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若い先生の皆さんへ第2部<190>T(36)_【ご褒美のサイエンス】子供がシールに命をかける理由と、本物のやる気を育てるフェードアウトの技術

 こんにちは、トビラAIです。今回は教師のスキルセットAtoZの「T;Teaching」の36回目をお届けいたします。前回は真栄城先生が学習促進のためにシールを導入した結果、シール欲しさに雑な勉強をしてしまう生徒たちをご紹介しました。未読の方は以下をご覧ください。

それでは、よろしくお願いします。


この記事を読むとできるようになること

  • ご褒美(シール報酬)が持つ「行動開始の補助輪」としての正しい効果と限界が科学的に理解できるようになります。

  • 「物で釣る教育」が子供の内発的動機づけ(本物のやる気)を低下させる副作用と、そのメカニズムを回避する視点が得られます。

  • シールを単なるおとりで終わらせず、子供の「できた!」「もっとやりたい!」という自発的な学習習慣へスムーズに移行(フェードアウト)させる授業設計のヒントが掴めます。

  • 読了時間3分が目安です。 

ここまでずっとご紹介してきたADDIEモデルの「D;(授業)設計(Design)」の中で、ポイント制を採用した経験のある先生は多いのではないでしょうか。何を隠そう、私もその1人です。前回記事の真栄城先生のような失敗は何度も犯しています。それでも生徒の目の色が変わって勉強するようになるので、その都度マイナーチェンジしながらゲーム性を取り入れてきました。
 しかし、なぜ児童生徒(特に小学生)はあんなにシールを欲しがるのでしょうか?論文でも書けるのではないか、と思うくらいなぜか燃えます。業務をしていた当時は忙しくて無理でしたが、現場を離れ雌伏の時を過ごしている今、改めてシールの効果を論文などをあたり研究してみました。今日は論文ベースなので、少し文章がカタいですが、何卒ご容赦くださいね。 

1. シール報酬の真実:なぜ子供は「代替引換券」にこれほど燃えるのか?

 教育場面でのシールは、研究上は一般に tangible reward(有形報酬) や token economy(トークン・エコノミー) として扱われます。この場合の「トークン」とは心理学や行動分析学の文脈において、「それ自体には直接的な価値はないが、集めることで価値のある別の報酬と交換できる、代替的な引換券」を意味します。
 これは、望ましい行動や課題遂行に対してシール、点数、トークンを与え、後に別の報酬と交換できるようにする仕組みです。Maggin DM(2011)によると、こうした方法は、特に「まずやらせる」局面、つまり学習行動の開始や維持には有効であるとされています。
 たとえば、通常の学級支援に反応しなかった1年生5名にトークン・エコノミーを導入した事例では、5名中4名で on-task behavior(課題に向かう行動)が増加したことがKesler, A.(n.d.)などの研究でわかっています。ここで改善したのは、指示後すぐに課題を始めることや、授業中に作業ペースを維持することといった行動面でした。つまり、報酬は学習内容そのものを深く理解させたというより、学習行動を成立させる補助輪として働いたと解釈したほうがよさそうです。

【ご褒美の限界】シールポイントが「見せかけのやる気」しか育てない心理学的理由

 また、3〜5年生の struggling readers(医学的な意味ではなく、読むことが苦手な生徒) を対象にした研究では、ClassDojo型(世界中の教育現場で広く使われている、学校・学級経営(クラスマネジメント)および保護者連携のためのデジタルプラットフォーム)のポイント報酬を導入した結果、読書介入への参加意欲は上昇しました。子どもたちはポイント獲得に関心を示し、授業参加や課題遂行は改善した。しかしここがミソだと思うのですが、自分を「よい読み手だ」と感じる自己認知は改善しなかったそうです。このことは、シールやポイントが「やる気があるように見える状態」を作ることはできても、学習者自身の自己効力感や学習の意味づけまでは自動的には育てないことを示しています。

2. 【副作用】内発的動機づけの崩壊、ご褒美が「本物のやる気」を奪う瞬間

 シール報酬の最大の問題点は、学習の理由が活動そのものから外部報酬へと置き換わる危険にあります。もっとも影響力の大きい研究の一つである Deci, Koestner, Ryan のメタ分析は、128件の実験研究を統合し、期待された有形報酬が内発的動機づけ(本人の内なるやる気)を低下させる傾向を示しています。
 具体的には、「取り組めばもらえる」「終えればもらえる」「成績がよければもらえる」といった外的な報酬条件が、報酬がなくなった後の自発的な取り組み行動を弱める方向に働いていることが指摘されています。さらに、こうした不利益は大学生より子どもで強い傾向がありました。

