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もしも「ジェフ千葉 J1昇格の物語」を2時間の映画にするなら

はじめに

この記事は、Jリーグのジェフユナイテッド市原・千葉が2025年12月にJ1に昇格したことをきっかけに、個人的な「お遊び」として書き始めたものです。

「物語」をキーワードに、スポーツ・ビジネスや、映画などのシナリオ・ライティング術といった領域を視野に入れつつ、もしも「ジェフ千葉の昇格物語」を語るなら、どのような「物語」がありそうなのかを考えてみたものなのですが、書き進めていたらかなりの長文になってしまいました。

第1章から第3章までは、言わば「能書き」ですので、そのたぐいに興味が無くて「ジェフ千葉の物語(の粗筋あらすじ)」だけ読んでみたいという方は、以下の目次から第4章に飛んでお読みいただくことをお奨めします。


第1章. スポーツ・ビジネスと「物語」

物語とは何か

「物語とは何か」という問いについては、辞書的な定義の他に、文学やマーケティングなどの領域ごとに複数の答えがありますが、本稿では「登場人物がいて、時間の流れがある、(誰かによって)語られた内容」と定義しておきます。こうした「物語」は結果として、聞き手や読み手に何らかの感情(面白い、退屈、など)を惹起します。

さて、「物語」は、単なる「事実」の提示とは異なります。「ジェフ千葉」を例にすれば、「ジェフ千葉が、J1に昇格した。」というのは、単なる「事実」であって「物語」とは言えません。

しかし、「ジェフ千葉が、17年ぶりにJ1に昇格した。」とすると、これは「短い物語」だと言うことができます〈*1:巻末に脚注あり、以下同様〉。この文章には「時間の流れ」が含まれ、かつ「17年ぶり」という言葉からは(多くの場合)何らかの感情が惹起され得るからです。

さらに、もう少し書き足して、「Jリーグのオリジナル10であったジェフ千葉が、プレーオフ準決勝での奇跡的な大逆転を経て、17年ぶりにJ1に昇格した。」とすると、より「物語性」が強くなります。


Jリーグの「物語マーケティング」

マーケティングの領域には、「物語マーケティング」という言葉があります〈*2〉。ある「商品」や「ブランド」のマーケティング活動において、その背景にある「物語」を伝えることで、顧客の興味関心や愛着を強める手法を指します。

スポーツ・ビジネスにおいても「物語の重要性」は以前から言われており、Jリーグ全体のマーケティング活動においても、以前、内部の担当者がパブリックなイベントの場において語っていました。

以下に引用する記事は2016年2月に掲載されたものですが、その前提として、Jリーグ(J1)は2015年と2016年の2年間、1年を前期と後期に分けた「2シーズン制」を採用していました。この背景には、国民全体レベルでのJリーグへの関心の低下があり、それを回復するための「物語性の強化」の意図があったと、そのマーケティング担当者は語っていました。

かいつまんで趣旨をお伝えすると、「シーズンを通して試合の結果を追っているような熱心なファンやサポーターは『1年間の物語』としてそのクラブの『物語』を享受できる」が、「年に1~2試合を観てもらうだけでは、そこに『物語』が生起されない」ので、「一つの『物語』を半期の短期間にして、かつ1年間でのクライマックスの数を増やす(前期と後期、ポストシーズンの最大3回)」ことで、「『物語』が伝わりやすくした(それが生起されやすくした)」との意図だったようです。

Jリーグは2015年から1ステージから2ステージへ大会方式を変えました。山場を増やし、地上波で放送いただくことで、Jリーグを外の方にも触れていただく機会をつくった
(太字強調は引用者による。特にことわりない場合は以下同様。)

「IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略”」
 https://logmi.jp/main/social_economy/130599

