[企画参加作品]翫味 #風まかせ文芸部
彼は熱いものを好んで食べた。
それは飲み込むと喉の奥の丸い管の形を鮮明に浮き上がらせ、胃に落ちても尚、自らの所在を主張した。
呑み下した後、彼は決まって「ほぅ」と息を吐く。
それは安堵の表現としては嫌に艶めかしく、周囲の者をたじろがせるほどの色香を纏っていた。
彼は辛味も好んだ。
口に入れた瞬間に訪れる刺激だけでは足りない。
食したあとに腹を掴まれているような感覚や、翌日になって排泄する際に再度訪れる焼かれるような刺激も愉しみの一つだった。
食する時に見せる火照った顔と額に汗を滲ませる様は、直視することを憚らせた。
また、他人の食事を見ることも好きだった。
誘われれば誰とでも席を共にしたが、自分で誘うならば男性と決めていた。
食べる量が多いのもさることながら、嚥下の瞬間が分かりやすいのだ。
喉に浮き出た骨が上下するたび、その奥に隠されたものを想像する。
それは柔らかく丸い管を下降し、やがて蠢く海に落ちる。
そこは自分自身すらも浸食しかねない死の海。
咀嚼され、唾液にまみれて飲み下されたものたちは、そこでさらに分解され、人の体内で最も長い器官に送り込まれてゆく。
温かく湿った器官に溶かされ、やがてその身体と同化する。
それを思うだけで、彼の内側を甘い疼きで満たした。
彼は今日も食事をする。
直接触れることも、見ることも叶わない深部の躍動を翫味しながら。
お読みいただきありがとうございます。
こちらの企画に参加させていただきました。
主催者様、いつもありがとうございます。
〜追記? 反芻? 蛇足?〜
【あとがき】
「翫味」は「玩味」とも書くそうで、弄んで楽しむことも含めるみたいですね。
そんなことを考えていたら、また趣向の強い人——端的に言えば変人の話になってしまいました。
でも、なんか熱いものを飲み込んだ時の感覚って、ちょっと面白くないですか?
あ、今ここにいるな。
おお、下がっていってるぞ。
みたいな。
……あれ? あんまり伝わりませんかね??
最後までお読みくださりありがとうございます。
またお会いできますことを楽しみにしています。
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