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【僕は狂ったさくらが好きです】第2章 「いつも通り……じゃない」

第2章テーマは、不確実性誘発価値上昇(Uncertainty-Induced Valuation)
不確実性誘発価値上昇は【人は「確実なもの」よりも、「結果が読めないもの」に対して強い価値を感じる傾向があり、脳は不確実な対象に対してドーパミン反応を高めるため、“読めない存在”は魅力として知覚されやすくなり】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「いつも通り……じゃない」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい


↓第2章のイメージ楽曲↓

前回のあらすじ

あれから一週間

さくらは相変わらず明るい
振られた話は、もう完全にネタ扱いだ

「ねえ湊、次はどんな人にしようかな」

商店街の信号待ちで、ポテチをつまみながら言う

「懲りないな」
「恋は回転率だよ」
「在庫処分みたいに言うな」

笑い合う
変わっていない
……はずだった

「ねえ、湊ってさ」

ポテチの袋を丸めながら、横目で見る

「私が、誰かと付き合ってるの……どう思ってるの?」

何度も聞かれた質問だ
僕はいつも、同じ答えをしてきた

今日は、少しだけ間を置く

「ちゃんと好きならいいんじゃない」
「……ふーん」

その返事が、半拍だけ遅れる

「反対しないの?」
「する理由ある?」
「……ないけど」

さくらは袋をゴミ箱に投げ……
外れる
そして拾う

その間、僕は何も言わない

最近、連絡の頻度を減らするようにしている
理由らしい理由はない

その日の夜

『暇』

既読はつける
しかし、すぐには返さない

三十分後こう返す

『課題やれ』

前なら、「何してるの?」とか、「動画送る」とか、もう少し続けていた気がする

翌日

「最近、既読つくの早いのに、返事遅いよね」

登校途中、さくらが言う
責める口調ではない
観察みたいな声

「考えてた」
「何を?」
「返す価値あるかなって」

冗談のつもりだった

「ひど」

笑う
でも、口元が少しだけ固い

僕はそのまま歩く

帰り道
距離が、ほんの少し空く

詰めない
詰められないわけでもない

ただ、今日はこの幅でいい

「湊ってさ」

家に着く少し前

「前より、優しくないよね」

即答しない

「前より、甘くないだけ」
「なにそれ」

笑う
でも、目が探るみたいに止まる

僕は肩をすくめる

「毎日チョコ食べたら太るだろ」
「私、お菓子扱い?」
「高カロリー」
「最低」

袖が一瞬だけ触れる
すぐ離れる

沈黙

怒っている感じではない
納得した感じでもない
読めない

スマホが鳴る

『ねえ』

少し間

『今、誰かとLINEしてる?』

僕は画面を見て、少しだけ笑う

『してない』

既読がすぐつく
数秒後

『そっか』

それだけ
いつもなら、ここでスタンプが続。
けれど、今日は……続かない

僕はスマホを伏せる

いつも通り……じゃない

何が違うのか、まだはっきりとは言えない
ただ、隣の家の灯りが、少しだけ気になる夜だった

昼休み
さくらは窓際で友達に囲まれている

「次はさー、ちょっと年上いこうかな」
「また振られたいの?」
「失礼だなー。私、ちゃんと学習してるし」

笑い声が教室に広がる
僕は少し離れた席で弁当を開く

いつも通り
声も、仕草も、テンポも
なのに、なぜか耳に残る

放課後

「ねえ湊」

歩調を合わせてくる

「私がもし、年上と付き合おうとしたらさ……止める?」

前なら、考えもしなかった質問だ
僕は少しだけ視線を前に向けたまま答える

「止めない」
「え、止めないの?」
「好きなら」

それだけ
さくらは少し黙る

「へえー」

軽い返事
でも、足音が半拍遅れる

「優しいね」
「普通」
「普通ってなに?」
「普通、人の恋をわざわざ止めないだろ」

さくらは小さく笑う

「湊ってさ、ほんと自由放任だよね」
「僕はそういう躾はしない方針だから」
「そういう方針なら仕方ないね……って犬じゃないわよ」

袖が一瞬触れたが、すぐ離れる

さくらの歩幅が少し落ちる
僕は合わせない
わざとではない。たぶん

数歩、僕が前に出る

「湊ってさ」

背後から声

「私が本当にいなくなっても平気そう」

軽い調子
冗談みたいな言い方
僕は振り返らない

「さくらは、いなくならないだろ」
「なんで?」
「帰り道、こっちだから」

当たり前の答え
さくらが足を止める気配がした
そして、少しだけ遅れて、また歩き出す

「なにそれ」

でも、そのあと続くはずの
“どうせ終わるし”
が出てこなかった

家の前で、さくらが立ち止まる

「ねえ」
「私さ、しばらく恋しないかも」

僕は肩をすくめる

「そう」
「理由聞かないの?」
「聞く理由ある?」

さくらがこちらを見る
怒っているわけでもない
でも、困っているわけでもない

ただ、少しだけ、何かを測っているみたいな目をしていた

「湊って、ほんと余裕だよね」
「余裕?」
「なんかさ、私が何しても動じない感じ」

僕は少し考える

「動じてる所の見たい?」
「うん」

即答だ

「今?」
「うん、今」

少し沈黙

僕は一歩だけ近づく
距離は変わらない
でも、気配が少し近い

「今……動じてる」
「どこが?」
「さくらが家の前で僕を帰らせないようにしているから」

さくらが一瞬だけ止まる

「……ずるい」

軽い笑い
でも、少しだけ呼吸が浅い


スマホが鳴る

『ねえ』

すぐ続く

『湊ってさ』

少し間

『私のこと、ちゃんと見てる?』

僕は画面を見つめ、少し考える

『見てる』

既読がつく

しばらく返信が来ない

数分後

『そっか』

それだけ

前より少しだけ、文字が重い気がする

僕はスマホを置く

さくらは、いつも通り笑っている。

でも、終わる話をしない時間が、少しずつ増えている気がする
それが良いのかどうかは、まだ分からない

ただ、隣の家の灯りが消えるまで、今日は少しだけ長く感じた

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