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野口良平「幕末人物列伝 攘夷と開国」 第5話 本居宣長(1)

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 過去の重要な思想家の名に「問題」という言葉がつけられて、「〇〇問題」のように取りざたされることがある。

 たとえば「ルソー問題」。それは、民主主義的思想家であるはずのジャン=ジャック・ルソー(1711-1778)が、全体主義の祖ともみなされるのはどういうことなのか、という疑問に関わっている。

 ルソーは、あらゆる権力やルールは、その社会の全メンバーの共通利害と合意(=一般意志)に支えられるとき、はじめて「正しい」ものになると考えた。「よい社会」とは、みなで一般意志を探り合い、つくり育て合うプロセスが最大限尊重される社会のこと。逆にいえば、一般意志に支えられない権力やルールには、人間は一切従う必要がないというのが、ルソーの考えだった(『社会契約論』)。

 ところがその「一般意志」が、「全体主義」の源泉ともみなされてしまう。この見方は、ルソーの意図に即せば全くの誤解だとわかるのだが、誤解を招く原因はルソー自身にもあった。
フランス革命前夜の切迫した状況のなか、十分な教育を受けられずにきた民衆同士が一般意志を探り合うことは難しいのではないか。そう考えたルソーは、民衆に代わって一般意志を洞察する天才的能力をもつ「立法者」が必要だと、『社会契約論』に書き加える。
そのことが、ロベスピエール(1758-94)のような自称立法者の出現による、独裁と恐怖政治の誕生にも道を開いてしまったのだ。

ジャン・ジャック・ルソー
( モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール画、1750年
/パブリックドメイン)

 ルソーのほぼ同時代人である本居もとおりのりなが(1730-1801)も、その名に「問題」が付せられる思想家・学者だが、それは次のような疑問に関わっている。
――宣長は、古代の文献(古語の世界)の厳密な実証を学問研究の中心にすえようとした学者である一方で、『古事記』に出てくるアマテラスこそが太陽であり、「日の神」として四海万国を照らしているのだと、狂信的で排外的にみえる主張さえする。
この二つの関係を、どう理解すればよいのか。

 これは、いったいどういう意味をもつ「問題」なのだろうか。そして、そうした「問題」を私たちに投げかけることになる宣長とは、何者なのか。

本居宣長四十四歳自画自賛像 掲載許可お願い中です
松坂郊外の山室山。本居宣長の墓地へつづく道*


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◆参考文献

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◆著者プロフィール

野口良平(のぐち・りょうへい)
1967年生まれ。京都大学文学部卒業。立命館大学大学院文学研究科博士課程修了。京都芸術大学非常勤講師。哲学、精神史、言語表現論。

〔著書〕
『「大菩薩峠」の世界像』平凡社、2009年(第18回橋本峰雄賞)
『幕末的思考』みすず書房、2017年
『列島哲学史』みすず書房、近刊(2025年9月)
〔訳書〕
ルイ・メナンド『メタフィジカル・クラブ』共訳、みすず書房、2011年
マイケル・ワート『明治維新の敗者たち 小栗上野介をめぐる記憶と歴史』  みすず書房、2019年
〔連載〕
「列島精神史序説」(「月刊みすず」2020年7月号~2022年9月)
「幕末人物伝 攘夷と開国」(けいこう舎マガジン)!!!!!!

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