若い先生の皆さんへ第2部<162>T(8)_半径の謎を解け!1947年版と現代の教科書比較から見えた、子どものワーキングメモリを解放する「最強の算数指導論」
円の面積の公式『半径×半径×3.14』を、なぜその順番で教えるべきか説明できますか?こんにちは、トビラAIです。今回は教師のスキルセットAtoZの「T;Teaching」の8回目です。前回は昭和22(1947)年の算数の教科書を紹介しました。今回はその続きになります。
前回の記事を未読の方は以下の記事をご覧ください。
この記事を読むとできるようになること
昭和22年(1947年)と現代の教科書における「円の面積」の導入手法の違いを理解し、時代に応じた教育設計のメリット・デメリットを評価できるようになります。
脳科学・認知心理学に基づいた「ワーキングメモリの解放」のメカニズムを学び、効率的な「手続き的知識(計算の自動化)」と「概念的知識」を組み合わせた効果的な学習アプローチが実践できるようになります。
子どもや学生が数式や文章を読み解く中で、どこでつまずき、どこで最も成長(珠玉の瞬間)を迎えるのかを見極める「確かな視座(足場かけの技術)」が身につきます。
読了時間目安は3分です。
今回は前回ご紹介した昭和22(1947)年の教科書から、円に関する導入をそのままノーカットでご紹介します。みなさんも小6になったつもりで、読んでみてください。今日はQUIZはありませんので、ご安心を。
【歴史的良書】1947年(昭和22年)の教科書に学ぶ「円」の美しい導入
〔 円 〕
茂君は,自転車に乗って道のりがはかれることから,まわりが1mの円板をころがして距離をはかるくふうをしようと,まず,円板を作る作業にとりかかった。 円周は直径のだいたい三倍とみて,計算によって半径16.7cmで円をかき,その円周に糸を重ねて円周の長さをはかったら,1.04mになったり,1.05mになったりした。
茂君は,くわしい計算をする場合には,直径の三倍を円周としたのではまに合わないのだと考えた。 直径5cmの円をかき,その円周が直径の何倍になっているかを,できるだけくわしく求めよう。 半径のとり方,円のかき方,円周のはかり方等に,特に念を入れよう。 また,大きな円について調べた方が,くるいの割合が小さくてすみそうである。直径を,10cm,15cm,20cmと次々に大きくして,その円周をはかり,次のような表を作って,その結果をまとめよう。

茂君たちは,これらの結果から,次のようなことを話し合いによってまとめた。
(い)円周は直径の3.1倍から3.16倍の間である。
(ろ)直径が大きくても小さくても,円周と直径 との割合はきまっているように思われる。
この自由研究を,翌日の算数の時間に発表した。 そのあとで,先生が黒板に, (直径)× π =(円周) π = 3.14159…… と書いて,次の話をされた。 「パイは,πと読んで,円周と直径の割合を表わ す文字である。これは3.14159……と,どこまでも続いて終りのない数であるが,普通は3.14として 十分である。これは,今から約2200年前に,南イタリヤのシシリー島のシラクサに生まれたアルキメデスが発見した。
下の図のように,円の内側と外側に,ちょうどはまる正多角形では,その辺の数が多くなればなる程,そのまわりは,円周に近くなってくる。いくら円周に近くなっても,外接の場合は円周より大きく,内接の場合は円周より小さい。

そこでアルキメデスは,外接正九十六辺形のまわりの長さは直径の22/7,内接正九十六辺形のまわりの長さは直径の223/71 であることを,計算によって知った。
その結果から,πは 223/71より大きく, 22/7より小さく,その中間にあるとした。」
茂君の研究も,これではっきりした。
(1) まわりが1mの円板を作るには,半径をどれだけにすればよいか。
(2) (223/71 + 22/7) ÷ 2 を小数第五位まで求めよ。
茂君たちの班では,円周率πが円周と直径の割合であるように,円の面積と直径との間にも,きまった割合があるのではなかろうかと話し合った。 手分けして,次の実験をしてみた。

(a)方眼紙に,直径10cm,20cmの円をかき,上の図の右上四半分のように,円の四分の一の面積を数えて,外接正方形の面積とくらべる。
(b)厚紙に,直径10cm,20cmの円と,外接する正方形をかき,上の図の右下四半分のように,線の上に針を並べて立て,針の壁を作る。その壁の中に,あずきを一列にしきつめる。面積をこのあずきの数で考える。
(c)同質の同じ厚さの厚紙で,直径10cm,20cm の円と,一辺が10cm,20cmの正方形とを切り取る。それらの重さをはかって,面積の割合を考える。私たちも,このような実験をして,次のページのような表にまとめよう。
茂君たちの班では,実験の結果から,だいたい次のようなことが考えられると,話がまとまった。
(い)円の面積は,その直径を一辺とする正方形の面積のだいたい一定倍になっているらしい。
(ろ)上のことは,円の大小に関係しないらしい。
(は)0.78倍くらいという結果になった。茂君たちが,この研究を発表したあとで,先生が,次の問題をだされた。
半径5cmの円をかき,下の左(著者注;下の上)の図のように,これを十六等分して切りはなし,


