかったわ」

「え?」
「大丈夫よ。私がハイジをやるから」
「え?ハイジのセリフ覚えてるんですか?」
「私、壽賀美の台本一緒に直したのよ」
「いや、けど…」
「それに、私みんなの練習見てたし。それより時間がないんでしょ?」

垣野先生はそう言うと、宇利盛男から衣装を受け取り、カーテンを閉めて着替え始めた。
「なんだかケモノ臭がするわねぇ」

「いや…誰がゴリラやねん…」
弱々しい声でツッコむ宇利盛男。

そして、垣野先生は、メイクをしながら台本を読み返した。
ひと通り読み終わると
「さあ、行くわよ」
と言って颯爽と歩き出した。

おかっぱ頭の赤ずきんのハイジがツカツカと良い姿勢で歩いて行く。
圧倒された生徒たちがその後をついてく。

さわこは、最後まで残って宇利盛男の様子を心配そうに見ていたが、どんな言葉をかけてあげていいのか分からなかった。

ちょっと寂しそうだけどホッとしたような宇利盛男が、泣きそうな顔で笑っている。

少しだけ、ほんの少しだけ宇利盛男とさわこの視線が交差する。
さわこが少し手を挙げて小さく手を振ると、宇利盛男も弱弱しく手を振り返してくれた。

劇に間に合わなくなるのでみんなに追いつこうと振り返ると、保健室のドアの向こうで、貝差彩子と吉田良夫が待ってくれていた。

貝差彩子は、意味ありげな笑顔を浮かべながら、うんうんと頷いている。
吉田吉夫は、黒縁メガネをくいっとあげながら、なにやらタブレット端末に入力している。

二人の脇を通り過ぎて廊下に出ると、向こうから小室哲子が駆け寄ってきて、さわこの手を取って

『 さわこちゃん、いよいよ本番だよ。頑張ろう♪ 』
と声をかけて駆け出した。
さわこもつられて駆け出していた。
小室哲子に手を引かれていると、なんだか元気になる。

今は本番に全集中しなきゃ。
さわこの表情が引き締まっていく。

主役が垣野先生に変わった。
これは、リハーサル通りにはいかない大変な本番になりそうな、そんな予感をさわこは感じていた。

クラス全員が全力でぶつからないと太刀打ちできない。
劇場になっている体育館に近付くにつれ、その予感は確信に変わっていっていた。





つづく

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今回は、以下の方に登場してもらいました。

▼ 宇利盛男役のうりもさん

▼ 油木肉子先生役のゆきママさん

▼ 小室哲子役のT K さん

▼ 吉田吉夫役のよしよしさん

▼ 貝差彩子役の彩夏さん

▼ 阿久佳祐役のアークンさん

▼ 保志田役のほっしーさん

▼ 千代子役のチョコさん

▼ 橋田壽賀美役のららみぃたんさん

▼ 茶保先生役のちゃぼはちさん

▼ 垣野先生役の書きのたね。ブルボンヌ。さん


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