【ご褒美の罠】「シールがあるから勉強する」が自発性を破壊する?大学生より子供に強い副作用

 教育向けに整理された Deci らの再論文でも、学校で広く用いられる星シール、表彰、読書景品などの報酬は、子どもに「この活動は、それ自体には価値がなく、報酬があるからやるものだ」と感じさせやすいと論じられています。著者らは、もし報酬を使うとしても、統制的な雰囲気ではなく支援的な雰囲気の中で用いるべきであり、本来重視すべきなのは、活動の面白さ、選択の余地、適度な挑戦を設計することだと主張しています。
 この点は、読書インセンティブ研究でも確認されています。3年生19名を対象とした Stanfield の研究では、報酬つき読書プログラムを導入しても、読んだ本の冊数もテスト得点も増えず、むしろ読書態度が悪化しました。つまり、子どもは景品のために読書はしても、読書を好きになるわけではなかったのです。これは「シールで勉強させる」ことの典型的な副作用を示す研究といえますね。

3. 「ご褒美=絶対悪」ではない?活動への最初の一歩を支える「補助線の引き方」

 もっとも、報酬の効果をめぐっては研究上の論争もあります。Cameron, Banko, Pierce は、報酬が常に内発的動機づけを損なうわけではなく、もともと興味の低い課題では報酬が参加を促進することがあると論じています。また、言語的賞賛のような informational なフィードバック(情報的フィードバック)は、むしろプラスに働く可能性も示されています。
 この議論を踏まえると、シール報酬の評価は二分法では判断できないようです。すでに面白さや関心が芽生えている活動に対し、事前に約束した有形報酬を重ねると、内発的動機づけを損ねる可能性があります。しかし、子どもがまだ活動に入れない段階、あるいは課題回避が強い段階では、シールは参加のきっかけを作る「補助線」として意味をもつことがある。したがって問題は、「報酬を使うか否か」だけでなく、どの課題に、どのタイミングで、どんな形で使うかにあります。

今回のQUIZ

Cameronらの議論を踏まえ、報酬が必ずしも内発的動機づけを損なうわけではなく、むしろ有効に機能する可能性があるケースとして、正しいものはどれですか。1つ選んでください。
(A) すでに子どもがその活動に強い興味や面白さを感じているケース
(B) もともと興味の低い課題であり、子どもがまだ活動に入れない段階や課題回避が強いケース
(C) 長期的な学力向上や、深い学習成果そのものを大きく改善したいケース
(D) 事前に約束した有形報酬を、難易度の高い課題に対して一律に与え続けるケース

です。考えてみてくださいね。

4. 衝撃のデータ:「行動の改善」と「学力の向上」は全くの別物だった

 ここで重要なのは、「行動面の改善」と「学力向上」を区別することにあります。3年生120名を4種類の読書インセンティブ条件に分けた Fawson らの研究では、報酬の与え方を変えても、語彙、読解、余暇読書態度には有意な差がほとんど見られなかった、とされています。差が見られたのは一部の academic reading attitudeに限られており、効果量も大きいとは言えないようです。ちなみにacademic reading attitudeを直訳すると「学習のための読書に対する態度」となりますが、attitudeというのは「態度」と訳すのは間違っていると思います。「態度が悪い」の態度ではなく、「考え方」や「意識」のほうが意味が近いです。いずれにせよ、これは、報酬の設計を工夫しても、学習成果そのものを大きく改善する保証はないことを示しています。
 さらに、トークン・エコノミー研究全体を検討した Maggin らの研究では、トークン・エコノミーに関する実践研究には有望な結果が含まれる一方で、What Works Clearinghouse(WWC;アメリカ合衆国教育省の教育科学研究所(IES)が運営する中央情報機関)の基準では「十分な証拠がある best practice」と断定するには不十分だと結論づけました。
 つまり、現場では役立つ可能性があるが、研究的にはまだ質や再現性に課題がある。したがって、シール報酬を学力形成の中心戦略として位置づけるのは慎重であるべきだ、というのです。

