【世界のオンチェーンプロジェクト File.014】 Kinexys/JPMD
先進米銀の預金トークンは、公開チェーンへ出られるか
「パブリックチェーン」と「パーミッションレス」を分けて考える
最終更新:2026年8月
銀行のトークン化預金は、これまで主に銀行自身が管理する許可型ネットワークで使われてきました。
J.P. MorganのKinexysもその代表例です。
しかし2025年、同行は大きく方向を広げました。
米ドル建て預金トークンJPMDを、Coinbaseが開発したEthereum Layer 2のBaseへ発行したのです。
2025年11月にJPMDはPoCから商用利用へ移行し、J.P. Morganの機関投資家顧客がBase上のEVM互換ウォレット間で24時間利用できるようになりました。
「公開チェーンに銀行預金」という一見矛盾した構造
Baseはパブリックブロックチェーンです。
誰でもブロックを参照できます。
しかしJPMDは誰でも自由に保有できるトークンではありません。
J.P. Morganの機関顧客など、許可された参加者に限定されます。
つまり、
NetworkはPublic。
AssetはPermissioned。
という構成です。
これは金融機関のパブリックチェーン利用を考えるうえで非常に重要です。
「パブリックチェーンを使う」と「誰でも自由に取引できる」は同義ではありません。
既存Kinexysとの違い
Kinexysでは従来からBlockchain Deposit Accounts、BDAを使い、銀行顧客が24時間資金を移転できる仕組みを提供してきました。
2026年6月にはAUD、HKD、JPY、RMB、SGDが追加され、BDAは8通貨へ拡大しました。日本円ではJERA Global Marketsが企業グループ内の資金管理に利用しています。
一方、JPMDは銀行内部の許可型ネットワークから外へ出ます。
Base上には、
デジタル資産、DeFiアプリケーション、カストディ、取引所、ウォレットなどのエコシステムがあります。
そこへ銀行預金そのものを決済資産として持ち込むことがJPMDの意味です。
なぜステーブルコインではないのか
公開チェーン上ではUSDCなどのステーブルコインがすでに広く使われています。
それでも銀行がDeposit Tokenを出す理由があります。
JPMDはJ.P. Morganの預金債務をデジタル表現したものであり、銀行預金としての信用プロファイルと規制枠組みを引き継ぐと同行は説明しています。
企業から見れば、
銀行口座からステーブルコインを購入する
→ オンチェーンで使う
→ 再び銀行預金へ戻す
のではなく、
銀行預金そのものをオンチェーンで使う
という選択肢になります。
では「一行問題」は解決するのか
いいえ。
JPMDはあくまでJ.P. Morganに対する預金です。
Bank of AmericaやCitiの預金ではありません。
したがって、
JPMD → 他行Deposit Token
をどう交換するかという問題は残ります。
ここでThe Clearing House、Partior、Swift Ledgerなどの共同ネットワークが重要になります。
Kinexys/JPMDは「一行のトークン化預金を高度化する」アプローチ。
TCHやPartiorは「複数行の銀行マネーを接続する」アプローチです。
両者は競合というより、異なるレイヤーです。
Kinexys/JPMDが示したこと
Kinexysは2026年4月時点で累計3兆ドル超、日次平均50億ドル超を処理していると公表しています。
つまり、銀行DLTはすでに「実証だけ」の領域ではありません。
そして次の段階として、銀行自身が管理する閉じたネットワークから、公開ブロックチェーンへ銀行マネーが出始めました。
タイトルの問いへの答えは、
一行の預金トークンは公開チェーンへ出られる。
ただし、公開するのはネットワークであって、銀行の参加者管理まで放棄する必要はない。
です。
これは今後の金融ブロックチェーン設計で重要な考え方になるでしょう。