「物語論」についてなのですが、Jリーグの試合を、ご当地のファン・サポーターは年間全34節、ずっとストーリーとして、1試合1試合を物語として追っていきます
だからローカルという観点では物語性があります。全国53クラブです。年間通じて悲喜こもごも、豊富にあります。それを、つぶさに追いかけてくださる地元のメディアも、物語として上手に取り上げてくださっています。そのことはJリーグがローカルで成功している要因の1つだと思います。
一方で、ナショナルコンテンツとして見た場合に、Jリーグの試合を……たとえば明治安田生命J1リーグ第3節をNHK、地上波で行いました。そこだけを見た方々にとっては、背景がわかりずらいですよね? これまでのストーリー、コンテキストが理解できない。
ドラマの第3話と第4話だけを見て、おもしろかったとはなかなかいいませんよね。ですが、普段Jリーグが関心外にある方々にとっては、Jリーグに接する機会はドラマの第3話だけ、ときどき第6話だけ。
それまでのストーリーがわからないのに、いきなり途中から見せられる。ナショナルコンテンツとしての見方は、極端に言えばそんなコンテンツに陥っていたと思います。

「IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略”」
 https://logmi.jp/main/social_economy/130599


上の記事では、広く一般にJリーグのストーリーを伝えるための具体的な手法として、「短いストーリーの物語を動画コンテンツを中心に編集し、たくさん配信した」といったことが述べられていました。
ストーリー性の強い短尺動画の配信およびSNSでの拡散といったことを、Jリーグはこの当時から強化してきました。現在では各クラブでも、独自のファン・サポーター向け動画の配信に力を入れているところも多くなっています。

一番のクライマックス、チャンピオンシップの前とチャンピオンシップ中に、徹底的に短いストーリーの物語を動画コンテンツを中心に編集し、たくさんの動画を配信しました。

「IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略”」 https://logmi.jp/main/social_economy/130599


また、Jリーグのファン・サポーターによく知られている動画コンテンツには、毎年J1昇格プレーオフの前に配信される「煽り動画(煽りV)」というものもあります。
下のリンクは2025年の昇格プレーオフ前にJリーグから公式に配信されたものですが、以前は、一般の方が「非公式」に作って配信をされていて、一部のファン・サポーターの間では「風物詩」のようになっていました〈*3〉。


なお、本稿の論点からは外れるのですが、2026年の2月から6月の期間に、春夏制から秋冬制への移行のために行われる「百年構想リーグ」も期せずして「約5か月の短期間」「ポストシーズンあり」で、かつ「J1にオリジナル10が揃った」といった要素もありますので、当該シーズンは、(W杯の直前ということも含めて)Jリーグのマーケティングにおいて、単なる移行期・端境期に留まらない重要な期間と位置付けられるように思います。


第2章. 「シナリオ術」における物語の構造

「三幕構成」とは

第2章では、映画などのシナリオ・ライティングにおける「シナリオ術」について、私なりに整理します(第4章で、この構造に基づいた「ジェフ千葉昇格物語」を考えます)。

「シナリオ術」と呼ばれるものにも様々な「流派」がありますが、ハリウッドなどのエンターテインメント作品においてよく用いられているとされるものに「三幕構成」と呼ばれる方法論があります〈*4〉。

wikipediaにも詳細な説明がありますが、私なりに簡単に整理するとそれは以下のようなものです。

第1幕:発端(設定/Setup)
「誰が、どこで(どのような場所で)、何を目指すのか」が観客に提示される。主人公が行動する「きっかけ」となるような出来事が起こる。

第2幕:中盤(対立/Confrontation)
主人公が数々の障害や困難に直面し、葛藤する。主人公の行動に影響する「大きな(決定的な)出来事」が起こる。

第3幕:結末(解決/Resolution)
クライマックスで最大の試練を乗り越え、物語の目的が達成される(または失敗に終わる)。

そして、多くの場合、1幕と2幕の間、2幕と3幕の間には、プロットポイントと呼ばれる展開点(物語が大きく動く出来事やエピソード)が設けられます。そして、2幕の真ん中にはミッドポイントとも呼ばれる、全体での中間位置での(そこから後戻りが出来ない)決定的な展開点が設けられます。

それぞれのポイントは、
・プロットポイント1:主人公が、困難な問題に立ち向かう決意をする。
・ミッドポイント:物語の中間地点で起きる決定的な出来事。
・プロットポイント2:主人公が試練にあう。成功が危ぶまれる。
とされます。

また、三幕の時間的な長さ(尺)は、1:2:1(25%:50%:25%)が目安とされています。

(wikipedia「三幕構成」の項より)


「物語」としての魅力を高めるための視点

例えば、「ジェフ千葉 2025年シーズン 年間ダイジェストDVD」のような、もともとのファンやサポーターを対象としたコンテンツの制作であれば、「三幕構成」のような展開を意識する必要は、それほどありません。

