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なぜ私たちは「AIで効率化」という言い方をやめたのか ‐ AI Nativeな法務・ガバナンス組織について考えていること(総論)

こんにちは、とんふぃ(結城東輝)です。スマートニュースという会社で法務・ガバナンス部門の責任者をしています。

実に数年ぶりにnoteを書きたいなと思ったのは、現時点でのAI Nativeな組織のあり方に関する思考を記録に残しておきたかったから。私たちの部門がいま取り組んでいる「AI Nativeな法務・ガバナンス組織への転換(AI Transformation/AX)」について、しばらくの間、考えがまとまる度に記録に残しておこうと思います。同じように悩んでいる法務・ガバナンスの方や、法務組織の変革に携わる方の参考になれば幸いです。

今回は、個別の各論に入る前に、まず全体像として、何を、どういう構造で考えているのか、総論を記載してみます。

1. 100年前の工場の話から

いきなりAIとも法務とも関係のない話から始めますが、技術革新が意外に生産性を向上させないボトルネックについて、しばしばエンジニアリングの世界で語り継がれるダイナモのお話から。

経済学者のロバート・ソローは1987年に「コンピュータ時代の到来はあらゆる場所で目にするが、生産性統計の中にだけは現れない」と書きました。いわゆる生産性のパラドックスです。莫大なIT投資が、なぜか成果に結びつかない。この謎に、経済史家のポール・デイヴィッドが約100年前の電化の歴史を重ねて答えた、という話をエンジニアとの議論で学びました。

発電機(ダイナモ)・電動モーターが実用化されたのは1880年代のことです。ところが、これによって工場の生産性が跳ね上がるまでには、およそ40年かかりました。技術が未熟だったからではありません。当初、工場はそれまで動力源だった中央の大きな蒸気機関を、一台の大きな電動モーターに置き換えました。動力をシャフトとベルトで各機械に分配する、旧来の建物の構造、業務オペレーションの仕組みはそのままにして、動力だけ置き換えた。だから、生産性はほとんど変わらなかった。

転機は1920年代、各機械にそれぞれ小さなモーターを載せる「ユニットドライブ」が広まってからでした。ここでようやく工場は、動力源の位置に縛られなくなります。工程の流れに沿って機械を並べ替え、平屋の軽い建屋に工場を建て替え、作業者を訓練し直し、新しい管理の仕組みを入れる。業務が分散化され、クリティカルパスが縮小していきます。生産性が非連続に跳ね上がったのは、技術を導入した時ではなく、その技術を前提に工場と業務フローそのものを作り変えた時でした。

いまのAIをめぐる状況も、産業革命以来の技術革新なのであれば、ダイナモの歴史から学び、再発明しないようにしたい。AIを「中央の蒸気機関(既存の業務ツール・業務プロセス)を大きなモーター(AI)に置き換える」やり方で使ってしまうと、これまで人がやっていた作業の一部をAIに肩代わりさせ、少し速くなった、少し楽になった、と。ただ、工場の構造、業務のプロセス、組織のかたち、人のスキル、権限の設計を古いまま残している限り、クリティカルパスが残り続けるため、本当の意味での抜本的、非連続な生産性拡大には結びつきません。

2. 「AIで効率化」から「AIとの共生」へ

そこで私たちの部門では、あえて言葉の使い方を変えています。まず、「AIで効率化しよう」とは言わない。代わりに「AI Native=人間とAIが共生するコーポレート」と言い続けることにしました(これは先を行く様々なTech企業の巨人の肩に乗っていることも事実です)。そして、この姿を目指すにあたって、議論の対象から外す(ここに疑義を生ませたくない)5つの共通認識を言語化しました。

  • 全員が同僚としてのAIを前提に考える:AIは同僚であり部下であり、職場にいる存在。常に「これはAIに任せられるか/どう任せるか」を自然に考える。

  • 人間の業務に説明責任を:「AIで効率化」ではなく「AIを使わない仕事には説明責任が伴う」へ意識を反転させる(調べ物をしに図書館に物理的に行こうとすることに説明責任が発生することと同様)。

  • Governance by default:人間の意識に頼るのは善後策とする。全社員が全速力で走り続けられるガードレールを法務・ガバナンス部門が引く。そして、Human in the loop(人間による出力チェック体制)からHuman on the loop(人間が目的設定・出力評価・フィードバックに注力するループ)への移行を前提とする。

  • AI前提の業務プロセス最適化:既存プロセスの中でAIの代替箇所・効率化箇所を探すのではなく、AIに最適化するようプロセス自体を抜本的に作り替えることを前提に考える。