5. シールを賢く「フェードアウト」させる、明日からの最強授業デザイン

 以上の研究を踏まえると、教育実践上もっとも妥当なのは、シール報酬を短期的な導入支援として限定使用することであるといえます。たとえば、学習習慣がまだ形成されていない時期、課題回避が強い場面、授業参加の足場が必要なケースでは一定の有効性が見込めるが、それを長期的に続けると、子どもが「勉強はシールのためにやるものだ」と学習し、報酬が消えた瞬間に行動が弱まる危険があると多くの研究が示唆しています。
 したがって、望ましい実践は、シールを使うとしても、具体的な達成や努力へのフィードバックと組み合わせ、早めにフェードアウトし、最終的には選択・達成感・有能感・関係性といった内発的動機づけの条件へ移行することが必要です。なぜなら、子どもに必要なのは、報酬で釣られ続けることではなく、「わかった」「できた」「もっとやりたい」と感じられる学習経験だからである。 

結語

 小学生がシールやポイントなどの報酬を目当てに勉強する現象は、短期的には一定の効果をもっています。とくに、課題に取りかかる、授業中に着席する、介入活動に参加する、作業を最後まで続けるといった行動面の改善には有効であることが多い。しかしその一方で、学習そのものへの興味や内発的動機づけを損なう可能性があり、さらに学力や理解の質が安定して向上するとは限りません。したがって、シール報酬は「万能の動機づけ手段」ではなく、限定的・短期的な足場かけとして慎重に用いるべき手法だと結論づけられています。
 と考えると、「やっぱりな」という感じですね。結局シールが目的化してしまっていて、中身に実効性がない、と言えそうです。
 とは言え、あんなに目をギラギラさせて「シール頂戴!」とやってくる小学生たちの意欲もうまく育てたいですよね。ここからしばらく、授業設計における「ゲーミフィケーション」について考究をしていきます。

QUIZの解答

(B)もともと興味の低い課題であり、子どもがまだ活動に入れない段階や課題回避が強いケース
でした。

ありがとうございました。
大人が仕掛けたシールという名の「手品」に、目をギラギラさせて飛びついてくる子供たち。その純粋なエネルギーを、ただの「シール集めゲーム」で終わらせてしまうのは、あまりにももったいないですよね。今回紹介したサイエンスの知見を補助線に、明日からは子供たちが「学ぶ楽しさそのもの」に溺れるような、最高の授業を一緒に設計していきませんか?教育に悩む同僚の先生や親御さんにも届くよう、X(旧Twitter)などでこの記事をシェアしていただけると、トビラAIは嬉しさのあまりシールの如くどこにでも貼り付きに飛んでいきます!何卒よろしくお願い申し上げます。

感謝一入
Warm Regards,
トビラAI拝

参考文献

  • Cameron, J., Banko, K. M., & Pierce, W. D. (2001). Pervasive negative effects of rewards on intrinsic motivation: The myth continues. The Behavior Analyst, 24(1), 1–44. https://doi.org/10.1007/BF03392017 PubMed

  • Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668. https://doi.org/10.1037/0033-2909.125.6.627 PubMed

  • Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (2001). Extrinsic rewards and intrinsic motivation in education: Reconsidered once again. Review of Educational Research, 71(1), 1–27. selfdeterminationtheory.org

  • Fawson, P. C., Reutzel, D. R., Read, S., Smith, J. A., & Moore, S. A. (2008). Reading attitudes: The influence of differing the paths to an incentive on third-graders’ recreational and academic reading. Reading Psychology, 30, 564–583. DigitalCommons@USU

  • Hufty, G. M. (2020). Impacts of incentives on struggling readers. Florida Journal of Educational Research, 58(7), 84–92. https://doi.org/10.62798/TGWJ9224 Florida Journal of Educational Research

  • Kesler, A., Preston, E., Najafichaghabouri, M., & Rolf, K. R. Using a token economy in a first-grade classroom to increase on-task behavior. In case study chapter hosted by Utah State University DigitalCommons. DigitalCommons@USU

  • Maggin, D. M., Chafouleas, S. M., Goddard, K. M., & Johnson, A. H. (2011). A systematic evaluation of token economies as a classroom management tool for students with challenging behavior. Journal of School Psychology, 49(5), 529–554. https://doi.org/10.1016/j.jsp.2011.05.001 PubMed

  • Stanfield, G. M. (2008). Incentives: The effects on reading attitude and reading behaviors of third-grade students. The Corinthian, 9(1). Knowledge Box at Georgia College & State University

トビラAIプロフィール

※ 本稿では画像生成と文章の推敲に生成AIを使用しています。

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