受賞の裏で線をつなぐ夜【島ICT#15】/離島のデジタルデバイド編
農林水産大臣賞の公式発表を受け、児童とともに市長・教育長への表敬訪問を行った。
総合的な学習の時間で子どもたちが完成させた「おさかな天国青波島 海辺のデジタル図鑑」が、全国コンクールで評価された結果である。
表敬訪問のかたわら、学校の公式ホームページ開設に向けたプロバイダ契約が認められ、島内向けイントラネット構築へ向けた準備も着々と進み始めていた。
受賞の裏で進んでいた、その記録である。
前回の話👇
本シリーズの背景(初めて読まれる方へ)
今から20年以上前の2002年4月。
連絡船が頼りの離島の小学校に、一人の教師が赴任した。
島では、家庭でも学校でも、インターネットは日常的に使えるものではなかった。
そうした制約の中で、教師は総合的な学習の時間を通して、学びを島の外へ、そして島の人たちへ届けようとした。
ICTは目的ではなく、手段だった。
やがて、学びを支えるために、島の通信環境そのものをどう整えるかという問いに向き合うことになる。
プロジェクトI(アイ)と名付けたこの取組で目指したのは、学校だけでなく、地域全体が情報へアクセスできる環境をつくることだった。
1教師の力でそんなことできるのだろうか?
それでも、たとえ究極のゴールに届かなくても、そこへ向かうための「足がかり」だけでも残せたらいい。
そう考えていた。
その後、総合的な学習の時間で子どもたちが制作したデジタル図鑑は、全国コンクールで評価を受けることになる。
一方で、その成果を島の人たちが自由に見ることができないという矛盾も、次第に浮かび上がってきた。
本シリーズは、その違和感を起点に、学びを地域へ届けるための具体的な手立てを模索し、通信環境の整備へと踏み出していく過程を描いている。
「マガジン 離島のデジタルデバイド挑戦」
1 念願への一歩
2月21日,表敬訪問の当日、私はその前に教育委員会を訪ねた。
受賞した「おさかな天国」のホームページが、いまは私個人のスペースに置かれていることを説明し、できれば公式の場所に移せないか、その可能性を尋ねるためだった。
直接担当の方と話を重ねる中で、話は思いがけない方向へ進んだ。
結果として、教育委員会としてプロバイダを借りていただけることになったのである。
それは、学校の公式ホームページを立ち上げるための準備が、ようやく整ったことを意味していた。
学校のホームページは、いわば学校の顔である。
それができるということは、今後の可能性が大きく広がるということでもあった。
この学校に来て以来、ずっと思い描いてきたことだった。
前任校でも公式ホームページを立ち上げたが、ここでもまた同じことができるかもしれない。
そう思うと、胸の奥から喜びがこみ上げてきた。
もっとも、公式ホームページとはいえ、島からFTPによる更新ができない状況に変わりはない。
それでも、確かに一歩前へ進んだと感じていた。
ただ、まだ書類を受け取った段階にすぎない。
早急に必要事項を記入して提出し、その後に正式なプロバイダ契約となる。
契約が整い次第、まずは受賞したホームページを移すつもりでいた。

公式ホームページの本格的な運用は、できれば来年度の開始に間に合わせたい。
外部向けである以上、目的と内容を絞り、慎重にコンテンツを決めていく必要がある。
一方で、島内向けにはプロジェクトIによるイントラネットのホームページを運営する。
二つのホームページを抱えることになるが、負担以上に、広がる未来の方が大きく感じられた。
2 動作確認の夜
2月24日。
この日は、何が何でも「プロジェクトI」を進めなければならないという思いで学校へ向かった。
できるだけ早く、島の人たちに「おさかな天国」を見てもらいたかった。
とはいえ、授業がある以上、腰を落ち着けて作業できるのは放課後になってからだった。
最初に手をつけたのは、学校側に置くパソコンの設定だった。
場合によっては再インストールが必要かもしれないと思っていたが、そのパソコンは昨年度、私が前任校の学級で使っていたものだった。
和菓子プロジェクトで、和菓子屋さんのご主人に質問を書き込むための掲示板にアクセスしたり、日直の子どもたちにデジカメ写真を取り込ませて学級日誌を書かせたりしていた機体である。(和菓子プロジェクト編 第5回 子どもたちと職人の対話が生んだ、新たな発想 参照)
OSはすでにWindows98にアップグレードしてあり、ネットワークカードも差してある。
IPアドレスとユーザー名、ワークグループを変更するだけで、設定は終わった。
次に、待合室側に置くパソコンの設定に取りかかった。
こちらは予想以上に手こずった。
IBMのAptivaで、当時の私はNECの機種しか触ったことがなく、プリインストールされたソフトの多さに戸惑った。
いっそのこと再インストールしようと考えたが、起動用のフロッピーが見当たらない。
仕方なく、不要なソフトを一つずつアンインストールし、必要最低限の状態に整えた。
その後、ネットワークカードを取り付け、設定を行った。
作業の途中で中学校の先生に来てもらい、アンテナの取り付けについて相談した。
翌日の昼には、現地を一緒に確認していただけることになった。
さすが技術家庭科の先生で、本格的な配線工事については、私よりもはるかに経験があった。
風対策も含め、必要な部品を追加で用意してくれるという。
時間はかかっても、後々のことを考えれば、きちんとした形で進めるべきだとその時感じた。
3 つながった瞬間
学校での作業の最後に、2台のパソコンを有線LANで結んでみた。
問題なくネットワークがつながった。
ここでこの日の作業を切り上げてもよかったのだが、思い切って無線アンテナを使った動作確認まで進めることにした。
300メートルもの無線LANを本格的に設置する前に、近い距離で本当に無線通信が成立するのか、確かめておきたかったのである。
ところが、IBMのパソコンがなかなか起動しない。
OSがWindows95であることが影響しているのかもしれないと考えながら、何度か立ち上げ直すと、ようやく起動した。
その隙を逃さず、無線アンテナをそれぞれに接続し、アンテナ本体のIPアドレスが重ならないよう設定をやり直した。
ネットワークを確認すると、無事につながっている。
試しにPINGを打ってみても、応答は返ってきた。
「やった!」
思わず誰かに伝えたくなったが、校舎にはもう誰もいなかった。
静まり返った学校で、一人小さくガッツポーズをし、達成感をかみしめた。

準備は万端と言いたいところだが、不安が完全に消えたわけではない。
それでも、確実に一歩前に進んだことだけは、はっきりしていた。
4 二つのネットワーク
2月26日。
プロジェクトI用の学校サーバーとなるパソコンと、職員室に置いている自分用のパソコンをネットワークで結んだ。
自分用のパソコンには、もう一枚ネットワークカードを追加し、二つのネットワークを同時に扱えるようにした。
このパソコンから、島の待合室に向けたホームページを制作していくつもりである。
受賞という出来事の裏側で、こうした地味な作業が積み重なっていく。
島の人たちに学びを届けるための準備は、静かに、しかし確実に形を取り始めていた。
しかしながら,3日後には子どもたちを東京での表彰式へ連れて行くことになっていた・・・。
次回へ続く。
最後まで読んでいただき,ありがとうございました。
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