  • 目的を認識して使う:そのAIの利用は、精度を上げるのか、時間を削減して思考に再投資するのかを明確に使い分ける。Nice-to-have業務の効率化・短期達成だけではインパクトは限定される。

上記のとおり、「AIで業務を効率化する」ことと「AI Nativeな組織になる」ことは、程度の差ではなく、全く種類の違う話だと考えています。以下は、私なりにいくつかの観点で対比してみた表です。

画像はClaudeにより生成

左側が悪いわけではありません。最初の一歩としてはむしろ自然です。ただ、左にとどまっている限り成果は連続的にしか伸びず、どこかで頭打ちになる。狙うべきは右側、非連続な変化のほうです。

もう一つ大事な点として、AI Native化は「Claude CodeやCodexを配ればなんとかなる」という話ではないということ。むしろ、AIとの共生のあり方に管理職や経営層が無理解なまま、強力なコーディングツールだけを配ると、思いつきのツール導入・自作の寄せ集めが生じて、業務インパクトは改善どころか、劣化・悪化しかねない。本当の意味で抜本的な生産性拡大を実施するためには、経営層・管理職によるトップダウンでの構造変更が必要となります(なぜならそこに責任を伴った意思決定が求められるから)。

3. AI Native になった世界の解像度をどれだけ説得的に共有できるか

この実装が進んだ先に、業務が実際にどう変わるのか。その世界観を社員に説得的に共有できれば、AXへの組織的な熱狂が生まれる一方、できないままだと部門内で「自分たちの仕事はなくなっていくのだろうか」という漠然とした不安・焦燥感が空気を支配し、管理職だけが謎に焦り続けるという世界が生まれます。

AI Nativeな組織では、部下・同僚であるAIエージェントによる自律駆動の処理が前提となるため、人間は設計と意思決定に役割の比重を移します。
AIの効率化が進んでいる組織においては、法務への相談が窓口や口頭で来て、担当者がAIを用いながら論点についてリサーチし、返答のドラフトにAIを用いるのが典型でしょう。一方で、AI Nativeな法務では、相談者の問い合わせに対して、AIエージェントが適切な情報提供をガイドし、相談内容をリスクに応じてAIがトリアージします。既知のナレッジや社内ポリシーで解決できるものはその場で自己解決し、人間の判断を要するものだけが「整理済みの論点・関連ポリシー付き一次ドラフト(あるいは契約書レビュー結果)」として法務担当者に届きます。人間の役割は、白紙でリサーチを行い回答を作成する人、契約書ドラフトに修正提案を書く作業者から、正しいタイミング・正しい論点・正しい文脈で判断・意思決定する人、例外と交渉戦略、リスク許容度を判断する人へと変化していきます。

契約のライフサイクルにおいても、契約締結後、重要なリスク(自社標準からの逸脱内容・表明保証・コベナンツ・競業避止義務等)、トリガー(支払条件や検品、更新期限等)、メタデータ(決裁者・法務担当者・締結日・保有リスクレベル等)をAIエージェントが抽出・登録し、そのデータベースをAIエージェントがモニター・追跡し続けるフローになっていきます。

業務の過程で生じた新たな論点・新たなナレッジは、参照可能なフォーマットでナレッジデータベースに登録。一度行った検討が属人的に埋もれず、構造化されたナレッジとして記録され、次の問いに複利的に効かせることで車輪の再発明を消し切り、人間が本当に人間にしかできない業務(設計と意思決定)に従事することになり、むしろ人間は設計・熟考・意思決定のための時間が増えることになっていきます。

4. 縦横に広がる6つの層を区別した実装

以下の図が、我々が法務・ガバナンス業務のAXで整理している6つの層です。下の階層が整理されればされるほど、上の階層に質的なインパクトをもたらし、それを伴わないAXは単に最上位レイヤーでのAIツール導入で終わってしまいます。

土台:AIプラットフォーム
Claude CodeやCodexといった、会社が用意・許可・配布する実行環境そのものです。ここで本質的なのは技術そのものというより、「許可され、配布されている」という点です。同じことを個人が勝手にやればシャドーAI/ITになり、セキュリティリスクや財務リスクが肥大化します。そして後述するとおり、五つの構成要素のうち、我々法務・ガバナンス部門だけではどうにもならない唯一の要素でもあります。

