怒りは性格じゃない。脳の仕組みだった──扁桃体ハイジャックを止める方法
なぜ「感情に振り回される」のか
カッとなったあと、こう思ったことはありませんか?
「なんであんな言い方したんだろう…」
「冷静なら絶対あんなこと言わなかったのに」
「またやってしまった」
頭ではわかっている。
でも、その瞬間になると止められない。
これは、感情に飲み込まれないためのお話です。
1863年7月。南北戦争のまっただなかに
南軍を破ったあと、リンカーンはミード将軍に命じました。
「リー将軍の退路を断て。追撃せよ。戦争を、今日終わらせろ」
しかし、ミード将軍は動きません。
軍内で会議を開き、議論し、慎重に判断したのです。
その間に、南軍は川を渡り、逃げ切ってしまった。
それを聞いたリンカーンは、激怒し、失望し、手紙を書きました。
「君は、この失態の重さをわかっていない。
今日、リーを仕留めていれば、戦争は終わっていた。
絶好の機会を逃した。君のせいで、戦争はまだ終わらない。
私は、言葉にならないほど苦しんでいる」
彼は、その「hot letters(熱い手紙)」を書き終えると静かに封をしました。そして、机の引き出しの中に眠らせたのです。
怒りのまま書いて、その感情を葬っていたのです。
生涯で、何十通も。
いったん感情に火がつくと、その怒りを止めることは本当に難しい。
僕もほんとにそう。
起業家なこともあり、頻繁にカーっとしては、
思いついた言葉を、あたりかまわず、相手にぶつけていました。
でも、一人になって、胸が痛みはじめます。
もっと冷静に対応できたはずだ。
もっとちゃんと考えればよかった。
いつも、二次災害、三次災害のあとに気がつくのです。
ああ、とりかえしのつかないことをしてしまった…
扁桃体が「理性」をハイジャックする
なぜ、僕たちは、火がつくと止められないのか。
それは、あなたの「人格」でも「意思」でもない。
扁桃体(へんとうたい)の興奮による生理現象なのです。
扁桃体は、脳の中にある、ふたつのアーモンドみたいな器官。
私たちの危険や脅威をすばやく検知する、いわば脳の警報装置です。
太古の昔から、生命を守るために磨かれてきた大切な機能でもあります。
強い不安を感じて、この扁桃体が興奮すると、僕たちの「思考や判断、言語化」を担う前頭前野の働きが、相対的に弱くなります。
心理学者のダニエル・ゴールマンは、この現象を「扁桃体ハイジャック」と呼びました。「不安に満ちた感情」が「理性」からコントロールを奪うのです。
言葉が出てこない
柔軟に考えられない
闘争か、逃走か。一気に過激になる。
扁桃体ハイジャックが起きると、さらにアドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンが放出され、すぐに身体にも影響が出ます。
心拍が上がる
呼吸が浅くなる
視野が一気に狭くなる
これは身体の必然であり、あなたの人格が非難されるような問題ではない。
リンカーンのような、歴史に残る偉大な賢者でさえもそうなのです。
僕たちの「脳の仕組み」なのです。
やまない雨はない
ただし、この波には、終わりがある。
生理反応は、永遠には続かないように、
最初の嵐は、必ず収まります。
ここからは「コントロールが効く」領域。
でも、実は、問題は、その先にあるのです。
どういうことか。
それは「思考による反芻」が起きやすいこと。
脳科学者ジル・ボルト・テイラーは、自身の脳卒中体験に基づき、
その気づきを著書に記しています。
「感情の生理的な反応は、90秒で終わる。
それ以上続くのは、自分でその回路を再び動かしているからだ」
繰り返し思い出すと、扁桃体が再燃するのです。
これをすることで、二次災害、三次災害がおきていく。言い換えると、自分自身で「災いを呼び込んでしまう」のです。
リンカーンは、普通の人と、ここが違った。
コントロールできる状態になってから、自分をコントロールしたのです。
感情が燃え盛るときには「理性」は効かない
では、感情が燃え盛ったときには、どうすればいいのでしょう。
多くの人がトライするのは、
「落ち着こう」「ちゃんと考えよう」と、
「思考」でなんとかしようとすることです。
でも、これは難しい。
ハイジャックされた状態では、前頭前野の働きが弱くなっているから。
「考えよう」と思っても、思考のエンジンがかかりにくい状態だからです。
頭が効かなきゃ、どうすればいいのか。
ややこしいことは考えず「身体を使う」のです。
一般的に、扁桃体を冷ますために即効性が高いものをあげてみると...
・深呼吸・腹式呼吸──呼気を長くすることで、副交感神経が優位になる
・冷水を顔や手首にあてる──体温を下げることで、覚醒レベルが下がる
・グラウンディング(5-4-3-2-1法)──感覚に意識を向け「今ここ」に戻る
... 見えるもの(5)、触れるもの(4)、聞こえる音(3)、匂い(2)、味(1)
・身体を動かす──歩く、その場を離れるなど、アドレナリンを消費する
・感情にラベルを貼る──「今、怒っている」と感情を言語化する
心理学者マシュー・リーバーマンの研究によると、感情を言葉にするだけで扁桃体の活動が低下することがfMRIで確認されています。「名前をつける」だけで、脳が落ち着きはじめるのです。
その他の技術も、すべて科学的に根拠のある手法です。
僕は、これらを組み合わせて、ひとつの「儀式」にしました。
感情スイッチ:身体から、自分を取り戻す儀式
扁桃体の興奮を、まず落ち着かせる。
そのための手段「扁桃体ランディング」をご紹介します。
扁桃体ランディングのやり方
① 目と耳の交点、こめかみの奥のアーモンド(扁桃体)を意識する

