小さな約束を守れた日、ゴルフは少し変わり始める
『守れる人ほど最後に伸びる』
この言葉は、うまく打てない日よりも、むしろ少しうまく打てた日に思い出したい言葉です。
ゴルフは、調子が出た瞬間ほど、自分との約束を忘れやすいからです。
夕暮れの練習場で、誓いが崩れていく
夕方の練習場。
打席に並ぶ蛍光灯がぼんやりと白く光り、外にはまだ少しオレンジ色の空が残っている。
マットのざらつきを足裏で感じながら、アドレスに入る。
遠くで誰かのクラブがボールを捉える乾いた音が響く。
「今日は構えだけ。アドレスを丁寧にやる日にしよう」
そう心に決めて、一球目をゆっくり打った。
手のひらにじんわりと感触が残り、ボールがきれいな弧を描いて飛んでいく。
すると、二球目。三球目。
気づけば、少しずつ欲が出てくる。
もう少し飛ばしたい。
もう少し強く打てる気がする。
さっきより、もっといい球を打ちたい。
最初に決めた「構えだけ」はどこへやら、スイングは大きくなり、肩に力が入り、タイミングが少しずつ崩れていく。
「よし来た」の次に訪れる罠
いい当たりが出た瞬間、人は欲張りになる。
これは、ゴルフをする人なら誰もが経験することかもしれません。
「よし、来た」
そう思った次の一球ほど、なぜか力が入る。
正直に言うと、私自身も何度もこのループに入ってきました。
インストラクターとして生徒さんの前に立ちながらも、「ここで一発、きれいに打ちたい」という見栄が頭をよぎって、肝心のリズムを乱したことは一度や二度ではありません。
欲が出るのは、それだけゴルフに夢中になっている証拠です。
だから、悪いことではないと思います。
ただ、その欲とどう付き合うか。
そこに、長くゴルフを楽しむための大切な感覚がある気がしています。
生徒さんが教えてくれたこと
以前、レッスンに通ってくださっていた50代の女性がいました。
その方は毎回、練習の最初にこう言っていました。
「今日はグリップだけ練習します」
最初のころは、「もっといろんなことを教えてほしい」とおっしゃっていた時期もありました。
でも、ある日を境に、自分で決めた一つのテーマを、最後まで黙々と続けるようになったんです。
グリップならグリップ。
アドレスならアドレス。
テークバックならテークバック。
派手な変化がすぐに出たわけではありません。
でも数か月たったある日、その方が少しはにかんだ笑顔で言いました。
「先生、なんか全部がまとまってきた気がします」
その言葉を聞いたとき、私は胸の奥がじんわり温かくなりました。
特別な魔法を使ったわけではありません。
ただ、自分で決めた小さなテーマを、毎回大切にしていただけです。
でも、その積み重ねが、目に見えないところで根っこを育てていたのだと思います。
『守れる人ほど最後に伸びる』という言葉の意味
この言葉には、ゴルフの本質が詰まっている気がします。
誰かと比べるでもなく、一気に変わろうとするでもなく、
今日、自分が決めたことをひとつだけ大切にする。
たったそれだけのことが、実はいちばん難しい。
そして、いちばん価値がある。
「守れる人」というのは、我慢強い人だけを指すのではないと思います。
自分との小さな約束を、ひとつずつ積み上げられる人。
その静かな積み重ねが、半年後、一年後の自分をつくっていくのだと思います。
今日から一つだけ試してほしいこと
練習場に行く前に、スマホのメモでも、手帳の端でもいい。
こう書いてみるんです。
「今日のテーマ:〇〇だけ」
グリップだけ。
アドレスの向きだけ。
テークバックをゆっくりするだけ。
フィニッシュで止まるだけ。
大事なのは、たくさん直そうとしないことです。
一つに絞る。
そして練習が終わったあと、飛距離や球筋ではなく、「今日のテーマを大切にできたか」だけを振り返る。
守れた日は、静かに自分を褒めてあげてください。
守れなかった日も、落ち込まなくて大丈夫です。
また次の練習で、ひとつ戻ればいい。
ゴルフは、それくらい長く楽しめる遊びです。
夜の打席、終わりの一球
照明が少し眩しくなるころ、最後の一球を打ち終えたあなたの顔に、ほっとした表情が浮かんでいたらいいなと思います。
派手じゃなくていい。
完璧じゃなくていい。
今日、自分が決めたことをひとつ大切にできた。
その小さな満足感が、明日またクラブを握りたい気持ちに変わっていきます。
あなたの一球は、ちゃんと次へつながっています。
今日の練習で、あなたはどんな「一つのテーマ」を自分に決めましたか?

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