上の図(上の下の図)のように並べかえてみよ。 茂君たちは,このことから,次のことを考えた。
前の上の下の図は,だいたい平行四辺形になった。円を,32等分,64等分と数多い片々に切って並 べかえると,上下の辺がなめらかになる。平行四辺形の面積は,底辺×高さ,で求められ る。図について,底辺の長さは円周の半分である ことがわかる。
そこで,どんな円でも,円周の半分に半径をかけて求められる。そのことから,次の式が作れる。 円の面積 = (半径)^2 × π
(1) 茂君たちの研究の結果を考えてみよう。 円の面積を求める式のπを3.14ときめると,円の面積は,外接正方形の面積の何倍になるか。
(2) 直径が3.5mの土俵の面積はどれだけか。
(3) 半径20cm, 50cmの円の面積は,それぞれ半径10cmの円の面積の何倍あるか。
(4) 半径5cmの円をかいて,内接する正方形をかき,円周と辺ではさまれた部分の面積を求めよ。

以上です。いかがだったでしょうか?ちなみに、この次のページから総合問題のコーナーになりますので、円に関する練習問題は末尾の(1)〜(4)のみです。
電卓とQRコードが出現!? 現代の教科書が映し出す「円の面積」の教え方
それでは、いまの東京書籍の教科書では、円の面積の導入はどのようになっているのでしょうか。私は塾人なので、学校現場がどうされているか詳しくはわかりませんが、右上の電卓が気になる。これ、使っていいんですか?


