ショートどうだ!?(アマノ文筆クラブ/ショートショート)
私は、自分の顔が好きじゃない。
丸顔で、笑うと頬の肉がぎゅっと上がる。
中学に入学早々、男子に「アンパンマン」と呼ばれたのがとどめだった。
前髪を伸ばし、髪で顔の輪郭を隠して、できるだけ笑わないようにした。
それ以来、男子とは距離を置くようになった。

けど、一人だけ例外がいた。
幼稚園からの幼馴染だ。
家が近所で、小学生の頃からよく一緒にゲームをした。
彼も漫画やアニメが好きで、趣味が合った。
ただ、彼が私と違ったのは、サッカーをしていて、シュッとしていて、いわゆるクラスの一軍だったことだ。
そんな彼が学校で私に話しかけることはほとんどない。
———仕方ない。
私と仲良くしていたら、彼もからかわれるかもしれない。
でも、家で遊ぶときは昔と同じだった。
二人でテレビゲームをして、くだらないことで笑い合った。
その時間が、たまらなく好きだった。
けど、ホルモンバランスのせいなのか、小学校の高学年の頃から、私の体が変わり始めた。顔がさらに丸くなり、胸がふくらみ、腰まわりに肉がついた。インドア派の私は、運動不足も相まって、あっという間に太った。
そこで、中学校に上がったとたん、冒頭の事件が起きた。
私は縮こまってしまった。髪をさらに伸ばし、前髪で目を隠し、教室ではうつむいて、なるべく目立たないように過ごした。
何とか中学を卒業した後、私と彼は、同じ地元の高校に進学した。
進学校といえるほどの偏差値ではないが、低すぎもしないくらい。
校則が厳しくなかったので選んだ。
彼と遊ぶ頻度は格段に減ったが、それでも数か月に一回くらいはお互いの家を行き来した。
けど、相変わらず学校ではほとんど話さなかった。
高校二年の冬になった。
いつものように彼の部屋でゲームをしていたとき、彼がぽつりと言った。
「そういえば、隣のクラスのユキちゃんから告白された」
私の握っているコントローラーがみしりと音を立てる。
「……それで、どうしたの?」
「断った。いい子だけど、好きってわけじゃないし、受験前だし」
「じゃあ、いい子がいたら付き合う気はあるんだ」
「まあ、そりゃな。けど受験終わってからかな。……気になる人くらいは、いるんだけどな」
心臓がうるさい。画面のキャラが崖から落ちた。
「誰?」
「言う訳ないじゃん」
「え~~幼馴染の特権で教えてよ!」
「俺がその子に告白したら教えてやるよ」
「ケチ!」
聞きたくてたまらない気持ちを隠して軽く返したけど、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
画面には、「YOU LOSE」の表示が点滅している。
余計なお世話だ。
彼には気になる人がいる。受験が終わったら動く。猶予はあと一年。
———いや、猶予じゃない。これはタイムリミットだ。
私は決めた。痩せて、告白する。卒業式の日に。

その日から生活を変えた。
間食のお菓子をやめ、ジュースを水に変え、休憩中のアニメはウォーキングしながら見るようにした。
途中、お父さんが私のダイエットをちゃかそうとして、妹にシバかれていた。いい妹だ。
妹は私とは真逆で、バスケ部のキャプテンをやるような活発な子だ。美人で、ハキハキしていて、要領がいい。
「お姉ちゃん、素材はいいのにもったいない」
前から言ってくれていたけど、信じていなかった。
一年かけて、脂肪は落とした。志望校には合格した。
でも、髪を切るのだけは怖かった。
痩せても丸顔は変わらない。
笑ったら、また頬に肉が集まる気がした。
「そんなんでどうするの!告白するんでしょ!」
告白するとは言ってないはずが、妹にはとっくにバレていた。
「しょうがないなぁ……。じゃあ一緒に美容院行ってあげるよ。仲良しの美容師さんができたんだ」
妹よ、コミュ力が高すぎるだろ。
卒業式の前日。
妹に付き添われて、美容院へ行った。
「さわやかすっきりショートヘアにしてください。この人、告白するので」
妹が美容師さんにハキハキと伝える。
私は恥ずかしくてうつむいていた。
「んん〜〜〜!青春ね!そういうの大好きよ!おねえさんに任せなさい!」
二十代後半くらいに見える美容師さんが目を輝かせた。
カットが始まる。
長かった髪が、一束ずつ肩から落ちていく。
「……完成! ほんの少し茶色を入れて、明るくしてみたの。あの学校は、女の子ならこれくらいセーフよね?」
鏡の中に、知らない人がいた。
髪だけじゃなく、眉毛も整えてもらって、顔の産毛も剃って、特別サービスで薄い桜色のリップをつけてもらっていた。

