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【世界のオンチェーンプロジェクト File.012】Partior

商業銀行マネーだけで、多通貨の即時決済網を作れるか

「コルレス銀行をなくす」のではなく、銀行間マネーの移動方法を作り直す

最終更新:2026年8月

Project mBridgeは、複数国の中央銀行マネーを一つのDLT上で直接交換するモデルでした。

Project Agoráは、商業銀行預金と中央銀行準備を組み合わせます。

では、中央銀行が新しいCBDC基盤を作らなくても、銀行自身のマネーだけで多通貨の即時決済網を作ることはできないか。

それを商用環境で進めているのが、シンガポール発のPartiorです。

Partiorは現在、DBS、J.P. Morgan、Standard Chartered、Deutsche Bank、Emirates NBDなどが利用する、プライベート・パーミッション型のマルチカレンシー清算・決済ネットワークへ成長しています。USD、EUR、SGDで商用利用実績があり、2026年7月にはEmirates NBDが中東初の参加金融機関としてリアルタイム米ドル決済を開始しました。


Partiorは何を共有するのか

Partiorは顧客預金を直接保有しません。

顧客関係、資金、顧客データは参加銀行側に残り、Partiorは共有された決済レイヤーを提供します。ネットワークはパブリックチェーンではなく、許可された金融機関だけが参加するprivate permissioned ledgerです。

従来のコルレス決済では、銀行Aから銀行Dへ支払う際、

A → B → C → D

と複数銀行の台帳を順番に更新します。

Partiorでは、参加銀行が同じ共有台帳上で決済状態を見るため、

「銀行ごとに異なる帳簿を後から照合する」処理を、「一つの共有状態を確定する」処理へ変える

ことができます。


Settlement Bankという重要な役割

Partiorを理解するうえで重要なのがSettlement Bankです。

例えば2025年のユーロ取引では、Deutsche BankがSettlement Bankとなり、DBSがBeneficiary Bankとして参加しました。

つまり、「すべての銀行が同じトークンを発行する」のではありません。

各通貨について決済資金を提供する銀行と、それを利用して顧客支払いを行う参加金融機関がネットワーク上で役割分担します。

これは商業銀行マネーを使った、いわばデジタル・コルレス銀行モデルです。

ただし従来と違い、

処理は連続したメッセージ交換ではなく、共有台帳上でリアルタイムに確定します。


FXではPvPが可能になる

Partiorのもう一つの重要な機能がFXです。

ドルとユーロを交換する場合、

ドルだけ支払われてユーロが届かないというHerstatt Riskを防ぐため、両通貨を同時に交換するPayment versus Payment、PvPが必要です。

Partiorは共有台帳上で二つの通貨レッグをアトミックに処理し、24時間利用可能なFX Settlementを提供しています。

従来のFX市場では、約定は24時間に近く動いていても、決済インフラの利用時間や通貨によって制約があります。

Partior型では、

取引時間と決済時間を近づける

ことができます。


日本との接点——DCJPY

日本から見て重要なのが、SBI新生銀行、DeCurret DCP、Partiorの連携です。

2025年9月、3社はDCJPYを含む円建てトークン化預金とPartiorの多通貨決済ネットワークを接続する検討を開始しました。

構想では、国内の閉じたチェーン上に存在する円建てトークン化預金をPartiorへ接続し、USD、EUR、SGDなどとのリアルタイム・クロスボーダー決済を目指します。Partior側もJPYを対応通貨へ追加する方針を示しています。

これは重要です。

オンチェーン金融で「相互運用」というと、同じトークンを別チェーンへBridgeするイメージを持ちやすい。

しかし、銀行マネーでは必ずしも同じトークンを移動させる必要はありません。

国内円預金ネットワークと国際外貨決済ネットワークを、決済状態で接続する

という方法もあります。


mBridgeとの違い

mBridgeでは、中央銀行自身がCBDCを共通基盤へ発行します。

Partiorでは商業銀行が中心です。

mBridgeは、

中央銀行マネーを共通化する。

Partiorは、

商業銀行マネーの決済市場を共通化する。

という違いがあります。

Partiorは将来のCBDCとの相互運用も想定しており、中央銀行マネーを否定するモデルではありません。むしろ民間銀行マネーの取引レイヤーを先に構築し、その決済アンカーを将来的に中央銀行マネーへ接続できる構造です。


Partiorが示したこと

Partiorの重要性は、「DLTで国際送金できた」ことではありません。

共有台帳型の銀行間決済がPoCではなく商用サービスとして動いていることです。

しかも中央銀行が新しい基盤を用意するまで待っていません。

銀行マネーを使い、

共有ルールを作り、

Settlement Bankを置き、

複数通貨を載せ、

既存銀行システムと接続する。

タイトルの問いへの答えは、

商業銀行マネーだけでも、多通貨の即時決済網は作れる。
ただし「銀行預金を一つのトークンに統一する」のではなく、複数銀行のマネーを共有決済レイヤーで同期する必要がある。

です。


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