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野口良平「幕末人物列伝 攘夷と開国」 第5話 本居宣長(2)

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 本居宣長は、享保15年(1730)5月7日、伊勢国の松坂(現三重県松阪市)に父小津定利(江戸に店を出す木綿商)、母かつの子として生まれた。養子として小津家に入った兄と、弟一人、妹二人がいる。幼名は富之助。
その後の通称は弥四郎(さらに健蔵)。姓を先祖(武家)の姓の「本居」とし、名を宣長としたのは、二十代の時だった。

伊勢国は、西側には南北に山々が連なり、東側には『万葉集』の歌枕でもある「いせの海」が広がる一帯を指している。その南方に位置する伊勢神宮の社殿や制度が整備されたのは、天武・持統朝(7世紀末)のころ。江戸時代には商業が発展し、各地からお伊勢参り(伊勢参宮)にやってくる人びとや物資、それに情報の往来でにぎわった。
その伊勢国の中央に位置する松坂は、蒲生氏郷が築城した城下町だったが、1615年に紀州藩が城代を置き支配地としてからは、江戸、京都、大坂と伊勢をつなぐ商人たちによる活発な経済活動、そして歌会や古典の読書会、茶会のような文化活動の根拠地として栄えるようになる。宣長を育んだのは、そんな自由な空気だった。

父の定利としては、宣長に商売を継いでほしかったのだが、宣長が11歳のときに江戸で死去。
年譜をみると、日記の起筆、写本の手始め(法然上人の伝記)、近所のじゅきょうで聞いた赤穂義士の説教(江戸からきた説教僧実道による)の詳細な記録作成(「赤穂義士伝」)、初めての京都見物、どれも父の死後のこと。
16歳の時、江戸の叔父の店に寄宿し、商人見習いに励んだと考えられるが、江戸の生活に馴染めず、自分が商売に不向きなことを深く悟ったようである。

宣長が12歳から晩年まで住んだ邸宅「鈴屋」跡*
(建物は「本居宣長記念館」敷地に移築保存中)
本居宣長宅跡の看板(松阪市魚町)*

翌年(延享3年/1746)4月、松坂に戻った宣長は、以後2年間自宅に引きこもり、読書などに明け暮れた。5月には、現行の日本図の誤りをただす抱負のもと、『大日本天下四海画図』(122cm×195cm)の作成に着手する(完成は5年後)。和歌や物語(『源氏物語』)への関心が芽生えたのも、この時期のことだったようである。

「大日本天下四海画図」が入る予定です(掲載許可申請中)

寛延元年(1748)3月には、京都を原モデルにした架空都市図「端原氏城下絵図」を描きはじめ(51.5cm×71.5cm)、架空の氏族「端原氏」の系図作成にもとりかかった。
宣長は、にぎやかで魚介類も豊富な松坂の町に一応満足してはいたが、水運がないことと、町筋が整然としておらず不格好なこととには物足りなさを感じていた。その両方の条件をみたす京都に憧れるだけでなく、理想の架空都市像まで創りこんでしまうところに、極の極までフィクションを愛した宣長の面目が躍如としている。実現はしなかったものの、「端原氏物語」の構想を暖めてさえいたとする説もある。

「端原氏城下絵図」が入る予定です(掲載許可申請中)


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◆参考文献

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◆著者プロフィール

野口良平(のぐち・りょうへい)
1967年生まれ。京都大学文学部卒業。立命館大学大学院文学研究科博士課程修了。京都芸術大学非常勤講師。哲学、精神史、言語表現論。

〔著書〕
『「大菩薩峠」の世界像』平凡社、2009年(第18回橋本峰雄賞)
『幕末的思考』みすず書房、2017年
『列島哲学史』みすず書房、近刊(2025年9月)
〔訳書〕
ルイ・メナンド『メタフィジカル・クラブ』共訳、みすず書房、2011年
マイケル・ワート『明治維新の敗者たち 小栗上野介をめぐる記憶と歴史』  みすず書房、2019年
〔連載〕
「列島精神史序説」(「月刊みすず」2020年7月号~2022年9月)
「幕末人物伝 攘夷と開国」(けいこう舎マガジン)!!!!!!

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