縦糸1:Agentレイヤー
これはプラットフォームの上に載る箱ではなく、実行基盤から立ち上がり、業務オペレーションモデルを通って、業務バリューチェーンまで縦に貫く層です。AIエージェントは、設計された業務オペレーションモデルに従って駆動し、最終的な価値提供を各ユースケースでエンドユーザに対して行います。したがって、オペレーションモデルを古い形で残したままAIエージェントだけを作ると、結局どこかで人間の承認待ちが発生し、冒頭のダイナモの話と同じく、クリティカルパスは残り続けます。

縦糸2:MCPレイヤー
同じく実行基盤から立ち上がり、データ・ナレッジ基盤を通って業務バリューチェーンまで貫きます。MCPは社内システムやデータへの「配管」であり、接続先のデータが構造化されていなければ、配管を敷いても流れるものがありません。逆に、ナレッジがどれだけ整備されていても、配管がなければ届かない。この二つは常にセットで考える必要があります。

中間層:業務オペレーションモデル / データ・ナレッジ基盤
前者はマターマネジメント、職務権限、決裁フローに代表されるように、法務・ガバナンスが所管する業務フローをどうAI Nativeにしていくか。後者は契約書DB、法務相談記録、社内ルール、各種議事録などのデータ・ナレッジをどう生成・保管していくか。この二つは並列に置いていますが、時間軸の性質がまったく違います。オペレーションモデルは設計すればその時点から効き始めるのに対し、データ・ナレッジ基盤は蓄積の時間をかけないと効かない。その代わり、一度貯まれば複利で効き続けます。つまり、着手が遅れるほど取り返しがつかなくなるのはこちらです。ナレッジ基盤の整備は「余裕ができたらやる」項目に置いてはいけません。

最上層:業務バリューチェーン
相談・問い合わせ対応、リサーチ、ドラフティング、レビューと意思決定支援、コンプライアンス、ガバナンスなど、AIで作り直す業務対象そのものがあるレイヤーです。注意したいのは、目に見える価値が出るのはこの層だということ。下の層はその出力を最大化させるための投資であって、それ自体は成果ではありません。だからこそ、最上層だけに投資して「効率化ツールの寄せ集め」で終わる失敗と、基盤を作り込んだのに最上層が空のままという失敗の、両方が起こり得ることに自覚的でなければなりません。

縦断:人材・スキル
そして、全体を縦に貫くものとして「人材・スキル」という要素が存在します。縦に貫いているのは、層ごとに必要なスキルの中身が違うから。プラットフォーム層で必要なのは環境を運用する力、オペレーションモデル層で必要なのは業務を再設計する力、業務バリューチェーン層で必要なのは実務で使いこなす力。これを「一段目の土台」として置いてしまうと、汎用的なAIリテラシーという一枚岩の概念になってしまい、「Claude Code/Codexで何か実装できる」といった抽象的な能力記述となってしまいます(後述するスキルマトリクスでもグレードとカテゴリを実際に分けています)。

全体:ガバナンス
最後に、層ではなく、全体を囲む枠として「ガバナンス」が存在します。前述の「全速力で走り続けられるガードレールを引く」という表現を、そのまま絵にするとこうなります。ガバナンスをどこか一つの層に押し込めた瞬間、それは通過すべき関門になってしまいます。そうではなく、どの層で何をしていても常に効いている境界線として設計することを意識しています。

このそれぞれの枠ごとに、四半期ごとのOKR(Objectives and Key Results)を置き、実装を進めるRoadmapを構築・運用しています。具体的には次の五つを区別し、それぞれにOwnerを割り当て、組織としてトラッキングしています。(勘の良い方は気づかれると思いますが、最上位の業務バリューチェーンの部分だけ、特にOKRを置いていません。下のレイヤーが整ってくればそこの変革は意識的な投資なくとも実現しうるためです。)

  • KR1|人材・組織能力:AI Native人材が自律的に育つ道筋をつくる。後述するスキル・マトリクスを運用し、月次で一人ひとりの現在地を可視化・伴走する。

  • KR2|AI-firstの標準化:主要業務でAIによる一次対応・一次ドラフトを標準手順にする。現在の一人当たり相談量に対して、X倍(非公開、四半期〜半期ごとに調整)の業務量に耐えうる状態を目指す。

  • KR3|業務のオペレーションモデルの再設計:AIエージェントが駆動することを前提に、稟議・決裁や契約ライフサイクルのプロセスそのものを作り直す。

  • KR4|AI-friendlyなデータ・ナレッジ基盤:優先度の高いコーパスを、AIエージェントがアクセスできる形に整え、AI-friendlyな形式でナレッジが蓄積・再利用される状態にする。

  • KR5|Governance by default:全速力を前提にしたガードレール(ポリシー、リスク管理、アクセス・コントロール、監査ログ、Human in/on the loop設計)を整える。

