【私だけに向けられる意地悪】第2章 「アバターに隠した気持ち」
第2章テーマは、プロテウス効果(Proteus Effect)
プロテウス効果は【自分の見た目や立場に応じて行動や性格が変化する心理効果】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第2章 「アバターに隠した気持ち」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
中学二年生の私は、放課後の部屋で編集ソフトを開き、ひたすら動画と向き合っていた
クラスの子が遊びに行く中、私はカメラの前にかじりついて、パソコンのモニター越しに世界を切り取る
周りからは「地味」とか「根暗」とか言われるけれど・・・
私にとっては唯一、自分の目で見たものをそのまま形にできる居場所だった
そんな私に、パパは唐突に頼んできた
「おい葉乃、今度のバスケの試合、俺を撮れよ」
まるで有名人みたいな言い方だった。最初は冗談かと思ったが、パパは本気の顔でボールを指さしていた
面倒くさいと思いながらも、カメラを抱えて体育館に行くことになった
試合当日、体育館の空気は独特だった。汗の匂いとシューズの音、歓声と笛の響き。その真ん中で、パパは誰よりも目立っていた
ドリブルで切り込み、仲間に声をかけ、そして豪快にシュートを決める。その瞬間、私はカメラ越しに見て思った。――確かに絵になる
家に帰り、編集ソフトに取り込む。私はつい夢中になってしまった。カットを重ね、スローを入れ、音楽を流し、光のエフェクトまで足してみる
するとどうだろう。画面の中のパパは、ただの中学生男子じゃなく、まるでスポーツ映画の主人公みたいに見えてきた
次の日、完成した映像を見せると、パパはニヤリと笑った
「おお! これ、俺ってすげーな!」
胸を張り、廊下を歩く姿は、まるでプロ選手にでもなったかのよう。私は心の中で苦笑しつつも、その姿を少し誇らしく感じていた
だが、パパはそこで止まらなかった
「なあ葉乃、俺が特別出演するならもっと派手にしろよ。爆発とか、炎とか! 俺のダンクの後にドーン! って光るやつ!」
真剣そのものの顔で言うから、思わず笑ってしまった。どう考えても中学生の体育館の試合に爆発は似合わない
それでもパパは本気で、「俺をもっとカッコよくしろ」とせがんでくる
その夜、私はまたパソコンに向かった。無駄だと思いながらも、ついパパのリクエストを試す
エフェクトを入れてみると、画面の中のパパはさらに大げさに輝いていった。まるで自分だけのヒーローを作っているようで、不思議な気持ちになった
冷静に考えれば、ただの中学生男子が映像に盛られて調子に乗っているだけ。でも、私にとっては違った。レンズを通して切り取ったパパは、私の知らない顔を見せてくれていた
実際のパパは、からかって、意地悪で、ふざけてばかり。けれど、映像の中では堂々と胸を張り、誰よりも光を浴びている
「……こんなの、私だけが知ってる不破君だ」
そう思うと、モニターの前で少し頬が熱くなった。バカみたいで、くだらなくて、でも大切な一瞬。私にとって、編集はただの趣味じゃなく、パパを映し出す鏡みたいになっていたのだ

次の日、私は再び編集した映像をパパに見せた。光のエフェクトを加え、スローでダンクを強調し、場違いなほど派手な音楽まで乗せた。画面の中でパパは、まるでNBA選手みたいに輝いていた
パパは食い入るように画面を見ていたかと思うと、両手を広げて叫んだ
「ほらな! やっぱ俺はヒーローだ!」
その後ろ姿を見ながら、私は思わず吹き出した。どう考えてもただの中学生男子が体育館で走り回っているだけ。それなのに本人は、本気でスター選手にでもなった気分らしい
「でもさ、ここで爆発エフェクトは変じゃない?」
私が控えめに指摘すると、パパは真顔で言った
「いや、むしろ必要だろ。俺のシュートは爆発級だからな!」
その堂々とした言い方に、私は肩を震わせて笑った。ふざけているのに、パパは真剣。だから余計に可笑しい
次のシーンでは、パパはさらに注文をつけてきた
「ここで俺の後ろに翼を生やしてくれ!」
「はぁ? 天使?」
「いや、堕天使だ! カッコいいだろ!」
本気でそう言うパパの顔を見て、私はモニターの前で頭を抱えた。けれど、結局は翼を合成してみた。画面の中でボールを抱えたパパの背に白い羽が広がると、なぜか妙に似合ってしまうから不思議だ
編集を終えて再生すると、パパは大満足だった
「よし! これで俺は完全に無敵だな!」
胸を張るその横顔は、確かに誇らしげで、ほんの少し眩しく見えた
……冷静に考えれば、ただの中学生男子が、自分で自分の映像に酔っているだけだ
でも私にとっては、その姿が不思議と嬉しかった。映像の中のパパは、私の知らない「自信に満ちた顔」を見せてくれる。レンズ越しに初めて知る一面
「ねえ、なんでそこまで嬉しそうなの?」
私がつい尋ねると、パパは少し照れたように答えた
「だって……お前が作ってくれたからだろ」
一瞬、言葉が詰まった。からかいの延長のようでいて、ほんの少しだけ本音に聞こえる。モニターに映る誇らしげなパパと、横で笑うパパ。その両方が胸に残った
夜になって、パソコンを閉じる。窓の外から聞こえるバスケ部のボールの音が、まだ耳に残っていた。爆発も翼も、本当は全部ふざけているだけ。けれど、パパが映像を通して見せた姿は、確かに私の中で輝いていた
「……やっぱり私だけが知ってる不破君だ」
そう思いながら布団に潜り込むと、自然と笑みがこぼれた。おかしな編集も、パパの妙な注文も、全部ひっくるめて――不思議と愛おしい
こうして、私の中でひとつの映像が完成した
ふざけているのに真剣で、理屈ではないのに心に残る。そんなパパを映すことが、いつの間にか私の楽しみになっていた
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↓最後に、中学時代の葉乃のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓
