島を離れる卒業、島に続く卒業【島小#33】/離島の小学校編 33
この回は、卒業式の予行を終え、その日の総合的な学習の時間に港の待合室でデジタル図鑑を島のお年寄りに見てもらった後の出来事です。
その日の放課後から卒業式当日まで、年度末の慌ただしさの中で迎えた小学校の卒業の日を描いています。
直接の時系列のつながり👇
◆本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)
今から約20年以上前、2002年(平成14年)4月、県で唯一の離島にある小学校に赴任しました。
車も信号もなく、連絡船は1日3往復が命綱の島でした。
海の荒れる日は、移動そのものが大きな出来事になります。
島の仕事や暮らしは、天候と船の都合に大きく左右されていました。
少ない職員で学校を回し、小中の宿舎で生活をともにする日々が続きました。
予定通りにいかないことが、特別ではなく日常です。
授業や行事だけでなく、島ならではの工夫や出来事、ここでしか味わえない体験の数々を、小さな学校と暮らしの記録として綴ってます。
今回は、その1年目、今年度の総合的な学習の時間を終え,6年生が卒業へと向かう場面です。
※本文中の地名・固有名詞は一部仮名としています。
1 夜が深くなる職員室で
卒業式の予行を終えた日の放課後、学校では反省会と年度末に向けた職員会議が続いていました。
もともと人数の多くない学校ですが、それでも話し合いは一つ一つ確認しながら進み、気がつけば時計は17時を少し回っていました。
そのまま帰るわけにはいかず、私は自分の机に戻ってパソコンを開きました。
研究助成を受けていた財団へ提出する報告書の締切が迫っており、翌日には校長先生の押印をいただく必要があったからです。
校舎の中はすでに静かで、聞こえるのはキーボードを打つ音だけでした。
時間を区切って終わらせるつもりが、いつの間にか作業に没頭し、そのまま夜まで向き合うことになりました。
2 日付をまたいで戻る校舎
22時を過ぎ、いったん区切りをつけて宿舎へ戻りました。
野菜や消費期限が今日までの食品があったので、簡単に食事を作って食べ、洗濯をして干し、風呂に入りました。
日付が変わる頃になって、領収書の整理を始めました。
すると、その中にあるはずの無線アンテナの領収書が見当たりません。
そういえば、職員室の引き出しに入れたままだったことを思い出しました。
どうしてもこの日のうちに片づけておきたくなり、私は再び学校へ向かいました。
歩いて1分の距離に学校がある生活は、こんなときにだけは心強く感じます。
無事に領収書を見つけ、施錠を確認して宿舎に戻ると、そのまま続きを始めました。

資料を整え、封筒に入れるところまで仕上げたとき、ようやく一息つくことができました。
明日、校長先生に印をいただいて投函するだけです。
振り返ってみると、この週は夜に仕事をする日が続いていました。
3 2つの卒業のかたち
その頃、隣の中学校では卒業式が行われていました。
出席した先生方の話によると、この島の中学校の卒業式は、毎年とても感動的なものになるそうです。
中学校を卒業すると、子どもたちは高校へ進学するため、島を離れます。
船に乗って本土へ渡り、寮や下宿で生活を始めることになります。
進学であると同時に、島での暮らしをいったん終える節目でもあります。
そうした背景もあって、この島の中学校の卒業式は、別れの重みが強く感じられるものになります。
送り出す側も、その意味をよく分かっているからだと聞きました。
一方で、小学校の卒業は少し様子が違います。
小学校と中学校は同じ敷地内にあり、卒業後に通う場所はすぐ隣です。
4月には、また同じ顔ぶれで中学校の新入生になります。
島を離れるわけではなく、生活の場も大きくは変わりません。
そのため、小学校の卒業は、どうしても淡々と受け取られがちだという話も耳にします。
ただ、それでよいのかという思いもありました。
来年は、演出を工夫してみたい。
もし交流を続けている学校があれば、その学校と何かできないだろうか。
とはいえ、赴任1年目の今年は、これまで行われてきた形をまずこの目で見ておきたいとも思っていました。
小学校なりの卒業の姿を、しっかり見届けた上で、次につなげたいと考えていました
4 卒業という区切り
いよいよ明日は卒業式となりました。
この地に赴任して、担任した子どもたちとも、ひとまず明日で区切りを迎えることになります。
1年が終わったのだと、前日になってようやく実感が湧いてきました。
振り返ってみると、本当にあっという間だったように思います。
同じ敷地内の中学校へ進むとはいえ、小学校の卒業として、一つの区切りはつけさせてやりたい。
そう思い、その日は時間を取って、子どもたちに保護者へ向けた手紙を書かせました。
卒業を一番喜んでくれる父母に向けて、子どもたちなりの言葉で思いを綴らせたかったからです。
書き上げた手紙は、翌朝、担任として挨拶に回る際に渡すつもりでした。
この1年を振り返りながら、静かに卒業式前日の時間が過ぎていきました。
迎えた当日、式にはほどよい緊張感があり、引き締まった空気が流れていました。
りりしく並ぶ子どもたちの姿に、保護者の方々も成長の確かさを感じていたように思います。

一生懸命に歌う歌や、真剣に伝える言葉は、小学校の卒業式ならではの良さでした。
先日のマイタウンマップ・コンクールの表彰式で知り合った遠く青森県の小学校から届いた祝文も、静かに式を彩っていました。
卒業は、新しい世界への出発です。
島を離れない子どもたちも、ここで一度、確かな区切りを迎えました。
慌ただしい年度末の時間の中で、それでもこの日が、子どもたち一人一人の心に残る1日になっていたなら、そう願いながら体育館を後にしました。
※ 次回に続く👇
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