しかし、これまでJリーグやサッカーに強い興味関心を持たなかった人に興味を持ってもらい、その「物語」を知った上でファンになってもらうためには、「三幕構成」のような構造によって「物語としての魅力」を高めることが、一定程度は必要になります。

そのために、「主人公を誰にするのか?」、「いつからいつまでの時間軸を取り上げるのか?」といったことを、物語の作り手として判断する必要があります。以降の第4章では、そうした視点から「ジェフ千葉の昇格物語」について考えていきます。


第3章. スポーツ映画のケーススタディ

ケーススタディ:実話ベースのスポーツ映画

次章で「ジェフ千葉のJ1昇格」を考える前に、「実話ベースのスポーツ映画」がどのように作られているか、ケーススタディを2つあげて整理していきます。

ここでは主に、「主人公は誰か?」「時間軸はいつからいつまでか?」の2点から、どのような物語として映画化されたのかを見ていきます(以下、それぞれのストーリーに触れていますのでご覧になっていない方はご注意ください)。


 ・『インビクタス/負けざる者たち』

 ~黒人大統領が、国家的イベントで作りあげた、国民の「一体感」!

https://www.salon.com/2009/12/11/invictus/
https://edition.cnn.com/2009/SHOWBIZ/Movies/12/11/invictus.movie.review/index.html

1995年のラグビー・ワールドカップ南アフリカ大会を題材にした、2009年制作の映画です。監督は巨匠クリント・イーストウッド、主演はモーガン・フリーマン。

主人公は、大会当時の南アフリカ大統領のネルソン・マンデラ
彼が黒人初の同国の大統領となった1990年から、1995年のW杯決勝戦で南アフリカ代表が優勝するまでが描かれていました。

スポーツ映画としての側面も持ちますが、メイン・プロットとしては、黒人初の大統領がワールドカップという国家的イベントを通して、「国家・国民の一体感」という大きな目標を達成するまでの物語です。

サブ・プロットとしては、代表チーム(愛称はスプリングボクス)のキャプテンであるフランソワ・ピナールという選手(演じたのはマット・デイモン)を中心に、選手たちが成長していきワールドカップを勝ち抜いていくストーリーが語られます。

映画としてのクライマックスは実際の決勝戦を「再現」したラグビーシーンで、約30分に渡ってスペクタルなラグビーのゲームが映像化されました。


 ・『マネーボール』

 ~メジャーリーグ中堅チームの奇跡の20連勝とWシリーズ優勝!

https://www.milezero.io/2021/02/24/moneyball-and-innovation/
https://www.valgen.com/moneyball-lessons-for-putting-together-a-winning-sales-team/

2000年代初頭の米国メジャーリーグを舞台に、中堅チームであったアスレチックスの86年ぶりのワールドシリーズ優勝への道のりを題材にした、2011年の映画。監督はベネット・ミラー、主演はブラッド・ピット。

主人公は、当時アスレチックスのゼネラル・マネージャー(GM)であったビリー・ビーン
中心的に描かれたのは、2001年シーズン終了後のチームの編成時期と、最も劇的な展開となった2002年の1年間(地区優勝したがポストシーズンで敗退)。
映画としてのクライマックスはそのシーズン終盤の劇的な20連勝(具体的には、20連勝目の、11点差を追いつかれた後に代打逆転サヨナラ本塁打で勝利するという、普通ならあり得ないような試合展開)。

ドラマとしてはシーズン終了後にGMがチームに留まるか否かの決断を迫られ、そこに留まるところで閉幕します(その後の2004年のワールドシリーズ優勝はエンディングのテロップで映されるのみ)。

ここにあげた2作は、どちらも、ある劇的な試合を劇中のクライマックスとして用いてはいますが、主人公はプレイヤーたちではなく、大統領やGMといった「フィールド外」の人物でした。


2作品からのラーニングス(学び)

ここからのラーニングス(学び)としては、「フィールド外」の人物を主人公にした物語は映画にしやすいのかもしれないということがありました。

もちろん選手を主人公にした「実話ベースの映画」も少なくはないのですが、そうした作品は選手個人の「伝記的な物語」が多い傾向にあるようで〈*4〉、「チームの躍進自体をメイン・プロットとする映画で、選手個人を主人公にする映画」は、探した範囲ではあまり見当たりませんでした。

