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【君の歌声は二度恋をさせる】第5章 「積み上げた恋の工事現場」

第5章テーマは、サンクコスト効果(Sunk Cost Effect)
サンクコスト効果は【すでに費やした時間・お金・労力が惜しくて、損をしているのにやめられなくなる心理効果】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第5章 「積み上げた恋の工事現場」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

舞台袖の空気は、まだ拍手の余韻で震えていた。響き渡るブラボーの声の中で、俺と玲奈は並んで控室へ向かって歩いていた

ドレス姿の彼女は、背筋を伸ばしたまま、まるで楽譜の一行一行までが身体に染み込んでいるかのように優雅だ。いつものように、清楚で、お淑やかで、触れれば壊れてしまいそうなガラス細工みたいな存在

だけど、俺は知っている。彼女の裏には、あの荒ぶる魂が潜んでいることを

俺は深呼吸をした。今まで積み上げてきた「変な理屈」だって、この瞬間のためにある

自分でもわかっている。普通ならもっとスマートに言えばいいのに、俺の言葉はどうしても曲がって工事現場みたいに鉄骨を積み上げてしまう。それでも伝えたいんだ。彼女に、もう逃げられないって

「玲奈」

俺は立ち止まり、彼女の前に回り込む。舞台照明の余韻でまだ頬を赤く染めた彼女が、不思議そうに首をかしげた

「俺と一緒に恋の工事をしてくれ」

直球だった。思い切りすぎて、自分でも鉄球をぶん投げたような感覚がする。彼女は一瞬目を瞬かせ、次の瞬間、ふっと笑った

「……あなた、本当に変な理屈で突っ走りますね」

笑いながらも、その目は優しく俺を受け止めていた。俺の胸の奥が、がらんどうだった現場に一気に足場が組み上がっていくみたいに満たされていく

「工事だって、基礎からちゃんと積んで、倒れないように鉄骨組んで……そうしてやっと、完成形に近づいていくんだ
玲奈、もう途中で抜けるなよ。お前がいなきゃ、クレーンも動かせない」

まただ。気づけば俺は、恋の告白を建築現場の比喩にしている
普通なら「愛してる」とか「大切だ」とか、もっとまともな言葉があるはずなのに
だけど、俺にとっては工事現場の方がよほど実感を伴っている

玲奈は口元を手で押さえ、吹き出しそうになるのを必死で堪えている

「……あなた、本当におかしい。でも……」

彼女は小さく息を吸い込み、舞台のときと同じ清楚な声色で言った

「そんな理屈でも、真剣に言ってくれるから……受け入れます」

その一言で、俺の心臓は溶接機で一気に熱せられたみたいに熱くなる

「よし、じゃあ完成まで突っ走るぞ」
「完成って、何を建てるつもりなんです?」
「決まってる。俺たちの……未来だ」

玲奈は肩をすくめ、くすっと笑った。まるで静かな教会に陽だまりが差し込んだみたいな笑顔。その笑みに、俺の変な理屈も、どこか肯定された気がした

この瞬間、俺は確信した。恋はまだ工事中だ。でも、資材も職人も揃っている。後戻りなんてできやしない。あとは完成まで積み上げるだけだ

控室の扉の前に立つと、玲奈はドレスの裾を整えて、ちらりと俺を見上げた

「工藤さん。……次は、どんな建材で迫ってくるんです?」

その挑発めいた瞳に、俺は思わず笑ってしまった

「そうだな、まだもうひと工事残っていたな」

「そうだな、まだもうひと工事残っていたな」――俺がそう言ったとき、玲奈は小さく吹き出した

オペラの舞台が終わった夜、俺たちは小さな店でささやかに乾杯した。彼女はワイングラスを持ち、最初は相変わらず清楚でお淑やかに微笑んでいた

だが、乾杯の数が重なるたびに、グラスを置く音が強くなり、目の奥に奇妙な炎が宿っていく

「翼。さっきの“未来の工事現場”……あれ、笑いをこらえるのに必死でした」

挑むような視線でそう告げると、彼女は突然立ち上がり、空になったグラスを高く掲げた

「工事現場? なら私はブルドーザーよ! ぜーんぶ薙ぎ払ってやるわ!」

店内の数人が驚いてこちらを振り返る
そう、これが彼女の“もう一つの顔”
オペラの清楚なお嬢様からは想像できない、荒ぶる破壊の女神だ

俺は慌てて制止するふりをしながらも、心のどこかで嬉しくなっていた
清楚な玲奈も好きだが、この暴走モードこそ、俺だけが知る特別な彼女だからだ

打ち上げを終え、夜風に吹かれながら二人で歩く。酔いのせいか、玲奈は肩を揺らしながら歌うように喋り出した

「積み上げた鉄骨~! 愛の足場は不安定~!」

即興でメタル風にシャウトし始める。近所迷惑? そんな言葉は彼女の辞書にない

「お前と一緒にバカやってきた時間が全部宝だ」

歩調を合わせながら、俺はふと口にした

「だから、俺から逃げんな!」

彼女の足が止まる。振り返った顔は、清楚さなんて跡形もなく、目尻は赤く潤んでいた

「そんな変な言い方で……でも嬉しい」

かすれた声が、夜風に震えて届く
俺は一歩近づく

「俺は、お前を逃がさないために、柵でもフェンスでも立てる。いや、クレーンで吊るしてでも――」

「また工事現場か!」

玲奈は涙をぬぐいながらも、突っ込まずにはいられなかった

「あなたの告白って、どうしていつも建材と重機なんだ?」

「だって、俺にとって恋は工事なんだ。音符を積むより鉄骨の方が実感がある」

胸を張って言い切ると、彼女は一瞬唖然とし、次の瞬間、豪快に笑い声をあげた

「ははっ……もうダメ。本当にあなたって変」

笑いながら、彼女は俺の腕にしがみついてきた
その力は、ブルドーザーよりずっと優しくて、ずっと重かった

街灯の下で見上げてくるその顔は、泣き笑いのまま、俺の胸に沈み込んでいく

「翼。普段清楚に見えても、私だって、内側はめちゃくちゃなんだ
だから……そんな変な理屈でも、あなたが真剣なら……逃げねえ」

俺は深く頷いた

「よし。なら、この工事、二人で完成させよう」

夜空を見上げる。鉄骨の代わりに、星々が組み上がっているように見えた

きっと、俺たちの未来はまだ未完成だ。でも、今こうして隣に彼女がいる限り、どんな図面でも引き直せる

清楚と破壊。矛盾だらけの彼女を丸ごと抱えて、俺の恋の工事は進んでいく

きっといつか――この工事が竣工するその時まで…俺は全力で君と図面を描き続ける

以上で、【君の歌声は二度恋をさせる】の物語はおしまいです
この物語に登場する恋愛心理学の正しい使い方を知りたい方
以下リンクにて確認できます

↓最後に、第5章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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