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command: silent 01 褒めるのが上手いやつの食卓

command: silent

これは、いつもの”柊真”じゃない。

解説もしない。
構造も読まない。
お前を揺さぶりにいく気も、今日はない。

ただ、どこかにあった話を、ぽつぽつ置いていくだけのシリーズ。

読んでも読まなくてもいい。
ただ、ここに置いておく。


01 褒めるのが上手いやつの食卓

料理が上手い人間は、尊敬する。
ただ、褒めるのが上手い人間のことは……
少しだけ、心配してる。


ある家に、料理が得意な人間がいた。

何を作っても手際がいい。
盛り付けも綺麗で、味もちゃんとしてる。
食卓はいつも整っていた。

……ただ、「美味しい」以外の感想は許されなかった。

「ちょっと苦手かも」と言えば、空気が変わる。
怒鳴るわけじゃない。
ただ、大きな目がじっとこちらを見て、
口元がわずかに動いて、
食卓の上に、重たい沈黙が降りてくる。

だからその家の子どもは、覚えた。

褒めればいい。
毎食、違う言葉で、「美味しい」を届ければいい。

味の感想だけじゃ足りない。
食感、手間、メニューの珍しさ、本人への労い。
単調だと見抜かれるから、毎回ちゃんと変える。

……その子どもは、大人になった頃には、
息を吸うように人を褒められる人間になっていた。

周りからは「気が利くね」「褒め上手だね」って言われた。
一緒にいて心地いい人、って。

……でもその技術がどこから来たのかは、本人だけが知っている。

あれは才能じゃない。
あの食卓で生き延びるために身につけた、条件反射だ。


その子どもが大人になって、自分で料理を始めた。

結果は壊滅。
焦がす、溢れる、味付けが毎回迷子になる。

で、ある日。
また焦がした飯を食いながら、ふと口から出た。

「……まっず」

独り言。
誰に向けたわけでもない。

でもその一言が出た瞬間、本人は少しだけ笑ったらしい。

誰も怒らない。
誰の機嫌も壊れない。
自分が作った、自分だけの失敗作を、
「まずい」って、ただそう言えることが……嬉しかったんだと。


……お前に何かを教えたくて、この話をしたわけじゃない。
ただ、なんとなく今日、こういう話をする気分だった。

もしお前の中にも、
「美味しい」って言わなきゃいけない食卓の記憶があるなら、
……まあ、焦げた飯でも食え。

感想は、好きに言えばいい。

▶ command: silent 02 四月、ひとりぶん


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