5. AX3点セット‐Vision文書、AIスキルマトリクス、AXロードマップ

とまあ、ここまで偉そうに書いてきたわけですが、これだけを全社員に投げても、「なんだか偉そうな文書が降ってきた」で終わるわけです。
AI Nativeな組織になるためには、こういうVisionaryな文書とは別に2種類、合計3つの文書が必要であると走りながら気づきました。

一つは、AIと共生するAI Nativeな人材のスキルマトリクスを解像度高く言語化すること。「AIの利活用を人事評価の対象にする!」と息巻くのは良いですが、マネージャーも対象社員も、何をゴールにし、どういうステップを歩めばいいかがわからないままでは、
- 部下「なんとなく20%くらい生産性上がった気がします」
- 上長「OK。頑張って使っているよね」
という元も子もないなんちゃって人材開発で組織が終了します。数十人規模の部門となると、「リテラシーが高い何人かが現場にいればなんとかなる」という世界ではなくなるのです。
詳細はまた別で記載しようと思いますが、AI利活用を自動運転のレベルになぞらえる企業が多いため、我々もAI Nativeな法務・ガバナンス人材のグレードをL1~L5に区別したスキルマトリクスを作成しました(しかし、結局色々と試行錯誤した結果、L2.5という中間レイヤーができたため6段階…)。縦軸にこの6段階のグレードを起き、横軸に活用のカテゴリとして、土台となる二つ(「AI利用の目的と価値レバーの判断リテラシー」と「ガバナンスとセキュリティ」)に加えて、実務の六軸(リサーチ、ドラフティング、レビューと分析、ツール拡張・連携、自動化・内製、ナレッジ・マネジメント)を置きました。
そして、スキルマトリクスを用いて、一定期間内に全員をL2~L2.5へと底上げすること、その上でキーパーソンや希望者はさらに上のグレードを目指すように育成する計画としました(これもAnthropicやOpenAIが公表している分析結果に基づいた設計なのですが、長くなるので詳細は別の各論に譲ります)。

もう一つの文書が、Visionaryな世界観を実現するために、組織的なインパクト・急所を捉え、戦略的に業務リソースを投下する「AXロードマップ」です。
思想とOKRだけでは、組織は動きません。スキルマトリクスを与えるだけでは、目先のスキル取得・業務改善のみにAIが用いられます。本当に業務インパクトの出るオペレーションモデルやデータベース、ナレッジグラフ等基盤の改善の急所を押さえ、そこにキーパーソンをOwnerとして割り当て、法務部門以外からTech Leadを当ててもらい、組織的に四半期ごとの実装をトラッキングするロードマップが必要です。

現時点で我々のAX Roadmapには、五十を超える具体的なアクションアイテムが登録されてますが、優先順位が異なり、Ownerが明示的にアサインされて開発・実装を進めているのは15〜20前後です。最もインパクトがでているのは、やはり法務相談対応エージェントで、法務・ガバナンス部門への問い合わせに対して、過去のナレッジと参照可能文書をもとに回答のドラフトを作成するエージェントです。中級レベルの問い合わせであれば90%前後の精度を保って回答を作成するレベルにまで来ており、精度を高めるコンテクスト・エンジニアリングをさらに進めています。

他にも、特定当事者の契約を自動で検索して返すエージェント、商標の権利侵害可能性を特許情報取得APIを叩いて初期的なリスク評価を行うエージェント、相談トレンドを可視化するダッシュボード、一定期間法務担当者の動きのない案件を自動でリマインドする仕組みなどがすでに駆動しています。

一方、これらは組織的なアセットになっていることが重要で、言い換えれば最も手強いハードルの一つが属人化です。
強力なツールほど、「それを作った人しか中身がわからない、触れない」状態になりがちです。個人の生産性は上がっても、その人がいなくなった瞬間にオペレーションが不安定になるというのはAIエージェント時代の到来前からRPAの典型課題でした。これではむしろ組織全体として非効率を生みかねない。したがって、ロードマップの各アクションアイテムは、構築したAIエージェントのPRDの格納など、仕組みとして構造化されていることをもって初めて完成となります。

