第9回: AMLの「オンチェーン機能集約」——Compliant by Designが国策になった日
提言には、投資促進のインセンティブ設計として印象的な一節があります。マネロン対策(AML/CFT)を各金融機関で個別に行うのではなく、オンチェーン上に機能集約することで負担を軽減するという方向性です。
私はかねて「Compliant by Design」——規制要件を後付けのチェックではなく、最初からプロトコルとデータ構造に組み込む設計思想——を提唱してきました。この一節は、その思想が国の政策文書に(言葉は違えど)書き込まれた瞬間だと受け止めています。
「機能集約」が変えるコスト構造
現在のAMLは、全銀行が同じ制裁リストを買い、似たシステムを個別に構築し、同じ取引を別々にスクリーニングする多重投資の世界です。金融機関の固定費の中でも重量級であり、地域金融機関ほど相対的な負担が重い。
オンチェーン集約は、この構造を根本から変え得ます。検証済みのウォレット属性(KYC済み・制裁非該当)をチェーン上の共通機能として持てば、個々の取引は「検証済み同士か」を参照するだけになる。欠落データの取引は審査で弾くのではなく、そもそも流れない。私がCompliant by Designの中核と呼んできた設計そのものです。
ただし、設計を誤ると監視インフラになる
機能集約には裏面があります。全取引が単一の検証基盤を通る構造は、設計を誤れば強力すぎる監視装置になり、プライバシーと金融包摂を毀損します。「何を共通化し、何を各行と本人の手元に残すか」の線引きこそが、これから数年の最重要の設計論点です。ゼロ知識証明のような「証明はするが開示しない」技術の出番も、まさにここにあります。
この論点で悩む金融機関・事業者の方は、ぜひ議論しましょう。規制を仕様に変える作業は、一人でやるものではありません。
