W杯開幕!ところでサッカー選手はなぜ、試合で靴下を切るのか?
こんにちは!
靴下工房Toréを運営しているアクルです。
これまで大手アパレルOEMの現場で、中国工場と一緒に数百万足の靴下を作ってきました。
このnoteでは、その経験をもとに「靴下の仕組み」や「履き心地の違い」を、できるだけ分かりやすく書いています。
普段あまり意識されない靴下ですが、少しでも面白い世界だと感じてもらえたら嬉しいです。
ワールドカップがついに開幕ですね!
サッカー大好きですので、とうぶんサッカーの話をします。
ところで、ピッチを見ていると、靴下を切っている選手がいます。
ユニフォームを切る。スパイクではありません。
靴下を、です。
ふくらはぎに穴を空けたり、まっぷたつに切ったり、短くしたり、いろんな選手がいます。
なぜわざわざ切るのか。
ルール違反にならないのか。
靴下を作っている立場から、少し掘り下げてみたいと思います。
サッカーソックスは、固定のために作られている
まず、構造の話をします。
サッカーソックスが膝下まである長い形状になったのは、シンガード(すねあて)を固定するためです。
シンガードは競技規則上、着用が義務付けられている防具です。
規則では、シンガードは適切な素材とサイズで、ソックスに覆われている必要があります。
これをソックスの中に入れて固定する。
だから長く、しっかり締まっています。
サッカーソックスは「動かさないこと」を前提に設計されています。
固定力を優先した結果、締め付けが強くなります。
これは設計上のトレードオフで、どちらかを立てればどちらかが立たない構造です。

締め付けが、足を殺す
選手は90分間、走り続けます。
ポジションや試合展開にもよりますが、プロ選手は1試合で10km前後を走ることもあります。
その間、ふくらはぎは収縮と弛緩を繰り返します。
圧迫が強いと、人によってはふくらはぎの張りや窮屈さを感じます。
それが長時間続くと、足が重く感じたり、つりそうな感覚につながることがあります。
科学的に「切れば必ずパフォーマンスが上がる」とまでは言えませんが、少なくとも選手本人の感覚としては、圧を逃がす意味があります。
だから切るのです。
ふくらはぎの締め付けがきつい部分にハサミを入れ、テーピングで切り口を処理する。

ルーティンとしての側面
機能的な理由だけではないかもしれない、とも思っています。
「これをやると調子がいい」という選手がいます。
靴下を切ることが、試合前のルーティンになっているケースです。
スポーツ選手にとって、身体感覚と精神状態は切り離せません。
靴下一枚の締め付け具合が、集中力に影響することは十分ありえます。
プロの世界では、感覚の微調整がパフォーマンスに直結します。それだけ足元への感度が高い、ということでもあります。
ルールとの戦い
ただし、ルール上は自由に何でも見せてよいわけではありません。
競技規則では、ソックスの上に巻くテープや外部素材は、その部分のソックスと同じ色である必要があります。
そのため、切り口をテーピングで処理する場合も、色や見え方には注意が必要です。
切り口が広がらないようにしたり、ソックスの色と違和感が出ないように、テーピングで処理する選手もいます。
道具を体に合わせるか、ルールに合わせるか。
選手たちはその境界線で折り合いをつけながらプレーしています。
靴下を切る、という行為の本質
靴下を切るという行為は、突き詰めれば「既製品が体に合わない」という話です。
市販のサッカーソックスは、標準的な体型を前提に作られています。
ふくらはぎが太い選手、細い選手、筋肉の付き方が特殊な選手——それぞれに「合う」ソックスではありません。
だから切って調整する。
これはプロ選手だけの話ではないと思っています。
一般の人でも、靴下の締め付けが気になって脱いだ瞬間にほっとする、という経験がある人は多いのではないでしょうか。
足首に跡が残る、夕方になると足が重い——これも同じ構造の話です。
靴下は体に触れ続ける道具です。
合わないと、じわじわと疲れが積み重なります。
合っていると、存在を忘れられます。
ワールドカップの選手たちが、わざわざ靴下を切ってでも足元にこだわる理由は、そこにあるのではないかと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
靴下工房Toréでは、「派手じゃないけれど毎日履ける靴下」をテーマに靴下を作っています。
Xでは、靴下の仕組みや業界の裏側なども発信しています。興味があればぜひのぞいてみてください。
Toréの靴下はこちらから:
