桜の告白|チャレがや企画 第6弾参加作品
あの日も、肝心の式の前には散ってしまいそうな、緑が目立つ桜を眺めていた。
引っ越しのトラックが出ていき、一息ついた頃なのだろう。ほどなくして、玄関のチャイムがなった。
隣の部屋に引っ越してきたと言う家族連れは、引っ越し業者が用意したであろうタオルをくれた。両親の後ろで、恥ずかしそうに隠れている男の子が見える。この春から中学2年生になるらしい。
私は、自分の年齢と両親が留守がちなことだけを簡単に伝える。色々聞かれるのは面倒くさい。だが、知性と静かな意志の強さを思わせる男の子の瞳は、両親の陰から私の家の奥のほうを気にしていた。
私の部屋の中に、あの子がいる。
お互い友達が少ないもの同士が放つ特別な波長のようなものがあるのか、ちょくちょく私の部屋に来るようになった。
両親は、高校生のほぼ一人暮らしのような得体のしれない女のところに、一人息子を寄越して特に何も言わないのだろうか。いや、性別が逆ならまだしも特に問題はないのか。
「お姉さんの家って、物が少ないよね」
言外に、両親が本当にいるのか聞いているようでもあるが、思ったことをそのまま口にしているようでもある。とにかく不思議な子だ。
仮に、両親が帰ってくる本当の頻度を打ち明けたとして、私が押し倒されるようなことはないだろう。そもそも、そういったことに興味があるのかもわからない。彼の口から異性の話題が出たことは、引っ越してきてから1年ほど経った今でも聞いたことがない。
「今日さ、クラスの女子に言われたんだ」
ドキッとした。もしかして、言葉として発してしまっていたかと思ったが、そういうことでもないらしい。
「なんて?」
「隣のお姉さんにゾッコンなんでしょって。部屋に通っては、やらしいことしてるんでしょって」
「なんて答えたの?」
「特に何も。どう言っても、うざいことになりそうだったから」
凄い。そんなコミュニケーションが成り立つのか。
お茶を濁すようなことばかり、波風を立てないように愛想笑いをしている自分と彼はこんなにも違うのだ。私は何かを聞かれて、沈黙で答えることに耐えられそうにない。
ここで私がそういう類の話を切り出したら、彼はどんな反応をするのだろう。いや、きっと悲しい目をするか、それこそ何も反応しないのだろう。わかってる。私たちはそういう関係ではないし、これからもそうはならない。
元々一人で生きていくことを決めたはずなのに、どうも彼の前では決心したことがこうも頼りない。私も彼のように「飄々と生きていてかっこいい」と言われ続けてきたつもりなのだが。
「ねぇ、お姉さんは誰かを好きになったことはある?」
卒倒しそうだった。私からそういう展開に持ち込まない、髪の毛一本の隙も見せないと決めた矢先、向こうから揺さぶりをかけてくる。
「あるよ。でも、愉快なものじゃなかった」
「一緒にいて、楽しくなかった?」
「ううん。でも、お姉さんはそれが好きって気持ちなのか、よくわかってなかったから」
「今も?」
もうダメだ、何なんだこの子は?
「一緒にいたいとか、いやらしいことがしたいとか、大切にしたいとか、守りたいとか。どれも好きってことなんだと思うし、どれもちょっと違うような気もする」
「ふむふむ」
「でも、その人が幸せに生きていてほしいと願うことが、一番近いのかなって今は思ってるよ」
「そっか、お姉さんはそう思うんだね。大人だなあ」
再び桜が散る頃、彼の一家は丁寧な挨拶をして、また引っ越していった。
自分で一人称を「お姉さん」だなんて呼ぶ日が来るなんて想像したこともなかった。
初めて、人を好きになったんだと思う。
今回も恒例の「チャレがや企画」に参加させていただきましたー!
肩に力が入りすぎずに、いいテンションで書かせていただいているこの企画ですが、今回の作品は一番お気に入り、というか、わたしのnote作品全体を通しても、かなりお気に入りの作品になりました!
「告白」のテーマでどうしようかなと、今回も色々悩んでいたのですが、みくまゆ会 会長のミクさんからヒントをいただきました!
灯火さんに、自著「 #書く人生のはじめかた」の感想をいただきました!
— みくまゆたん (@mikumayutan) April 5, 2026
「読モあがりの尖ったことを言うライターにはなれないし、自分はそうはなりたくない。だから、自分は自分の領域で勝負するんだと。
⁰同時に、自分は人見知りだとも言います」… https://t.co/nC8xn6evIe
「さらに表示」で隠れてしまっていると思うので、ポストの下のほうのスクショも貼りますね!

ということで、今回は「近所のお姉さん」×「告白」で書いてみました!
ホントは「何でも知ってる、長髪タレ目、スタイルのいいおっとりお姉さん」が、わたしの思う「近所のお姉さん」なのですが、今回は少し違ったテイストで書いてみました。
中学生の男の子目線のほうも書きたくもなりましたが、そうすると野暮な話になりそうなので、このお話はこの短編で完成とします!
「近所のお姉さん」の元ネタは、こちらのミクさん本の感想noteで触れています!
ミクさん、コッシーさん、今回もありがとうございました!!
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