「和紙」の靴下は、紙でできている?── 素材の正体と、なぜ今ファッション界でも使われるのか
こんにちは!
靴下工房Toréを運営しているアクルです。
これまで大手アパレルOEMの現場で、中国工場と一緒に数百万足の靴下を作ってきました。
このnoteでは、その経験をもとに、普段あまり意識されない靴下の仕組みをできるだけ分かりやすく書いています。
靴下はとても地味な存在ですが、実は身体・工業・文化が交差する、なかなか奥の深い世界です。
最近、「和紙素材」という言葉をよく見かけるようになりました。
無印良品が和紙混のシャツを展開し、話題になっています。
靴下の売り場でも、「和紙」とパッケージに書かれた商品が増えてきました。
「なんとなく、体によさそう」 「日本っぽくて、涼しそう」
そんな印象で手に取る人が多いと思います。
和紙靴下って、そもそも何でできているのでしょう。
紙でできているのでしょうか。
破れないのでしょうか。
水に濡れたらどうなるのでしょうか。
今日は、「和紙素材」の話です!
和紙靴下の正体
結論から言うと、靴下に使われる「和紙」は、「和紙糸」という糸のことです。
和紙を薄くつくり、細く裁断して、撚りをかけて一本の糸にしたもの。
それが和紙糸の正体です。
コピー用紙を引き裂いたような素材が、そのまま靴下になっているわけではありません。

原料は、マニラ麻
「和紙」という名前ではありますが、原料の多くはマニラ麻という植物です。
マニラ麻はフィリピンなどに自生する多年草で、強靭な繊維を持つことで知られています。
これを漉いて和紙の状態にし、糸へと加工していきます。
「和紙なのに、和じゃない原料?」
そう感じる人もいるかもしれません。
ただ、ここで大事なのは産地よりも製法です。
和紙の手法で漉き上げられた紙を糸にする。
その工程が「和紙糸」という素材の本質です。
ちなみにマニラ麻は、農薬や化学肥料をほとんど使わずに育ち、収穫から数年で再生する植物です。
環境負荷が低い素材として、サステナビリティの文脈でも注目されています。
大手ブランドが採用を増やしている背景のひとつに、この点があります。

糸になるまでの工程
和紙糸が生まれるまでには、いくつかの工程があります。
まず、マニラ麻などの原料から和紙を漉きます。
次に、その和紙を1〜4mm程度の幅に細く裁断します。
この工程を「スリット」と言います。
最後に、スリットした和紙に撚りをかけて、一本の糸にします。
この「撚り」をかける工程が重要で、ここで和紙に強度が生まれます。
水に濡れても溶けない、靴下として使える糸になるのは、この撚りがあるからです。

なぜ、靴下に向いているのか
和紙糸が靴下素材として評価される理由は、その構造にあります。
繊維の一本一本に、無数の微細な穴が空いています。
「多孔質」と呼ばれる状態です。
この穴が、空気と水分を動かします。
汗をかくと、穴が湿気を吸い込んで、足を踏み出すたびに、外へと押し出します。
その繰り返しで、靴の中がこもりにくくなるわけです。
綿素材と比較すると、吸湿・吸水の速度が高いとされています。
毛玉が出にくいのも、この繊維の特性によるところが大きいです。
サラっとした感触。 軽さ。 においにくさ。
「和紙靴下は夏によい」と言われる理由は、ここにあります。

「和紙素材」と「和紙混素材」は、別物
ちなみに、市場に出ている「和紙靴下」のほとんどは、和紙100%ではありません。
和紙糸は、乾燥した状態で切れやすくなる性質があります。
伸縮性も低いため、靴下として編む際に技術的な制約が多い。
そのため、通常は綿やポリウレタンなど他の素材と組み合わせて使われます。

この組み合わせが、いわゆる「和紙混靴下」の基本構成です。
実際、和紙100%で靴下を編める工場は、日本国内でほとんど存在しません。
それほど、製造上の難易度が高い素材です。
「和紙」と書いてあっても、どのくらいの割合で入っているか。 何と組み合わせているか。
そこまで見てみると、靴下選びの精度が上がります。
「和紙」という名前について
もう一点、書いておきたいことがあります。
「和紙」という言葉は、消費者にとって強いイメージを持ちます。
日本の伝統。 手漉き。 コウゾやミツマタ。
でも実際の和紙糸の原料は、前述のようにマニラ麻が多く、製法も機械漉きが主流です。
伝統工芸としての「和紙」とは、別物と考えるほうが正確です。
これは批判ではありません。
「和紙の製法を応用して作られた、機能性の高い糸」
そう捉えれば、素材としての価値は本物です。
ただ、名前のイメージだけで判断せず、どんな構造で、何と組み合わせているかを見ること。
それが、靴下を選ぶ上でも、靴下を作る上でも、大事な視点だと思っています。
無印良品が和紙シャツを出した理由
少し視野を広げると、和紙素材がファッション業界全体で注目されている理由が見えてきます。
無印良品が和紙混のシャツを展開し、話題になっています。
靴下屋(Tabio)も和紙素材のラインを定番化しています。
大手が動いているのは、単なる「珍しさ」ではありません。
吸湿速乾・軽量・抗ピリング。
そして、植物由来・低農薬という素材の背景。
機能とサステナビリティの両立ができる素材として、業界内での評価が高まっています。
靴下は足元という、最も蒸れやすい場所で使われます。
だからこそ、吸湿と速乾の機能が直接的な体感に繋がりやすい。
大手が靴下に和紙を採用し始めたのは、必然だったとも言えます。

最後に
「和紙靴下」という言葉を聞いたとき、少し違う見え方になりましたか。
紙でできているわけではないこと。
原料はマニラ麻がほとんどであること。
市場にあるほとんどは「和紙混」であること。
これを知った上で素材表示を見ると、靴下売り場の景色がほんの少し変わります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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