② 二回早く吸って、深く息を吐く (副交感神経がオンになる)

③ じわじわと、扁桃体の熱が冷め、心が落ち着いていくのを感じる

④ 息を吐くたびに、扁桃体を温かい光が包んでいくイメージを持つ

ポイントは、感情を直接コントロールしようとしないことです。
身体からはじめて、感情を落ち着けていくことです。
扁桃体を意識することで「精神」から「物質」に対象が移ります。
潜在意識は「見えるもの」のほうがコントロールしやすいと感じます。
また、二回早く吸って、深く息を吐く呼吸法は「ダブルインヘール」と呼ばれる手法で、ストレスや緊張を瞬時に緩和する、強力なリラックス法として知られています。
これを数回繰り返すだけで、身体の緊張が少しずつほどけていきます。
呼吸が深くなり、心拍が落ち着いてくる。
さっきまで狭くなっていた視野が、少しずつ戻ってくる。
すると、さっきまで出てこなかった言葉が、少しずつ出てきます。
物事に対して、違う角度から見る能力が回復してきます。
マスターすると、何が変わるか。
感情が荒れても、すばやく落ち着きを取り戻せるようになります。
怒鳴ってしまった、泣き崩れてしまった、そういう後悔が減っていく。
嵐の中でも、自分の軸を保てるようになります。
感情は、敵ではありません。
あなたを守るために働いている反応です。
ただ、その扱い方を知らなかっただけです。
次にカッとなったとき、
「またやってしまった」と思う代わりに、
「今、扁桃体が反応している」
そう気づけるだけでいい。そこから、
・意識を向ける
・呼吸する
・待つ
それだけで、流れは変わります。
あなたは、ちゃんと戻れる。
そして、ここで初めて「次のスイッチ」が使える状態になります。
嵐を鎮めることなしに、思考に入れない。
思考に入れなければ、行動の継続も始まらない。
だから、この「扁桃体ランディング」は、すべての基礎なのです。
さて、心が落ち着いてきたら、次の一歩に踏み出しましょう。
なんだかわからないけど、朝からやる気がでない。
そんな時ってありますよね。あなたはどうしますか?
扁桃体ランディングは「嵐を鎮める」ための技術。
次回は「動き出す」ための技術を書きますね。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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斉藤 徹(とんとん)
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