【僕は狂ったさくらが好きです】第3章 「どうせ終わる……の根拠」
第3章テーマは、防衛的悲観の再構成(Defensive Pessimism Reversal)
防衛的悲観の再構成は【防衛的悲観とは、「最悪の結果を想定することで心を守る戦略」で、不安を抑えるためにあらかじめ失敗を予測し、感情的ダメージを軽減します
そして、再構成とは、その悲観を“現実に起きていない可能性”として書き換えること】です
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第3章 「どうせ終わる……の根拠」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい
↓第3章のイメージ楽曲↓
前回のあらすじ
あれから、特別なことは起きていない
さくらは「しばらく恋しないかも」と言ってから、誰とも付き合っていない
それについて、僕は触れなかった
そして…触れないまま、隣を歩く
帰り道
夕方の光が少し長い
「やっぱさ」
さくらが言う
「恋って終わるものよね」
誰かの話じゃない
一般論みたいに言う
「全部?」
僕はさくら聞いた
「うん。だって私、続いたことないし」
事実の羅列
そこに感情は乗っていない、ように見える
「……そっか」
否定しない
否定したら、さくらはすぐに強くなる
「でも……さ」
少しだけ間を置く
「終わった回数しか数えてなくない?」
足音が半拍ずれる
「え?」
「始まった回数もあるだろ」
「そして……好きになった時間も」
さくらは笑う
「なにそれ、ポジティブすぎ」
「バランスの話」
僕は肩をすくめる
「終わる前提にするなら、始まった前提もないと変だろ」
「変なのは湊だよ」
「どこが」
「普通、恋が終わるの怖いって言わない?」
「言うけど」
さくらが前を向く
「それでさ……終わったら痛いじゃん」
僕は一瞬だけ考える
「痛いのは、好きだったからだろ」
沈黙
風が少し強い
「湊ってさ」
視線を外したまま。
「恋が終わるの、怖くないの?」
「怖いよ」
即答に近い
さくらがちらっと見る
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあなんでそんな事言うの?」
僕は歩幅を変えない
「僕は……さくらみたいに“最初から終わる”って決めないだけ」
さくらが黙る
「どうせ終わる、って言ってたら楽だろ」
「楽?」
「傷つく準備できるし」
さくらは少しだけ笑う。
「準備大事じゃん」
「試験じゃないし」
「恋は実技だよ」
「採点基準ある?」
「……ない」
「じゃあ赤点もない」
さくらが一瞬、吹き出す
「なにそれ」
「どうせ終わるなら、始まるも入れとけばいい」
「意味わかんない」
「意味なんてなくていい」
わが家が見える
さくらが立ち止まり……
「湊ってさ」
少し笑う
「私の理屈、あんまり否定しないよね」
「否定する理由ある?」
「あるでしょ。私、変だよ?」
僕は少しだけ考える
それから
「変でもいい」
言ったあと、自分でも少し早かった気がする
さくらが一瞬だけ止まる
目が合う
「もう……変人扱いしないでよ」
軽い声
すぐに笑う
でも、そのあと、何も続かない
「じゃ、また明日」
「うん」
背中を向ける
その日の夜
スマホは静かだった
いつもなら、意味のないスタンプか、どうでもいい動画が送られてくる
今日は……来ない
通知のない画面が、なぜか少しだけ落ち着かない
何も起きていない
本当に……
それでも、“どうせ終わる”の話をした帰り道は
いつもより、少しだけ長かった

結局昨日は、さくらからメッセージは来なかった
珍しいこと……ではない
翌朝、家の前で鉢合わせる
「おはよ」
いつも通りの声
寝不足でもなさそうだ
「おはよ」
いつも通り歩き出す
「昨日さ、ちょっと考えてた」
「……何を?」
「終わった回数しか数えてないってやつ」
軽い調子
でも、歩幅が少しだけ揃わない
「でも……さ」
「やっぱ恋って終わるじゃん?」
守りに入った言い方
「終わる……かもな」
僕は否定しない
さくらが小さく息を吐く
安心したのかもしれない……たぶん
「でも……」
僕は続ける
「さくらってさ……」
「恋を終わらせたいの?」
足音が止まる
「え?」
「終わるの前提なんだろ」
「だったら、終わらせたいのかと思って」
責めるつもりはない
ただの疑問
さくらはすぐに笑う
「終わらせたいわけじゃないよ」
「でも、終わるでしょ?」
同じ言葉
でも、声が少し低い
「終わるかどうかって、相手だけで決まる?」
さくらは答えない
「終わるって決めてるの、さくらだけじゃない?」
「決めてないよ」
少し強い
「決めてない。ただ、覚悟してるだけ」
その言い方は、いつもの彼女だ
理屈がきれいに整っている
「……そっか」
それ以上は言わない
帰り道
「ねえ……湊は……さ」
「もし、私と付き合ったら、終わると思う?」
真正面
僕は迷わない
「思わない」
さくらが目を見開く
「なんで?」
「終わる前提で好きにならないから」
風が強い
「……自信あるんだ」
少し挑発的
「ないよ」
「じゃあなんで?」
「自信なくても……前提にはしない」
理屈というより、癖みたいなものだ
さくらが僕の前に回り込む
「じゃあ……さ」
「終わらないって証明してよ」
「どうやって?」
「なんかこう、理屈的に」
僕は少し考える
「三ヶ月続いたら終わるって言うなら」
「うん」
「三ヶ月目に何も起きなかったら?」
「……なにそれ」
「四ヶ月目も何も起きなかったら?」
「起きるよ、普通」
「普通って?」
さくらが一瞬、言葉を失う
「さくらって終わる前提のイベント、勝手に作ってない?」
「イベントってなに」
「三ヶ月目の別れ記念日とか」
さくらが吹き出す
「誰が祝うのよ」
「じゃあ、記念にケーキとか買う?」
「いらない」
少し笑う
でも、そのあと黙る
家の前
さくらが振り返る
「湊ってさ」
目を細める
「ずるいよね」
「なんで?」
「否定しないくせに、前提だけ外す」
僕は肩をすくめる
「前提……重いから」
「なにそれ」
笑う
でも、その笑いは少し短い
夜
スマホが鳴る
『ねえ』
少し間
『終わらない可能性って、どんな感じだと思う?』
僕は画面を見つめ、考える
『今……みたいな感じ』
既読がつくが……返信は来ない
でも、沈黙が違う
いつもの、整理された静けさじゃない
どこかで
“どうせ終わる”の根拠が
少しだけ、ずれている気がする
そして…今日も隣の家の灯りが、少し遅くまで消えなかった
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