「肌白めだから、薄い色のリップが合うわね。……どう?」
「……正直、自分じゃないみたいです」
「お化粧覚えたらもっと化けるわよ!けどまあ、それはこれからだね。明日は自信もって、いっておいで!」
卒業式の朝。
昨日教わったように髪をセットし、リップを引いて、準備を整える。
学校に向かう。
すれ違う人に顔を見られる。恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
教室に入り、いつもたむろしている端っこの席に向かう。
学校で数人しかいない仲良し——三人のオタ友達だ。
今日、私が彼に告白することは伝えてある。
近づいた私にみんなが視線を上げ、一瞬、全員が怪訝な顔をした。
それから、漫画で衝撃の展開を読んだときみたいに揃って目を見開いた。
「え!? まじで!!?」 「うぉぉぉぉぉ!!??」「誰かと思った!!」
オタク特有のオーバーリアクション。
けどすぐ我に返ったのか、身を小さくして周囲をきょろきょろしている。
「ダイエットしてたのは知ってたけど、変わりすぎだろ。悪魔の実でも食ったんかと思った」「正直、さっきまで慰め会の相談してた」
おぃぃぃぃぃ!と、お決まりのフレーズでツッコんでおく。
「ごめんって。決戦は、帰り道だっけ?」
「……うん。昨日DM送っといた」
昨日の夜に、勇気を振り絞って送ったのだ。
彼からは、「了解」という簡素な返事だけが来ていた。
「見に行ったり野暮なこたぁしないから、頑張ってこいよ!」「今ならいける!」「ファイト!!」
照れるけど、ありがたい。いい友達だ。
体育館の冷たいパイプ椅子に座り、名前を呼ばれて、舞台に上がり、校長先生から卒業証書を受け取る。
卒業か———
漫画みたいな青春は送れなかったけど、友達もできて、楽しかったな。
一瞬だけ感慨に浸る。
けどすぐに胸がドキドキと高鳴って、呼吸が苦しくなった。
待ち合わせは学校からの帰り道。桜がアーチ状に連なる小路。
「……満開だな」
「……満開だね」
「……お互い、卒業おめでとう」
「……うん、おめでとう」
気まずい。オウム返ししかできない。
お互い何か言いたそうで、けどなかなか言い出せない。
もじもじしながら、私と彼は並木道を歩く。
ここで言わなきゃ、なんのために頑張ったのか。
彼の顔をチラチラ見て、目が合いそうになるたびに顔を背けた。
やっぱりかっこいいな、なんて思ってしまう。
よし、あの木まで歩いたら切出そう。
そんなしょうもない決意をした矢先、隣で彼が息を吸うのが聞こえた。
何か言われる———
そう思った刹那、私は急速に自信を失った。
これまでの人生の大半を陰キャとして過ごしてきたんだ。仕方ない。
やっぱり髪を切ったくらいじゃだめだ。先に言わなきゃ。
せっかくいろんな人に助けてもらって、ここまで来たんだ。
告白もしないで振られるなんて、情けないことはできない。
「……ずっと好きでした!付き合ってください!」
オタク特有の早口で言い切って、目も合わせずに頭を下げた。
———沈黙。
桜が一枚、視界の端をよぎる。
「……顔、上げてよ。今日はまだ、一回も目、合ってないでしょ」
ようやく彼が言葉を発した。
言われて気づく。
勝手に盗み見た回数は数え切れないけど、昨夜、告白フラグ全開のDMを送ってから、恥ずかしくて彼のことをまともに見られなかった。
顔を上げると、彼が少し困ったような顔でこちらを見ていた。
やはりだめか————
———あれ。
ワックスで固めているからいつもと印象が違うのかと思っていたけど、彼も髪が短くなっている。
「……お互い、考えることは一緒だな」
「え?……それ、どういう……」
「昨日の夜にあんなDM来たら、そりゃ精一杯の準備するだろ。けど、俺から言おうと思ってたのに、先に言われちゃったな」
「……え?」
「……ずっと好きだったよ。俺も。じゃなきゃあんな頻度で遊ばないだろ、サッカー忙しかったのに……」
「いや、サッカーバカすぎて友達いないのかと……」
嘘だ。クラスの中心にいたことくらい知ってる。
恥ずかしくて、つい、いつものようにボケてしまう。
「ひどいな! ちゃんと友達もいるわ!」
「ならいいけど」
「……小学生のときから好きだった。笑った顔が、たまらなく可愛くて」
嬉しくて、恥ずかしくて、泣きそうになる。
「けど、中学くらいから、あんまり笑わなくなったよな。二人のときはそこそこ笑ってくれてたから、関係壊したくなくて……言えなかった」
「……考えること、同じだね」
「だろ?」
「うん」
「せっかく可愛いのにずっと髪で顔隠してるから……告白して、もしうまくいったら、自信つけてもらって、昔みたいにショートカットにしてって頼むつもりだったんだよ。それも先越されちゃった」
なーんだ。そうだったのか。
私は安堵した。
ちょっと恥ずかしいけど、もう大丈夫。
私はとびっきりの笑顔を見せて、可愛いと思ってほしくて、言った。
「私のショート、どうだ!?」

おわり
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◆あとがき
今回も甘野充さんの企画に参加させていただきました。
「ショート」と聞いて思いついたのは、野球の「ショート」と、今回テーマにした「ショートカット」でした。
野球を選択した場合、ラストで「バッター打ったーーー!鋭い打球!ショートどうだ!?」と実況が叫んで終わる作品になっていました。ちょっと書いてみたい気もしますが、またどこかで。
リアリティを求めるなら、中学生~高校生は、こんなに物分かりがよくなかったり、もっとエグいいじめをしたり、恋愛に素直になれなかったりするんだと思います。
けど、いいんです。これは私が書きたかった、純粋で、綺麗な物語なので。笑
ちなみに、今回は新しい試みとして、幼馴染の彼目線でのアナザーストーリーも執筆してみました。
もしよかったら、感想を教えていただけると嬉しいです!
2026/4/4加筆
今後は、長くなる作品は「小説家になろう」に投稿することにしました。
本作品も、少しだけ加筆したバージョンを投稿しているので、よかったら読んでみてください。
「陰キャの私が大変身して卒業式の日に幼馴染に告白する話」
https://ncode.syosetu.com/n9886lz/
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