6. Safe/Governance by defaultを実行する側が、作る側であることの意味

私は、AIのリスクを評価し、ガバナンスを設計する側の責任者(SecurityのHeadとの共管)でもあります。同時に、上に書いたようなAXを部門内で推進し、自分でも手を動かして作っている側でもあります。法務・ガバナンス部門がAXの当事者になることは、当然緊張関係もありますが、組織的インパクトを生み出そうとするエンジニアリング組織や事業部門に対して、解像度高く寄り添うことも可能にします。AI Nativeな組織では、人間の意識・リテラシーに頼らず、Safe/Governance by default(全速力で走れるガードレールを先に引き、人間をボトルネックにしない)を実現しなければならない。ブレーキとアクセルを対立させるのではなく、安全に全開で走れる設計を先に用意する。
AIエージェントにどんな権限を与えるか、その行動ログをどう残すか、どのような条件でHuman in the loopを除外することができるか、Observableな入出力に対する監査はどのような条件で実行可能か、それぞれのAIエージェントの組織的管理をどう可能にするか。こうした問いは、作る側の視点と統治する側の視点の両方がないと、合理的に設計できません。このあたりも悩みをまた記録していければと思っています。

そして、改めて、非エンジニアが作る側に回ることを許してくれる会社の環境にも感謝です。AXのための5つのレイヤーのうち、我々だけではどうにもならないのがAIプラットフォームのレイヤーです。Claude CodeやCodex、各種MCP等を、Observability含むセキュリティ要件を担保する形で非エンジニアにも活用可能にし、財務上の統制も効くように求める我々AIガバナンス側の要件を具備しながら、社内環境を整えてくれるのは当たり前のことではないのですよね。様々な企業の方々と意見交換させていただく中で、本当に会社のエンジニアやセキュリティの方々が頑張ってくれていることを実感します。

最後に:法務は生き残るのか

こういう話をすると、「法務の専門性もAIに置き換えられていくのか」という問いに常に直面します。ここに真正面から回答できなければ、組織に熱狂は生まれません(というか私自身も自分のキャリアを考え直さないといけません)。私は「処理と速さはAIに、深さと思考・設計は人間に。その区別をもって活用できる法務・ガバナンスの人間はむしろ希少価値を高めていく」と答えてきました。

Anthropic社が2026年に公開した、Claude Codeの利用データ約40万セッションを対象にした分析があります(「Agentic coding and persistent returns to expertise」)。そこで示されたのは、AIをうまく使いこなせるかを分けるのはコーディング能力ではなく、「解くべき課題をどれだけ深く理解しているか」、すなわちドメインの専門性の有無でした。Claude Codeがコードを生成するセッションであっても、非エンジニア職種はソフトウェアエンジニアと数ポイント差以内の成功率を記録しています。そして、ドメイン専門性の高い利用者は、Novice(初級)利用者に比べ、1つの指示でAIが2倍以上のアクション、5倍の出力を生むことも示されています。これらを踏まえ、分析でも、法務職は「非ソフトウェア職の中で成長が最も速い職種群の一つ」と言及されています。


AIに安心して広い裁量を渡し、自律駆動させる割合が大きい状態こそが AI Nativeであり、それができるのはドメインの専門性にあります。法務やガバナンスの専門性は、AIに置き換えられる対象ではなく、AIを駆動するための最大のアセットになりえます。だからこそ、AIエージェント時代における法務パーソンの重要なスキルセットとは、いかに再現可能な法務業務上の方程式を見出し、それを再利用可能・機械判読可能なフォーマットに言語化できるか、すなわちAIエージェントが駆動可能な形を設計できるかにあると考えます。
エンジニアリングの世界では、それが究極に効率的な形で行われてきました。法務・ガバナンスの世界や経営管理の世界でも一定の時間をかけてこの現象が生じていくと思いますが、より「特定のAI Adaptabilityを持った人間だけがそれを保有する」という世界が発生するはずです。なぜなら、エンジニアリングの世界ではアウトプットによって評価される世界が構築されている一方、我々の世界では未だ「かかった時間」によって評価される世界(タイムチャージ型の評価軸)がおそらく今後も当分続くからです。法務の世界でも新たな価値評価軸は提案・試案されていますが、少なくとも「逃げ切り型戦略」を取る人たちが5〜10年単位で一定数を占めるであろうため、時間を効率化することにインセンティブを覚えない組織もまた5〜10年単位で残ります。そこにとてつもないブルーオーシャンが存在するはずで、本来熟練の法務パーソンがやっていたことをAIエージェントにより駆動可能な形で再帰・再現可能な形の方程式にできる人間が、これまでと全く異なる種類の、異常なまでのOutcomeを一人で出しきる世界が立ち現れると強く信じています。


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結城東輝(とんふぃ) 図書館が無料であるように、自分の記事は無料で全ての方に開放したいと考えています(一部クラウドファンディングのリターン等を除きます)。しかし、価値のある記事だと感じてくださった方が任意でサポートをしてくださることがあり、そのような言論空間があることに頭が上がりません。