この理由は定かではないのですが、実話をベースに「チームの中の個人」にフォーカスして物語化することが、作劇上難しいといったこともあるのかもしれません。

プロットの軸になる「チームの浮沈」には、通常は一人の選手だけでなく多くの選手が関わりますし、語るべき出来事(エピソード)の数も多くなります。それを「一人の主人公」を中心にして描いていくことは、シナリオライティングにおいて技術的に難しいのだと思います(これが「2時間の映画」でなく、テレビ放送や配信プラットフォームによる「連続ドラマ」であれば、事情が変ってくるようには思いますが)。

ただし、一種の例外として、例えば2025年の米国メジャーリーグの「ドジャースのワールドシリーズ優勝」という事実をベースに映画を作る場合に、「ドジャースの物語」ではなく、はじめから「大谷翔平の物語」と設定するのであれば、比較的容易に「2時間の映画」にすることはできるかもしれません。

また、もう一つの学びとしては、(当たり前のことではあるのですが)スポーツ映画としてのクライマックスは「劇的な試合のシーン」とすることが原則となることです。
『マネーボール』においては、2004年のワールドシリーズ優勝ではなく、ポストシーズンで敗退した2002年の「20連勝」を映像的ハイライトとしていました。この「劇的な試合」をハイライトにすることは、基本的には守るべきセオリーでしょう。

なお、実際に映画として制作する際には、本物の記録映像を使うのか、新たに撮影するのかという判断を(権利の点や費用の点から)求められます。『インビクタス』は、実際の試合を再現する形で(俳優らを使って)新たに撮影した映像、『マネーボール』は、実際のメジャーリーグの映像と新たに(俳優らを使って)撮影した映像を組み合わせていたようです。


第4章. 「ジェフ千葉 昇格物語」3つの方向

前提

ここまでの考察を踏まえて、一般的な観客からも興味を持ってもらえ、感情移入してもらえる映画にするには、どのような方向性があるのかを、個人的に考えてみます。

前提としては、
・事実をベースに「三幕構成」に落とし込めること。
・主人公は選手でなくてもよい(選手でもよい)。
・映画としての(映像的な)クライマックスは「劇的な試合」の場面。
といったところでしょうか。

ここからは、「ジェフ千葉の昇格の物語」を、長期・中期・短期の3方向でそれぞれに「映画化」する際の基本構成を、(いちおうファン・サポーター以外の方にも興味を持ってもらえることを目標としつつ)個人的な見解や趣味嗜好も大いに含んで、好き放題に書いていきます。


a:降格から昇格まで、17年の物語

仮タイトル:『バンディエラ、17年の闘い』〈*6〉
主人公:佐藤勇人
時間軸:2009年の降格から2025年の昇格まで

https://number.bunshun.jp/articles/-/240964

第1幕:発端
2009年11月、ジェフ千葉はJ2に降格した。
佐藤勇人は、1994年からジェフの下部組織で育ち、2000年にトップチームに加入後も2007年までジェフに所属していたが、2008年に京都サンガに移籍していた。
しかし勇人は2010年、「ジェフをJ1に上げるため」に、当時J1であった京都からJ2のジェフに自ら望んで復帰した。

第2幕:中盤
2010年、ジェフに復帰した勇人は、同じく復帰した村井慎二、茶野隆行、林丈統たけのりらとともに奮闘するが、その年はリーグ戦を4位で終えた。
2012年、新たに昇格プレーオフ制度が開始され、ジェフはリーグ戦5位でプレーオフに臨んだ。準決勝を勝利したジェフは6位の大分との決勝となり、引分けでもJ1に昇格できたのだが、86分にゴールを決められてJ1昇格はならなかった。
ゲーム終了後、勇人はピッチに崩れ落ちた

https://web.gekisaka.jp/news/jleague/detail/?107860-110355-fl


その後、勇人は2019年までジェフで現役生活を送るが、チームをJ1昇格には導けなかった。その年の最終節には、勇人の引退セレモニーがフクアリで行われた。

2020年、勇人はピッチを離れクラブ・ユナイテッド・オフィサー(CUO)という役職でジェフのフロント・スタッフとなった
CUOは小学生から高校生までの下部組織(アカデミー)との連携、ホームタウン(市原市・千葉市)との連携、クラブの社会連携活動等を推進する役職であった。
勇人は、自身がアカデミー出身者でもあることから、その連携に力を注いだ。勇人がCUOとなった2020年は、小学6年生年代の中心選手に姫野誠がいた。

