見出し画像

誰のアワビが先に見つかるかな?【島総②#22】/vol3 アワビいっぱい編/離島の総合的な学習② 

2004年3月の放流の日を前に、子どもたちはアワビに付ける“標識”づくりの練習を始めました。

ダイモテープを小さく切り抜き、貝殻へ貼り付ける細かな作業。 ピンセットを手に悪戦苦闘しながらも、子どもたちは少しずつコツをつかんでいきます。

不器用さも、失敗も、未来の海へつながる大事な準備でした。


1.古い文具店で見つけた“懐かしい道具”

2月に入ったある日、町の文具店へ電話をかけました。

「ダイモテープ、まだありますか?」

受話器の向こうで少し間があってから、「ありますよ」という返事が返ってきました。
思わず、ほっとしたのを覚えています。

ダイモテープ。
今ならテプラやネームランドに役目を譲った、あの懐かしいラベル作成機です。
文字を一文字ずつ打ち込み、ぷくっと浮き上がった文字が並ぶカラフルなテープ。
中学生の頃、自分の持ち物に貼るのが妙に楽しくて、赤や青、黄色のテープを選んでは夢中になって打っていた記憶があります。

店で実物を手にした瞬間、時間が少し巻き戻ったような気がしました。

けれど、今回は懐かしさに浸るためではありません。
この道具には、総合的な学習の時間で大事な役割がありました。

子どもたちが育てているアワビを、もうすぐ海へ放流します。
そのアワビに“標識”を付けるために、ダイモテープが必要だったのです。

以前、水産研究所の方が学校へ来てくださった時に教えていただきました。

放流したアワビが何年後かに水揚げされた時、「どこで育てられたアワビか」が分かるようにするには、簡単には剥がれない丈夫な標識が必要になる。
その方法として、ダイモテープがちょうどいいのだそうです。

私は、ダイモテープと一緒に、1穴パンチ、ピンセット、カッティングシート、接着剤も買い込みました。

子どもたちにとっては、かなり細かな作業になります。
うまくできるだろうか。

そんな期待と少しの不安を抱えながら、火曜日の練習日を待っていました。

2.「アワビいっぱい大作戦」の放流準備

それから数日後。

総合的な学習の時間「アワビいっぱい大作戦」では、いよいよ放流の日が近づいてきていました。

子どもたちは、稚貝の頃からアワビを育ててきました。
毎日水を替え、餌を与え、小さな変化に一喜一憂しながら世話を続けてきたのです。

今日は、そのアワビに標識を付けるための“練習の日”でした。

とはいえ、いきなり本物のアワビで練習するわけにはいきません。
使ったのは、ナガレコ・・・トコブシの貝殻です。

最初に、水産研究所の方から以前見せていただいたビデオをみんなで見返しました。
子どもたちも、いつもより真剣な表情です。

説明が終わると、いよいよ作業開始。

まず、ダイモテープに自分の名前の頭文字を打ち込みます。
そして、その文字部分を丸く切り抜き、接着剤で貝殻に貼り付ける。
さらに瞬間接着剤で補強して完成です。

言葉にすると簡単ですが、実際にはなかなか大変でした。

小さな文字を切り抜く作業は細かく、子どもたちはピンセットを使いながら悪戦苦闘していました。
少し力を入れすぎるとテープが飛び、逆に慎重になりすぎると今度はうまく剥がれない。

「先生、これ曲がった!」
「うわ、くっついた!」

教室のあちこちから、そんな声が聞こえてきます。

3.不器用さの向こうに見えたもの

当時の子どもたちにとっても、こういう“指先だけで集中する作業”は、それほど日常的なものではありませんでした。

だからこそ、この時間には意味があるように思えました。

小さな作業にじっと向き合うこと。
失敗しながら調整すること。
友達同士で教え合うこと。

単なる標識付けの練習なのに、そこには確かに学びがありました。

もっとも、今日はまだ練習用の貝がらです。
本番では、生きているアワビに作業をします。
しかも、この貝がらほど大きくはありません。

動く相手に細かな標識を付けるのは、簡単ではありません。
さすがに自分1人では不安だったので、本番の日は水産研究所の方にも来ていただくことになっていました。

作業をしながら、子どもたちとこんな話をしました。

「何年かあとに、このアワビが水揚げされるんやろなあ」
「誰のアワビが最初に見つかるかな」

すると、子どもたちの表情が少し変わりました。

今やっている作業が、「今日だけの学習」ではないことに気づいたのかもしれません。

4.海の中へ続いていく学び

教室で付けた小さなマークが、何年後かの海につながっていく。

そう考えると、不思議な気持ちになりました。

テストで終わる学習ではありません。
プリントを提出して終わる学習でもありません。

子どもたちが育てたアワビは海へ帰り、その先で誰かに見つけられる日が来るかもしれない。
もしかすると、数年後に漁港で揚がったアワビを見ながら、
「これはあの時の子どもたちのものだ」
と分かる日が来るかもしれない。

未来へ続いていく学習。

総合的な学習の時間には、そんな面白さがあるのだと、子どもたちと一緒に作業をしながら改めて感じていました。


ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回に続く・・・👇

前回の話 離島の総合的学習の時間②#21👇

初めて来られた方へ👇👇

本シリーズは、離島の小学校で実践した総合的な学習の記録です。

本作は2003年度、赴任2年目の取組を扱います。
アワビの中間育成・放流を軸に、交流活動やICT活用を重ねながら広がっていった学びの過程を描いています。

前年度には「おさかな天国 海辺のデジタル図鑑」に取り組み、農林水産大臣賞を受賞しました。
▶ 前シリーズ 総合実践のvol2、おさかな天国(マガジン離島の総合的な学習の時間①)

総合実践のvol3、アワビいっぱい編(マガジン離島の総合的な学習の時間②)👇👇👇


いいなと思ったら応援しよう!

熱中探究教室 応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。