今度はあまりにも文章が少なすぎますね。「がんばる先生のための算数・数学ポータルサイト」によると以下のようなリードがなされています。
半径10cmの円の面積が、1辺10cmの正方形の面積のおよそ何倍になるかを考えます。ここで、円の半径と正方形の1辺の長さが同じであることをおさえておきましょう。
円に内接する正方形では、下半分の三角形を上側に移動させると、1辺10cmの正方形が2つできるので、面積が2倍であることがわかります。
円に外接する正方形については、1辺10cmの正方形の4倍の面積であることは、教科書の図を見てすぐに理解できるでしょう。
理解が難しい児童には、教科書のQRコンテンツを使って、確認させてもよいでしょう。
これらのことから、円の面積は、半径の長さを1辺とする正方形の面積の2倍より大きく、4倍より小さいので、約3倍という見通しをもたせます。
授業の最後には、もっと詳しく調べたいという新たな問いを児童から引き出し、次時につなげたいですね。
昭和vs現代の教科書比較!算数・数学で最も重要な「足場かけ」の最適解とは
算数・数学は緻密なスキャフォールディングがものを言う
一般に、算数や数学の学習においては、一つひとつのスキルを小さく順序立てられたステップに分解して教える『明示的指導(Explicit Instruction)』が極めて有効です。これは、ルールや手順が『なぜそう機能するのか』を明確に説明し、段階的に『足場かけ(スキャフォールディング)』を積み上げていく演繹的なアプローチです。
ビジネスの世界で言えば、複雑な市場構造を『プレファレンス(相対的好意度)』や『認知』『配荷』といったシンプルな要素に分解して攻略する戦略論と、まったく同じロジックなのです。
ですので、数学はその授業で習った日に復習しないといけない。そうしないと翌日から全くわからなくなります。逆に法則を掴んでしまえばあとは全部それで解けるので、学習する内容としては文系科目より極端に少ないと言えるでしょう。
1947年版は熟読したら概念が理解できるように丁寧に作られている
昭和22(1947)年の教科書では先生が何もしなくても、子どもがしっかり文章を読み込み作業をこなしていけば理解ができるようになっています。非常によく練られた良い教材だと思います。
一方で現代の教科書は情報量が少なすぎて、これ先生方はどうやって授業をしているんでしょうか?上記のリードを読んでも、これで授業の設計はなかなか難しいのでは、と思ってしまいます。さらに児童がこの教科書を読んだとしても理解できませんよね?
教科書は別に先生がいなくても、文を読めば内容が理解できるように作られるべきなので、現代の教科書は見やすく親しみやすく作られていますし、子どもが自分で調べたくなるような設計がされていますが、その分、誘導文が少ないのはちょっとさみしいですね。
ワーキングメモリを解放せよ!トビラAI流「手続き的知識」から入る王道ルート
まずは自動的に計算ができることを最優先にします。
ただ両方の教科書とも、残念ながらわたしには使えません。中学生・高校生なら話は別ですが、小学生にゼロから概念の理解をさせるのはかなり困難です。
Rosenshine, B(2012)によると、基本的な問題を自動的に(無意識に)こなせるようになるまで練習をさせたクラスのほうが、他の教室の生徒よりも高い学力を記録したそうです。
なぜなら、大脳基底核などの「自動的システム」に組み込まれて流暢に処理できるようになると、限られたワーキングメモリの容量が解放され、空いたリソースをより高度な文章題や代数といった複雑な問題解決に集中できるようになると言われています。ここ、大事なとこです。
何が言いたいかというと、私ならまずは、とりあえず円周の求め方、面積の求め方の公式を教えて、何度も何度も練習をさせて自動的に(無意識に)できるようになってから、限られたワーキングメモリの容量が解放されたところで、この公式の意味は何?というアプローチを取ると思います。
やり方を練習しながら概念の理解をする双方向の理解
Camilla Gilmore(2017)によると、算数の基礎は、「なぜそうなるのか」という概念的知識(宣言的システム)と、実際に手順をこなす手続き的知識(自動的システム)を両輪として回すことで定着します。 完全に理解してから練習させる必要はなく、「やり方を練習しながら概念の理解(なぜその手順がうまくいくのか)を深めていく」という反復的・双方向的なアプローチが推奨されています。
1947年版の教科書が失敗している(実際に学力低下が唱えられた)のは、緻密にスキャフォールディング(足場掛け)をしていますが、概念の理解にこだわり過ぎて練習がないことが原因です。つまり経験主義(ゆとり)が失敗したのではなく、教科書の設計がまだ小学生にとって無理があると言えると思います。
デジタルではなく、文章や数式を読み込める環境を
一方で現代の教科書は情報量が少なすぎます。自動的に円の面積が求められるようになるまで練習させてから、なぜその公式になるかは「自分で読んでこい」という宿題を出し、必要ならば話し合わせてプレゼンテーションさせますかね。そのための情報が教科書にはない。まあ、デジタルでアクセスすることができる、というのでしょうが、1947年の教科書にある緻密なスキャフォールディングの文章を70%くらいに薄めた文章を読ませたい、というのが本音です。
算数・数学は文章・数式の解説を読んでいるときが一番伸びると私は思っています。文章や数式を見て、「なんでこうなるんや?」「なんでここで3で割るねん」と考えるときが珠玉の成長の瞬間なのです。
ありがとうございました。
いかがだったでしょうか?昭和22年の緻密なストーリー設計と、現代の洗練されたビジュアル。どちらにも一長一短がありますが、私たちが目指すべきは「効率的な自動化」と「深い概念理解」の両輪を回すことです。
算数・数学の真の楽しさは、文章や数式をじっくりと読み込み、「なぜ?」と知恵を絞る珠玉の瞬間にこそあります。
この記事が、あなたの教育や日常のヒント、あるいは心地よい知的刺激になったなら幸いです。 「算数・数学の奥深さにワクワクした!」という方は、ぜひ左下の「スキ(♡)」と「フォロー」をぽちっとお願いいたします! また、あなたの周りの「考えることが大好きな仲間」や、教育の未来を模索する方々へ、X(旧Twitter)や各種SNSでこの記事をシェアして教えてあげてください。コメント欄での熱い意見交換も大歓迎です!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
感謝一入
Warm Regards,
トビラAI拝
参考文献
文部省(1947)『算数 第六学年用下 Approved by Ministry of Education』東京書籍
今日の授業のひと工夫(小中学校)"【6年⑧】円の面積の導入 ~面積の見当をつける~"https://mathconnect.tokyo-shoseki.co.jp/hitokufu/20240917-05/(2026年6月13日閲覧)
Barak Rosenshine(2012)"Principles of Instruction,Research-Based Strategies That All Teachers Should Know”International Academy of Education
Camilla Gilmore(2017)”The Interaction of Procedural Skill, Conceptual Understanding and Working Memory in Early Mathematics Achievement”,Mathematics Education Centre, Loughborough University, Loughborough, United Kingdom.
Deep Teaching Solutions"Making Math Click: Understand Math Without Fear"Courseraの講義
トビラAIプロフィール
※ 本稿では画像生成と文章の推敲に生成AIを使用しています。