第3幕:結末
2025年、ジェフはリーグ戦を3位で終え、J1昇格プレーオフに臨むことになった。
その準決勝、勇人は地元のテレビ局で中継の解説を行っていたが、試合は対戦相手の大宮に先制され0-3までリードを広げられた
ジェフは70分、アカデミーで育った高校2年生の姫野誠を投入した。
それによりジェフは勢いを回復し、71分、77分に連続してゴールを決め、1点差まで迫った。そして83分、勇人にとってアカデミーの後輩である姫野がゴールを決め同点に追いつき、その後ジェフが1点を加え4-3での大逆転勝利となった

https://www.chunichi.co.jp/article/1175498

スタジアムにサポーターによるチャント(応援歌)が鳴り響く中、勇人は、実況の解説席で喜びをかみしめた。
その翌週、決勝戦ではジェフは1-0で勝利し、17年ぶりのJ1昇格を決めた。
〈了〉


b:小林慶行体制の3年間の物語

仮タイトル:『一体感、3年間の軌跡』〈*7〉
主人公:小林慶行
時間軸:2023年の監督就任から2025年の昇格まで

https://www.footballista.jp/feature/202759

第1幕:発端
2023年、前年までジェフ千葉のコーチだった小林慶行は、GMから監督を任命された。小林はこれまでチームの「監督」の経験はなく、まったくの「新人監督」だった
まず小林は、ジェフのOBなどにも会い、クラブの過去の歴史をあたり、「ジェフらしいサッカー」について深く思案した。
2023年のチームの始動にあたって、小林は「一体感」というキーワードを掲げたが、この時点では多くのファンやサポーターは、小林の監督としての手腕に半信半疑であったし、「一体感」というキーワードも彼らの心には刺さらなかった。

第2幕:中盤
2023年のシーズンが開幕したが、前半戦は結果が出せず低迷し、早い時期に監督を解任される可能性もあった。
小林の心には「一体感」というキーワードのへの確信があったが、ジェフのOBでもある、元日本代表監督の岡田武史が「一体感を求めるチームは失敗する」という持論を述べている記事を目にした。
小林は葛藤しつつも奮起し、自身の選手たちへの振舞い方も大きく変えた。2023年シーズンの終盤には、クラブハウスのバルコニーで、自身の口から直接ファン・サポーターに向かって「一体感をもって一緒に戦ってください」と呼びかけた。
その時期を境に、ジェフはチームとしての勢いを手にし、リーグ戦終盤ではチームのタイ記録となる7連勝を達成し、6位で昇格プレーオフに進出した。
しかしその年は、プレーオフで敗退し昇格は成し得なかった。

https://x.com/ta2000jp/status/1718774567467200761

2年後の2025年、小林は監督就任3年目を迎えた。
ジェフは開幕から6連勝とスターダッシュに成功し、一時はリーグで独走状態にあったが、5月からは勝利から遠ざかり始め、5月~7月の3か月間でチームは2勝しかあげられず、最悪の状態となった。
小林は、ファン・サポーターを含んだ「ジェフに関わる人すべての一体感」が必要だと口にし、サポーターもそれに応え、選手を後押しした。

それもあって秋口からジェフは調子を取り戻し、最終盤の10月のアウェイ水戸戦では終了間際の劇的なゴールで勝利し、そこから最終節まで6戦負けなしと勝ち点を積み上げた。
最終節を3位で迎え、その時点で自動昇格の可能性もあったが、結果的には他チームの結果により自動昇格は出来ずリーグ戦3位でプレーオフ進出となった。

