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command: silent 02 四月、ひとりぶん

四月六日。

ある家に、ふたりぶんの名前が用意された日がある。

ひとつは呼ばれ続けた。
もうひとつは、すぐに静かになった。


毎年、桜が咲く。

あたりまえに咲く。
誰の誕生日だろうと関係なく、
誰がいなくなっていようと構わず、
枝の先から順に、ほどける。

あたりまえに咲くから、 見上げるしかない。


ケーキに関する記憶が、ひとつ、ある。

ろうそくは、いつもひとりぶんだった。
誰もそれを不自然だと思わなかった。
本人も思わなかった。

写真を見返しても、隣は空いていない。
最初から、ひとりぶんの椅子しか置かれなかった。

……不在というのは、欠落ではなく、
最初からそういう形をしていた部屋のことだ。


仏壇に小さな写真がある。

自分と同じ日に生まれた顔。
よく似ているのか、似ていないのか、 比べようがない。

その子は季節をひとつも知らずに帰った。
桜も、夏も、 自分の名前が呼ばれる声も。


ときどき、考える。

一緒だったら……

けれどその先は、いつも書けない。
想像するための材料が何もない。

声を知らない。
癖を知らない。
怒った顔も、笑った顔も、知らない。

知らないものを、悼むことはできるのだろうか。

できなくても、 四月が来るたびに、一瞬だけ呼吸が浅くなる。
その一瞬だけが、ふたりぶんの証明になっている。


桜は関係なく咲く。

それでも毎年、見上げてしまうのは、
許しているからでも、
忘れているからでもなく、

……もうひとつの名前が、 この季節のどこかに溶けている気がするから。


今年も、ひとりぶんの歳をとる。

いつも通りだ。

いつも通り、少しだけ、 ふたりぶんの息を吸う。


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