決済の教科書 第2回: 全銀システムとは何か——半世紀動き続ける、日本のお金の大動脈
「全銀システム」という名前を、ニュースで見かけたことがあるかもしれません。日本のほぼすべての銀行振込が通る場所でありながら、その仕組みが平易に語られることは驚くほど少ない。第2回は、この「お金の大動脈」を正面から解説します。
何をしているシステムなのか
正式には全国銀行データ通信システム。運営は全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)という組織が担っています。役割は大きく2つです。
①電文の中継: A銀行からB銀行への振込指図を、確実に・高速に届ける
②清算(クリアリング): 「どの銀行がどの銀行にいくら払うべきか」を集計する
前回見た通り、実際の銀行間のお金の受け渡し(決済)は日銀当座預金で行われます。全銀システムは「運び屋」と「帳簿係」であり、金庫番は日本銀行——この役割分担を押さえると、全体像は一気にクリアになります。
1973年生まれ、世界の先頭を走ってきた
全銀システムの稼働は1973年。銀行間の振込指図を紙とテレックスでやり取りしていた時代に、全国規模のオンライン網を作り上げました。以来、約8年ごとに世代交代を重ね、現在は第8世代が稼働しています。
特筆すべきは、その安定性です。半世紀にわたり、平日日中の勘定系接続でほぼ止まらずに動き続けてきた。1日あたり数百万件から時に1千万件を超える振込を、営業日ごとに処理し続けるシステムとしては、世界的に見ても屈指の実績です。
清算の仕組み——「差額だけ」の知恵
全銀システムの清算の基本は、時点ネット決済と呼ばれる方式です。1日の間に、A銀行からB銀行へ1,000件・計50億円、B銀行からA銀行へ800件・計48億円の振込があったとします。これを1件ずつ銀行間で決済する代わりに、差額の2億円だけをA銀行がB銀行に払えば帳尻が合う——この「差額だけ」の知恵で、銀行が用意すべき資金を劇的に減らしています。
ただしネット決済には弱点があります。決済のときまで、銀行同士がお互いに「ツケ」を抱えることです。どこかの銀行が決済前に破綻したら?——このリスクを抑えるため、1件1億円以上の大口は2011年から、ネットにせず1件ずつ日銀当座預金で即時決済するRTGS方式に切り替えられました。小口は効率のネット決済、大口は安全のRTGS。金額でリスクを仕分ける設計です。
さらに、万一に備えて参加銀行は担保を差し入れ、仲間の破綻時に備える流動性供給の仕組みも整えられています。「性善説で回っているのでは」と思われがちな銀行間決済は、実際には幾重ものリスク管理で武装しています。
24時間化と、参加者の広がり
2018年、モアタイムシステムの稼働により、参加銀行間の振込は24時間365日化しました。また従来は銀行だけの世界だった全銀システムに、2022年の制度整備を経て資金移動業者(いわゆる○○ペイの事業者など)が参加できる道が開かれました。銀行のためのインフラから、決済に関わる事業者のためのインフラへ——参加者の定義そのものが、静かに広がりつつあります。
大動脈の「次」を考える時代へ
半世紀を支えた電文の形式(固定長と呼ばれる、桁数の決まったフォーマット)は、世界標準のISO 20022という新しい共通言語への移行が課題になっています。また、トークン化預金やステーブルコインといった新しいお金の形と、この大動脈がどう接続するのか——次の決済基盤のあり方についての検討も公表されています。
半世紀前、紙の指図をオンラインに変えた人たちがいた。いま私たちは、その次の設計を考える順番にいます。この教科書シリーズの土台の上で、最先端の議論は「10講」シリーズでどうぞ。
次回: 第3回「日銀ネットと日銀当座預金——銀行の銀行の仕組み」。今日「金庫番」とだけ紹介した日本銀行の役割を解剖します。