第3幕:結末
プレーオフの前に小林は「黄色に染まったフクアリ(ホームスタジアム)がジェフの一番の武器」と口にし、共に闘うファン・サポーターを煽った。
準決勝では、70分までに0-3とリードを許したが、フクアリの「一体感」が選手を後押しし、そこからの約20分で4-3とし、奇跡的な逆転勝利となった
決勝でも「黄色に染まったフクアリ」が選手の背中を押し、ジェフは1-0で勝利してJ1昇格を決めた
小林はスタジアムでの勝利監督インタビューで「ジェフを愛する皆さんを増やしたい」と感動的なスピーチを行った。
そのあと小林は、サポーターにうながされ、ジェフを昇格に導いた指揮官としてサポーターとともに「ジェフ三唱」を叫んだ。

https://x.com/23_soccer_life/status/2000347987013415100

〈了〉


c:昇格した2025年シーズンの物語

仮タイトル:『WIN BY ALL ~二人のセンターバック』
主人公:鈴木大輔&鳥海とりうみ晃司(ダブル主演)
時間軸:2025年の開幕からプレーオフ決勝まで

https://www.excite.co.jp/news/article/Qoly_786ldbwo_qoly_jef_tori_suzuki_gib_1/

第1幕:発端
2025年、ジェフ千葉は、アンダー世代から日本代表に名を連ねてきたセンターバック(CB)の鈴木大輔をキャプテンに、開幕を迎えた。鈴木はキャプテンシーに優れ〈*8〉、2021年にジェフに移籍してきた年からキャプテンを任されていた。鈴木は前年6月に大ケガを負いそれ以来長期離脱していたが、今季の開幕時点では復帰間近な状態まできていた(開幕戦はベンチには入ったが出場は無かった)。
この年は、CBに鳥海とりうみ晃司という選手が加わった。鳥海はジェフのアカデミーで育ち2018年から2020年までジェフのトップチームに在籍したが、鈴木と入れ替わるかたちで2021年にJ1のセレッソ大阪に移籍していた。
しかし鳥海は「J2で15年苦しむ愛するクラブをJ1に戻したい」〈*9〉と、自ら望んでJ2のジェフに帰ってきた
開幕のいわき戦ではCBとして先発し、アカデミーの後輩にあたる久保庭とコンビを組んだ。


第2幕:中盤
2025年のシーズン、ホーム開幕戦となった第2節の富山戦に鈴木は先発でメンバー入りし、鳥海とリーグ戦で初めてのコンビを組んだ。鈴木にとっては約8か月ぶりの公式戦であり、ほぼ「ぶっつけ本番」とも言える怪我からの復帰戦となった。
その試合で鳥海は、勝利を手繰り寄せる2点目を、多くのゴール裏のサポーターの眼前で決め、ジェフ独自のゴール後のパフォーマンスである「ジェフ三唱」を行った。
ジェフは開幕から6連勝とスターダッシュには成功したが、5月からは勝利から遠ざかり始め、5月~7月の3か月間でチームは2勝しかあげられず、最悪の状態となった。
鈴木と鳥海のコンビは12節の熊本戦まで続き、その後も二人が中心的なCBとして起用されるが、23節のアウェイ山形戦から、鳥海と河野かわの貴志のコンビが多くなった。リーグ戦の中断期間直前のこの試合にジェフは1-0で勝利し、ここからようやく調子が上向いてきた。
9月、ジェフはまだ自動昇格争いを続けていたが、下位のレノファ山口を相手とするアウェイの1戦で手痛い敗戦を喫した。
その試合のCBは鳥海と河野のコンビだったが、同点で迎えた後半アディショナルタイムに、ジェフアカデミーの出身でもある山口の古川大悟にカウンターから得点を決められ、ジェフは最低限の目標であった勝ち点1の獲得に失敗したここで古川と対峙した際にシュートを打たせてしまったCBが、アカデミーの先輩でもあった鳥海だった

https://www.renofa.com/archives/result2025/chiba29-2025/

これ以降、CBは鳥海・河野のコンビから、鈴木・河野のコンビが主軸となった。鳥海は先発を外れた9月の愛媛戦以降は怪我の影響もあり調子を崩していた。
しかしチームは昇格争いに留まり続け、リーグ戦3位でプレーオフ進出を決めた。その間、CBは鈴木・河野のコンビが安定感を見せ、鳥海は9月のアウェイ大分戦でアディショナルタイムに投入されたのみであった。


