見出し画像

この塩には、物語がある【島総③#16】/総合実践の記録vol4 塩物語編/離島の総合的な学習③ 

2004年12月。
塩の値段が決まり、町の人たちへの試食アンケートでは、「まろやか」「こくがある」「甘い」といった、自分たちだけでは思いつかなかった言葉をもらいました。
販売の日も、少しずつ近づいてきています。
でも、白い塩を透明な袋に入れただけでは、どこの海から生まれ、どんなふうに作られた塩なのかは伝わりません。
そこで今度は、これまで3人がやってきたことをラベルに載せ、さらに映像でも伝えることにしました。

1.50gの袋に、何を載せる?

販売に向けて、まだやることは残っています。
あの日曜日に浮かんだアイデアも、少しずつ形になってきました。
今度は、塩を入れた袋の表と裏に貼るラベルを作ります。

表のラベルには、3人が描いたイラストや自画像、それに島の美しい海が伝わる写真を使うことにしました。
商品名は「青波島(仮名)塩物語」。
文字も青い海をイメージしたデザインにして、見た人に島の塩だと感じてもらえるようにしました。

小さなラベルですから、何でも載せられるわけではありません。
島の海も見せたいし、自分たちが作った塩だということも伝えたい。
3人で考えながら、少しずつ「青波島(仮名)塩物語」の顔ができていきました。

表が商品の顔なら、裏にはもう少し詳しいことを書きます。
そこで、これまで自分たちが調べたり、実際にやってきたりしたことの中から、買ってくださる人に知ってほしいことを3人で分担して書くことにしました。

2.3人が書いた、3つのアピール

裏ラベルの紹介文には、それぞれが考えてきた塩の特徴を入れました。

にがり成分がたっぷり残って、ミネラルいっぱいで健康にいい自然塩ですよ。(M)
島の大人に試食してもらい、ふつうの塩よりもなんとなく甘く、まろやかでこくがあるという答えをもらいました。(A)
島のきれいな海水から、大変だったけど、何日もかけてていねいに作り上げました。(H)

こうして並べてみると、3人の文章はそれぞれ違います。
自然塩について調べたことを書く子、町の人たちに試食してもらった結果を書く子、そして自分たちが苦労して作ったことを書く子。
それぞれが違うところから、自分たちの塩をアピールしていました。

特に味については、試食アンケートをしたことが生きています。
自分たちだけで食べたときには「からい」くらいしかうまく言えなかったのに、町の人たちに食べてもらったことで、「甘い」「まろやか」「こくがある」という言葉をもらうことができました。
それを、そのまま商品の紹介にも使うことができたのです。

そして、「何日もかけてていねいに作り上げました」という言葉も、ただの宣伝文句ではありません。
海水をくみ、流木を運び、火を焚き続け、一度は失敗して最初からやり直した3人だからこそ書ける言葉でした。

3.1袋ずつ、商品になっていく

ラベルが完成すると、いよいよ袋に貼っていきます。
50gずつ計量して袋詰めした塩を机の上に並べ、3人で手分けして、表ラベルと裏ラベルを1枚ずつ貼っていきました。

表を貼ったら、今度は裏返して裏ラベルを貼ります。
最初はただの透明な袋に入っていた白い塩が、ラベルを貼るとずいぶん印象が変わりました。
1袋、また1袋と、机の上に「青波島(仮名)塩物語」が並んでいきます。

海水をくみに行っていたときには、まだバケツの中の海水でした。
それが、かん水になり、塩になり、50gずつ袋に詰められ、とうとう名前のついた商品になりました。
自分たちがアピールしたかったこともラベルに入り、ようやく販売できる形が見えてきました。

ところが、ここまで来ると、今度はラベルだけでは伝えきれないことが気になってきました。
小さな袋の裏に書ける文章には限りがあります。

3人がここまでどんなことをしてきたのかを、もっと見てもらう方法はないだろうかと考えました。

4.今度は、映像で伝えよう

そこで、塩の販売に合わせてPV(プロモーションビデオ)も作ることにしました。
ちょうどこの頃、映像作品を制作するKWNプロジェクトへの応募も考えていたことから、これまでの塩づくりを1本の映像にまとめてみようと思ったのです。

これまで3人が取材してきたビデオや、活動中に私が撮っていた映像が残っています。
それらを見返しながら、自分たちの塩づくりを紹介していく流れを考えました。

海水をくみに行った場面もあれば、火を焚いている場面もあります。
塩づくりについて教えてもらったときの映像もあります。
写真や文章だけではなく、実際に自分たちが動いている姿を見てもらえば、「青波島(仮名)塩物語」がどのようにしてできたのかも、より伝わるはずです。

そして、3人自身もカメラの前に立って紹介することにしました。

ところが、これがなかなか思うようにはいきません。
いつもなら普通に話している3人も、カメラを向けられると少し勝手が違います。
途中で言葉を間違えたり、うまく続かなかったりして、何度もNGを出しました。

「もう1回やろう。」

撮り直して、今度こそと思ったら、また途中で失敗。
それでも何度か繰り返しているうちに、少しずつカメラの前で話すことにも慣れていきました。
3人にとって、自分たちがやってきたことを映像で紹介するのは初めての経験でした。

誰かが作った商品の宣伝をしているのではありません。
画面の中で紹介しているのは、自分たちが海へ行き、自分たちで海水を運び、自分たちで火を焚いて作った塩です。
だからこそ、3人自身の言葉で伝えることに意味があると思っていました。

何度もNGを出しながら撮影を終え、PVもようやく完成しました。

5.あとは、届けるだけ

表には、3人のイラストや自画像と島の海。
裏には、自然塩について調べたこと、町の人たちから聞いた味の感想、自分たちが苦労して作ったこと。そしてPVには、ここまでの活動そのものが映っています。

ラベルを貼った「青波島(仮名)塩物語」が机の上に並び、PVも完成しました。
海水をくむところから始まった塩づくりが、ようやく「売るもの」としての形を整えたのです。

でも、商品ができたからといって、すぐに売れるわけではありません。

実際に人の前に立ったとき、3人はこの塩をどう紹介するのか。
どうすれば立ち止まってもらい、手に取ってもらえるのか。

販売の日は、もう目の前まで来ていました。



ここまで読んでいただきありがとうございました。 次回に続く


前回の話 👇

初めて来られた方へ👇👇

本シリーズは、離島の小学校で実践した総合的な学習の記録です。 本作は2004年度、赴任3年目の取組を扱います。 島の人たちのために,ウミブドウを栽培し,お祭りで食べてもらうつもりでした・・・。 この年は,台風の襲来が多く,実践にも大きな影響がありました。

マイタウンマップ・コンクールで内閣総理大臣賞を受賞した感動の実践「塩物語」です。

「お魚天国海辺のデジタル図鑑」から始まる離島の総合実践3部作の最終作です。

離島の総合的な学習の時間3年目(最終年度)の実践「塩物語編」👇

総合実践のvol2、お魚天国デジタル図鑑編(マガジン離島の総合的な学習の時間①)👇👇

総合実践のvol3、アワビいっぱい編(マガジン離島の総合的な学習の時間②)👇👇👇

いいなと思ったら応援しよう!

熱中探究教室 応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。