決済の教科書 第4回: 海外送金はなぜ遅くて高いのか——コルレス銀行の世界
国内の振込は数秒で届き、手数料は数百円。ところが海外送金になると、数日かかり、数千円取られ、しかも「いくら着くか正確には分からない」と言われる。この落差の正体を、今回は解剖します。
根本原因: 世界には「世界銀行間の日銀」がない
第3回までで見た国内の仕組みは、全銀システムという共通の伝達網と、日銀当座預金という共通の決済場所があって初めて成立していました。国境を越えると、この2つが消えます。円とドルでは中央銀行が違い、世界共通の「当座預金」は存在しません。
そこで銀行たちは、お互いに口座を持ち合うという方法を編み出しました。日本のA銀行が米国のC銀行にドル建て口座を開き、C銀行も必要ならA銀行に円建て口座を持つ。この提携関係をコルレス契約、口座を持ち合う相手をコルレス銀行と呼びます。自行が海外に持つ口座をノストロ勘定、相手が自行に持つ口座をボストロ勘定と呼び分けます。
海外送金の実態は「口座の数珠つなぎ」
あなたが日本のA銀行から、ブラジルの地方銀行Z銀行に送金するとします。A銀行はZ銀行と直接のコルレス契約を持っていないことがほとんどです。すると送金は、A銀行→(A銀行のコルレス先である)米大手C銀行→(Z銀行のコルレス先である)ブラジルD銀行→Z銀行、というように中継銀行の数珠つなぎで運ばれます。
各中継点で起きることを想像してください。手数料の控除(着金額が減っていく理由です)、マネロン・制裁のチェック(止まる理由です)、営業時間と時差(遅い理由です)。国内送金が高速道路なら、伝統的な海外送金は、国境ごとに検問と両替所のある峠道です。
それでも縮んでいくコルレス網
さらに悩ましいことに、この峠道は増えるどころか減っています。マネロン対策の強化で、大手銀行はリスクの高い国・銀行とのコルレス関係を切る傾向を強めました(デリスキング)。結果、一部の国では送金経路そのものが細り、送金コストが上がる——G20が国際送金の改善を政策課題に掲げた背景には、この構造問題があります。
改善の3つの潮流
①既存レールの高速化。 SWIFTのgpiという仕組みで送金の追跡が可能になり、多くの送金は実際には数時間〜1日で届くようになりました(詳しくは次回)。
②「送らない」工夫。 新興の送金事業者の多くは、実は国境をまたいでお金を送っていません。各国にあらかじめ資金プールを置き、日本で受けた円は日本のプールに入れ、ブラジルのプールから現地通貨で払う。峠道を通らず、両側の麓に倉庫を置く発想です。
③レールの作り直し。 各国の即時送金網どうしを直接つなぐ構想(国際決済銀行のProject Nexusなど)や、ステーブルコイン・トークン化預金による新しい経路の実験が進んでいます。ここは本シリーズの卒業後、「AIxオンチェーン金融の読み解きシリーズ(全10回)」でどうぞ。
次回は、今日名前だけ出てきたSWIFTの正体です。「SWIFTでお金を送る」という表現、実は間違いなのです。