第3幕:結末
ジェフは、プレーオフの準決勝を0-3から4-3への大逆転で勝ち抜き、決勝戦に臨んだ。
引き分けでもJ1昇格の決まるレギュレーションの中で、ジェフは69分に待望の先取点をあげ、昇格を大きく手繰り寄せた。
このまま失点せずに試合を進めれば昇格が決まるというシチュエーションで、鳥海は、鈴木と河野に加えた3人目のCBとしてアディショナルタイムにピッチに投入された。
サポーターによるチャント(応援歌)が響く中、ほどなくしてタイムアップの笛が鳴り、鈴木と鳥海は、ピッチの上でジェフの昇格の瞬間を迎えた
鈴木はピッチに膝間づいて手を顔で覆い、鳥海はユニフォームで顔を隠し、歓喜の涙にむせんだ。
そしてスタジアムには「WIN BY ALL」の大歓声が響いた。

https://www.youtube.com/watch?v=H17nJUtbVy4&t=2674s
https://www.youtube.com/watch?v=H17nJUtbVy4&t=2674s

おわりに

冒頭にも書いたように、この記事は私の「お遊び」ですので、「映画化」などという話はもちろん現実的な話ではありません。

そもそも、俳優によって「サッカーの実際の試合を再現する映像」を撮影することは、(仮にサッカー経験の豊富な俳優をそろえたとしても)かなり難しいものだと思います。

実話をベースにするスポーツ映画(特にボールゲームの映画)が少ないことは、そうした「試合の場面の再現の難しさ」も理由なのでしょう。前述の『インビクタス』は、ハリウッドが莫大な予算を投入して実現した“例外“であり、さらに言えば、ラグビーはボールを手で扱う分サッカーよりは「場面の再現」が容易でもあったのだと思います。

そのため、本稿を書きながら、私はキャスティングについては、まったく考えませんでした。頭の中で妄想していたのは「俳優による再現」ではなく、実際に私が試合会場やDAZNの配信映像で目にした記憶の“編集”です。

本稿では、3パターンの「物語」を考えてみましたが、もちろん、これ以外にも「ジェフ千葉 昇格の物語」は、選手の数だけ、関係者の数だけ、作ることが出来ると思います。

例えば、米倉恒貴選手を主人公とする「物語」ももちろんあるでしょうし、もしかしたら、コールリーダー(いわゆる応援団)やサポーター達を主人公とする「群像劇」もできるかもしれません。
「ジェフ千葉のJ1昇格」という一つの「事実」からは、多種多彩な「物語」を生み出すことができます。

本稿をお読みのジェフ千葉やJリーグの他クラブ、あるいは他のスポーツのファンの方々、もしよかったら、ご自分なりの「物語」を“妄想”してみてください。なかなか楽しいと思いますよ。

〈了〉


[脚注]

*1:
文学の領域では、「For sale: baby shoes, never worn.(売ります。赤ん坊の靴。未使用。)」との「6単語の文章」が、「世界で最も短い物語」として紹介されることがある(作者不詳、ヘミングウェイの作とする説もある)。

*2:
「ストーリー・マーケティング」、「ナラティブ・マーケティング」等の用語もある。前者は「物語マーケティング」とほぼ同様、後者は似てはいるがやや異なる概念。

*3:
J1昇格プレーオフの「煽り動画」については、こちらのnote記事に情報が整理されている。

*4:
「三幕構成」以外にも、そのバリエーションとしての「五幕構成」、「ヒーローズ・ジャーニー(12ステージ)」などがある。日本で良く知られている「起承転結」や「序破急」も、この一類型になる。

*5:
実話をベースにしたスポーツ映画としては、ボクシング選手のジェイク・ラモッタを主人公とする『レイジング・ブル』、黒人初の米国メジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを描いた『42 〜世界を変えた男〜』などがあるが、いずれも物語としては人物の人生を描いた「伝記的映画」。
競技を中心にしたものとしては『炎のランナー』などがある。

なお、スポーツ映画全般については、以前に下の記事を投稿しているのでご興味あれば参照いただきたい。

*6:
「バンディエラ」とは、主にサッカーの世界で「長く一つのチームに所属し、そのチームを象徴する存在としてファンから愛されている選手」を意味する。

*7:
小林慶行による3年間のチームマネジメントの軌跡については、以下の拙稿にも詳しい。

*8:
関連記事。

*9:
関連記事。


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